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15.恋バナ-毒女=酒代 ~ウコンは必要ありません~


おはようございます。

筋肉痛の体を無理やり引きずり、やってきました台所。

料理スキル皆無の私がいるのはおかしい!!という疑問が(悲しいことに)手に取るようにわかる。

が、これには勿論理由がある!

そうじゃなけりゃ食事の用意だって自分でしなくていいのに誰が好き好んで台所に来るものか。

アシスタントなしじゃ(アシスタントという割にはほとんどの工程をしてもらっているが)失敗作を作る自信しかない!!

(←威張って言うことではない)


皆さまとはいつもは数日、もしくは数週間、へたすると約1ヶ月以上経過してお会いする、ということも多々あったこれまでとは違い、今日は前回の次の日です。

いやぁ快挙だ。

寝込むことも、ケガをすることもなく迎えられた本日。

しかし寝込みはしなかったものの、体には缶蹴りの後遺症(要は筋肉痛)が残っている。

正確に言うと引きずるどころか、香麗さんに抱き上げられてやってきたのだけれど。

部屋でぐーたらと体を休めることもなく朝からココへ来たのは献上品作成の為。


屋敷へ不法侵入した元気玉3匹(恢那・緋棕・琥克)を庇ったはいいが、そのツケは見事に私に回ってきた。

昨日の今日だから部屋で心行くまでだらけていたかったのが(心の底からの)本音だが、昨日の燕浪さんの様子からもう少しフォローをしとかないと、判断しましてね……。

これも“人助け”ならぬ“鬼助け”と思い、一肌脱ぐため体に鞭打ってやってきたのさ。

私だって慈愛あふれるキャラになれるのだ!!

(←自画自賛している限り、そんなキャラになりきれていない)


