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第5話 山賊

 山賊、山岸捕獲決行の日。


「全員揃ったな」


 ハタエ山の麓、ハタエ村に黒猫組のメンバーと志村が集合した。


「ハタエ山では、二手に分かれようと思う。

 私率いる志村班は結城、黒田を連れて行く。

 神崎率いる神崎班は夏目と二人だ」

「どんなハーレムだよ……」


 孝仁がボソッと悪態をついたが、志村の耳には届かなかった。


「ハタエ山は正確な地形がわかっていない。

 よって、山岸のアジトの場所は特定することは不可能だ。

 大体の場所はここに示してある」


 志村は手書きと思われる地図を取り出した。


「……大分範囲が広いな」

「ああ、だから二手に分かれるんだ」

「なるほどな」


 その他諸々の説明を終え、ついに出発の時が来た。


「準備はいいな、それでは行くぞ」

「待ってください!」


 志村の出発の号令を遮り、声を掛けたのは初老の男性だった。


「あなた達、ギルドの方々ですよね」

「はあ、そうですが……」

「申し遅れました、私は真田藤次郎です。

 この村でそこそこ有名な狩人をしております」

「何か用か?」


 孝仁が尋ねる。


「私の倅を見ませんでしたでしょうか。15歳のガキなんですが」


 そういって、藤次郎と名乗る男はその息子と思われる写真を取り出した。


「見たことないな、志村はどうだ」

「気安く私の名を呼ぶな、神崎。

 ……この顔に見覚えはないな、家出か?」

「はい……。あ、いえ、私の方に問題があるんですがね……。

 見かけたら連絡ください」


 藤次郎は自分の連絡先が書かれたメモを孝仁に渡した。


「それでは、失礼致しました」

「あ、ちょっと待ってくれ、おっさん」


 立ち去ろうとした藤次郎を孝仁が呼び止める。


「なんだね」

「俺、その子見たことあるかもしれねぇ」

「……!?」

「悪い、少し長くなりそうだから志村班は先行っててくれ」

「……わかった。そこまで急ぐ必要は無いからな」


 志村は日和とスズを連れて、一足先にハタエ山へ向かった。



「で、倅をどこで見たんだ!」

「すんません、さっきの嘘です」

「何!?」


 藤次郎は声を荒らげる。


「お詫びに今の仕事が終わったら無償であなたの息子探すから許してくれ。 

 それより、ハタエ山の地図持ってるか?」

「え、神ちゃん、ハタエ山の正確な地図はないんだよね?」

「? 何を言っている、ハタエ山の測量はとっくに完了してるし、

 その地図が不正確だなんて聞いたこと無いぞ」

「…………」

「えっ」


 口を半開きにして驚く有に対して、孝仁は何か確信を得た顔をしていた。


「じゃあ、志村さんが嘘を……」

「ああ、何を考えてやがるんだ、あいつは」

「すぐに追って、どういうことか聞いてこないと……!」

「まあ、待て」


 ハタエ山へと駆け出そうとした有を孝仁は言葉で制した。


「でも、急がないと」

「闇雲に突っ込んでも迷っちゃ意味が無い。なんせこの地図は偽物なんだからな」


 孝仁は志村に渡された地図を後方に放り投げた。


「地図なら私の家にあるが、ここからだと少し遠いな。

 近いとは言えんが村の役場でもらってくるのが一番早いだろうな」

「ありがとう、おっさん。

 夏目、急いで地図を貰ってきてくれ。二枚な」

「わかった」


 孝仁はその場で待機、有は村役場へ、藤次郎は自分の家へと帰っていった。


「急いでくれよ、夏目……」




   ***




 その頃、サバゲーにいそしんでいた少年、陸は、今日もサバゲーをしていた。

 現在は迂闊に動くことなく、茂みに隠れてじっとしていた。


「よかったんですか、神崎さん達を置いてきちゃって……」

「構わん、どうせ別行動なんだ」

