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三国志だと思った?残念!  作者: 龍ヶ崎エタニティ
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祭たち、鈴々に与する

話が思ったより、進まない。

「鈴々さま、もう大丈夫ですよー。ほーら、痛いの痛いの飛んでけー」

「うう、痛かったのだ」

「まったく、酷い人もいたものですね。血も涙もないとはこのことですよ」


グリグリから開放されるやいなやベソをかいて七乃に抱きついた鈴々の姿を見て、一刀はなんとも言えない罪悪感に襲われていた。少なくとも罪の半分は、鈴々の叫び声を聞いて思わず手を離そうとした彼に、目だけで続けるように合図した某人にあると心の中で言い聞かせたものの、それで気が晴れるということもなかった。


「鬼畜や。あの兄さん、あんな優しげな顔して鬼畜やで」

「ほんとなのー、まとも神経があれば、あんな小さい子が泣き叫んでる時点で普通手を放すものなのー」

「いや、しかし、相手はあの平将門だぞ。言質も取らずに手を放せば、手痛い一発を喰らうのは目に見えている」

「凪の言葉は正しいが、実際にそれが出来るかとなるとな。まっこと恐ろしい男じゃ」


先ほどまで鈴々を殺そうとしていた人間に、何故そこまで言われなくてはいけないのだろうと一刀はよっぽど反論したかったが、目の前で泣いている鈴々という圧倒的な現実の前では、加害者の言葉はいかにも無力である。黙って状況の変移を待つ他に、彼に出来ることはなかった。


助け舟は意外なところからやってきた。


「一刀を悪く言うのはよすのだ。一刀は取り決めに従って正々堂々勝負をしただけなのだ。悪いのは力が足りず、負けた鈴々なのだ」


鈴々は鼻を大きくすすると、はっきりとした口調でそう断言した。


「鈴々さまなら、そうおっしゃられると思っていました」


晴れ晴れとした表情をした七乃は、鈴々の目線に合わせてしゃがみ込んでいたのをやめ、すっくと立ち上がると、改めて周りを見まわした。


「それでは皆さん、いかがしますか?」

「孺子の言葉ではないが、二言はない。三人の自由が保障されるというんじゃったら、お前たちに協力してやるわ──それに、その北郷とかいう男もなかなか面白そうじゃしな。さて、わしはそれでいいとして、お前らはどうする?」


二言はないけど変言はあるんですね、まったく食えない人ですよ。いつの間にか「命」が「自由」に置き換わっていることに対して、七乃は表立っては何も言わなかった。もちろん、出来ることなら三人を開放するは避けたいが、祭を自分たちの陣営に引き込める代価と考えるなら、それでもまだ安いものではあったからだ。


「わいは姉御について行くで。なんか将門さんとこ、話に聞いてたの違って面白うやし」

「わたしもなのー、バリバリのシゴキ系だって聞いてたから、ゲエって感じだったけど、見た感じ楽しそうだし、それにそこのお兄さんが着ている服のことも気になるのー」

「ふ、二人とも。祭さまの心遣いが分からないのかっ!」

「わしのことは気にするでない、凪。まっ、紫苑にお前らの元気な顔を見せたいというのが本音ではあるがの。三人ともいい歳じゃ、去就くらい自分で決められるじゃろ」


祭はワシワシと凪の白髪を撫でながら、どこか寂しそうな笑みを浮かべた。それは自分が刻一刻と世の主流から外れていこうとしている者の笑みであり、そうでありながらまだ舞台に上がり続けなければいけない者の笑みでもあった。


「では、わたしも真桜姉さまたちと一緒にいたいと思います」

「ということらしいぞ?」

「これは何というか、大漁ですね。ですが、本当にいいんですか?場合によっては、貴方たちの母上である源護と戦うことになるかもしれないんですよ」


裏切られるかもしれぬなら、それを前提とした利用法というものもあるわけじゃが、それでも最低限の忠誠は誓ってもらわんと兵の士気に関わるからのう。ここで答えを躊躇うようなら、放り出す腹か。祭は七乃の考えをほとんど完全に読みきっていたが、そうであるが故に笑いをこらえることが出来なかった。


