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6.歴史+真実=人間=宝 ~揺るがぬ決意~ (Side燕狼)

今回と次回はシリアスが入ります。




Side 燕狼(執務補佐)


「おいしいねぇ。」と縁側に腰掛けてほっこりとお茶をすすっている姿。

熱いお茶にふぅふぅと息を吹きかけている姿。

見ているだけで和む。

ミーシャ全ての動作が愛らしく、不快な感情など抱くわけがないんですけどね。

日向ぼっこをしていたであろう姿に出くわすことができたのはつい先程。

傍らに絵本も置いてあるので字の勉強もしていたようですね。

最近では簡単な単語の判別はつくようになってきたようです。

ミーシャはがんばり屋ですね。

どっかの腑抜けな主にも見習ってもらいたいもんです。

ご褒美を上げる、という名目で明日もゆっくりお茶をしましょう。

今日はちょうど他国の珍しい菓子が手に入り、探していたら一人でいるところを発見できました。

香麗も側に控えていましたが、折角邪魔者=王がいない絶好のこの機会を二人で楽しむ為に席を外させる。

ちょっと目を離すといつも誰かしらに捕まっているので本当に運が良かった。

日頃の行いのおかげでしょうかねぇ。


「やっぱ緑茶だよねえ。この渋味がたまらない。」

「このお菓子もおいしいですよ。はい、口を開けて。」


見た目にも美しい花の形をした菓子を食べやすいように切り分けて口元へ差し出す。

我々とは異なり口のサイズも小さい分、細かく切り分けなくては口で咀嚼するのも難しい。

扱いは慎重にしすぎても足りないくらい。


あ~ん、と小さな舌を除かせて口を広げてくる。

目線は菓子一直線に向けられ、今か今かと期待に満ちている。

あぁ、かわいらしい。

口に含むと途端に相好を崩す。

普段は(幼い時ですら)可愛げのかけらもない王のお守りばかりで癒しとはほど遠い生活なだけにミーシャは存在全てが甘美で癒される。

もう王のいる執務室へは戻りたくありませんね。

戻ったら人を射殺せそうな目で睨み付けられるだけでしょうし。

痛くもなんともありませんけど。

内心は“ずるい”、と感じているだけという子供の癇癪ですしね。


さらにミーシャは私が目の前に差し出した団子を、条件反射でぱくり。

「うま・・・。」という呟きと同時に幸せそうなため息が聞こえてくる。

声をかけるのも躊躇われるような味わいぶり。

ああ、いくらでも食べさせてあげたい。


「気に入りましたか?ここのは街でも評判のものでしてね、予約でいっぱいらしいですよ。」

「すっごくおいしい。このタレの甘辛さが絶妙。」

「そんなに良かったならまた用意しますね。」

「でも予約いっぱいなんでしょう?」

「そんなこと何とでもなりますよ。ミーシャは気にしなくてもいいんです。」


評判の菓子の入手方法など、ちょっと裏から手を回せばなんとでも。

ふふふ、そんなこと言おうものならミーシャは恐縮して食べれなくなってしまうでしょうからね。

こっそりと、ね。


「はい、私ばっかり食べてる気がするから。」


笑顔で私の口元に差し出された団子。

かわいらしいことに私にも食べさせてくれるらしい。

やわらかくて、程よい甘みのみたらし団子とミーシャの動作に、刺々しかった気分も穏やかになる。

あまり甘いものは得意ではない私だが、これはなんて美味いのか。

こんな食事ならいくらでもいける。

きっとこんなことをしてくれるのは私だけでしょうね。

どんなに王が強張ったところで無視されるのが落ちでしょうし。

毎回食事のたびに惨敗しているようなので優越感も増すというもの。

皆に自慢して回りたいところですが、これは私だけの特権としておきたいので黙っておきましょう。


「とってもおいしですね。ミーシャに食べさせてもらった分さらに倍増です。ありがとう。」


お礼を言うと照れたようでふわりと頬を染めた。

異常にかわいらしい。


「また一緒に食べてくださいね?」


はにかんで満面の笑みを向けられる喜びに浸ってしまいました。



