第1話 黒猫組へようこそ
はじめまして。この作品は漫画感覚で書かれているので、会話文多めです。ですので、漫画感覚で読んでいただけるとありがたいです。
*追記* 【2014年6月】
前述の通り序盤はほとんど会話文ですが、帰還篇あたりから少しずつ地の文の使い方を覚えていき、会話率も大分減ってきています。
また、序盤は文字数が少なく、内容もかなり軽いです。
以上より、序盤は至らぬ点が多々ありますが、現段階では大幅改稿しようというつもりはありません。なので、作者の成長っぷりをストーリーと共に追っていただけたらなと思います。
それでは本編をどうぞ!
とある森の中で人間の背丈の二倍はあろうかという、いかにも凶暴そうな熊達に囲まれている少女がいた。
しかし、少女の目に恐怖はなかった。
なぜなら、これが少女の望んでいたことだからだ。
「これでわたしの人生もおわりかぁ。思えば楽しい人生だったな……」
少女の名は結城日和である。
日和はつい最近までとある小さな村で普通の生活、いやそれ以上の生活を過ごしていた。
しかし、その生活も長くは続かなかった。
村が何者かによって襲撃されたのだ。
村の住民の助けもあって日和一人だけは村の脱出に成功するも、その後、日和が村に訪れた時には村はあまりにも変わり果てていた。
破壊された家屋、横たわる人々……。それは日和の家、家族ともに例外ではない。
この一件で生きる術、生きる意味を失った日和は、逃げ道のない死を選ぶために凶暴な熊の巣食うこの森へとやってきたのだ。
「さあ、早くわたしを食べて。若いからきっとおいしいよ」
熊はすでに日和へと手を伸ばしていた。その熊の手が日和の頭に触れようとしたそのときだった――。
「えっ!?」
日和の目の前が一瞬光ったかと思うと、熊の腕が胴体から引き剥がされていた。
「おいおい、女相手によってたかって……、謎の美少女転校生でも現れたか、ゴルァ」
いつの間にか、刀を持った青年が日和の斜め後ろに立っていた。
グオオォォ!! 熊は闘争心をむき出しにしている。
「失せろ」
しかし熊は闘争心を治めない。
「聞こえなかったか? もう一度言ってやるからよく聞けよ。失・せ・ろ」
青年が再びそう言うと、熊達もしばらくはうなり声をあげていたが、やがてその目に怯えの感情が宿り始めてついには四方八方へと逃げていった。
「おい、大丈夫か?」
「なんで……」
「あ?」
「なんで助けたの、わたしは死にたかったのに!」
「……知らねぇよ、お前が死にたかろうが俺は体を張って守った事実は変わらねぇんだ。まさか、代償を払わないつもりでいるんじゃないだろうな」
「え? いや、でもわたしお金持ってないし……」
「金持ってねぇんなら体で払うんだよ。来いよ、俺のところに」
「そんな、で、でもわたし初めてだし……、あっ、でも死ぬ前に一回は体験したいし、よく見たらこの人かっこいいし……」
「なに一人でごちゃごちゃ言ってんだ。お前に選択権なんてねぇよ。ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと!」
その青年は強引に日和の腕を掴むと、どこかへと引っ張っていた。
これが後に日和の人生を大きく変える存在である青年との出会いである。
***
「ふぇー、大きいお家ですねー」
日和の目には四階建ての建物が映っていた。
「ああ、自宅兼仕事場だからな。それに大きいのは高さだけだぞ」
「へぇー、あなたの、えっと……」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺は神崎孝仁だ」
孝仁は日和の意図を察し、簡略的な自己紹介をする。
「あ、はい、私は結城日和です。神崎さんって何のお仕事してるんですか」
それに対して日和も自分の名前を名乗り、さっき言いかけたことの続きに移る。
「黒猫組っていうギルドのマスターやってんだ。ギルドとは言ってもお前を入れて五人、いや正確に言うと三人だけの超小規模ギルドだけどな」
「えっ、わ、わたしも数に入ってるんですか!?」
「は? 体で払うんだろ、うちで雑用として働くんだよ」
「か、体を払うってそういう意味……」
「どういう意味だと思ってたんだよ……」
「あ、いえ、な、何でもありません。それより中に入りましょう!」
「あ、おい、ちょっと待てって、それは俺のセリフだ」
***
「え、何、神ちゃん、彼女?」
中には孝仁と同年代くらいの青年がいた。
「ちげーよ、こいつは今日からここからで雑用として働くことになった……」
「結城日和です。よろしくお願いします!」
「僕は夏目有。神ちゃんとは幼い頃からの友人で、一応アルバイトってことになってるから」
二人が握手を交わすと、日和の目はあるものへと移った。
「きゃー! カワイイ!! この子、名前何て言うんですか?」
日和はソファの上にいた黒猫を抱き上げると、ほっぺたですりすりした。
しかし、孝仁と有の表情は固くなっていた。
「ス、スズ……」
「そっかー、スズちゃん何歳なのかな?」
「って、さっきから鬱陶しいわよ!」
女性の声が響き渡った。
「あれ、まだ奥に誰かいるんですか?」
「いるじゃないか、君の目の前に」
そう言いながら孝仁が指差したのは、明らかに日和が抱いている黒猫だった。
「私は黒田鈴音、スズよ。ここで秘書をやっているわ」
「ね、猫が喋った!?」
日和は驚きで腕を放してしまったが、スズは猫特有の身のこなしで床へ着地したかと思うと、孝仁の元へ駆け寄り頭に飛び乗った。
「驚かして悪かったわね。ああ、やっぱりここが一番落ち着くわ」
「スズちゃん……」
「な、何よ、その目は」
「か、かわいいー! 頭の上に乗るとかちょーかわいいんだけど!」
「「は?」」
「あ、す、すいません、取り乱してしまって。これで全員ですか?」
「もう一人いないこともないが……、まあ、どうせ顔を合わせることもないし紹介する必要はないだろ」
「もう一人……?」
「いや、いいんだ。今のは忘れてくれ。
……そういえば、お前、なんかできることはあるか? 料理とか……」
日和はその存在が気になって質問をするが、はぐらかされてしまった。
「すいません、何もできないと思います……」
「そうか。なぁに、気に病むことはない。最初は基本俺がその都度指示していくから、少しずつ覚えていってくれよ。まあ、今日はやることがないから帰っていいぞ」
「あの、そのことなんですが……」
*
「なるほど、それであんな森にいたのか。いいぜ、空き部屋があるから住み込みで働いてくれよ」
「はい……」
「それじゃあ、夏目、部屋を案内してくれ」
「結城さん、こっちだよ」
有が日和を連れて部屋を出ようとしたとき、日和は立ち止まり振り返った。
「……神崎さん、強いんですよ、ね?」
「ああ」
「だったらお願いです。わたしの故郷を奪った人を捕まえてください! いますぐにとは言いません。一年後、二年後、……十年後でもいいんです。わたしのお願い、聞いてくれますか……?」
「はん、当然だろ。なあ、みんな」
「そうだよ。僕ら仲間だろ」
「そうね、その代わり報酬の分しっかり働いてもらうわよ」
日和の涙ながらの訴えに孝仁達は笑顔で返した。
「みなさん……、ありがとうございます!!」
こうして、日和のギルドの一員としての一日目が終わった。