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7.幸福×歓喜=彼女 ~掴んだ泡沫の如き願い~ (Side蒼志)


Side 蒼志(王)


世界は美しく、これほどまでに眩しく輝いていただろうか。

太陽はこんなにも柔らかく照らしてくれていただろうか。

風はあんなにも爽やかに頬を撫でてくれていただろうか。


新しい発見の毎日。

ミーシャが現れてくれたあの時から多く変化が起こった。

ミーシャを通して見る世界はこれまでとまったく違った色彩。

彼女は私たちの太陽、いつだってあったかく照らしてくれる。



今日は生きてきた中で忘れられない1日となった。


目の前のお菓子から目が離せない。

固定されたかのように視線をはずすことができない。

初めての贈り物、手作り。

こんな日が来ようとは。

(来ようとは、来ようとは、来ようとは、来ようとは、……………………)

(←注意;脳内リフレイン中の為、少々お待ちください)


どうしよう、この幸せが実は夢だった、なんてオチはないだろうな。

(←現実世界に復活できたらしい)

消えてしまうことがないかじっと見つめる。

夢じゃないとようやく確信を持てると今度は潰してしまわないようにそっと両手で包み込む。

嬉しすぎてみっともないほどにだらしなく顔が緩む。

(←いつものこと)


「もったいなくて食べれないよ。一生大事に取っておこう。」


“ああ、我が生に悔いなし”

何故かミーシャに鼻白んだ顔を向けられ、ちょっとだけ落ち込んだ。

何であんな顔をされたんだろう……?


大事に残しておきたかったけれど約束を破るわけにはいかない。

でもそれにも勝るいいものを体験できた。

“ちゃんと全部食べてね”というおねだり、あれはいい。

(←ここで本人は力拳を握り締め、大いに力説しているのだが直にお見せできないのが実に残念)

本当によかった。

とにかくよかった。

ものすごくよかった。

(←何回言ったら気がすむのか)

またやってくれないだろうか。

愛らしすぎて意識が彼方の先まで吹っ飛んだ。

鼻血が吹き出たかと思った。

慌てて鼻の下を確認したぐらいだ。

(←鼻の下から紅い液体は出ていなかったが伸びてはいた)


目尻に涙をためて上目遣い、ぎゅっと張り付いてきてくれた状態でこてんと首を傾げてのお願い。

さいこうだっ。

最後にすりすりと抱きついてきてくれて、“ああ、我が生に悔いなし”。

(←本日2回目)

あまりに甘美で壮絶に気持ちが良かった。

天にも昇れる気持ち、とはああいうことをいうのだろうな。



***



あの子のかわいらしさといったら。

1日中と言わず、永遠に語れるがあまり吹聴してミーシャに近付いてくる有象無象を増やさない為にもここは黙っておこう。

(←つまり自分がかまってもらえる時間が減るのを恐れている)

ああ、まさか自分にこんな日がこようとは。


ミーシャのやること、なすことに一喜一憂する。

常に側にいて欲しい、置いておきたい、かまっていたい、かまってほしい。

(←うざい)

年がら年中、膝の上にいてくれたら幸福で死ねそうだ。

(死ぬなら一人で死んでくれ、巻き込むな ; byこの国唯一の人間25歳♀)

そんな願望が駄々漏れだったのか、思わず呟いていたのか、ミーシャには引かれた。

かわいそうな者を見るような目、あの表情は残念な者に向ける類のだった気がするんだ?。

(←当然だ、どこに疑問を感じる箇所が?)

そんなにおかしいことを言っただろうか、至極真面目に考えていることなのだけれど。

(←根っからの変態気質らしい、諦めるしかなさそうだ)

疑問を抱きつつ、胡乱気な眼差しに心がちょっと……いやだいぶ傷ついたが、本音なのでどうしようもない。

冷たい視線だった、あれはかなり悲しかった。

(←ひたすら打たれ強いというわけではないらしい、ここが攻略のポイント)


どうしたらあんなにふかふかで柔らかい、小さな体で生きていけるんだろう。

(おい、それ厭味か、このやろう ; by地球人25歳♀)

何をするにも誰かの手助けがなければ生活が難しい。

その事にしょんぼりと項垂れる姿もまた可愛いい。

(←老人介護を受ける気分を健康な身体のこの歳で体感する自分に落ち込んだ本人の気持ちなど分かるまい)

