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8/21

8.夏の風物詩=予想の斜め上 ~現実逃避万歳~

やっとバカ満載のお話に戻れました


みさなん、どうも。

いかがお過ごしですか。

本日はお日柄もよく、雲ひとつない吸い込まれそうな青い空が広がっております。



汗を滴らせ、みんなイキイキと動いて輝かんばかりの笑顔が実に楽しそう。

でも違うんだ、違うんだよ。

私がしたかったのはこういうことじゃないんだ……。

どこをどうして間違えた?

現実逃避へと走ってもかまわないでしょうか?(遠い目)


順を追って説明しよう。

是非とも聞いてほしい……。



***



こちらはもう夏がはじまろうという季節。

強くなってきた日差しの強さを初夏の風が爽やかに吹き込むことで薄めてくれる。

湿気が少ないのでからっとした空気は日本よりも過ごしやすい。


こちらは梅雨というものがなかった。

じめじめとカビがわきやすく、髪の毛が纏まりづらい季節がないのはいいことだ。

けど時折バケツの水を引っくり返したかのような豪雨が降るのがいただけない。

(東南アジアのスコールなんてかわいいもんさ)

どうやらこれが梅雨の代わりなのだろう。

豪雨は凶器になりうるのですよ。

1歩踏み出すなんてことはまず無理、2歩先も見ることはできない。

1滴1滴が傘を刺すかのように貫通し穴をあけ、あっと言う間に骨組みを残すのみ。

刃物で刺されるかのような鋭さに痛みで呻き、血が流れていない意湖とが不思議だった。

(ちょっと興味本位で外に出たわけですよ、別に自虐趣味はない)

地面に叩きつけられるかの如く衝撃をくらった。

これは文字通りの意味で地面に抑えつけられているような圧力を受けて立ち上がれず、蹲る。

顔面蒼白になったソウが駆け寄ってくるのがかろうじて開いた薄目の視界に入り、すぐさま抱えあげられて室内へ連れていかれた。

肌は腫れ上がり、しばらく布団から出してもらえないという情けない生活に逆戻り。

ついでに風邪もひいた。

ついでに看病の度合いは行き過ぎの域を超えていた。

“過保護計測器”なんてもんがあったならば針が振り切っていたに違いない。

思い出すのも苦痛なので割愛する。

みなさんの想像にお任せしよう。

もう口から砂糖が吐けるっつうの。

自然を舐めちゃいけないんだってのをよくよく学びましたとも。

(えぇ、えぇ、私が浅はかでした、どうもすいません)


“夏”、小学生は心踊る夏休みというものが約1ヶ月半にもわたり続く季節。

中高生は人にも寄るが部活に明け暮れ、受験生は勉強漬けとなる季節。

大学生はこれまた約2ヶ月の長期休暇でバイト漬けと自堕落な道へまっしぐら、遊びほうける季節。

学生なら勉強が仕事だろ、けっ。

(自分も通ってきた道だけどやっぱり羨ましいことこの上ないから社会人になると愚痴を溢すもんなのさ)

なんたって自分達はお盆の1週間しか休みがない。

たかが1週間、されど1週間、でも1週間、しかし1週間。

(この気持ち、学生諸君には分かるまい)

実質3日間で土日をくっつけて5日間、さらに2日間の有給休暇を取らせてもらえたら(ここ重要)9日間。そりゃぁ妬ましくもなる。

世間的に社会人の休みは被るからどこ行っても混んでいるし、旅行会社も足元をみて値段を吊り上げてくる。

(通常の1.5倍、ヘタすりゃ2倍もするなんてやってられんわっ)

実家に帰れば「いい人いないの?」が挨拶代わり。

(居心地がよろしくないのに加え、その前に“おかえり”とかないのか?と常々思う)

休暇なはずなのにどこか出鼻から疲れて始まるのが定番。


話がズレテ申し訳ない。

何が言いたいかというと

“夏”、ちょっとハメをはずして遊びたい季節到来というわけだ。

(←すでに毎日が夏休みみたいな生活である)

これは本能のままに遊ばねばなるまい。

(←寝込んでいたから鬱憤はらしたいだけ)


夏といえばカキ氷にすいか割り、バーベキューに縁日のイカ焼き、たこ焼き、串焼き……。

えっと、こほん。

食べ物もいろいろあるけど、花火に肝試しとかさ。

(←どう取り繕っても食い気は前面にでている)

