表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志だと思った?残念!  作者: 龍ヶ崎エタニティ
8/22

一刀、七乃と褥を共にする

一週間以上空いてしまいました。申し訳なく。

「それでは、我らの大将であらせられる平将門殿より、一言頂きたいと思います」


鈴々の七乃の合図で立ち上がると、右手に持っていた直径50センチはあろうかという朱塗りの杯を高々と掲げた。


「めでたい席なのだ。今日は皆、心ゆくまで飲むのだ」


そう言うと、鈴々は器になみなみと注がれていた酒を一気に飲み干した。


「きゃー、将門さま素敵なのー」

「流石、我らの大将様や。豪快やねぇ」

「だが、あの小さな身体の何処にあれほどの量が入るんだろうか?」

「凪、何を言っておるんじゃ。酒はな、喉で飲むのよ、喉でな」


七乃の屋敷で開かれた宴は、彼女の大国玉での地位を現す素晴らしいものであった。鈴々の兵はもちろんこと、屋敷の外にいる祭たちの手勢や村人たちにも酒が振舞われ、桃香を初めとする神社の巫女たちが神楽で宴に花を添えている。およそ、この関東でこれ以上のものは望めぬという、豪奢な宴。


だが、その宴の上座に鈴々と共に座っていた一刀の表情は心なしか暗かった。


雑だなぁ。それが目の前に出された膳にある品々を見た現代人である一刀の素直な感想であった。


「やっぱり、お口に合いそうにありませんか?」


干し肉、焼き魚、粟、山菜類、汁物、酒。七乃としてはこの辺りで用意できる最高のものを惜しげなく振舞ったつもりではあったが、何せ相手は千年先から来た人間である。彼女としても一刀の反応は想定の範囲内ではあった。


「えっと七乃さん、味噌って知ってます?」


何らかの根菜をお湯で煮たことが舌先にビンビン伝わってくる液体を口に含んだ後、一刀はダメ元で質問してみた。


「ミソですか。それは何らかの食材ということでよろしいんですか?」

「食材っていうか、大豆を醗酵させて作る調味料なんですけど」

「一刀、それはどういう味がするのだ?」


隣で次々とやってくる人間たちに注がれるまま、顔色も変えずにぐいぐいと酒をほしていた鈴々が興味深そうに尋ねて来た。


「甘じょっぱいっていうのかな」

「それはおそらくひしおなのだ。都にいた頃、市に並んでいたのを食べたことがあるのだ」

「ひしお、か。なあ、鈴々、それどんな色をしてた?」

「土のような色をしてたのだ」


一刀は小さくガッツポーズをした。


「たぶん、それだ。俺のいた時代では、その醤で味噌汁ってやつを作るんだよ」

「上手いかなのだ?」

「結構な数の日本人は、一日に一度はこれを飲まないと落ち着かないかな」

「それはわたしも是非飲んでみたいですね」

「七乃、用意できるかなのだ?」

「市に並んでたって言うんですから、手配できないことはないと思いますけど。たぶん関東にはまだ出回ってませんから、そこそこ時間はかかると思いますよ」

「いや、俺のわがままでそこまでさせるわけには」


大がかりになりかけた話に一刀は思わず腰を上げたが、二人にすぐさま押し留められてしまった。


「一刀、遠慮することないのだ。そうと言われれば、鈴々だって食べてみたいのだ」

「そうですよ。一刀さんは鈴々さまにお勝ちになったんですから、もっとデーンと構えていてもらいませんと──何せ、鈴々さまは自分より強い男としか契りを交わさないと豪語されておられたんですよ。その相手が落ち着きを欠く粗相者とあっては、鈴々さまの評判まで下がってしまいます」


