FOLS3
「いいから、ちょっと落ち着きなさい」
幼い子供を諭す様なその物言いに、流石に今の自分を省みて椅子へと腰を落ち着ける。
「少しは落ち着いたみたいね。で、今言った通り、他の世界に行った誰かを捜す事は可能よ。けれどもね、並行世界はそれこそ無限と言える程広がっているの。時間も同様にね。手掛かりとなるのは、あなたと同じ世界、時間に居た人物だって事だけ。FOLSの力をもってしても、すぐに見つかるとは思えないわ」
「それでも…それでもオレはあいつを見つけなければ…いや、見つけてみせる! だからオレに――」
「時を越える術を教えろ、と」
オレの言葉を遮ったベータの顔には、何やら妖しげな笑みが浮かんでいる。
「何だ? 何か言いたそうだな」
「ええ、もちろん。そのためにあなた達をここに招いたのだから。FOLSの技術をFOLS以外の者に教える訳にはいかないわ。つまり――」
ベータはそこで言葉を区切ると、部屋中の面々の顔を見回す。それはつまり、ベータの言葉はオレ達五人全てに向けられているという事。
「FOLSに入れ、という事か」
ガルデルムの言葉に、ベータは静かに頷く。
「カズヤには目的がある様だが、オレには無い。元いた世界に戻るにもFOLSに入らなければならないというのなら別だが、そういう異世界からの者達に対応するのが役目じゃなかったのか? オレ達の様な者は全てFOLSに勧誘しているとでも?」
ガルデルムのもっともな指摘を、ベータはあっさりと肯定する。
「そうね。元の世界に戻るだけなら、FOLSに入る必要はないわ。私達が責任を持って送り返してあげる」
だが、そこでベータは一拍空けると表情を一変させる。
「でも、本当にそうかしら? あなたには目的が無い、と?」
妖艶な笑顔で問いかけるベータに、ガルデルムも口の端を吊り上げ不敵な笑みで応じる。
「ほう、何故そう思う?」
「あなた達が居た世界では、アルドを使う能力や技術に対する知識が失われてしまっているそうね」
ベータに直接その様な話をした記憶はないが、クシイやファイがオレ達の会話からそう報告したのだろう。
反論しないのを肯定の返事だと受け取り、ベータは話を続ける。
「そして、その世界であなたはアルドの存在を知っていた。けれども、その知識はこのアルド社会のものと比べて微々たるものよ。あなたの本当のところの目的は分からない。けれども、そのために、この世界のアルド関係の知識を欲しているのは確かなはず。違うかしら?」
「違わないな」
即座に応えるガルデルム。
「だとしたら、この世界でも最高ランクの能力者や技術が集まっているFOLSは、あなたにとっても魅力的な存在のはず」
一瞬の沈黙。
だが、それはガルデルムの乾いた笑い声ですぐに破られた。
「ハッハッハッハ。流石は組織の頂点に立つ人物という事か。鋭い読みだな。だが、オレ達をFOLSに入らせて、お前は何をさせるつもりなのだ? そのARUTOとやらとの戦いに備えて、この世界に留まれと言うのか?」
「ここに留まれと言うつもりはないわ。ただ、あなた達の力が必要になった時に手伝ってくれれば良い。あなた達三人を、普通の命令系統の中に入れようとは思っていないわ」
ガルデルムは言葉の真意を確かめるかの様に、じっとベータを見つめている。
だが、ベータの目には全く揺るぎはない。彼女の言っている事に嘘はないのだろう。
ガルデルムもそう感じたのか、
「良いだろう。今はその言葉、信じよう」
ガルデルムの言葉に満足した様にベータは頷く。
だが、そこにガルデルムは言葉を続ける。
「もちろん、オレが必要な知識だけ手に入れて、ここに戻って来ないという可能性も織り込み済みなのだろう?」
自分が不利になる様な指摘をあえてするガルデルムに、
「いいえ、考えて無いわ。だって、そんな事は有り得ないもの」
自信満々に言い放つベータ。
どういう理由か、そこには絶対の信頼が感じられた。
ベータとガルデルム、出会ったばかりのはずなのだが……遠い昔からの知り合いに向けるかの様な親愛の情が、そこには感じられた。
と、ガルデルムの返事を待たずして、ベータはぱっと表情を変化させる。
今までの妖艶な笑顔から、さわやかな笑顔へと。その微笑みが向けられた先はスズだ。
「という事で~、お兄ちゃんもデールもFOLSに入る事になったけど、スズちゃんはどうする? あ、もしかしてリシェルちゃんって呼んだ方が良いのかしら?」
声の質すら違っている。今までの荘厳な雰囲気から変わり過ぎだ。
全く……この女の本性は読めないな。
「私の事はスズでもリシェルでも好きな方で呼んで良いよ! で、二人が入るなら私ももちろんFOLSに入るよ。よろしくね!」
何ともあっさりと決めてしまうスズ。
再会してからあまり話してなかったが、さらわれたガルデルムに懐いていたり、その組織に馴染んでいたりとスズは順応力が高いというか、単純というか。
幼い頃の記憶を辿ってみると、確かに昔からそんなだった気がしないでもない。
などと考えていると、ベータは元の口調に戻して話を進める。
「――という訳で、残りはエン君とミズホさんの二人だけど、エン君は言うまでもないわよね?」
「もちろん。言われなくても、こっちから入れて欲しいと願い出るよ」
そう答えたエンを見てミズホは驚いた様に見えたが、おずおずといった感じで話し出す。
「でも、私なんかで良いんですか? 私が役に立つとは思えないんですけど…」
「心配いらないわ。元々あなたをスカウトするのがシータの任務だったんだから」
ベータはそう言って、満面の笑みを浮かべていた。
α end.