肝試し……は、まあいいか。

日常的に鬼がいるのに今更お化けもあったもんじゃないな。

(←お化けの方から逃げ出しそうだ)


この世界にいると童心に返っちゃうよなあ、みんなが幼子のような扱いをしてくるから。

なんかもう最近はいろいろ気にしないようにした。

年齢に見合った行動の指摘をしてくる者は誰もいないし、もうやりたいようにやってやる。

(←すでにけっこう好き勝手にやっているのに自覚はないのだろうか)

重要なのは自己主張。

自己主張しないとどこまでも流されてはたまたとんでもない結果を呼び起こすことになってしまう、ここ大事。

この短期間にいろいろ学んださ。


そんなわけでソウにお願いし、燕浪さんに発案し、実現可能なことだけを行うことになった。

当日は屋敷中の人と一緒に楽しむという一種の大スペクタクルイベントと相成った。



「今日の内容は全てミーシャの故郷ものなのでしょう?」

「そうそう。といってもたいてい子どもの頃にやったものだから記憶も曖昧でね。でも懐かしいし、ふとやりたくなっちゃってさ。故郷ではやる場所とかもなくて難しかったりするんだけど、ここだとそういうことは気にしなくていいし。」

「今日は天気もいいし、楽しみだわ。」

「みんなも楽しんでくれるといいけど。昨日から楽しみだって声を掛けてくれる人がホント多いんだけど期待しすぎて拍子抜けされるとどうしようとか思っちゃうんだけどね。」

「心配いりませんよ。ミーシャと過ごせるというだけで皆楽しみなんですから。」

「内容を楽しんでもらいたい身としては……、う~ん……。」


香麗さんと話しながら目的地である中庭へ辿り着くと待っていた燕浪さんが太鼓判を押してくれた。


「いつでも始められますよ。」

「ありがとう。結局ほとんど任せちゃってごめんなさい。なんか厄介ごとだけ持ち込んじゃった。」

「そんなことないですよ。私とて今日という日が待ち遠しかった一人ですから。」

「こんなに大々的にする必要はなかったんじゃ……?」

「屋敷にいてもミーシャと顔を合わすことが難しい者も大勢いますから彼らを喜ばすと思って付き合ってくれませんか。楽しいことは皆でやった方が盛り上がるでしょう?」

「大勢でやった方が楽しいしいことは確かだもんね。」

「王も今日はミーシャにいいところを見せるんだと言って、朝から張り切って準備していましたよ。政務もそれくらい精力的に取り組んでもらえるといいんですけどね。」

「ああ、それで今日は珍しく朝ごはんの後そそくさと……。」


いつもなら何だかんだと粘って離れようとしない、その時間およそ約20分。

(←マジでウザイというのはその場にいる全員の意見)

珍しいどころか初めてのことで今日は槍でも降るのかと真剣に思った。


しかしなにか準備するものなどあったろうか?

スイカ割りなんてメインのスイカと棒、目隠しの布さえあればいいと思うんだけど。

嫌な予感がしてたまらない。

こういう感というものは遠からず当たるものだ。

(当たって欲しくないものに限って当たるのだから神様って意地悪)


するとソウがやってきた。

私の背丈ほどもあろうかという巨大な剣を担いでいる。

どこのRPGの主人公だよ。

それ片手で振りませるとか言うんじゃないだろうな。

まさかそれでスイカを割るといか言うんじゃないだろうな。

(←“割る”というよりも“砕く”つもりか?)


「ミーシャ、今日はがんばるから!ちゃんと見ててね?」


ソウは飼い主を見つけた犬のように一目散に(土煙を上げて)こちらに走り寄り、言うだけ言って去って行った。


がんばる?なにを?

すいか割りってそんなに気合いるものだっけ?

今日の内容は夏の熱気をはらう為にカキ氷を食べながらすいか割りを楽しみ、スイカを食べつつバーベキューで宴会を繰り広げ、夜に花火を楽しむというほのぼの計画だ。

(うまくいけばお酒もこっそり飲んでみたい、なんて願望もあったり、なかったり……)

ふと周りを見回すと不思議なことにみんな獲物(剣やら槍やら武器)を手にしている。

胸当てなどの防具をつけている人もいたりいなかったり。

あれ???