チラリ。七乃は言葉の後半、鈴々の顔色を明らかに窺いながら話していた。


「そうなのだ、一刀。鈴々に恥をかかせるものではないのだ」


ふむ、なるほど、なるほど。太い笑みを浮かべながら、手づから一刀の杯に酒を注ごうとする鈴々を観察しながら、七乃は自分の腹案を実行することを決めた。


「一刀さん、宴がお開きになったら、わたしの寝所まで来てもらえますか?漆喰のことで、話したいこともありますし」

「あっ、はい。分かりました」

「なんじゃ、また悪巧みの算段か?」


少しばかり緩んだ笑みを浮かべながら、祭が鈴々たちの近くに腰を下ろした。

七乃はその挙措で、自分たちのところの兵が過敏な反応をしないかと様子をうかがったが、皆振舞われた酒を飲み干すのに急がしく、それどころではないようだった。


「いえいえ、一刀さんに胸秘めた想いを告白でもしようかと思っていたところでして」


その様子に祭の方が苦笑を浮かべていたが、七乃としてはこればかりは仕方がないと半分くらいは諦めていた。兵たちは鈴々が無敵であると本気で信じているからこそ、普通に見れば利がない平将門の側についてくれたわけで、そこを不満を思うのは筋が違うのである。


「アホらしい、一目惚れとでも言うつもりか」

「もう、そんなこと言うなら、飲んだお酒の分、働いてもらいますよ」

「まったく、神に仕えているくせに狭量なやつじゃのう。しかし、筆が揺れぬ内に、わしらの棟梁に文くらいはしたためおくべきか。斗詩はめったなことはしないと思うが、猪々子のこともあるしの」


祭はこの場にいない平一門の残る重要人物である二人の妹の名前を挙げた。


「わたしは平良兼殿にお会いしたことはないんですけど、祭さんを押しのけて、平の家の長になるほどの人物なんですか?あまり、評判は聞かないんですけど」

「まあ、母さまが死んだとき、わしには既に子があったからの。斗詩が上総介を継いだのは、わしに荒事から身を引いて、子育てに専念しろという親心もあったんじゃろう。それに斗詩は、総じて気性が荒いわしらの家の者には珍しい、おっとりとした性格の娘でな」


七乃の頭の中に、好き勝手に自分の言いたいことを言っている平の人間たちを、疲れがにじむ笑顔を浮かべながら、何とか取り成している苦労人の姿が浮かんだ。


「良兼は優柔不断なのだ」

「そう言ってやるな。お主のことをわしらの中で一番慮(おもんぱか)っておったのは、あの娘じゃ」

「武士が揉めたなら、戦いで決着をつければいいのだ。今回だって、それで上手くいったのだ」

「お主な──」

「まあまあ、祭さん。おめでたい席ですよ、ほらっ、ぐぅとやってください。ぐぅと」


少しは空気読んでくださいよ、鈴々さま。七乃はどうにかこうにか祭を宥めながら、自分の主に少しばかり不敬な念を抱いた。まあ、そんなこと今日に始まったことでもなかったのだが。


「──どうだ、鈴々、俺とどっちが酒を飲めるか勝負しないか?」


一刀の話の切り出しはいかにも唐突な感があったが、鈴々はそんなことは歯牙にもかけず、喜々とした声音で返答をした。


「望むところなのだ。今度は不覚をとったりしないのだ」


鈴々の態度は新しい玩具を与えられた童のようで、それを見た祭は小さくため息を吐いた。


どうにか場が収まったかな。一刀はこちらに対して小さく頭を下げている七乃にひらひらと右手で返事をしながら、視線で、はらはらと鈴々と祭の様子を窺っていた三人組に合図を送った。


「なんや、飲み比べするん?」

「えー、楽しそうなのー」

「いや、酒というのは、節度をもって飲むが正道で──」

「そうじゃな、二人の勝負を見ているだけというのも如何にもつまらん。わしらも、混ざるとするか」

「ですね、せっかくだから勝った人にはうちのお神酒を一年分贈呈しちゃいますよ」

「まことか?」

「そりゃ、また豪勢なことで」

「沙和はお酒より、布の方がいいのー」

「待って下さい。神に捧げるはずの供物を賭け事の賞品にするなんて──」

「酒、じゃんじゃん酒を持ってくるのだ」


まっ、後は酒の力でどうにかなるでしょ。心配がなくなったところで、七乃は鈴々に宴から辞す挨拶をした。勝てば勝てで、しなければいけない仕事の数は多いのだ。加えて、彼女はみんなで馬鹿騒ぎをするような場というのが、どうにも苦手な人種であった。


