13.ちびっこ勇者=テロリスト ~体調不良は日常茶飯事~
ごふぅっ
腹にきた突然の衝撃に思わず口から魂が飛び出た。
白目を剥いて昇天してもよろしいでしょうか?
攻撃の衝動から後ろへ吹っ飛ばされそうになったところを支えられる。
グッジョブ、香麗さん。
いつものことながらありがとう。
(←そう度々同じことが起こっているのにも問題)
その包み込む腕と抱擁に私の胸はいつでもキュンキュンです。
先に散歩に出ていて後から追いついてきた香麗さんに無茶を言っている自覚はありますが、でも贅沢を言うなら衝撃が当たる前に回避してほしかったです。
それは兎も角、腹にくらった衝撃の元である物体を見やる。
庭を散歩中、突然傍の茂みがガサガサと動いて中から紅色毛玉が吹っ飛んできたのが原因。
背丈が小さい。
激突してきたのは鬼の子どものようだ。
一体どこからどういう理由でこんな状況になったのか?
どこの子だろう?
先日凛咲さんから聞いたこの世界の夫婦事情から鬼は親子の縁というものは薄い。
(←というよりほぼない)
働く両親を自宅での留守番の寂しさから追いかけてきた、なんて微笑ましいエピソードは望めないだろう。
「え~っと、だいじょうぶ?」
見掛けは5歳くらいだろうか?
頭を撫でながら声を掛ける。
するとこんな状況なのにぱっと太陽を彷彿とさせるような満面の笑顔を覗かせた。
ツンツンとはねる紅い髪がなおのこと、性格を表すかのようにこの子を明るく見せている。
面倒くさがり屋でまぁいいか、が口癖である母性皆無の私でも心動かされる愛くるしさだ。
正直子どもは“嫌い”とまではいかないが、“好き”ではない。
保育士の仕事をしている友だちが何人かいるが、ホント尊敬する。
(ただ彼女たちも『子どもたちは生意気で腹が立つ』と言ってはいたが)
喚くし、泣くし、人の顔見て怯えるし。
自分が目付きがあまりよろしくないということは自覚があるけれどちょっと目があったぐらいで『睨まれた』というのは違うんじゃないか、と言いたい。
(そんなに怖い顔していなかったと思うんだが)
「お姉ちゃん、助けて!!そんでいっしょにあそぼう?」
「助けて?」
少々思考が外れていたのを軌道修正された。
下から見上げてくるキラキラ輝く瞳。
子ども特有の穢れのない眼から放たれる純粋な視線が眩しい。
社会で揉まれ、ちょっとばかしいろいろ経験しちゃったお姉さんにはその光線きついわぁ。
なんかもう焦げ付きそう。
期待に満ち溢れた笑顔。
ここで否定の言葉を吐こうもんなら極悪人の烙印を押されそうだ。
でもその前に“助けて”ってなんだ?
文章に脈絡がないというか、前後の繋がりがないというか。
吹っ飛んできた原因だろうか?
それなら私には役不足だ、君と同様に吹っ飛ばされる上に肋骨も折れる。
「“助けて”ってどういうこと?誰に何をされたの?」
「おれ恢那。お姉ちゃんが“人間”で、ミー姉ちゃんでしょ?!」
「そうだけど……、どうして知って……」
しかしここで香麗さんが私からこの子を引き剥がそうとする。
ついに我慢ならなかったらしい。
実は香麗さん、当初から射殺さんばかりの目つきでこの子を睨みつけていたから。
それを何とかまぁまぁ子どもだから、と目線で抑えていたのだけれど我慢の限界がきたようだ。
なにやら鬱陶し気に汚いものでも触るかのように指で摘むのはどうかと思うんですが……。
確かにこの子の着物はなかなかのやんちゃ君のようで汚いけれど。
子どもにその対応はいかんと思うのですよ、さすがの私でも。
「香麗さん、ストップ。」
「すとっぷ?」
「あぁ、え~っとちょっと待ってあげようよ。“助けて”っていう意味と吹っ飛んできた理由を聞かないと。」
「何故?コイツはミーシャにこんな小汚い格好で体当たりをかました挙句、こんなにくっついて!!せっかくのかわいい格好が台無しじゃないの!!!」
「えっ?!怒るとこそこ?」
どこから入ってきたんだ?とかどこの子だ?とかじゃなくて?