やっぱ無条件で懐かれると嬉しいもんでさ、恢那くんと琥克くんは初めから好意を示してくれていたもんね。

緋棕くんは猫を手懐ける感覚で初めは警戒心満々だったけれど、夕方にはすっかり爪が研がれていた。

ツンデレが残っていたところがより憎めない。

あぁ、かわいい。

思い出しながら、にやにやしていたら香麗さんにちょっと呆れたような生ぬるい視線をいただいた。

気にしない、慣れた。


さてと、今日は何を作ろうか。

場所は女中頭である明野さんにお願して台所を間借りした。

と、いうことで(どういうこと?)ここは私でも簡単にできる『羊羹』に決定しました。

バンバン、パフー

(超簡潔に言うと)材料混ぜて型に流し込んで冷やすだけ。

私にも作れる簡単レシピ。

あとは井戸の水で冷やすだけ、なんって簡単。


羊羹が冷えるのを待つ間、台所の片隅にてお仕事観察がてら居させてもらった。

邪魔かなぁとも思ったんだけどさ、やっぱ欲求には正直に生きていこうと思ってね。

働いている女中さんたちがどういうお仕事をしているのか見学しながら台所戦争を視察させていだいております。

お昼まではまだ時間があるのでそこまで忙しく動き回る人はいない。

調理担当方の下ごしらえをする動きに無駄なものは何一つない。

ここに関することはまた後日詳しくお話しよう。

ちょっと語ることが多いので今回は割愛する。


ちなみにこの屋敷で従業員は食事処(要は食堂)で腹を満たす。

私とソウは個室で食べているけれど、その他大勢は食事処ですます。

日が昇れば営業開始で真夜中に終了。

寮はないけれど、警備部隊は夜勤仕事もあるので宿直室があるらしい。

宿直室は女中さんたちにもあって、当番制で1晩中何かあった時に備えて待機しているのだとか。

私がすやすや寝こけている間にも懸命にお仕事に励まれているのですよ、お疲れ様です。



「ねぇ、聞いた?警備隊の不眠不休の耐久レース。」

「1位はやっぱり隊長だったんですってね。」

「やっぱりねぇ~、ってことは2位は副隊長?」

「当たり前じゃない!!あのお二方は別格よぉ。」


野菜らしきもの(詳細は不明)を下準備をしている一団から賑やかな声が聞こえてくる。

話題は先日行われた警備部隊の訓練についてらしい。

どこの女性もおしゃべり好きは変わらないようだ。

そういや餅つきの時、そんな物騒なモンがあるって言っていたような気がする。


「あら、でも羅雅らがもいい線いってたらしいわよ。3位だったって聞いたわ。」

「あんた、相変わらず羅雅贔屓ね。」

「いいじゃない、好みはそれぞれでしょ。」

「確かに笑った顔はカッコいいというよりかはカワイイけどね。私は断然、隆巴りゅうはだけどなぁ。」

「わかる、わかる。ほんっとステキよね。」


恋バナは混じっていなくても聞いているだけで楽しいもんだ。

聞いたことのない名前がちらほら聞こえてくる。


この台所にいるのは“台所女中”と呼ばれる方々。

女中とひとくくりで呼んではいるが蓋を開けると3つに分かれる。

一つは“台所女中”。

名前の通り食事の用意、食事処における給仕など食事に関する一切を任されている。

二つ目は“室務女中”。

これもわかるように屋敷内や風呂場などに関する掃除や支度を引き受けてくれる。

三つ目は“服務女中”。

ソウや私の着物を含めて屋敷で働く者、主に警備部隊の洗濯をしてくれている。

さらに言うと甚平を急遽仕立ててくれたお針子さんたちもここに含まれる。

素晴らしい腕でした。

そんで女中頭である明野さんはその3女中さん方の総監督とうわけだ。


話が反れた。


「一度でいいからお相手してくれないかしら。」

「あんたじゃ無理無理。」

「なによぉ。夢見るのは自由じゃない。それに万が一ってこともあるでしょ。」

「今度思い切って誘ってみようかなぁ。」

「止めときなって。」


積極的だなぁ。

肉食女子ってヤツだな。


「あら、でもこの前、紗那しゃなが勇気出してみたんでしょ?!ね?」

「えぇぇぇ~!!」

「で?で?」

「隠さずに話しなさいよぉ。」

「………………………………。」


話題の紗那さんは真っ赤になって俯いている。

うん、仕草はかわいい。


ちなみにこの女子たちは類に漏れず鬼のマッチョな体格をしている為、肩幅はかなり広い。

会話だけを拾えばうふふ、きゃははの華も恥らう乙女。

後姿だけならオネェの集団。

視覚にはごつい集団だけれど、この世界では標準の体格なので致し方ない。


「井戸で出会って、濡れ布巾をお渡しできた時にお話して。」


ふむふむふむ。

思わず聞き入ってしまう。

早く続きを聞かせてくれ。


「それで、それで、がんばって『今晩空いてますか?』って言ってみたの。」

「きゃぁ~」

「結果は?」

「どうだったのよ?!」


「『いいよ』って。お店と時間を言われて。」

「その後は?」

「えへへへ。その後はナイショ。でも幸せだったぁ~」


キャーと黄色い声が上がる。

紗那さんの周りには花が飛び散っている。

よっぽどイイ思いをしたみたい。

年齢制限のかかる何かがあったってことですね。

女子だねぇ~。


「屋敷で一番モテるのってぶっちゃけ誰なの?」


折角なので話に混じってみる。


「そりゃぁやっぱり王よ。」

「へぇ~」

「今は落ち着かれているけれど、前はそりゃぁハデだったものねぇ。」

「そうそう、毎日違う女性を連れておられたし。夜に女性から忍んでこられることなんて当たり前。」


なぬっ。

物語の王道をいくな。

上げ膳据え膳ってことですな。

マジすごい。

ただソウがそんな王道イケメンタラシのような生活だった姿なんてイメージ湧かないけどなぁ。


「常に周りには5~6人はいたわよねぇ。」

「数日同じ方のこともあれば、1日限りの方までいろいろだったわよね。」

「そうそう、その中でも忘れられないのが1人。」

「居たわね、忘れたくても忘れられないわ。」

「だれのこと?」


おぉ、期待に膨らむじゃぁないか?!