少し心配そうにこちらを見ている一刀に、ウィンクを返すと、七乃は影のようにひっそりと宴が行われている広間から退出した。


それに、これだけめでたい席です。一人くらい池に落ちて死んでも馬鹿話で済みますしね。屋敷の廊下を歩きながら、七乃へ自分の部屋ではない方角に足を進めるのだった。


───

──


人間ってあんなに飲めるもんなんだな。そんなことを思いながら、一刀はおぼつかぬ足取りで七乃の部屋へと向かっていた。屋敷の者に指示されるままに、一つ二つと角を曲がり、奥まった場所にある木戸の前にたどり着くと、戸のむこうから七乃の声が響いた。


「どうぞ、入ってください」

「失礼します」


割と無造作に戸を開けた一刀は、部屋の中にいる七乃を見て、思わず固まってしまった。


七乃が白い襦袢一枚だけという無防備な格好で、寝具の上に正座して一刀を見上げていたからだ。


「どうしました?」

「いや、よく考えれば、この時間に、女の人の部屋を訪ねるのは、不躾だったなと、思いまして」

「何言ってるんですか。わたしがお呼びしたんですよ?どうぞ、気にせず入って来て下さい」


七乃の声に促されるまま、一刀はギクシャクとした動きで部屋の中に入ると、寝具のすぐ近くの木の床の上に正座をした。


「ずいぶんと顔がお赤いようですけど?」

「そ、そうですか?ちょっと酒を飲み過ぎたのかな」

「あれ?屋敷の者の話では、一刀さんは割と最初の方に飲むのを止めたって話でしたけど」

「ああ、あれですよ。見ているだけで酔ったというか」


苦しい返しであったが、七乃はさもありなんという様子で頷いた。彼女自身、昔、鈴々が酒を飲んでいるのを見て、気持ち悪くなった経験があったからだ。


「結局、鈴々さまと祭さんで、賞品のお神酒まで飲み干して、屋敷に酒がないって理由で宴ごとお開きですもんね。無理もありませんよ」

「沙和が、笑い話っていうよりもはや怪談なの、って言ってましたよ。真桜も顔は笑ってたけど、目は笑ってなかったし」

「ふーん、もう真名で呼び合う仲になったんですね」


七乃の声音に込められた棘に気づいて、一刀は慌てて言い訳をした。そもそも言い訳をする必要などないのだが、今の彼にそんなことに気づく余裕はなかった。


「えっ、いや、これは鈴々のお陰というか」

「謙遜することないですよ。一刀さんは十分に女を引き付ける魅力をお持ちです」


そう言いながら、七乃は座ったまま一刀との距離を一歩分つめた。


「初めて言われましたよ、そんなこと」

「本当ですか?ずいぶんと見る目のない女に囲まれていたんですね」


また一歩分、二人の距離が近づいた。一刀は思わず後ろに下がろうとしたが、すっと伸びてきた七乃の手が彼の膝の上に置かれため、その意図はかなわなかった。


「あっ、そうだ。漆喰の話でしたよね。実はさっきスマホを見たら、検索が終わってたんです。今、詳しい情報があるページを読み込んでるんで、たぶん朝までには」


早口でここに来た用件を喋り始めた一刀に対して、七乃は更に一歩分距離をつめた。

もはや二人は膝と膝を突き合わせており、七乃の唇に先ほどは塗られていなかった朱の存在を確認した一刀は、相手に何かを言われる前に自分の口を閉じてしまった。


「ところで、一刀さん。鈴々さまのことどう思います?」

「どうって、どういう意味ですか?」

「もちろん、女としてという意味ですよ。何て言ったって、鈴々さまは自分より強い男としか付き合わないと昔からおしゃっていましたので」

「俺がどう思おうと関係無いっていうか。さっきもそんなこと言ってましたけど、鈴々は俺のことなんて全く意識してなかったじゃないですか」

「鈴々さまは深謀遠慮の方ですからね。まだ態度を決めかねてるだけですよ。わたしが保証します、近いうちに鈴々さまは一刀さんのことお慕いするようになるはずです。そのお気持ちをお受けになる覚悟がありますか?」

