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第4話 依頼委託人

新章突入です。

 街は緑に染まり、蝉がうるさく鳴き、強い日差しがさす季節。夏休み真っ最中の子供は元気に遊び、大人は働いて汗を流している。その頃、黒猫組では――。


「暇だな」

「暇ですね」

「暑いな」

「暑いですね」


 孝仁はソファの上でうちわを仰ぎながら、ごろごろしていた。


「ああ、この前の一件でうちわに臭いが染み付いて地味にくせぇ。なあ、そろそろエアコン修理しようぜ」

「だめよ、金欠なんだから。そもそも、あなたが働かないのが悪いんでしょ」


 そう、只今黒猫組のエアコンは故障中である。

 ということで、現在は扇風機とうちわで何とか過ごしている。


「あーあ、こんなことになるんだったら盗賊捕まえたとき報酬貰っときゃよかったな。よし、今からたかりにいくか」

「駄目ですよ、神崎さん」

「冗談だよ。こういうときに冷房神が憑いてくれりゃよかったのにな」

「そんなこと言ってると守護神に嫌われるわよ」

「大丈夫、俺の守護神は冗談が通じる奴だから」

「守護神と話できるんですか!?」


 ここで日和が疑問を口にした。


「向こうから話しかけてくることがあるんだ。僕は二、三回しか話したことないけどね」


 その疑問に有が答える。


「そうなのか? 俺、週一のペースで話してるぞ」


 その言葉に有とスズは少し驚いた顔をした。

 孝仁のように頻繁に守護神と話ができるのは、極稀なケースだ。


「へえー。というか、守護神ってただの解釈じゃなかったんですね」

「ああそうだぞ、守護神は実際にいる」

「そうなんですねー。ってあれ、神崎さん、どこへ行くんですか」

「ちょっと、図書館に涼みに行ってくる」


 孝仁がゆらゆらしながら、玄関に歩いていく。

 そして、孝仁が玄関の扉を開けようとした瞬間だった――。


 ――ガチャリ。


 孝仁がドアノブに触れる前に扉が開いた。


「ん、あ、どうも」

「依頼に来た」


 孝仁と長髪の男がお互いの息がかかるほどの距離で顔を合わせている。


「すんません、今忙しいんで」

「貴様ら小規模ギルドに拒否権は無い。これは依頼であり、命令だ」

「……てめぇ、大規模ギルドの使いか」

「ああ、そうだ。貴様らのために依頼を持ってきてやった」

「なんだと、ゴルァ。頼んだ覚えなんかねぇんだよ」


 いまだにさっきと同じ距離で睨み合っている。


「ちょ、ちょっと、神ちゃん、これは決まりだから」

「そうだ、これは決まりだ。とにかく入れてもらうぞ」



「お茶をお持ちしました」

「……」


 日和が孝仁と客人の分のお茶を差し出す。


「私は大規模ギルド『三千世界』の志村だ」

「俺は黒猫組のマスターの神崎だ」

「知っている」

「…………」


 志村がお茶に手をつける。


「……なんだこのお茶は」

「ああ?」

「それに冷房もつけずに客をもてなすとは」

「喧嘩売ってんのか、ゴルァ」

「待って、神崎君。すいません、お茶を淹れたのはまだ新人で、冷房も故障しておりまして……」


 一触即発の二人にスズが割って入る。


「……!! 喋るのか」

「ええ、催眠神の守護憑きよ」

「……貴様には同情する。碌にお茶も淹れられない従業員しか雇えず、冷房の故障も直せないギルドで働いているのだからな。どうだ、私のギルドに来ないか?」

「お断りします」


 ネコが喋ったことに少し驚きを見せたが、すぐに志村はスズを勧誘する。

 しかし、スズの答えは早かった。


「悪いな、あんたのとことは違って、ギルドの信頼は厚いんだ」

「ふっ、信頼なんていつ崩れるか分かったもんじゃない」

「んなこたぁ、どうでもいいんだよ。とっとと用件話して帰れ」

「ああ、言われなくてもそうさせてもらうよ。今回の依頼は山賊『山岸』の生け捕りだ」



 一方、台所では――。


「夏目さん、あの人一体何なんですか? 三千世界ってこの国で一番のギルドですよねー」


 日和は自分が淹れたお茶をずたぼろに言われて涙目だ。


「彼は依頼委託人だ。今の僕たちを見れば分かると思うけど、小規模ギルドは大規模ギルドに仕事を取られて暇になりやすいんだ。だから、大規模ギルドは仕事を取ってごめんなさいということで、不定期で仕事を回すんだ」