あれ?私が疑問に思う方がおかしいのか?
「当たり前じゃないの!!今日の格好は前々から発注していたモノでようやく出来上がって屋敷へ届けられたモノなの。何度も催促して作らせた品なのよ。待ち望んだ姿をこのくそガキが……」
「体当たりって言っても不可抗力だったわけだし。」
香麗さんの唇が酷薄な笑みの形に吊り上がり、険も露に苛立ちの溜息を吐く。
こうも直接的に毒を吐くのは珍しい。
いつもは遠まわしに、しかし躊躇なく的確に心にナイフを突き立ててくるというのに。
それだけ怒りが頂点に達したということなのか?
今日は浴衣姿。
理由は先日の世にも恐ろしい兄弟喧嘩を静める為。
どこまでも終わりのない戦いが続きそうだったのを燕浪さんが一石を投じたのだ。
私という生贄を用意して。(泣)
ここにきて、まさかの裏切りだった。
条件は私のその日のコーディネートをする権利プラスお茶菓子を邪魔者なく満喫できる権利。
喧嘩もせず、大人しくできるなら毎日交代で私の衣装の決定権が与えられるということになった。
それ以来すっかり大人しくなったのだが、贄の私はたまったもんじゃない。
凛咲さんはさすが同姓だけあってチョイスがは、私の好みに合っているんだけれど、問題はソウだ。
ソウが選ぶモノって言ったらやたら乙女趣味が多い。
しかも特別に暑い日は甚平を用意してくれるけれど、圧倒的に浴衣姿が多くなった。
ソウが“甚平姿もいい”とか言っていたわりには心の底では不満だった、ということがよくわかりました。
下からツンツン引っ張ってくる手に目線を下げる。
「あ、ごめんね。それで恢那くんはどうして吹っ飛んできたの?」
この子の目線の高さに合わせてしゃがみ込む。
あぁ、いつも!いつも!!いつも!!! 見上げてばかりいたから逆の立場になった、この新鮮さ。
自分の方が相手より背が高いというこの事実。
あまりにも久しぶりすぎて感動に打ち震えそうになる。
初対面でこの子に変人認定されたくないので必死にこらえた。
(←握りこぶしが震えている時点でアウトでは?)
「おれたちミー姉ちゃんに会いたかったんだ。」
「うん?」
「それで琥克や緋棕とだれが先にここへしのびこんで誰が1晩に姉ちゃんに会えるかきょうそうしてたんだ!」
「しのびこむ?」
「あっ!!ちがった!まちがえた!こっそり入りこむなんて思ってないよ。」
なにこのかわいい小動物。
この世界にもこんなにかわゆすぎる物体がいたのか。
新発見だ。
ヤバイ、鼻血ものだ。
厳つい大男ばかりを目にしていたから忘れそうだったけれど、そりゃぁ子どもだっているわな。
「お友達と来たの?」
「うん!」
「会いにきてくれたんだ?」
「がんばったんだよ。」
「どうやってここまで来たの?」
「そんなのかんたんだよ。かべがこわれてるとこがあるんだ。おとなはだめでも、おれたちならへっちゃらだよ。」
なるほど、単純明快な答えをありがとう。
隣にいる香麗さん(どす黒いオーラが漂ってくる)は見ない方向で、私の平穏の為に。
「いくら子どもだろうとミーシャに激突するなんて!ケガをしていたかもしれないのよ。」
「でもほら、特に何もなかったわけだし、この子にはどうしようもなかったことだよ。」
「それは結果論よ。何かあってからでは遅いのよ。」
「汚れは一緒に洗うから、そんなに怒らないで。」
「ミーシャが洗濯の心配なんてしなくていいのよ。」
「相手は子どもみたいだし……。」
「ついでにコレは不法侵入なのよ。」
「不法侵入は“ついで”でいいの?一番の問題じゃないの?」
怒る順位が間違っていることに一緒になって突っ込んでくれる人、随時募集中です。
応募先は……
(←オマエもおかしい)
「そうねぇ、どこから入り込んだのかきっちりしっかり吐かせないと。どこかに穴が開いているというのなら塞がなくてはいけないわ。でもそんなことよりっ……」
「うん。でも取り敢えず、後ろ襟を指2本で摘み上げるのを止めてあげない?」
「いいか、このくそガキ。今回は見逃してやるが次やったらただじゃおかねぇぞ。」
「脅すのもダメだってば。」
キャラ替わっていませんか?
