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第6話 救世主

 “僕は何をやっているんだ!?”


 拳銃が手の中から零れ落ちる。

 しかし、落としたのは陸ではない。


「貴様ぁ!」


 陸の銃から放たれた弾丸は正確に志村の手を打ち抜いていた。

 本物ではないとはいえ、改造され尽した陸の銃はそれそうの弾さえ込めればそれなりの威力はある。


「逃げよう!」


 陸は日和の手を引くと、一気に駆けようとした。


 しかし――。


「動くな!」

「……っ!」


 銃声が轟く。それは正しく本物の銃声だった。

 振り向くと志村がさっき落とした拳銃で空を打ち抜いていた。


「人質としてとっておくつもりだったが、逃げるって言うんだったらここで殺す!」


 かなり怒っている様子だ。


「ひっ!?」


 それに対して情けない声を上げたのは残念なことに陸だった。

 しかし、日和の顔も十分に恐怖で引き攣っていた。


「いや、止めだ。貴様らは今ここで殺す」

「あーあ、このガキ、志村さんを怒らせちゃったよ」

「志村さんが怒ると、族長以外手を付けられなくなるんだよな」


 陸の頭は真っ白になっていた。


 “まさか僕がしゃしゃり出なけりゃ、誰も死なないで済んだのか?”


 全身から力が抜ける。


 死んだ――。そう思ったときだった。


「何やってるの、逃げるよ!」


 陸の体を支たのは日和だった。

 目の前で見ると、以外にも陸より年上に見えた。


「逃がすか!」

「行くよ!」


 志村が足を動かした。

 それを見て、日和が急かす。


 僕だって――。


「待って」


 日和に静止を呼びかけると、陸は一瞬で体勢を立て直して銃を構える。

 狙う先は志村……ではなく、比較的近くにいたスズの檻を持つ山賊だ。


「痛っ!」


 その山賊に一発打ち込むと、持っていた檻を落とし、その衝撃で檻の扉が開いた。


「スズっ!」

「ンニャ!?」


 檻から放たれてもまだマタタビに酔っていたスズは、日和の呼びかけにより正気を取り戻した。

 そして、一瞬でこの状況を理解したのか日和の肩に飛び乗った。


「逃げよう!」


 今度の呼びかけは陸から放たれたものだった。


「うん」


 陸とスズを肩に乗せた日和は山賊からの逃走を開始した。



 逃走を開始してから数分の時が経った。

 一向に志村との差は広がらない。

 いや、本当ならとっくに追いつかれていただろう。


「フハハハハ。逃げろ逃げろー」


 拳銃を乱射しながら、追いかける志村は明らかに遊んでいた。

 それに対して陸も最初は銃で応戦していたが、お互い動いている上に、息切れしている状態で、さらに振り返りながらの射撃では当然狙いが定まらない。それに、もし命中しても動きを止めることはできないだろう。

 そういう面で弾を無駄使いをするのは得策ではないだろうと考え、今は逃げることに専念している。

 しかし、志村は弾を補充しながら追いかけているため、銃弾の音が止まらない。


「もし、兄ちゃんが入れば……」

「嘆いても始まらないわ、今は逃げることに専念しましょう」

「無駄だ。……そろそろ終わりにしようか」


 日和の頬を弾丸が掠める。


「きゃっ!」


 そして、こけた。

 肩に乗っていたスズは飛び降り、無事だったが――。


「遊びは終わりだ」


 銃口が日和に向けられていた。


「最後に言い残すことはあるか?」

「神崎さーーーーーん、今までありがとうございましたーーー!!」


 耳が劈く程の大声で叫んだ。


「じゃあな」


 そして、引き金が引かれた。


 ……しかし、弾は出なかった。


「チッ、弾切れか。

 命拾いしたな。今、弾込めるから少し待ってろよ」


 一瞬の安堵が訪れるが、まだ危機は去っていない。


 “どうする……。”


 そう考えている間にも、志村の弾を込める作業は止まらない。ゆっくりとした動きなのが、死刑執行を待っているようでより恐怖を感じさせる。

 そして今、再び銃口が日和に向けられる。


「待たせたな」


 実は陸には唯一志村を倒す方法があったが、その方法に踏み切れないでいた。

 その方法は単純である。


 ――『眼球の狙撃』だ。


 陸の銃を持つ手が震える。


 “どうする、どうする……!”


 外せば真っ先に陸が殺されるだろうし、目を潰すなんて邪道だ。サバゲーなら今の陸のようにゴーグルを着けているから安全だが、志村は当然ながらゴーグルを着けていない。


 “ここで人が死ぬくらいなら……。”


