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第2話 盗賊退治

 日和が『黒猫組』に加入してから一週間が過ぎた。日和も仕事を覚え始め、徐々にギルドに溶け込んでいった。

 日和の村を襲った犯人に関しては、日和が犯人の人数も顔も何も分からないため、とりあえずは軍隊に任せることになった。


 そんな黒猫組にある依頼主がやってきた。顔には傷、腕にはギブスがはめられていて、見るからに痛々しかった。


「私の妻を助けてください!」


 話を要約するとこういうことらしい。

 依頼主は辺境の村で農家をしているいたって普通の男性で、男が言うには、先日村が二人組みの盗賊に襲われたらしい。幸い死者は出なかったものの、多くの村人が怪我を負い、金品が盗まれ、村はかなりのダメージを受けたということらしい。さらには男の妻がさらわれたということだ。


「つまり、あんたの妻を助ければいいんだな?」

「はい、盗賊は軍隊に引き渡してくれればいいです。報酬はいくらでも払います」

「わかった、必ず助ける。報酬は成功に応じての後払いでいいから、今日のところは帰ってもらっていいぞ」

「ありがとうございます」


 男は礼を述べると、嬉々とした表情で帰っていった。



「神ちゃん、依頼主には敬語を使えとあれほど……」

「わたしも連れてってください!」


 日和が有の小言を遮って言った発言に、一同沈黙する。


「村が襲われたと聞いて、黙ってはいられません。

 わたしの故郷はもう帰ってきませんけど……。でも、これから救えるものがあるというのなら、わたしは見届けたいんです!」


 日和が熱弁を奮う。


「ええ、私もギルドの仕事を知るいい機会だと思うわ。留守番は私に任せて行ってきたら?」

「そうだね、いいんじゃない? 敵も二人だし」

「あ、ありがとうございます!」


 そんな熱弁にスズと有は応えてくれた。


 しかし問題は孝仁である。最終決定権は彼にあるのだから。


「…………」


 孝仁は腕組みをしたまま俯いている。


「なあ、いいだろ? 神ちゃん」

「そうよ。判断に迷うなんて、貴方らしくないわ」


 一人と一匹の説得に対し、ギルドマスターの判断は――。


「……ばーか、ちょっと床の模様が気になっただけだよ。

 ま、せいぜい見届けがんばるんだな」


 皮肉のこもった言い方だったが、承諾したことに変わりはない。


「ありがとうございます!!」


 日和は本日二度目のお礼を言った。


「じゃあ決まりだな。出発は明後日だ、みんな準備しとけよ」

「はい!」




   ***




 二日後、盗賊退治決行の日――。


「それじゃあ早速出発といこうか」

「気をつけていってらっしゃい」


 今回は孝仁、有、日和の三人で、スズは留守番だ。



 依頼主の男の話から盗賊の居場所はすでに数ヶ所に絞り込んでいた。

 一ヶ所目は男の村の近くの廃屋だ。


「だれもいないな……」


 廃屋の中には誰もいなかったが、日記を発見した。

 その日記によると、この廃屋はやはり例の盗賊が使っていたらしい。そして、近くの山の中腹に住まいを移したとのことだ。ご丁寧に地図まであった。


「どっからどう見ても罠だな……」

「どうしますか?」

「罠だったからなんだ。真っ向からぶつかってやるよ!」

「「はあ……」」


 孝仁のテキトーな判断により、その場所へ向かうことになった。




   ***




「そこ、糸張ってあるから気をつけろよ」


「こんなところに落とし穴掘ったガキは誰だ、ゴルァ」


「こんな道で岩転がして遊んでんじゃねぇよ!」


 宣言通り、孝仁は罠をもろともしなかった。


 いくつもの罠を越えた先には、深い谷と危なっかしい木の吊り橋があった。

 そして対岸には――、


「来たな。軍隊……ではなさそうだな。ここまで来られるとは思わなかったが、まあいい、来れるもんならこっちへおいでー、お尻ぺんぺーんだ」


 チンピラがいた。


「お望み通り行ってやるから、そこで待ってろよ」

「え、あ、ちょっと、神崎さん、そんな安い挑発に乗っちゃだめですって!」


 そんな日和の忠告も聞かず、孝仁は吊り橋に突入。――案の定吊り橋は崩壊し、孝仁は谷に落っこちた。


「ばっかじゃねーのぉ。ただの足止めのつもりが本当に落っこちるとはなぁ」

「神崎さーーーーーーーん!!」