ドスの効いた声が怖いって。
地面に下ろしてもらったこの子を見ると、脅えた目をしてぷるぷる震える様はウサギのようだ。
じつにかわいらしい。
「いいよ、恢那くんあそぼっか。」
「いいの?!」
「もちろん。」
先ほどまでの(香麗さんへの)恐怖の表情はウソのようにきれいさっぱり掻き消えている。
声も醸し出す雰囲気も全てにおいて元気玉のような男の子。
元気を絵に描いたような子だ。
見掛け5歳くらいなんだけど実年齢ってどうなんだろう?
子どもの頃から早熟なんだろうか?
この外見で実は2歳です、なんて言われたらどうしよう。
(別にどうもしないけど)
でもこれだけするすると言葉が話せるからそれはないのか?
「ほんとに遊んでくれる?」
「わざわざこうして会いにきてくれたんだもんね。何して遊ぼうか?」
「やったぁ!!琥克と緋棕もいい?」
「一緒にきたお友だち?その子たちはどこにいるの?」
「まってて。すぐとりかえしてくる!!」
「待って。迷子になったら大変だから一緒に探しにいこう。」
“取り返す”ってなんだ?
手を差し出すと、はにかんだ笑顔と共に恥ずかしそうにおそるおそる手を差し出してきた。
でもごめんね、その嬉しそうな笑顔の裏でお姉さんは私利私欲に塗れたことを考えていました。
『君まで迷子になったりしたら今度私が3人を探す羽目になる。顔も知らない残り2人に関してはどうしろと?!無茶でしょ。』
なんてね。
てへっ(笑)
「最初の問いに答えろ。恢那、なぜあの場所に吹っ飛ばされてきた?」
「香麗さん、もうちょっと優しく聞いてあげようよ。」
「ジイサンにやられたんだ!!」
「ジイサン?」
疑問はすぐに解消された。
さぁ出発、と歩みだした途端に恢那の足が止まり、前を見ていなかった私は思わず踏鞴を踏んだ。
恢那くんが立ち止まったのは正面から歩いてくる御仁が目に入ったからだろう。
正確にはその御仁が引きずっているブツ2体を見たからか。
口角が上がっているのに目がまったく笑っていない燕浪さんがやってくる。
歩みはゆったりと優雅だが心中はどうなっているのやら。
(画としてはバックサウンドにダースベーダーのテーマ曲を挿入したい心境だ)
出来ることなら関わり合いになることなる無関係を装い、踵を返して自室へ駆け込みたい。
「ミーシャ、そこのクソガキを引き渡してくれませんか?」
クソガキと言われた恢那はビクリと大きく肩をゆらしたが、果敢にも睨み付けた。
すばらしい気力だが、いかんせん足が小鹿のバンビのように震えている時点でアウトだ。
そこはかとなく愛くるしさを振りまいているだけだぞ、そこの君。
「琥克と緋棕をはなせっ。」
なんとか彼らを救ってやらなければ、なんて考えていた私を通り越して無闇矢鱈に攻撃をしかけるのは止めなさい。
相手の力量を見定めてから戦略を練るのも勝利への方程式の一つだぞ。
まず、攻撃どころか口撃でも燕浪さんに勝てる人はいまい。
燕浪さんに捕獲されているのは紫色と紺色の髪色をもつ男の子たち。
一人は白目を剥いているし、片や憮然とした表情をしている。