「はい……」


 誰かの話し声が聞こえる。

 そこで陸は疑問に思った。

 こんなろくに整備もされていない田舎の山に観光客が来るはずがないからだ。

 それが陸達がこの山をサバゲーの舞台に選んだ理由の一つでもある。

 じゃあ、彼らは何者なんだ。

 陸はしばらく考えていたが、余計な詮索はしないことにした。


 ざっ、ざっ、ざっ――。


 一団の足音が近づいてくる。

 陸はそのまま、通り過ぎていくのを待ったいたが、突如その足が止まった。

 会話が聞こえてくる。


「志村さん、どうしたんですか?」

「フッ、フフフフフ」

「ど、どうしたんですか?」

「結城さん、何か変よ」


 ネコが喋ったことに驚いき、危うく声を出しそうになった。

 それと少女の名は結城と言うらしい。


「え、そ、そうですか?」

「今頃気づいたか、バカ共め」


 ドサッ、ドサッ、ドサッ――。


 それを合図にしたかのように、ガラの悪そうな男達が気持ち悪い笑みを浮かべながら群がってきた。

 各々、武器を携えており、危険な雰囲気を醸しだしていた。


「どういうことですか!?」

「嵌められたわね」

「ったく、これだから小規模ギルドは、疑いもしないで。 

 まさか、こんなにうまくいくとは思ってもみなかったよ」

「全部……、嘘だったんですね」

「三千世界に所属しているのも……」

「ああ、嘘だ。俺は唯の山賊だよ」


 どうやら、かなりヤバイ状況らしい。


「ど、どうする、スズ?」

「私が催眠で時間を稼ぐからその間に逃げましょう」

「させねぇよ」

「にゃ!? ……にゃ、にゃ、にゃー」


 スズと呼ばれていたネコは背後から山賊の一人に捕まえられ檻に放り込まれたかと思うと、突如悶え始めた。


「まさか、マタタビ!?」

「この猫が守護憑きであることはこの猫自身から聞いた。ここで手を打たないわけが無いだろう。

 第一このだだっ広い山を地図なしでどうやって逃げるつもりだ?」

「じゃあ、この地図も……」

「だいたい田舎とはいえ、地形がわかっていないなんてあるわけねぇだろ。

 そして、あんたらのマスターも本物の地図を持っていない。これがどういうことかわかるな?」


 どうやら、一人の少女と一匹のネコが山賊に嵌められたらしい。

 確かにハタエ山の地図は存在している。その証拠に粗末な物だが、陸も所持している。


「まあ、ここの地形なんてすぐ覚えたから、あまり使わなかったけどね……」


 言い終わってから、陸は自らの失敗に気がついた。

 志村という山賊がこっちに目を向けた。


 ドクッ、ドクッ、ドクッ――。


 外に漏れてるんじゃないだろうかというほどに心臓をバクバクさせながら、必死に息を潜める。

 しばし一方的な睨み合いになったが、気づかれは

しなかったようで、志村は視線を陸から外した。


(た、助かったー)


 先程の反省を活かし、心の中に留ておく。

 ……しかし、安心するにはまだ早かった。


 カチャリッ――。


「……!?」


 志村の持つ小型拳銃が向く先は陸……ではなく結城だったが、それは陸にとって衝撃的なことだった。


 “目の前で人が死ぬ”


 陸はサバゲーこそ楽しんでいるものの、いたって普通の少年だ。死を目撃するのはやはり怖い。

 このとき、陸には三つの選択肢が浮かんでいた。

  1、少女を救出する

  2、少女の死を見届ける

  3、少女から目を背ける

 陸は3番を選ぶしかなかった。動けば音でばれるし、ちょっと改造したくらいのおもちゃの銃で勝てるわけが無い。

 ごめんなさい。そう思いながら陸は静かに目を閉じた。


 パーーーン!!!!


 それから数分後、銃声がハタエ山に鳴り響いた。

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