カイ4
「あのさ、カズヤ」
恐る恐る話し出す。
「何があったのかよく分からないが、そんなのお前らしくないぞ」
カズヤは押し黙ったままだ。
「お前なら四方八方手を尽くして、何としてでも取り戻そうとしてるだろう?」
「手がかりが何もないんだ!」
大声で怒鳴り返すカズヤ。
「だからお前らしくないって言ってるんだよ! 何でそんなに弱気なんだ? 何でそんなに消極的なんだ? いつも強気のお前はどこに行った? いつだってお前はすました顔して、『どうってことない』って言って前を向いて進んで来ただろう!?」
そう言った後、オレははっとなった。感情的になっている自分に気がついたのだ。
そして、昔を思い出す。そう、オレはカズヤの前では感情を顕わにしていたんだ、昔から。あまりにも自然にな事だったので気がつかなかった。オレはカズヤにだけは感情を見せていたのだ。
「カイ、ありがとな」
オレはカズヤのその言葉で我に返る。
「え?」
間抜けな声を出すオレ。
「何を弱気になっていたんだろうな。お前に言われなければ、このまま何もせずに、無駄に時間を過ごしていただろう。唯一の手掛かりにも気付かずにな」
その口調はいつものカズヤのものだった。自信に満ちていて恐れるものなど何もない、そんな感じの声だ。
オレは思わず笑みをこぼす。
「ヤツラなら分かるかもしれない、アイの行方が」
「ヤツラ?」
オレは聞き返す。
「この前の事件の犯人、そいつの仲間だよ」
それを聞き、オレは重要なことを思い出す。
「そうだよ、それだ!」
「うわっ、何だよいきなり?」
オレが不意に大声を出したため、カズヤはいくらか驚いた様だ。
「オレは仕事の依頼に来たんだった」
「だからオレは今、アイを捜さなければならないから、それどころじゃ 」
「それと関係があるかもしれないんだよ!」
オレはカズヤの言葉を遮りそう言った。
「どういうことだ?」
カズヤは顔をしかめる。
「ミルト様がさらわれたんだ」
「えっ?」
「その犯人が、前の犯人と関係あるかもしれないと言ったら?」
オレは勿体ぶったような言い回しでそう言うと、口の端を少し上げる。
「何故そう分かる?」
「やり方が似ていたんだよ。しかもそいつは『ガルデルム』っていう名を口にしていた」
「ガルデルム! それは確かなのか?」
「何人もの者が聞いている。間違いない」
「そうか……」
そう呟くと、カズヤは左手を見つめながら考え込んでしまう。
その手には黒い皮の手袋がはめられていた。おそらくその理由は、その下にある物を隠すためであろう。
カズヤの左腕は義手となっている。いきさつはよく知らないが、その義手はただの義手ではなく、何か特別な力を持っているらしい。その力が何なのかはっきりとは分からないが、前の事件を解決したのも、その力によってだ。
「カイ、行くぞ」
「えっ、行くってどこへ?」
いきなりの事で思わず聞き返してしまう。
「決まっているだろ屋敷だよ、セト氏のよ」
「え?」
「まずは事件の現場に行くのが基本だろ?」
「って事は、依頼受けてくれるのか?」
「まあそういう事だな。ほら、さっさと行くぞ。時間がもったいない」
カズヤはオレの背中をぐいぐい引っぱって玄関へと向かう。
「よっし、そうと決まれば善は急げだ!」
オレは大きな声でそう言うと、カズヤに続いて部屋を後にした。
「しっかし、何度見てもすごい屋敷だよなあ」
車から先に降りたカズヤは、屋敷を見上げる。
続いてオレも車から降りると、ひんやりとした夜風が頬をかすめていく。
辺りは静まり返っている。郊外にある高級住宅地なので、この時間ともなれば家々から明かりが漏れている以外、何も見あたらない。
「カイ、さっさと入ろうぜ!」
カズヤが声をかけてくる。
「ああ、分かってる」
オレは冷たくなっているドアノブに手をかけると扉を大きく開いた。
「まずはセト様に会ってもらうからな」
オレはカズヤに確認する。
「分かってるって。それに、本人から事件が起こった時の事を直接聞きたいしな」
それだけ話すと、オレ達はセト様の書斎へと黙ったまま歩いていった。