「やかましい!!さっきは投げ飛ばした衝撃でうまいこと逃げよって。」
(心身ともに)衝撃的な恢那くんとの出会いは燕浪さんにやられた結果だったか。
「まぁまぁ、燕浪さん。侵入してきたのはいけなかっただろうけど、今日のところは多めにみてあげない?」
「入りこんだくらいだったらそこまで怒ったりしません。せいぜい教育的指導をしてやるだけですよ。」
「と、いうことは……?」
「こいつらは壁に出来てたひび割れにむかって大木をぶつけて自分たちが通りぬけられる穴を開けたんですよ。本日の午後に補修しようとしていた矢先にあんな穴をあけおって。」
うん、助けようなんて慈悲見せるんじゃなかった。
こんな気持ちどっかに置いてきてかまわないかな。
なけなしの優しさが木っ端微塵に砕かれてもはや砂のようになってゆく(現在進行形)
“教育的指導”の中身が気になりはするが深く聞くまい。
「なんだよ、俺たちはちょっと壁に木をぶつけただけだろ。そんなんで容易く壊れる壁なんて壁の意味ないだろ。怠慢なんじゃねぇの。」
おい、空気読め。
そこの紺色髪、琥克か緋棕かどっちか知らんがすでに燕浪さんに捕獲されているのに無謀なセリフを吐くな。
対峙しているこっちの目にもなれ。
自分たちは正面にいなくて燕浪さんの表情を見ていないからそんな命知らずなセリフを吐けるんだぞ。
燕浪さんは片手に一人ずつ捕まえていた手を引き寄せ合って、がつんと子どもたちの頭をぶつけ合った。
涙目になり、反抗心も折れたのかさすがに黙った。
相当痛かったんだな。
いい音がしたが、哀れなのはさっきから一言も発していない紫色の髪の子だ。
泡ふいて昇天しかけている。
連帯責任ってヤツだ、君も少なからず加担したんだ、しょうがない。
「このガキ共はあろうことか大事な薬草園をめちゃくちゃにしたんです。貴重な草花を踏みつけ、一体どれだけの損失がでたことか。確かめたくもない。」
「まさか南の薬草園ですか?」
「そうです、香麗。紛れもなくその薬草園です。この国でしか採れない貴重な薬草ばかりを栽培していた、他国への輸出品だった、あの薬草園です。門外不出の薬草もあった、よりにも寄ってあの場所ですよ。」
「そんな場所もあったんだ……。」
「まったく数十年に一度しか咲かない花から採れるという貴重なものまであったというのにコイツらはあろうことか・狙ったかのように・ご丁寧に・そこだけ・踏み潰したんです。」
「よりにもよって……」
「まったく橙軌たち、あの筋肉馬鹿共の警備隊も何をしていたんだ。こんな時に仕事をしなくていつ働いているんだか。」
「怒るのもわかるけれど、子どものやったことだし。橙軌さんたちにも少しは責任があるんでしょ?なら今日のところは反省しているようだし。」
「そうだ、そうだ。琥克と緋棕をかえせっ」
恢那くん、君は少し黙っていなさい。
静まりかけた火に油を注ぐな!!
そんですぐさま人の背中に引っ込んだ。
威勢がいいのは最初だけか?!すぐ折れる対抗心なら最初からやるんじゃない!