「せぇ~の、で言う?」

「言ったらどこぞから現れたりしないかしら?」

「えっ?そんな妖怪みたいな存在なわけ?!」


せぇ~の、の掛け声の後、そろった声は同じ名前を告げていた。


「「「「「妃菜李ひなり」」」」」


「妃菜李?聞いたことないなぁ。」

「もう屋敷にはいないもの。」

「あの時の方々の性格は酷かったけれど、特に妃菜李は最悪だったわ。」

「ほんっとよね。こっちをなんだと思ってたのかしら。あんたこそ何様よって言ってやりたかったわ。」

「王の妻の座に納まったかのような傍若無人ぶりだったものね。」

「ほぉ~」


いやはや、物語の王道展開も実は私の知らないところでちゃんと守られてたんだなぁ。

性格のよろしくない女性の骨肉の争い。

ちょっと見たかった、周りは大変だったみたいだけど。


「王ももう少し選んでくださればよかったのに。」

「今はまったくそういう事態もなくって仕事がしやすくて助かるわ。」

「その女性は今どうしてるの?」


と、言うことはソウは大層オモテになったということですな。

女性ホイホイ?

はんっ。


「あの方はねぇ……」


「あんたたち、しょーもないことをしゃべってる暇はないよさっさと昼餉の支度に入りなっ!!」


残念ながら肝心なことを聞く前に明野さんの渇が飛んできてその場はお開きになった。

一番大事なところで……。

ちぇっ。



駄菓子菓子だがしかし!!ここで感嘆に諦めないのが私だ。



出来上がった羊羹を燕浪さんに献上し、台所で聞いた話の裏をとってみた。

するとまぁ出てくる、出てくる。

ソウの若かりし頃の“武勇伝”という名の燕浪さんの苦労話。


勿論、供物は非常に喜ばれた。

今回ソウの分はないので尚のこと感激された。

大袈裟である。

ソウの分がないのは元から用意するつもりがなかったというのと、途中で遭遇してしまった橙軌さんによって強奪されたからだ。

私のおかわり分を奪っていった罪は重いぞ、首を当洗って待ってろよ!!

食い物の怨み、晴らさでおくべきか。


「おや、どこで聞いてきたんですか?懐かしい。そんな時もありましたねぇ。」

「やっぱりまごう事なき事実なんだ!!羨ましい!!」

「ちっとも羨ましいもんですか!!あの頃は私たちもたいへんでした。要らぬ仕事はどんどん増えていくし、ドス黒い空気が立ち込めると言うんですかね。屋敷中がギスギスしていましたよ。」


ほうほう、モテすぎて辛いって世の男性に刺されるぞ!!

いっそ刺されてしまえ。

(←残酷)


「思い返すとまぁ、性格のイイ御令嬢ばかりを相手になさっていたとつくづく関心します。どうやったらあそこまで性格に難のある者を揃えられたのやら。そのせいでこちらがどれだけ要らん手間をかけさせられたか。」


燕浪さんは思い返すのも忌々しいとぼやく。

腹に据えかねることも多かったろう。

リアル大奥。

なんかヒートアップしてきちゃったんですけど。

話題を間違えた?


「毒薬を料理に混ぜ込むなんてカワイイもんでした。暗殺未遂、根も葉もない流言、盗難事件。互いに罪のさすりつけ合いで数えだしたらキリがないですよ。よくもまぁ次から次へと思いつくと感心しました。見るからに飾り立てることにしか能のない馬鹿女どもでしたしね。頭が弱いと他にやることが思いつかないんでしょうね。」


再び声をかけるべきか逡巡した。

燕浪さんの怒りの衝動を堪えているかのようなその姿、少し時間を置いた方がいいのかもしれない。

ここで爆発されても困る。

頃合を見計らって続きを尋ねた。


「その女性陣はどうなったの?」

「寄生虫どもはあまりにもオイタが過ぎるので追い出しましたよ。王がいつまでも『面倒くさい』と言ってなかなか手を付けずに放っておいたから話が余計にこじれて!!」

「寄生虫って……。」

「寄生虫です!!王が金品を買い与えなかったことだけは唯一の救いでしたよ。国庫に手を付けられてはたまったもんじゃないですからね。」


もう言いたい放題ですね。

怒りというのは時の流れで磨耗して行くもんだと思うけど、消し去るにはまだまだ時間が必要らしい。


「財政は圧迫されなかったけど、精神は圧迫された、と。」

「酒代は相当かかりましたよ。」

「酒代?みんな酒乱だったの?」

「寄生虫どもも飲めましたがね、言うほど飲みませんでした。猫被ってたんでしょうね、何重にも。王以外の前では化けの皮は剥がれていましたけど。酒を飲んだのは王ですよ。」