先日起こったトイレでの事件は肝を冷やしました。

ミーシャは自分を捜し回った王の尋常ではない様子に顔が引きつっていたようですが、あの時は王だけではなく屋敷の皆もただならぬ様相でした。

もちろん私も含めて。

あまり気が動転するようなことが起こる一族ではないだけにあの時は上から下まで引っくり返したかのような大騒動。

他国へ連れ去られたのでは、との危惧から思わず憤怒の形相かつ胸から黒い感情が湧き上がるのを止められませんでした。

いけない、いけない。

あの時の感情を思い出すとつい、黒いものが噴き出てしまいます。

ミーシャにはやさしいおじいちゃんで通っているというのに、こんな表情は見せられません。

脅えさせてしまいますからね。


そもそもなぜあそこまでの騒ぎになったかというと、これには大きな理由が存在します。


ミーシャ本人は気付いてはいないでしょうが(決して気取らせることはないが)、誘拐未遂事件を企む犯行はほぼ毎日起こっているんです。

もちろん不審者を屋敷の敷地内に1歩も侵入させていないし、させる気も毛頭ありません。

この状態では未遂というに値するのかは分かりませんが、排除できているので問題ないでしょう。


香麗も本来は女中ではなく、闇に属する諜報部隊を兼ねた暗部の一人。

他国との争いは久しく起こってませんが鬼というのはもともと血の気の多い一族です。

いつ何時ふとした拍子に戦が起こってもおかしくありません。

ここしばらくそういったこととは無縁となってますが。

いざという時の為にも情報は持っておくべきモノ。

時に情報は武力よりもモノを言う、なんて言葉もありますし。

どうせ我が国にも他国の間者は入り込んでいますし、お互い様といったとこですが。

しかしミーシャが来たことでそうも言っていられない状況になりました。

世界には4つ国に対して人間が3人。

残りの1国はどう動くでしょうか。

我々は他国の人間をどうこうしよう、なんてことで動いたことはありませんがかの国は違いましたからね。

すでに人間を得ていた2国へ引っ切り無しにちょっかいをかけていた分、その矛先は我が国にも向くでしょう。

これまでは潰し合っていてくれてかまわなかったんですが、いざその立場になるとめんどくさいですね。

大人しくしててくれるといいんですが、そうもいかないでしょうね。


ミーシャは香麗が武芸をできることは知っているようだが、暗部の仕事の方までは理解していないでしょう。

香麗は暗部の実力で言うと上から2番目、香麗自信も気取らせるほど愚かではありません。

ミーシャには常に危険が付きまとっているので本当ならあと2~3人付けたいぐらいですが、本人に激しく抵抗されたので諦めました。

香麗を側につけるのにも本当に申し訳なさそうな顔をしていましたから常に人に貼りつかれているのを苦痛に感じるのでしょう。

無理強いはできませんしね。

ミーシャを思っての行動が彼女に負担を与えてしまっては意味がありません。

もちろんばれぬよう、他の者は影には控えさせてはいますが。

先日の騒ぎはあることで暗部を一端呼び寄せた、部隊一時的に皆ミーシャの側を離れた、ほんの僅かな瞬間に起きてしまいました。

まさか香麗までもが席を外しているとは思いませんでした。

いえ、これでは言い訳ですね、私のミスです。

もう少し気を配っていれば。

ミーシャには本当に悪いことをしてしまいました。

恐ろしかったでしょう。

王は何事もなかった安堵感からあの後ミーシャからのおねだりに嬉々と応え、至福の時間を過ごしていたようですが。

まったくもって羨ましい。おっとつい本音が……。



隣をみるとミーシャが満腹になったことでこっくり、こっくりと頭をゆらし船を漕いでいる。

あどけない顔に目元がほころぶ。

そのまま倒れては危ないと思い身体へもたれさせる。

本当に内臓が詰まっているのか不思議なほど軽い。

これで私たちと同じように動くというのだからいつも謎に思います。

何やら歳を気にしているようですが私たちから見ればかわいいものです。

ミーシャにはまだ話してはいませんが、私たちの寿命は数千歳。