全ての温度がゆっくりと下がり、氷つくような錯覚を覚えた。
確実にこの辺りの気温は冷えただろう。
もう燕浪さんを見ることができません。
ちょっと視線を逸らしつつ、お願いを言ってみた。
「燕浪さんのことだからお灸も十分据えたんでしょ?それにこれから一緒に遊ぶ約束をしているから、この子たちを連れていかないで。」
「橙軌たちにはこれでもか、というほどの罰則を与えてやりますよ、そんなもの当然です。それとこれは別ですよ。子どものうちにしっかりと善悪は教えておかなければ意味ありませんからね。子どもというのは多少の痛みと共に成長するもんです。大丈夫、大したことにはなりませんよ。」
そりゃまぁ、あんた方の身体能力ならそうかもね。
「しかしまぁ、私とて近頃どっかのバカが仕事を溜め込むせいで忙しく、ミーシャとの時間が取れていないっていうのに。そのガキ共は不法侵入した挙句、ミーシャとの貴重な時間までもらえるわけですか。いい度胸じゃありませんか。尚更覚悟はできているんでしょうね?」
ひぃぃぃぃ。
なんか私怨も入っている気がします。
大人気ないよ、燕浪さん。
「子どもに簡単に入られるそっちが悪いんじゃないか。自分たちの仕事の不甲斐なさを俺たちに擦り付けるなよな。しかも最後のはじじいの理由だろ。俺たち関係ねぇしっ。」
もうお黙んなさい。
紺色、後で覚えていろよ。
「香麗さん、燕浪さんになんとか言って。」
「しかし、あの薬草園は本当に貴重なものなの。燕浪様のお怒りも警備隊の不甲斐なさもご尤もよ。」
予想以上に重要施設だったようだ。
燕浪さんとここのところ凛咲さんに着せ替え人形よろしくかまわれていたから一緒に過ごしていなかったから拗ねてしまったのだろうか。
(ちなみにソウはどんなに邪険にしても決してめげない・諦めない、あのしぶとさには感服する)
私か?私が悪いのか?
不機嫌の一端は握っているとみて間違いはなさそうだ。
う~ん、ここは“あの手”しかない。
「私の明日の予定は空いているのですが、もし宜しければお茶をご一緒させて戴くべくお部屋まで伺わせていただいてもよろしいでしょうか?」
ついつい敬語になってしまったことは仕方がないと思う。
だってあの笑顔が3割り増しに凄みを増したんだ、誰だってこうなるでしょ。
“あの手”というのはいつものヨイショ作戦。
これしかないのか?と思われるだろうが効果抜群なんだ、本当に。
(事実、対抗策はコレしか持っていない)
「だから今日のところはここまでで勘弁してあげて?私からもよくよく言っておくからさ。」
「おや、それはステキなお誘いで。そうですね、それな……」
「それって明日も遊べるってこと?!」
背中から腰に抱きついて燕浪さんの視線から逃げていた物体1がすかさず声をあげる。
おいこら、こっちは君たちへの怒りをなんとか静めようと対峙しているってのいうに、なぜ再び強敵の煉獄の如き怒りを再燃させてくれとんだ!!
誰の為を思ってこっちはラスボスに向かっていると……。(泣)
(←既に戦意はほぼ折られている、むしろその意気込みは足で踏みつけられていると言っても過言ではない)
もう助けてやらんぞ。
「それは、それは。ぜひお待ちし……」
「明日も遊んでくれる?!」
空気が読めないってこわい、こっちの肝が冷える。
燕浪さんの今にも惨殺できそうな眼光を物ともせず、我が道を貫けるその図太さは尊敬に値する……。
私の関係ないところでやってくれていたならば、の話だが。
これが態とじゃない、っていうが厄介なところ。
燕浪さんのセリフを押しのけた挙句、さらに魔王を降臨させることができるなんて…。
勇者、この子、正真正銘の勇者です!!
私には真似できない、できてもしたくない。
なんて恐ろしい子……。
「俺たち、明日もがんばってココまで来る。そしたら遊べるよね!遊んでくれるよね!!」
懲りようよ、この状況を巻き起こしているのは君たちですよ。
それになんだ、その半強制的なセリフは?
なぜそんな“ミッションクリアしたら褒賞あげます”的なことになる?
むしろ今・現在、最終ミッションに挑んでいる私に功労賞をくれるべきだろ!!
せめて参加賞を寄越しなさい!!