「ソウが?」


お酒……飲むんだ。

だって私とご飯食べていてもちっとも飲まないんだもん。

鬼って“お酒大好き”って認識だったのに拍子抜けしたぐらいだし。

ちょっと1口と思った企みはまだ実行に移せてないしさ。


「要は王に勧めるんですよ。どんどん酌をして注いでいったので1日の飲酒量が凄まじかったですよ。」

「なるほど……。」

「しかも高い酒ばかり勧めて。一時酒蔵が空になりかけるなんて事態になりました。1年分は賄えるほどの量はあった筈なんですが。」

「それはすごい。」

「王も止めればいいのに、勧められるままに飲むんですから。まったく。」

「二日酔いにはならないの?」

「“二日酔い”?それは一体どういうものですか?」

「あ、知らないならいいです。」


“二日酔い”知らないんだ……。

そんなことってある?そんな症状は誰もかからないってことか!!

“鬼=酒好き=飲兵衛”ってイメージを壊さないでくてありがとう?

ウコンなんていらないってことですね。


燕浪さんが苦言を呈するとかはかったんだろうか?

金銭を払ってでもお近づきにも係わり合いにもなりたくなかったらしい。

目を合わせれば体から何かを搾り取られるようなげっそり感を味わわされるらしい。

精気を吸い取られるってこと?淫魔じゃないんだから。

燕浪さんにそこまでの感情を与えられることができるってのもすごい。

俄然興味がわいてくるじゃぁないか!!


「他にもまぁいろいろと問題を起こしてくれまして。だから早々に対処してほしいってあんなに再三言っていたというのに。自分はその苦労を分かってないから呑気なことが言えたんですよ。」

「それでもソウのお気に入りの女性とかいたんじゃないの?全員追い出しちゃったの?」

「そんな存在いませんでしたよ。そもそも勝手に王に取り入ろうと群がってきたんです。屋敷にも勝手に住み込んで。」

「よくそれをソウが許したね。」

「だから言ったでしょう。無頓着だったんですよ、何処までも。」

「無頓着すぎるでしょ……。」

「ある意味それは残酷ですけどね。」

「残酷?」

「どれだけ自分を飾り立てようとも気にしてもらえず、狂っていく者もいましたよ。」

「修羅場ですか?」

「見るに堪えない光景でした。」


苦々しげに眉間に皺を寄せる。

口角が上がっているのに目が笑っていない。

これ以上は聞かない方がよさそうだ。


「あの、そろそろ落ち着いてください。聞いた私がすみませんでした。」

「忌々しいあの女ども、かつての立場を取り戻そうと虎視眈々と今も狙っていますからね。妃菜李はその筆頭だったんですよ。特にあの女はやりたい放題、威張り散らして。王が何も言わずに好きにさせていたもんだからさらに調子に乗りました。“あの女の後には恨みのみ”なんて言ったほどです。的を得ていましたけどね。」

「そりゃすごい。」

「感心するようなことなど何一つありませんよ。屋敷から追い出せたときどれほど空気が清々しく感じたことか。」

「そこまで……?」


人の顔を見るたびにへにゃりと空気が緩むソウにそんな時代もあったのか。

どこをそんなに執着するほど好きだったのかねぇ?

あれかね、ダメ男ほど世話を焼きたくなるとかそういうこと?

母性本能が刺激されるっていうヤツ?理解できねぇ~。

分かりたくもないけど。


「いいですか、これから街に鬼が増えてきます。しばらくしたら“祭り”が開催されますからね。その為に皆故郷に帰ってくるのです。この街には特にこの期間はごった返しますから。ないとは思いますが彼女達が屋敷に乗り込んでくるということも考えられます。知らない者が屋敷にいたら近付いてはいけませんよ。」

「そんなことってある?」

「まぁ門に1歩でも入らせやしませんけどね。」


黒い黒い。笑みが黒いですよぉ~。

ブラック燕浪さんについては今日はもう十分いただきましたので引っ込んでいただいて結構ですよぉ~。


「というより、気になる部分があった。“祭り”?いつ?」

「おや?誰からも聞いてませんか?秋の半ばに行われる“月誕祭”ですよ。」


そういや、だいぶ前に香麗さんからそんな話を聞いたな……。

確か飲み食いするえらく楽しそうな祭りだったような……?