 日和は孝仁を追って谷に飛び込もうとしたので、有は慌てて止めた。


「放してください! 神崎さんが、神崎さんがぁ!」

「大丈夫だって、神ちゃんは死んでなんかいない」

「そうだぞ。俺は死んでなんかいない」

「えっ!?」「はあ!?」


 日和とチンピラもとい盗賊の驚きの声が重なって響き渡る。有はやれやれといった様子だ。


「ちょっと神崎さん、何で床も何もないところに平然と突っ立ってるんですか!?」

「そうだ、空中に浮くなんてありえねぇ……」


 そう、孝仁は谷の上で宙に浮いていたのだ。


「あ、そういやまだ話してなかったな。俺、実体神の守護憑きだから」

「ええ!? 守護憑きの人って百人いるかいないかなんですよね!?」

「へぇ、そんな少ないんだ。あ、ちなみにスズは催眠神の守護憑きだし、夏目も守護憑きだぞ」


 このとき、日和は初めて自分が加入したギルドが普通ではないことを実感した。



   *



 この世界には守護憑きと呼ばれる者達がいる。

 守護憑きとは、幼少の頃に守護神に魅入られることで守護神を体内に宿した者のことである。守護神を体内に宿した者は、守護神からその宿賃として魔力を分け与えられるのだ。

 魔力にはそれぞれ守護神によって特性がある。例えば、実体神なら空気を実体化することで空中に浮くことができるが、火を噴いたりすることはできない。ちなみにスズは、催眠神の能力の自己暗示で人間の言葉を話している。

 以上が守護憑きについての説明だ。



   *



「んじゃあ、とっととやっちゃいますか」


 孝仁は空中に突っ立ったまま腕を振り上げ、そのまま空中を殴った。


「てめぇ、何やって……、ぶげあぁ!!」


 盗賊の顔が突然歪んだかと思うと、後方に吹き飛ばされ気絶した。


「神崎さん、まさか空気を殴ったんですか!?」

「おう、振動を空気に伝わせて殴った。夏目ー、そっちは終わったか?」

「ああ、こっちも片付いた」


 有が笑顔でさっきとは違うチンピラを引き摺ってやってきた。かわいそうなくらいにチンピラの顔はボコボコになっていた。

 夏目さん、意外と怖い。日和はそう思った。



「……こっちは済んだから、朝霧、後は頼んだぞ」


 ピッ――。孝仁は誰かに携帯で電話を掛けていたようだ。


「まっさー、元気にしてた?」

「相変わらずだったよ、あいつは。……それじゃ、用も済んだし帰りますか」

「はい!」


 夕日を背に三人で歩いて帰っていくのであった。


 ……しかし、日和の胸に何か突っかかるものがあった。


「って、あっ! 依頼主の奥さん、助けなくていいんですか!?」

「そういやそうだったな。ま、いいだろ別に」

「い、いいんですか!?」


 孝仁はどうにもしまらない男だった。




   ***




 後日、依頼主の男とその妻である女が黒猫組へやってきた。


「ご無事でよかったです」

「ありがとうございます。おかげさまで助かりました」

「いえいえ、わたしは何もしてませんから」


 日和は本当に嬉しそうである。


「この度は本当にありがとうございました。あの、報酬なんですが、なんとか用意してきたのですが足りますでしょうか?」


 男が机に出したお金は日和が見たことのない量だった。


「いやいや、普通に考えて足りないでしょ。命助けたんだから、この倍は普通払うんじゃないの?」

「ちょっと、神崎さん!!」

「そんな……」


 男は肩を落とした。


「……まあ、俺がその報酬を受け取るとしたらの話だがな」

「それはどういう……」

「今回の依頼はあんたの奥さんを助けることだ。確かに盗賊を倒したのは俺達だが、奥さんを助けたのは軍隊の野郎だ。よって今回の依頼は失敗、報酬は受け取れないな」

「……!! しかし、せめてこれだけは……」

「受け取れねぇって行ってんだろ。用がないならとっとと出てけ、ゴルァ」

「あ、は、はい、すみません。あ、あの……」

「なんだ」


「ありがとうございました! ……それでは」


 足早に出口へ駆けていった夫婦は、最後に深い一礼をして黒猫組を後にした。


「おい、日和、何にやけてんだ」

「あ、いえ、何でもありません。ウフフ」


 日和はお礼を言われた瞬間、孝仁の顔が一瞬だけ緩んだのを見逃さなかった。

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