「私の方から伺いたいところですが、生憎手が離せない状況を作り出しているバカのせいでそれもできないんですよ。」
「このじいさん、無理なんだって。なら明日の予定は空いたね!!」
おい、ちびっこ勇者、ちょっと黙ってろ。
胃が痛くなってきたから。
きりきり音を奏でてきたから。
「お茶の時間は何が何でも死守しますから。お菓子を用意して楽しみに待っていますね。」
燕浪さんは何も聞かなかったことにしたようで話を続ける。
慈愛の微笑みを浮かべて何事もなかったかのように続く会話。
胃潰瘍になりそうだ。
視界の端に入っているであろう会話のテロリスト共はないものとして扱うらしい。
「えぇ~、明日は遊んでくれないの?俺が先に約束したのに!!」
いや、それ違うから。
自分の都合のいい過去を捏造するな。
そんでもってテロリスト恒例の手榴弾も投げ込むな。
血反吐をぶちまけそうだ。
加えてそんな捨てられた子犬のような目をして……下から覗き込んできても……無駄だからな。
そんな哀し気な顔をしても絆されない……からね。
ダメだ、ここは堪えるんだ、自分。
ここでうっかりこの子の主張を取り入れてみろ。
この子たち諸共自分がイタイ目(精神的に)は免れない。
「明日は無理だけど明後日は遊べるよ。」
ええ分かっていますよ、何も言わないでくれ。
負けましたよ、どうせ私は意志薄弱ですよ。
自分にはない純真無垢な円らな瞳に負けました!!
「わかった、なら明日はあきらめる。明後日もだからね!このジイサンに横取りされちゃダメだからね。」
うん、君の命知らずな言動にお姉さんは拍手喝采、胃液吐いていいですか。
私はこの発言に何も言葉を返すことなく、燕浪さんの方を決して見ることなく流しました。
私、空気読めますから!!
自ら寿命を縮めていることの自覚がないって見ている方が怖いわ。
将来さぞや大物になってくれることだろう。
***
なんとか燕浪さんに引いてもらって改めて燕浪さんの間の手から命からがら逃げ出せた子たちに視線を向ける。
「はじめまして。お姉ちゃんとお友だちになってくれる?」
さっきと同様に屈んで挨拶をする。
照れてもじもじとしながらはにかんでくれる紫色の髪の子、紺色の髪の子は観察する視線のお眼鏡にかなったのか頷いてくれた。
「あの、あの、ぼく、琥克。」
「俺は緋棕。なぁ、あんたは大人なんだろ?人間って小さいんだな。そんなんでどうやって生きてきたんだ?狗よりも小さいじゃないか。」
紫色の髪の子は琥克くん。
少し内気のようでどことなく目を彷徨わせている。
勝手に屋敷に入りこんだことで燕浪さんから白目になるほど何をされたんだ?
途中失神してなかったか?私もしたかった。
しきりに手をもじもじさせて顔もなんとなく紅い気がする。
その上恥ずかしがり屋とか私を萌え殺す気だろうか?
目が少し垂れているところとか、歯が生え替わっている途中なのだろう。
前歯が抜けているところとか、全てが壺だ。
紺色の髪の子は緋棕くん。
琥克くんとは反対にじっと見つめてくる。
顔になんか変なものでもくっつけていただろうか?
目を反らすことなく、あますとこなく観察するような視線にタジタジになる。
子どもの視線というのは真っ直ぐでやましいことがなくても心がぐらつくものだ。
(←それはやましいことがあるからでは?)
敵意があるのではい。
睨みつけられているとかではなく、只管に観察されているという視線。
“人間”を初めて見た好奇心からくるのかな。
しかし居心地はよろしくない。
少し細い目がつり上がり、大きくなったら怜悧な印象を抱かせそうな子だ。
眼鏡をかけたらインテリ系といったところか?
燕浪さんに食って掛かったが瞬殺されてしまった子だ。
さっき燕浪さんへ食って掛ったの発言から恢那くんと比べるとだいぶ難しい言葉を知っている。
子どもには似つかわしくない少し冷めた見方をするような印象を受けた。
なんとも3者3様の子たち。
だからこそつり合いがとれているのかもしれない。
「緋棕、そんなのは後でいいだろ。それより何して遊ぶ?」
「そんなのって何だよ。気にならないのか?」
「けんかはやめてよぉ。」
うん、もう3人の関係性っていうのがよくわかった。
微笑ましい。
「いつもは何をして遊んでいるの?」
手始めに口喧嘩の止めに入りきれていない琥克くんに声をかけてみた。
途端に顔を真っ赤に染め上げてくれる。
癒されるわぁ。
後の二人は喧嘩に夢中でこちらが目に入っていないようだ。
「緋棕は遊ぶよりも本を読みたがるんだけど、恢那がそれじゃつまらないって本を取り上げちゃうの。そうなると緋棕と恢那の追いかけっこが始まって、だんだんお腹がすいてくるからご飯食べてっていうのをくりかえしてる。」
「野性的ね……。」
それは果たして遊びっていうのか?