もっと頼ってほしい、何でもやってあげたい。

でもミーシャは必要以上にモノを頼むことを良しとしていないみたいだ、もっと甘えてくれていのに。

そうしてほしいのに、胸が少しせつない。

せつない、なんて感情を知ったのはミーシャに対してだけなんだ。

きっと最初で最後なんだと思う。


抱きしめたらすっぽりと腕の中に納まるから、そのまま寝るのが習慣になった。

抱きしめてないと落ち着かなくて、寝るのももったいない。

しばらく寝顔を堪能して眠りにつき、毎朝起きるのが楽しみになった。

事務的に食べていた食事が至福の一時に。

口いっぱいに頬張る姿に心が和み、うっとりと見つめる。

食べている途中、思わず頬をつついてみたら腕をつねられた。

じゃれられていると思い、そのかわいらしい動作ににやけたらなぜか落ち込まれた。

(←ささやかな仕返しに対して蕩ける様な眼差しの反撃にあい、自分にはない色気に打ち負けた)


休憩と称して日中姿を探して側へ寄ると最初はうんざりした表情をするが最後は相手をしてくれる。

ただ、5回に1回は丸々無視されるけど……、ぐすん。

顔を歪めて苦笑しながら諦めてくれる。

なんだかんだと言いながらミーシャは優しい。

冷たくされると泣きたくなる。

そういう時“加害者が被害者面すんな”と言われるのだが、どういう意味だろう?

他の者と一緒の時はまったく相手にされないのですごすごと引き下がるしかない。

前に無理矢理間に押し入って膝に抱きあげたら2日間相手にしてもらえなかった。

あれは堪えた。

あんなに悲しいことが待っているならもう二度としないように気を付けようと思う。

(←気を付けるだけでやらないとは言ってない)

ミーシャが言うには、“他の者と先に時間を取って過ごしていても王たる私に割り込まれたら譲るしかないだろう”、とのことだ。

“先約を大事にするのは当たり前で順番を抜かしてはいけない、横は入りもダメだ”と怒られた。

燕もそれに賛同し(そういう時たいていはあいつが一緒にいる)、助け舟はどこからもなかった。

それ以来休憩に一緒に過ごそうと思っても他の者がすでにミーシャといれば邪魔できなくなった。

物陰からじっと覗くしかない。

(←これを一般的にストーカーと呼ぶ)

(←ちなみに覗いてることは当の被害者にばれている)


お風呂だって一緒に入るのを拒まれた。

“食事を金輪際一緒に食べない”と宣言されては折れるしかなかった。

こうと決めたらてこでも動かない。

泣こうが、縋ろうが、宥めすかそうが、何をしても意志を曲げないのはすでに経験済。

(←経験しちゃってるんだ、と冷めた目で見てもらってかまわない)

仕事の間はどうあっても離されるので一緒にいられないのに食事すら別になるなど耐えられるはずもない。

もしそんなことになったらミーシャに飢えて死んでしまう。

(←そんな簡単に死ぬような図体ではない)

(←風呂を諦めた理由をよく考えて欲しい、風呂は1日1回で食事は1日3回なのでどちらに利があるのは明らかだろう)



***



目下最重要事項はこのミーシャお手製のこのお菓子について。

食べないわけにはいかない、何しろ感想を言う約束をしたのだ。

あんな筆舌しがたい仕草で言われたら頷かないなんてできようか、いやできまい。

食べたくないわけじゃないんだ。

むしろ喜んで食べたいんだが、もったいなくて中々最初の一口に踏み出せない。

なんて難しく、困難な試練だろう。

(さっさと食っちまえ ; by日本人25歳♀)

食べたいが、食べてしまってはなくなってしまう。

(←当たり前)

いくらまた作ってくれることを(無理やり)約束してもらったとはいえ、次に食べるものは今回のものとはまったく異なる。

特にこれは“初めての”が付く貴重なもの。

約束を違えてしまえば嫌われかねない。

そうなると次がもらえなくなる、という可能性がある。

それは何が何でも回避しなければならない。

もし、燕がもらえて私がもらえない、なんてことになったら……。

あいつのことだ、これ見よがしに自慢してくるに違いない。

それはもう得意気に。


燕には腹に据えかねることが多々ある。

(←本人以上に相手の方が腹に溜め込んでいるものは多いだろう)

この前だって私の目を盗んでミーシャと縁側でお菓子を食べていたと言うし。

しかも!私だってまだしてもらったことのない(どんなにせがんでもやってくれない)『あ~ん』をして食べさせてもらったなんて羨まし過ぎることこの上ないことまでっ。

暗部からの報告書(『御子様追跡守衛報告書』作成・編集;暗部)を見た時、目が焼ききれるかと思ったほどに嫉妬の炎が燃え上がった。

(←たいそう立派な名称がついているが単にストーカー男の観察日記)


あの報告書を読むのだけで毎日仕事で疲れた一日の疲れが帳消しになる。

(←ならばもっと仕事をしてはいかがか?)