どこにそんな勇ましくスイカ割りに望む必要が?

これからどっかのダンジョンを踏破しにでも行くつもりなのか?

(←そんなわけあるかっ)

あんまり大勢でダンジョンに潜り込むのは危険だと思うけど、教えてあげた方がいいのかな?

(←いい加減、脳内妄想RPGから還ってこい)


ここで思い至ればよかった。

何かが私の予想と異なっていることに。

しかしまだ日本と鬼ノ国の様々な違いを把握しきれていなかった私は気付けなかった。

認識が甘かった。

そりゃそうだ。



どこの誰が“スイカ”が超巨大食虫植物だって思うよっ!!!

異世界恐るべしっ。



カキ氷を香麗さんに渡される。

ちなみにカキ氷の機械なんてあるわけもなく、苦もなく力尽くで氷を削ってくれた。

(たくましい)

腕に盛り上がる筋肉美にほれぼれいたしました。

久しぶりの舌に感じる食感と頭に響くキーンとした頭痛に満足している最中、“それ”は登場した。



この世界での“スイカ”は超危険極まりない生物だった。

見た目はボールのように丸々とした緑色の球体に黒の縦縞が入っている、すなわちスイカ。

問題は大きさ、建物3階分はあるだろうか。

体の底には根っ子のように(タコの足のように)蔦がうねうねと伸縮自在に伸び上がる。

食虫植物だから口があるのだろう。

どこだ?と思っているとパッカリと巨大な口を見せてきた。

真っ直ぐ体を縦に裂くかのような大きい口からはギザギザの鋭い牙。

無数の蔦の先それぞれに目があるらしく死角はないようだ。

てっぺんにまるで髪の毛のようについているふさふさの赤い毛が唯一の愛嬌と言えなくもない……かもしれない。



どこまでも私の予想の斜め上。

何故あぁも会う人、会う人が武装していたのかがこれでよくわかった。

これは物騒極まりない。

こんなはずじゃなかったんだが。

今となっては後の祭り。

もう“スイカ割り”ならぬ“スイカ狩り”だ。


すでに戦いのゴングは鳴り響き、数十人体制で敵に挑んでいる。

5つほどのグループに分かれているようだ。

律儀に目隠しをしている意味がわからない。

そこだけ忠実にルールを守ってくれる必要はない。

鬼は元来好戦的な一族らしいし、多勢に無勢といった感じだからあまり心配はしていないが、どうあっても私の望んだモノとは似ても似つかぬ結果となるに違いない。

(←この時点ですでに理想は遠く宇宙の果てまで吹っ飛ばされている)

戦闘一族がこれほどの態勢を敷くっていうのは生物として危険ランク高いんじゃぁ……。

というよりこんな生物出てくるなら私の暇潰しと興味本位としょうもない発想から生まれたイベントの許可をだしてくれなくていい。

(むしろ出さないでほしい、切実に)

もうちょっと燕浪さんにいろいろと確認しておけばよかった。

『任せてください』、という笑顔を信頼していたが、こうなるとは。

その燕浪さんは少し離れたところで攻撃の指示を出している。

まるで軍師のようだ。


「ミーシャの故郷っていうのは小柄な体格なのでしょう?なのに肝が据わっているのね。私たちも敢えて『わざわざ“アレ”を怒らせて叩き割り、勝利に酔いしれて食す』なんて祭り、思い付きもしなかったわ。」

「いや、香麗さんちょっとこれは違うというかなんというか……。」


勝利に酔いしれて食すってなんだ?

そんな戦国武将の戦勝宴じゃないんだから。


「自分たちよりはるか大きな敵にも怯まずに戦いを挑む、素晴らしいわ。私たちも見習うべきね。」

「あの、もしもし……?」

「体格差はどうしようもないにしても武器が優れているのかしら?」

「聞いてくださいます?私のはなし……」


香麗さんの武器談義は熱を上げたが、残念ながら期待に応えられることは終ぞなかった。

ごめんよ、香麗さん。


「こ、香麗さん。そもそも“アレ”っていったいなに?!。こんな大事になるんだったらやりたいなんて言わなかったのに。というより、あんなに怒らせなければすんなり食べれたってことでしょ。ならなんでわざわざこんなこと……。」

「えっ?!だってミーシャの故郷ではこうすんでしょう?折角だからミーシャに楽しんでもらおうって燕浪様が。」


燕浪さん、あなたですか?