それに伴いミーシャの寿命も同様に伸びる。

正確な年数はわかりませんが、既に他国の人間2人は数百年生きているのだからミーシャも同様の命を持つでしょう。

こちらでの食べ物を取ると体が作り変わるようですね。

それに当初こちらに来た時よりも肌つやがだいぶよくなったようです。

健康を考えた食事が功をそうしているようで何より。

王にだってそこまで気にはしないことなんですけどね。

どうせ王はそんじょそこらのことではたいしたことにはなりませんし、適度に食べさせておけばなんとかなるもんですから。

こちらに来た当初はまったく食べることが出来ず、日に日に痩せていく姿に胸を痛めました。

あの頃のことを思い出し、そうして安らかに寝ているミーシャの頬を撫でる。


得がたい大切な宝、私たちの唯一。



***



『人間』は鬼にとって宝。



その昔、鬼は凶暴・残虐・非道という三拍子揃った極悪な性分が前面に出ていました。

行動は本能に忠実、理性なんてものは存在しませんでした。


家族や血縁なんて関係なく、欲望のままに行動していました。

肥沃であった台地は枯れ果て、乾いた大地には雨水の代わりに血が染み込み、常に阿鼻叫喚をきわめ、血で血を洗う行為が跋扈しておりました。

そこはまさに地獄絵図。

そんな状況を皆が憂いていたが、今更どう止めていいのかすら分かりませんでした。

例に漏れず私もあの頃は暴れまわりました、若気の至りってやつですよ。


そんな中一番最初に変化が訪れたのは北の領地。

かの地に住む鬼たちは見る間に変わっていきました。

争いやいがみ合い、そんな負の感情をどこかに置き忘れてきてしまったような変わり様。

田畑を耕し、住みやすい環境整備、生活を潤滑にする為の物資の供給、そこには平穏そのものの生活が生まれていました。

あまりにもあっさりと変化を遂げたので周囲の国の者は目を疑ったもんです。

“なぜ、そこまで急激に変わることができたのか”と聞いた際、北の領地の者たちはこう答えました。

「そういった平穏な暖かい穏やかな生活を喜ぶのだ」と。

詳しく聞こうにも誰しも口が硬く、それ以上のことを語ろうとはしませんでした。

偵察の末なんとか分かったのは“リュー”という幼い男児が大きくその要因があるということ。

“鬼”ではなく“人間”だという。

つまりたった一人の為に領民全てが協力し合い、リューという者が望みうる環境下へとなっていったということ。

ばかばかしいと思いました。

なぜそんなよく知りもしない、『人間』なんぞを大切にせねばならぬのか。

自分達“鬼”よりもはるかに弱く、“獣”のような俊敏性もない。

何とも脆くて壊しやすそうだというのが私が抱いた最初の印象です。

しかし姿形だけが我ら鬼に似ているだけの『人間』に興味がわいたのも事実。


北の領民を見ているとしだいに恐ろしいことのように思えました。

我々の行動意義がその者全てに左右されるようになってしまう。

これまでの自分たちが全て瓦解され、まったく別の生き物になってしまうかのようではないか。

それともかの者にはそれだけの価値があるのでしょうか。

そうまでして何かをしたいという感情がわいてくるほどの、そうさせるだけの何かが。


北に続き、南にも人間は現れました。

しかし、我らが東と西には一向に現れませんでした。

他の国には現れて自分達の下には来ない理由はなんなのだろう。


得体の知れない『人間』というものに不信感を抱きつつも、自分たちの元にいないからこそ余計に気になります。

そんな矛盾を抱えながら、しかし他の2国は本当に幸せそうで今振り返ると実は羨ましかっただけなのだと思います。

ならばいたくなるような国にすればいい、来たくなるような国を作ればいい。

そうして我が国は大陸一の国へと発展していったのです。

いつか訪れるであろう『人間』を迎える為に。


私たち鬼というのは単純で楽しいことに目の色を変えて飛び付く習性があります。

あまり難しいことを考えるのは苦手でその行動原理は単純明快。

そんな私たちが期待をこめて待ち望んでいたのが『ミーシャ』です。