「へえー、ちゃんとわたし達のことも考えてくれてるんですね」

「表向きは……ね」

「表向き?」

「ああ、その実態は面倒な仕事を強引に押し付ける厄介な連中さ」

「そんな……」

「あと、委託された依頼は依頼委託人が指揮を執るから覚悟しといたほうがいいよ」


 日和は“何の覚悟をすればいいんだ”と思ったが、怖くて聞くことができなかった。



 場面は戻って客間では――。


「山岸……か、聞いたことあるな」

「それなりに有名だからな。それで、今回は予め山岸の一味のアジトを見つけてあるから捕まえるだけでいい」

「随分と優しいじゃねーか」


 委託された依頼は一からやらされることが多いので、今回みたいに敵地が既に判明していることはなかなかない。


「三千世界ではもともと捕らえる気は無かったが、偶然アジトを見つけてしまってな。放っておくわけにもいかない」

「つまり、その山岸って奴をぶっ飛ばせばいいんだな」

「簡潔に言うとな。だがそう簡単にはいかない。一味の数もそれなりだし、なにより山岸は強い」

「余計な心配はしなくてもいい」

「たいした自身だ。だが、調子に乗るなよ」

「んなことはどうでもいいからとっとと作戦話せ」

「これだから小規模ギルドは。気が短くていけない」

「俺達からは何人出せばいい?」


 孝仁はじれったくなって、自分から話を切り出した。


「全員だ」

「悪いが今、つーかここ最近一人帰ってこねぇから、3人と1匹でいいか」

「構わん。それと、アジトはハタエ山にある」

「ハタエ山? 聞いたことねーな」

「田舎の山だからな。後のことは当日話す。決行日と集合場所は後々電話で連絡する」

「ああ、分かった。その日まで顔見せんじゃねーぞ」

「それはこっちのセリフだ。せいぜい死なないようにがんばれよ」


 志村は最後まで孝仁と睨み合いながら、帰って行った。




   ***




 同時刻、ハタエ山では――。


 ぜぇぜぇぜぇ。


 昼間なのにまだ薄暗い山の中の森林で、一人の少年が木々の間を死に物狂いで走っていた。

 そしてそれを追いかける人影が一つ。

 その影の両手には銃が握られていた。


「逃がすか」

「ひぃっ!」


 少年はひたすら逃げ続けた。

 逃げ始めてから数分、少年を取り囲む木々の数は次第に減っていた。

 そこで少年は自らの失念を悟った。

 この一帯は植物が少なく、狙撃されやすい。


(まさか誘導された!?)


 そうこうしている間にどんどん木々は減っていく。

 そして、少年を追う影が動きを止めた。

 しかしそれは決して諦めたからではない。

 少年にとって、それは死刑宣告をされたに等しかった。

 影が銃口を少年に向けた。

 その間も少年は走り続けたが、少年自身それが無駄であることは分かっていた。

 一度銃口を向けられた以上、奴からは逃げられない!

 影の指が引き金に触れた。


(もう、だめだ!!)


 そう少年が思った直後、引き金が引かれた。

 けたたましい音が森に響き渡る。


「うわっ!!」


 弾丸は少年に命中し、少年は大きく倒れた。


「痛たたた」


 ……しかし少年は死ななかった。


「大丈夫?」


 いつの間にか、さっきまでの影は少年に駆け寄って、手を差し伸べていた。


「うん、大丈夫。それにしてもやっぱりすごいなあ、陸くんは。あの距離から命中させるなんて」

「ありがとう。でも、山口くんはもっと地形を頭に入れたほうがいいよ」


 よく見ると、山口と呼ばれた少年も銃を持っていた。


「いやー、やっぱ広い場所でやるサバゲーは最高だね」

「サバゲーっていっても三人で打ち合ってるだけだけどね」

「打ち合ってるというより、むしろ陸くん一人で打ってるような……」

「ごめんごめん、それじゃあもう少しハンデつけよっか」

「そうだね」



 二人は楽しそうに談笑しているが、山賊が近くにいることも、後々事件に巻き込まれることもまだ知らない……。

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