寝てる子を起こすなんてことしなけりゃおいしくいただけるならそっちがいいに決まってんだろうがっ。

でも怒りをぶつける相手は嬉々として戦陣を敷くべく指令を飛ばしている。


「ところで今更だけど、“アレ”って本当に“スイカ”って言うの……?」

「ええ、そうよ。ここで“スイカ”と名のつく物は目の前のアレだけよ。」


カルチャーショック?!

何故こうなるってことに考えが行き着かなかった。

ああもう、自分が情けない。

というか今までこいつどこにいた?!

こんな生物存在していいのか?

誰がこいつの存在を許した!!


映画のアクションシーンを見て、かっこいいな、とか迫力がすごい、など誰しも抱く感想だろう。

でもそれを実際目の前で見せ付けられると怖いし、やめて欲しいとか、見てこちらがハラハラするとか、攻撃が決まったら関係ないのに自分が痛い表情してしまったりとかするだろう。

私の場合はアクション映画はあまり好きではない。

戦争映画も得意とはいえなくて大ヒットと言われていても決して観に行かなかったし、TVで放映されても同様だった。

殴ったり、蹴ったりというシーンは見てられなくて手の隙間からこわごわと覗く始末。

人が銃で撃たれたり、砲弾が当たり吹き飛ばされる場面なんてもう端からダメ。

だからこの状況も同様で……。

あっ、もう見てらんない。

気持ち悪くなってきた。


「アレを食べるときはどうやってるの?いつも戦うの?」

「目覚めさせなければ簡単に捌くことができるのよ。けれど一度目覚めると手が付けられないくらい暴れるから栽培はされないのよ。森とかに野生で生きているくらいかしら。だから発見して市場で売るとすごい高値で取引されるのよ。わざわざアレを探して捕まえることで生計を立てている“ハンター”ってのもいるくらいだし。まあハンターが狙うのはアレだけではないけどね。けれどミーシャの故郷では夏は食卓に定番に並ぶって言っていたでしょう。なら王が懐かしい味だろうから食べようって。あんな風に楽しそうな遊びも兼ねて行うらしいじゃない?是非それも再現しようっておっしゃられたのよ。今日も一番気合入っているし。」


いいところを見せようと必死なのね、なんてそんな微笑ましいってなニュアンスですむことではないと思う。

もう繰り広げられているのはどこぞのRPGのようなサバイバル合戦の様を呈している。

それに懇切丁寧に説明してもらえたのは有りがたい、本当に有難いんだよ。

けど知りたくなかったような、知れてよかったような……。

ならこっちも懇切丁寧に1個ずつツッコミ入れていくべきですかね……?

ハンターってなに?とか、高値なんだ……とか、ハンターが狙う他のものって何だ?とか……。

うん、止めとこう。

(←それ以前に目の前のアクションシーンが“楽しそうな遊び”呼ばわりされていることに疑問を感じるべき)


そんな中、剣やら槍やら鉈を使って蔦と戦い激戦に、少し顔を横にずらせば拳を使って本体を裂こうとした肉弾戦。

屋敷の庭園にカオスな展開が広がっている。

どうしてこうなった……?


ふっと、視線が遠くなる。

ちょっと意識が飛んだその瞬間“スイカ”モドキは蔦を一気に私の処にまで伸ばしてきたようだ。

その蔦を相手にしていた鬼が後ろに吹っ飛ばされた僅かのスキを突いてきたようで、どうやら一番弱いヤツ(=私)から倒そうとしたようだ。

戦略としては悪くないのだろうが、如何せん対峙している相手が悪かった。


私へ攻撃を仕掛けたということで鬼たちのボルテージが一気に膨れ上がり、それはそれは濃厚な殺気が周囲を支配した。

(あ、こいつ粉砕される……)

(食べられるようにある程度の形は残すっていう理性が皆の中に残ってますように、ここまできて食べられないとかマジないから!)