いや、月を愛でる祭りだったっけ?

この話を聞いた時って台所でどら焼きならぬ“平焼き”を必死で作っていた時だったから記憶があやふやだな。


「いいですか、街にもですが屋敷にも出入りする者は必然的に増えます。知らない鬼には警戒するんですよ。お菓子で誘われても付いて行ってはいけませんよ。」


燕浪さんの中で私は何歳設定だよ?!

信用ねぇな!!


その毒女たちが何をしでかしたのか詳しく聞きたかったけれど、燕浪さんのこめかみに青筋がたっていたので止めときました。




ついでに凛咲さんを捕まえて燕浪さんと同様に聴取してみた。


「アイツの取り巻き?興味なかったからねぇ。あ~、帰ってくる度に屋敷の雰囲気が悪くて息が詰まったのは覚えてるわ。空気の悪いトコに長居なんてしてくないからさっさと退散してたしね、直線顔を合わせたのなんて片手にも満たないんじゃないかしら?」


なんだ、知らないのか。


「でも確かにいたわね、感じ悪いのが。やたらめったら攻撃的な視線を振りまいてたのが。なんでか私にまでくれたのよ。喧嘩売るとこ間違ってるからって思った記憶があるわ。」


ここまでイイ話をひとっつも聞かない、ということはきっと期待を裏切らず気持いいくらいの悪役っぷりに違いない。

うん、やっぱりリアル大奥あった。

泥沼後宮物語万歳。

押しむらくはこの目で見れないことだ。

想像が膨らみますな。



自室に戻る途中傍にいる香麗さんを思わず見上げる。

何も言っていないのに昏い光を灯した目でポツリと呟いた。


「知らない方が幸せなことってあるのよ。」


そうみたいですね。

止めておきます。

私、空気読むの得意ですから!!




「ねぇ、ミーシャ。」

「なに?」

「あの、怒ってる?」

「なんで?」


知らず知らずのうちにソウに向けて含みのある視線を向けてしまっていたようだ。

単にフェロモン駄々漏れにおける周囲の被害状況を分析していただけなんだけど。


「だってちょっとこっちを見る視線が痛いって言うか。何か言いたげっていうか。」

「大丈夫。何にもないから。」

「ほ、ほんとに?」


乙女ゲーのキャラがリアルに存在したことに感心していただけなんだけどね。

ソウにはそれが私が怒っているように感じたらしい。

つか、怒るとかないでしょ。

再び女性陣を侍らすなら私もその恩恵に与らせて繰んないかな、とは思うけどさ。


「ミーシャ、今日何してたの?」

「今日?女中さんたちとおしゃべりして、燕浪さんとお茶して、橙軌さんに読書を邪魔されたっていういつも通りだったけど。」

「それだけだよね?」

「うん。どうしたのさ?」

「なんか急に周りから向けられる視線が冷たくなった気がして。特に燕からのがキツくて。心当たりないんだけどなぁ。」


そりゃぁそうだろ。

ソウの知らないところで暴かれた過去の事件簿なわけだし。

それによって昔の悪感情を思い出しちゃったっていう真相なんだから。


しかし何度見ても(ソウの感情がどういったものだったのかは知らないけど)多くの女性を侍らせていたようには見えない。

この気の抜けるような笑顔に実は女性を誑かせる魔性があったとは。

人は見かけによらないというけれど本当だな。(人じゃないけど)

ちらほらとソウの過去と現在のギャップを耳にするけれどどうにも想像がつかん。

今の性格に落ち着くまでに一体なにがあったのやら。

興味ないからどうでもいいけど。


その後何度となく、理由を聞かれたけれど一切答えませんでしたよ。


羨ましいとかじゃないです、そんな大人気ないことしませんとも。

いくらボディービルダー並みにガタイがでかいくてもきれいなおねぇさんに囲まれるという究極の夢を実現していたことに対するやっかみではないです。

燕浪さんとかの前でそんな昔を思い出させる話をしたりしたら、ほら、ソウが可哀想な目にあるかなぁ~っていう配慮です!!

優しさです。


労わりに思い遣りです。(きっぱり)




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