中には階段でこけたとかいう心配になってしまう記述もあるがおおむね微笑ましい内容ばかりだ。

読書中うたた寝をしていて机に顔面から突っ伏したことで額を赤らめたとか。

(←こうして日々恥じの上塗りをしていることに被害者は気付いていない)

(←そうして変態・ストーカーという二つ名を轟かせていることに加害者は自覚がない)

あの手、この手を使っても叶うことのない究極の夢に私が挫折を味わってきたというのに。

(←どうやらまだ『あ~ん』の話題は続いていたらしい、もう少々お付き合い願いたい)

あいつは……あろうことか、いとも容易く、私の努力を横目に嘲笑い眺めながら横を通りすげて行ったんだ。

なんでなんだ、なんであいつなんだ。

私のほうがミーシャといる時間が長いのに。

私のほうがミーシャのことを想っているのに。

私のほうがミーシャのことをより深く知っているのに。

(←この時点で切羽詰っている、というより鬼気迫るというか、獣の目という状態になっている)

私とあいつの間にあるこの差はなんだっていうんだ。

(←人徳の差というものに気付いていないのは幸せなのか、不幸なのか……)


はぁ…… 、羨ましい…… 。

(←詰まる所これが本音だ)



***



空虚な毎日が今は幸せにかわった。

知らなかった時を今まではどう過ごして来ていたのか、思い出せないほどに現在は喜びみ満ち溢れている。

この喜びを言葉としてどう表現していいのか未だにわからない。

溢れるような幸福の光と渦、目も眩むようなぬくもりとやわらかさを表せる言葉なんてきっとこの先も見つけられないだろう。

ミーシャの紡ぎだす音は、優しい、ささめきのように聞こえる。

こんなにも毎日が輝かしい。


太古から憧れ、望み、待ち続けて幾年月経っただろう。

待ちくたびれ、ついには諦めた。

よそには与えられ、なぜ自分の下にはないのか、自分の何が問題なのか。

すべてがいつ訪れてもいいように準備を整えた。

二番煎じに甘んじるのは腹立たしく技術をかき集めて一番の先進国となる。

作物の安定した収穫、食への追及。

四季折々の花々を植えて世話をし、寝物語の童話を作らせ、街を整え、道を整備した。

他所が羨ましくもあったがわざわざ奪いにいくことなんて考えもしなかった。

あれは自分に与えられたものではない。

自分の元へ、自分の為だけに来て欲しかった。

待って、待って、そうしていつしか夢物語のように意識の外へ追いやった。

期待し続けることに疲れてしまっていた。


考えるのも止めてしまってしばらく経った頃だった。

突然胸にほんのりとした体温と感触。

目を開けると眼前にはやわらかく暖かでなもの。

まだ寝ているのか、寝ぼけているのかもしれない。

触れたら霞となって消えてしまうのでは、と触るのを戸惑った。


でも触れてもなくならなくて、いつまでも胸の中にいて、ようやくこれは現実だと認識できた時、戸惑いは歓喜に変わった。

この喜びを、咆哮を上げて表現してしまいそうになり、慌てて抑えた。

こんなにか細いのだ、怯えさせてしまってはいけない。

だから当の本人が茫然自失状態であることにも気付いてやれなかった。

それくらい浮かれていて、そのまま彼女を連れ、軽やかな足取りで屋敷へと戻った。


連れ帰ってようやく彼女の状態がどういうものかに考えが行き着いた時、本当に焦った。

どんなに言葉を尽くして話をしようとも彼女は上の空。

そして、それは唐突だった。


泣き声が上がった。

泣き声というより、悲鳴だった。


「ここ、どこよ。何でこんなことになってんの?」


思わず耳をふさぎたくなるほどの、悲痛な声。


「ここは我ら鬼が住まう世界、鬼ノ国。あなたがいた故郷とは別の場所。」


彼女はここでようやくその黒い目に映し入れてくれた。

しばらく頭を整理するように黙っていた。

整理するにつれて顔から血の気が失せていき、蒼白になった。

ようやく口を開いた時には、倒れてしまわないのが不思議なほどの顔色の悪さ。

後退りながら、呻いた。


「戻れる?戻して。帰らなきゃ。帰して、今すぐ帰してよ。」


それでも少女の声からは力が失せていなかった。

切望するような光がその目に浮かんでいる。

祈りが混じった、強い懇願に似たもの。

でも自分が彼女に返せる言葉はその期待を打ち砕くもの。

血を吐くように叫んだのに、彼女は涙が一滴も出ていなかった。


「すまない。」


それから彼女を彩ったのは胸の痛み。

むきだしで無防備で、純粋で悲しい想い。


「すまない。これは我々にもどうしようもないことなんだ。でも決して不幸にはさせない。なんの心配もいらない、この国の鬼全員であなたを守ると誓う。どうかこの国に、側に、いてほしい。」