「そりゃ、鈴々は可愛いし、悪い気はしませんけど。仮にそうだとしても、それを七乃さんの前で言う必要がありますか?」


今まで七乃の顔を直視しないように左右を彷徨っていた一刀の視線が、ぴったりとこちらの瞳を捉えたのを認めて、彼女は一刀の評価を一段上げた。


「必要っていうかですね。たぶん、鈴々さまは自分の気持ちを理解したら、段階とか踏まないと思うんですよね。ほら?野生の獣って発情したら、ところ構わずみたいなところあるじゃないですか」


一刀、エッチをするのだ。彼は脳内でそんな台詞を想像して、単語的に無理があるにも関わらず、多少のリアリティがあることを認めないわけにはいかなった。


「そのときは、俺がたしなめますよ」


鈴々さまに恥をかかせるとか、この人ちぎられたいんですかね。七乃は思うだけで口では何も言わなかったが、そこは一刀の雄としての生存本能が敏感に反応した。彼には理由が分からなかったが、七乃の先ほどより深まった笑顔を目にした瞬間、股間がきゅーと縮み上がったのだ。


「リンリン、カワイイカラ、オサエガキカナイカモ」

「結構。けど、わたしにも一つ心配があるんですよね」

「心配?」

「ほら、鈴々さまって小柄じゃないですか」

「そうですね」

「不必要に痛い思いをされて、その一回で男女の事柄の全てをお嫌いになったら、どうしようかなって」


部屋の中に沈黙が満ちた。


「やっぱり、そうですよね」

「うん、まあ、はい。そうです」


一刀は潔く己の敗北を認めた。この部屋での振舞いを考えると、否定するのは無理だなと思ったからだ。後、少しばかり今後の展開が見えたというのもある。


「素直なのは一刀さんの美点だと思いますよ。で、どうですか?わたしで女の扱いを学んでみるというのは」


一刀が何か言葉を紡ぐ前に、七乃は彼の舌を奪っていた。

七乃が引いた朱が色あせ、彼女の唇が桜のような色に戻った頃には、彼はなぶられるという言葉の意味を人生で初めて理解していた。

一刀が終始受けに回っていたということではない。むしろ、主導権は彼の方にあった。ただ彼女の唇が、彼が何処かを触るごとに、お返しばかりに彼をついばんでくるのである。

顎先。首。胸。腹。臍。彼女がわざとらしいほど大きいな音を立てて、一刀の全身に唇を落としていくたび、彼の身体の奥から考えもしたことのなかった奮えと悦びが生まれてくるのだ。

初めて彼の前に開かれた女は、どこまでも甘く柔らかで、そして海のように底が知れなかった。


「一刀さん、これ何か感じます?」

「なんか、ぼんやりとだけ」

「やっぱりですか。これは色々と試し甲斐がありますね」


七乃はクスりと笑った。夜はまだまだ長いという風に。


───

──


「北郷、お主、随分と顔がやつれておるが大丈夫か?」

「どうかしました?」


ああ、そういうことか。一刀の後ろからやってきた七乃の妙にツヤツヤした顔を見て、祭は全てを了解して肩をすくめた。


「いやなに、こやつがずいぶんと悪い酒を飲んだようじゃから、心配しただけじゃよ」


こっちの太陽は黄色いんだな。そんなことを思いながら、一刀の新しい生活が始まったのだった。



説明しよう。北郷一刀の身体を守る時間の流れは、本人の意識のありようによって多少伸縮して、中に他の人を包む込むことも出来なくはないのだ!(ご都合主義)

なんか一日目完みたいな文章の〆でしたが、これからはぼんぼん時が飛ぶときは飛ぶと思います。というか、もう一合戦したら、一年目の主要イベント終わりなんですよね。

そしたら、都にいる名家・藤原の人たちとか、九州の方にいる海賊さんたちとかに軽くスポットを振りたいところ。

次は、一刀、平将門に日本刀を作らせるの巻かな?

そのまえに太刀を全て直刀に変換し直すお仕事だけど。



次の回を書いてたら、どうにもエロさが足りなかったなと反省したので、少し改定。健全なエロさを目指して精進していきたい。(7/31)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