スイカ”モドキもさすがに怯んだようで一瞬で片が付いてしまった。

(←倒そうと思えば早く倒せたにも関わらず、少しでもかっこいいところを見せようと見せ場作りに励んでいたようだ、本人にはまったく通じていないが)

さらに耳を塞ぎたくなるような絶叫が目の前の“ソレ”の口から迸った。

当の私はというと“私って愛されてるなあ”、なんて守ってくれた香麗さんの胸の中で暢気に考えていた。

香麗さんの右手に握られているクナイ(どこから出したか不明)の切れ味は相当いいようです。

やっぱり香麗さんの胸に柔らかさはなく、硬かった。(泣)

巨乳に顔を埋めるという密やかな野望はこの世界では達成できることは永遠になさそうである。


「ミーシャ、大丈夫?ケガは?」

「香麗さんのおかげでかすり傷ひとつない。そんな心配しないで。みんなが守ってくれたから平気だったんだよ。」


ソウが一目散に駆けつけてきてあたふたと私の周りをぐるぐる回って確認する。

襲われた私よりも顔色を変えて心配してくれているがいつものことなので特になにも感じない。

私の無事を確認してみんながほっと息をついた。

しかしまだどこかピリピリした空気を孕んでいるような気がする。

せっかくこうして屋敷の大勢の人が集まった会なのだ。

(予想していたものとは大いに異なっていたことは別として)

もっと和やかな雰囲気でいたい。


「みんなかっこ良かったよ。感心しちゃった。お疲れ様。今日は私の我侭を聞いてくれてありがとう。おなかすいちゃったな。アレを食べてみたいな。」

「すぐに用意しましょう。さあこっちに座って。日差しがだんだん強くなってきたから傘の中に入らないと。」


燕浪さんに促されて用意されてた数人は入れるだろう大きな紅い傘の中に入った。

「ミーシャ、どうだった?トドメをさしたのは俺だよ。がんばったでしょう?」


褒めてと笑顔で擦り寄ってくる。

いつもなら適当に無視するものの今日は自分の発言が招いたこともありいい子、いい子と頭を撫でてあげた。


例えその頭部に緑色の蔦の欠片がくっついていようとも、

例えその頭部に緑色のベタベタな液体がくっついていようとも、

例えその頭部に赤色の髪の毛みたいなふわ毛がくっついていようとも、

言いたい言葉を全部飲み込んで我慢した。


輝かんばかりの笑顔が返ってくる。

“喜んでる”表情に見えるだろうが実際は“悦んでる”だ。

(ここ重要なんでお間違いなく!)

私にだけ見せてくるこの変態気質はもうしょうがないものと諦めている。

(じゃなきゃ、日常をおくれない)


ごつい男がやると気持悪いことというのは多々ある。

例えば目の前で私に褒められ、嬉しそうに頬を染める様はさながら恋する乙女。

女の子がやってこそ威力が発揮される仕草である。

(ちなみに上目遣いとかなら尚良し、まさに胸キュン)

しかしその様を目の前で繰り広げていやがるのは残念ながら図体のでかい男。

もう一度言おう、気持ち悪い。

(許しがたいことなので二度言っておく)


ソウに香麗さんが持ってきてくれた手拭で手を拭われ、甲斐甲斐しく世話を受けた。

慣れたこととはいえ、今回の過保護はもうしょうがない。

いくらその様が食虫植物の千切れた物体と粘液でベトベトで、汗臭くて、服が汚れていようとも。

(世話を焼く本人がまず身綺麗にしてほしいと思う私に罪はない)

しかしすぐさま燕浪さんに引き剥がされた。

「そんな埃と泥まみれの姿で近づくんじゃありません」だとさ。

(そりゃそうだ、拭いてくれるのは構わないけど手拭いの汚れのほとんどがソウのものである)

燕浪さんの言葉に異論はないので結局のところこちらに向けてくる絶望的な視線をほっておいた。



その後は“スイカ”モドキをおいしく食べた。

グロテスクな外見とは裏腹においしかった、不思議なことに。

いやぁ、見た目と中身は一致しないのか。

甘さといい、食感といい、熟れている赤味といい、瑞々しくて日本でのスイカとよく似ていた。


その懐かしさに一瞬、泣き出しそうになる。

幼い頃の夏休み、祖父母の庭での光景と暖かさが頭に過ぎって胸が軋んだ。

必死でこらえた。

この楽しくて明るい、朗らかな空気を壊したくなかった。



悟られないように咳払いで誤魔化し、顔をくしゃくしゃにして終始笑い続けた。





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