「琥克くんはその間何をしているの?」
「止めようとするんだけど、足の速さで追いつけなくて……。」
「二人にずっとついて行っているの?」
「うん……。でもいつもじゃないよ。他の子と遊ぶときもあるし。緋棕と恢那の足はとくべつ足が速いから他のみんなも追いつける子はいないんだ。だからもう放っておくときもあるんだ。」
将来苦労するわ、この子。
「他の子?たくさんいるの?」
「うん。でもいつも一緒っていうわけじゃないよ。」
「他の子とはどんなことをしているの?」
「あのね、川で泳いだり、魚を捕まえたりとか。虫を捕まえたりするよ。」
野生児だな、ターザンか?
私がそれをやったら捕食者から被食者になるだけだな。
「ならせっかくだし、今日はいつもと違う事をしよう。」
「???」
体力の有り余っている恢那くんを満足させられて、知識の探求が好きな緋棕くんを納得させられて、足の遅さを引け目に感じている琥克くんを置いてけぼりにしない遊び。
私が魚捕まえる前に川に落ちそうだし、この子たちのことだから釣竿なんて使ってないだろうしね。
虫の大きさもわからないのに私がそんな遊びの数々をこなせるわけがない。
自分の安全第一で遊びの内容を考えなくては。
そこで”缶蹴り”を提案した。
ずっと走る必要はなく隠れていられるから琥克くんも辛くないだろうし、好奇心旺盛な恢那くんも乗り気だし、緋棕くんにこの世界にはない遊びに興味も持ってもらえる。
もちろん缶なんて存在しなかったが布製のボールを急遽作成・代用し、早速やってみる。
結果?
まぁ満足してもらえたんじゃないの?
途中棄権していたようなもんだからきちんとわかるわけがない。
ただ“もっと大人数でやろぅ”と言っていたから喜んでもらえたんじゃないの?
(←どこまでもヒトゴト)
屋敷は広いし、さっきみたいに燕浪さんを怒らせるような事態にならない為にも行動範囲を決めて行いました。
(そうじゃないと自分が鬼役になった時に地獄を見る)
つまり、子どもたちの底なしの体力に舌を巻いた。
若さって偉大だ。
唯でさえ大人と子どもの体力差というのは大きいのにそこに輪を掛けて私は脆弱な人間。
階段の段差一つ高くてままならず、湯船は深過ぎて溺れかけ、子どもサイズの着物ですらサイズが合わない体たらく。
言っていて自分で悲しくなってきたがこれが現実。
その私が鬼の子どもたちと“鬼ごっこ”と“かくれんぼ”を兼ねた缶蹴り。
アレはいかん、まったくダメだ。
私の体力がついていかない。
いつもでも・どこまでも・何度でも遊びは続く、底なしの体力にみなぎる闘士。
これから出される答えは終わりのない仁義なき戦い。
まごう事なき明日は筋肉痛とご対面である。
早々にヘバッタことは言うまでもない。
子供たちは嬉々として遊んでいたところ申し訳ないが見学を申し出た。
だって付いていけないんだからしょうがないじゃないか。
するとまぁ心やさしいというか、空気の読める子たちというか……。
「ちょっと休まない?」
琥克くんが二人に呼びかけてくれた。
子どもに気遣われる大人って……(泣)
翌日、全身筋肉痛の体を引きずって約束したお茶をしに燕浪さんの仕事部屋まで行ったという報告ですべてを察していただきたい。
もうこれ以上語るには私のHPが足りず、しんどい状態なので本日はこれにてお開きにさせてくださ……い……。
さらに日を置かずして彼らと遊ぶ約束をした自分を過去に戻って引き止めたい(泣)