彼女を、ミーシャを、見てすぐに分かりました。

他国の者たちの気持ちが。

もう理屈じゃないんですよ、欠けていたものが見つかったような、忘れていた渇望していたものがようやく分かったような。

うまく言葉に表すことのできない喜び、悦び、歓び。

全身の血が逆流するかのような、この爆発しそうな気持ちに身の内から殺されるのではと思いました。


『人間』がどこからどうやってどういった要因で来るのかはわかりません。

でも真実なんてどうでもいいんです。

そうでしょう?だって考えたって答えなんてでないんですから。

そんなものにいつまでも割く時間はありません。

そんな暇があろうものならミーシャを愛でたり、可愛がったりすることがよっぽど有意義ですから。

今、我々はとてつもなく幸福なんですから。


ミーシャから奪ってしまったものもたくさんあります。

それを忘れさせることはできないでしょうが、その悲しみに囚われてしまわないようにすることはできるはずです。

事実を伝えたあの時のミーシャは呪縛が解けたようにあえぎ、座り込んだ様子。

ぼろぼろと溢れ、頬を伝う涙。

私たちは忘れてはならない、与えてしまった痛みと悲しみと絶望を。

床の上で浅くせわしない呼吸を繰り返しているミーシャを見下ろし、すがるように重なった力ない手を握り締めただけ。

次々とあふれた熱い涙を拭ってやることしかできなかった。

いつでも鮮明に思い出すことができます。

これまで以上の幸せを、笑顔でいられる環境を差し出さなければ。



***



ちょうど身じろぎした際に目を覚ましたミーシャと目が合い、するりと言葉が口から漏れ出てしまいました。


「そういえば、こちらにはもうだいぶ慣れましたか?」


あまりにも浅はかな、言ってはいけない、まだ聞くべきではない言葉。

しまった、と瞬時に思った。

私としたことが……。

己の失態に内心で舌打ちする。

だが一度口からでた言葉は取り消すことはできず、そのまま返答を待つ。


ミーシャの顔から、表情が消えた。

心の奥底に隠してきた傷に触れてしまった。

心の傷は癒えず、未だ胸に巣くっている。

胸に空いた穴を埋めるには時間が足りていなかいのでしょう。

しかし瞬時に表情を変え、浮かべた顔はまるで泣いてるような、笑顔でした。



***



現れた二人の人間は男の子でした。

ミーシャが初めての女の子。

当初は扱いに困りました。

暗部から仕入れさせていた他国との情報とあまりにも違いが多かったから。

人間はただでさえか弱いというのに男と女というだけでさらに力加減に気をつけなければいけなくて。

手首を握っては指が余りすぎてしまい、力をこめすぎては骨がミシリと鈍い音を立てる。

ゆっくりと抱き上げているにも関わらず奇声を上げて驚かれ、高さに怖がられ、頭を撫でれば力加減によっては首ががくがくと回る。

歩幅が違いすぎるせいでこちらが普通に歩く速さでは駆け足になり、見下ろすと汗だくの状態。

ちょこまかと動かれては蹴飛ばしてしまいそうで抱き上げての移動が通常仕様となりました。


彼女が現れてから私たちの行動は一喜一憂しています。

彼女が微笑んだ事に対してはそれが続くように切磋琢磨し、不安や不快な感情を抱いたであろう事柄は即刻排除をしています。

ミーシャが寝込む羽目になった虫も滅ぼしてやろうとしたんですけどねぇ、本人に止められました。

“自然の摂理を無理矢理捻じ曲げてしまうのはいけないことだ”、と。

運のいいやつらですよ、まったく。

しかしミーシャは自分が苦しんだというのにその原因である虫にさえ優しいのです。

その優しさは全て私たちにだけ向けてくれていればいいのに。

思わず妬ましく先ほどの行動に移してしまいそうになるのを抑えるのが大変でした。

秘密裏に行ったことが後々わかるとそれも勘気に触れるだろうし、うまくいかないものですね。


私たち鬼は人間を無条件で求めてしまう理由なんて難しいことはわかりませんし、私とて例外ではありません。

自分達とまったく違う身体を持っているせいでしょう?