少しでも言葉が届くように真摯に言ったつもりだ。

彼女は腹も立てているのか、そんなことはどうでも良いようだった。


「お願い、帰して。」


ひどく切実な声音。

方法など分からないから正直に首を横に振って答えると、強張った顔で唇を噛む。

怒りを通り越して何だか泣きたくなっている、そんな表情をしていた。

それでもその頬に涙は流れてはいなかった。

けれど、嗚咽ひとつもらさずに呟くかすれた声が何よりも心情を表していた。

場違いな話だが人間とはこうも感情が豊かでころころと表情が変わるものなんだな、と感心していた。


“ひどい。あんまりだ”

消え入りそうな声をかろうじて聞きとった。

顔を上げないのではなく、上げられないのだとわかった。

はたはたと雫が畳に落ちる音に、胸が痛んだ。


その場は鎮静剤を与え、布団に寝かせた。

寝ているはずなのにその顔にはとても安らかとは言い難い、苦悶の表情が浮かぶ。

苦渋に満ちてこめかみに皺を寄せ、唇を真一紋に結んでいた。

血の気が失せた冷えた手。

夢の中でさえ安らげないほど追い詰めてしまった罪悪感と引き返すことなどできない、手放せないという思いがせめぎ合う。

しかしどちらにせよ、元の場所への還し方などわからない。

例え方法があったとしても自分がそれを叶えてやろうという気持ちもわかない。

ずっと待ち焦がれ、ようやく叶った願い。

そうやすやすと手放せはしない。


そのまましばらく彼女は人形のように、ただぼんやりと座ったまま日々が過ぎた。

表情を変えず、何も話さず、時折思い出したかのように涙がぽたぽたと地面に落ちた。

彼女の心中を思えば仕方のないこと。

でも立ち直ってほしかった。

まだ名前さえ聞いていない。

その名を呼びたかった、自分を呼んでほしかった。

呼びかけに応えてほしかった。

彼女は頑なに何も食べようとせず、これ以上長引けば衰弱して死ぬかも知れなかった。

食べないので急速に痩せていった。

思いは募るばかりで焦りとなり始めたころ、突如ミーシャは正気に戻った。


1週間ほど経っていただろうか。

彼女の中でどういう決着をつけたのかは分からない。

彼女は少しずつ食事を取るようになり、ひとまず安堵した。

痛々しいほど痩せてしまった。

食事には滋養のつくものを、身体を壊さぬように暖かくし、とにかく世話に明け暮れた。

この世界に落ちてきてから数日のことは記憶が曖昧らしい。

胸に迫るように泣いた記憶も、胸が掻き毟られるような悲鳴も覚えていなかった。

ならば笑顔を曇らせてしまうような余分な過去なんて無理に思い出させる必要などない。

笑顔でいてくれることが一番なのだから。



***



初めて名前を呼んでもらった時の感動。

名前にこんなにも意味があるとは思わなかった。

他人と区別を付ける為の単なる記号としか認識していなかったが、ミーシャに呼ばれるだけでこの名がとてつもなく大切なものに感じる。


なぜここまで求めるのか、求めてしまうのか自分でもわからない。

きっと誰にもわからないし、永遠に謎のままだろう。

本能のようなものなのかもしれない。

親子の愛情が希薄というかほぼない我々は、子供ですら親を求めるということは生まれたての1年のみ。

ミーシャへの想いはもっと質の悪いものだ。

ミーシャなしでは生きられない。

ミーシャから離れるなんて考えられないし、できない。

自分の前から旅立っていかれでもしたら、目の前が真っ暗になるほどの絶望が襲う。

生きていく上で食物が必要なように我々には人間が、ミーシャが必要なのだ。


ミーシャは私たちの“唯一”。

他に代わりなどない、たった一つの宝。

衝動にまかせるままに血濡れた大地を量産していた頃が嘘のような穏やかな日々。

あのままでいたら、近いうちにすべてが壊れていただろう。

鬼も、大地も、世界さえも。

こんな幸せを知ってしまった今ではとてもあのころに戻りたいなどとは思わない。


当初は何だか世界の全てに戸惑っているような雰囲気だった。

それでも最近はそういったこともないように思う。

この国にだいぶ慣れてきてくれたのだろうか。

そうだと嬉しい。


部屋から外を眺めると、街の火が輝かしく揺れる。

私はこの景色が好きだ。

かつてはなかった光景。

この時の為に長年かけて築き上げてきた。

祖国を失ったミーシャにとって、これからはこの国こそが彼女の国だ。

そう思ってもらいたい、そう思ってほしい。


浅くせわしない呼吸を繰り返していたミーシャの姿が蘇る。

朦朧としながらもすがるように重なった力ない手。

泣いているのに、全身を震わせながら声を上げないように堪えるさまは痛々しかった。

あまりにも儚げで。

これから先、何があろうと絶対に傷つけはしない。


その為だったらなんだってできる。

なんだってしよう。

この手をかつてのように血に濡らそうとも。

汚泥に塗れることになろうとも。



言葉にならない誓いは静かに胸に降り積もった。





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