「問題ないで、うちは基本、放任主義やし」

「むしろ、紫苑母さんなら、わたしたちと戦えることを喜びそうなのー」

「確かに、かあさまにはそういったところがありますね」


祭の義姉妹である源護─紫苑は、そんな感傷が入るような女ではなかったからだ。


「それでいて、母としては完璧ときておる。ほんとにやっかいな奴じゃの」


祭の誇らしさが混じる独白を聞き流しつつ、七乃はどうにか源護と一戦交えない方法を思案したが、どうにも望み薄だった。主だった後継者である真桜たちが鈴々の下につくということは、その一門が鈴々の下についたと周りには見えるだろう。それが現時点では源護の影響力の低下を意味する以上、彼女が取る手段は結局のところ一つに絞られる。


「どうにか話合いでかたをつけることは出来ませんかね?」

「無理じゃろな。虫も殺せぬような顔をして、あやつはわし以上の武闘派じゃ。一戦交えぬことには、納得しまいよ」

「その源護というのは、祭より強いかなのだ?」


何とも平然と呼びおるものじゃの。むろん、叔母と姪にあたる二人は古くから真名を許しあってはいた。だが、ついさっきまで命の取り合いをするほど対立していた相手の真名を何事もなかったかのように呼べる人間はそう多くはないのだ。


その性質が良い方に出てくれれば、わしとしても文句はないが。祭は三人組に囲まれて、質問攻めに合っている一刀の姿に視線をやると、鈴々の方を改めて見直した。


「そうじゃのう。単騎で戦えば、お主が負けることはないと思うが、戦の中でなら、鈴々でも遅れを取るかもしれんな」

「国香さん、鈴々さまを煽るのはやめて下さい。また、今回みたいに単騎で走っていったら、どうするんですか」

「祭でよいぞ。かた苦しいのは好かんからな」

「ではわたしも七乃と呼んでください。けど、いいんですか?てっきり、嫌われてると思っていたんですけど」

「それも込みで、許しただけじゃよ。で七乃、一つ質問があるんじゃが、あの本郷とかいう男は一体何ものじゃ?見るからに奇怪な服を着ておるが」

「あれは、カガクセンイという素材だそうですよ」

「カガクセンイ。何とも奇妙な響きじゃが、大陸から来た文物か何か?」

「近からず遠からずと言ったところでしょうか。実際のところ、わたしも完全に理解したとは言いがたいんですけど」

「一刀は、日本という場所から来たのだ。そこでは鉄の鳥が空を飛んで、鉄の蛇が地を這っているのだ。それに、美味しいものも沢山あるのだ」

「なんじゃ、それは?お前のところの神社の神使が高天原から降りてきたとでも言うつもりか」


祭の言葉に、七乃はポンと手と手をたたき合わせた。


「それ、いいですね。さながら天の御使いと言ったところですか。人間でないなら、鈴々さまとは別枠という扱いも可能ですし、それでいきましょうか。鈴々さまもそれで構いませんよね?」

「好きにすればいいのだ、一刀の所在は、七乃の一任しているのだ」


それは処遇ですねと鈴々の間違いを訂正している七乃の声を祭は詰問で打ち消した。


「お主ら、本気で言っておるのか?」


神を奉るのと神を騙るのでは全く意味が違う。鈴々はともかくとして七乃がその危険性を承知していないとは到底思えなかったが、それでも祭は聞き直さずにはいられなかった。


「本気も、本気です。ああ、もちろん、祭さんにはちゃんと詳しい事情を説明しますよ。というより、これから帰りの道すがら、本人と話してください。わたしももう一度説明を受けたかったところですし」

「七乃、それは鈴々もまた聞かないと駄目なのだ?」

「いえ、鈴々さまは桃香と一緒にあっちの三姉妹に大国玉のことを教えてあげてください。新参者に物の道理を教えるのも、大将の重要な役目ですからね。あとついでに、一刀さんを呼んできてもらえますか」


見るからにホッとしてむこうに走っていく鈴々の背を見ながら、祭は顔を歪めた。


「ついでに小間使いを頼まれるとは、何とも頼もしい大将殿じゃの」

「わたしが甘えてるんですよ」

「──だとしても、同じことじゃろうが」


ほんと、祭さんが味方になってくれて良かったですね。七乃はこちらに向かってくる一刀を眺めながら、広がりゆく未来を想うのだった。





そろそろ種馬らせたいのですが、次の次くらいかなーって感じ。まあ、キンクリするんですけどね。

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