触るとどこもかしこも柔らかくて、あの頬の柔らかさはある意味毒ですね。

いつもでも撫でていたくなりますし、髪の毛もふわふわしてていつまでも触っていたくなります。

ミーシャに嫌がられないよう加減を見極めるのを忘れないようにするのが大変です。


ミーシャ自信には私たちの感情を“ペット”に対するもの、と伝えてはいますがそんな生易しいものではありません。

もっと暗くて深くてドロドロした我々鬼の想いがあるのですが、まだ伝えるべきではないでしょう。

そのことを伝えるにはまだミーシャに心の準備というものがないでしょうし。

時期を見て判断しなければ。



***



さあ、ミーシャを喜ばす為に次は何をしましょうかねえ。

この前の手作りお菓子のお礼もしなければなりません。

あの小さな手で一生懸命作ってくれるなんてかわいいことをしてくれたのですから。

例えそれを香麗がほぼ手伝ったものとはいえ、ミーシャが発案してくれたというだけで価値がまったく違うのです。


あまりにも心配で屋敷の者たちが交代でこっそり覗いていたのですけど。

私も何度か行ってしまいました。

(もちろん気付かれるなんてマヌケなことはしません)

あの必死に生地をこねる様子も眼福でした。


あの日はみんな外出もせず、完成したお菓子が届けられるのを今か今かと待っていました。

仕事をしろと焚きつけてもなんのその。

気持ちは分かりますけどね。

私も確実にその一人ですから。

ミーシャに対してのことだけが皆、単純明快な行動原理になっているんですから。

こんな一大事逃したらこの先何百年と後悔し続けることになるでしょうからね。

私も気付けば目の前の書物がまったく読み進めていないことに半日経ってから気付きました。

かくいう私も長い時間そわそわとしていたようです。

あの日は片付けるべき書類がまったく進みませんでした。

たまにはそういう日があってもいいでしょう。


どうやら王は抜け駆けしてまた作ってもらう約束をしたそうですが。

その際は私の分も作ってくれるでしょう。

ミーシャは優しいですからね。

これもふだんの行いの違いです。

(餌付けの違いかもしれませんが……)


ミーシャを屋敷からまだ出していませんが、そろそろ国の者たちに披露しなければなりますまい。

大々的にやるのはミーシャも脅えるでしょうし、他国に見せびらかすつもりも毛頭ありません。

それは反対に危険が増すでしょう。

小出しに街中を散策することで国の者たちには満足させることにしましょう。

ミーシャを脅えさせたくないでしょうから、彼らも無闇やたらと近づいてくることもしないでしょう。

遠くからその姿を見るだけで幸せに浸れるのだから。

その為の準備を抜かりなく進めなくてはいけませんね。


しかしどうにも最近の国に入り込んでくる間者の数が微妙に減ったようです。

減った分にはいいのですが、減ったのは雑魚であって間者の腕の質は上がっているような気がしてなりません。

杞憂かもしれません。

けれどどうしても通り過ぎられない、何かの予兆がそこにはある気がして私は思い出せない悪夢のようにその不安を取り除くことができませんでした。




はあ、王が私を探しているようです。

ミーシャとの時間を邪魔するなんて無粋ですね。

ワザとでしょうか?ワザとですね、確実に。

知らなかったことにして無視してもかまいませんかね。

まったく隙あらばミーシャの元へ行こうと画策するめんどくさい主ですよ。

もっと他のことへ労力を向けてもらえないものですかねえ。

抜け出そうとする度にちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。

まったく老体を労わるってことを知らないんでしょうか。

どこで育て方を間違ってしまったのやら。

(まあ、育ててませんけど)

今日はこのまま一緒に字の勉強に付き合うなんて計画まで立てていたのに。

ミーシャとの大事な時間に横槍を入れられたからって別に王への報復なんて考えてませんよ。

ええ、決して。

ふふふふふ……。



(←その後王の執務室から声なき悲鳴が上がったのを聞いた者がいるとか、いないとか……)

(←真実は闇の中である)




なかなかの腹黒さです。

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