 陸は銃をゆっくりと構える。


 覚悟はできた――。


「死ね!」


 志村の声が響き渡ったときだった。



「動くな、いや、打つな」

「夏目さん……、どうして?」


 閃光のように現れた男は有だった。

 有が持つ片方の剣は銃口を塞ぎ、もう一方の剣は志村の首筋に当てられていた。


「神崎さん、じゃなくて悪かったね」

「あっ……」


 日和は少し顔を赤らめた。




   ***




 一方その頃孝仁は――。


「上からじゃ木が邪魔で人影は見えないけど……、建物を探すには最適なんだよね」


 空中を歩き、上空からあるものを探していた。


「おっと、あれかな」


 山の中腹に山小屋にしては大きすぎる建物を発見した。


「よっと」


 その建物の前で着地する。


「誰だ、貴様」

「雑魚に用はねぇ」

「ふぎゃっ!」


 見張りと思われる山賊の一味を一気に蹴散らすと、建物の扉を勢いよく蹴り上げた。


「おお、いきなりボスのお出ましか」

「あ?」


 玄関に入ると、そこには今まさに外出しようとしていたであろう大斧を携えた大男が立っていた。




   ***




 場面は戻って陸サイド――。


「神ちゃんは今あんたの親玉を捕りに行っている。今頃ボコボコにされてるんじゃないか」

「はん、地図もなしにどうやって族長を探す?」

「地図なら持ってるよ。神ちゃんも僕もね」


 そう言って、有は地図を取り出した。


「なぜだ、どこに地図を手に入れる時間があった?

 あのジジィが二枚も持ってるわけないし、わざわざ役所から遠い場所に集合させたんだぞ。間に合うわけが無いだろう!?」

「ああ、そうだね。僕が加速神の守護憑きじゃなかったら絶対に間に合わなかったよ」

「貴様、まさか!? いや待て、地図を持ったところで俺達のギルドは見つからないはずだ!」

「もう気付いてんだろ? 俺達のマスターも守護憑きだ」

「な、なんだってんだよ、このギルドは!」

「やるか?」

「クソーーー!」


 志村が自棄になったようで有に弾を打ち込む。

 しかし、あの至近距離だったというのに有は見事に躱したかと思うと、新幹線のような速さで志村から遠ざかり、数秒も経たないうちに戻ってきた。そしてその手には弾丸が握られていた。


「そんな、馬鹿な……。なんで、守護憑きがこんな小規模ギルドに?」

「まあ、僕はバイトだからね。さあ、終わりにしようか?」

「あ、あああ……」

「閃光突き!」

「うわっ」


 気付いた時には有の片方の剣が志村のすぐ目の前を掠めていた。

 そしてもう一方の剣の柄で志村の背中を思いっきり打つ。


「ぐはっ」


 志村は気絶し、その場に倒れこんだ。


「演技のうまさだけは褒めてやるよ」


 有は剣を鞘に収めるのだった。




   ***




「それで君、誰?」


 山小屋に集まった黒猫組と陸。

 部屋の隅には志村に、大男、その他諸々が縄に縛られていた。


「見事だった。この大斧使いの山岸を倒すとは」

「黙れ」

「はい」


 すっかり山族長を手懐けてしまった孝仁。


「んで、君、誰?」

「あ、僕、真田陸です」


 聞いたことのある苗字だった。


「年は?」

「15です」

「こんな森で何してたんだ」

「あ、あの、狩猟?」

「俺に聞くなよ。で、本当のところは?」

「サバゲーやってました」

「許可は?」

「とってません」

「じゃあ、違法だな」

「…………」


 沈黙が訪れる。


「ま、待ってください、神崎さん。

 陸くんは私を助けてくれたんです。見逃してもらえませんか」


 そんな沈黙の中、始めに声を出したのは日和だった。


「はあ……、誰も軍隊に突き出すなんていってないだろ」

「それじゃあ……!」

「サバゲーの件に関しては見逃す」

「ありがとうございます」


 陸が頭を下げる。


「ところで、お父さんの名前は?」

「えっと、藤次郎……だったかな」

「…………」


 再び沈黙が訪れる。


「……僕の父さんがどうかしたんですか」

「探してたぞ」

「えっ、そ、そんなはずがありません! 父さんが僕を探しているなんて……」

「訳ありなようだな」

「はい……、隠すこともありません。ありのままお話します。

 僕はハタエ山で一番と言われる、代々狩人の一家で生まれました」


 陸は家出の原因を語り始めた。


「僕には兄がいます。兄さんは頭がよくて、性格もよくて、射撃の腕前も僕なんかよりずっと上手です。

 年の差なんて関係ない。兄さんと僕では持ってるものが違ったんです」

「つまり、兄弟で比べられたわけか」


 孝仁が口を挟む。


「いえ、比べられることはありませんでした。比べられることさえされなかったんです」


 陸の脳裏に数年前の食卓の様子が蘇る。



   *



「父さん、この前のテスト15位だったよ」

「そういえば海斗、この前のテストはどうだった?」

「1位だったよ」

「そうか、さすが我が息子だ。これからもがんばれよ」

「はい」


 海斗というのが陸の兄だ。



「父さん、射撃の地区大会、中学生の部で優勝したよ」

「海斗、全国大会三位おめでとう。大人に混ざってよくがんばったな」

「ありがとうございます」

「…………」


 陸は親とまともな会話をした記憶がなかった。

 そんな中、海斗は陸に対して優しかった。


「地区大会優勝おめでとう」

「……うん」


 だが、そんな優しさも兄との差を痛感させられ陸にとっては余計に辛かった。



   *



「辛かったのね」


 日和が同情の言葉を掛ける。


「だから僕は家庭環境に問題のある友達を二人引き連れて、この山に篭り始めたんです」

「なるほどな」

「本当に父さんが探してたんですか?」

「ああ。付き合ってやるから、顔を見せてやれ。お前の友達も連れてな」

「……はい」



 かくして、裏切りに遭いながらも見事に山族を捕らえた黒猫組は陸という少年とその友達を親の元に返すことになった。

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