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第1話〜15話

  第1話 たなぼた


 ●森田卓もりたすぐるの手記より

 それは突然の出来事だった。

僕は同僚から合コンの人数合わせのために仕方なく呼ばれた。

 そんなことくらいわかってはいたが、誘われると断れない性格というか・・はっきり言うと僕は気が弱いんだと思う。


 この日だって時間ギリギリになってから現場に呼ばれたのに、遅刻の常習犯のように非難された。

 「森田、おっせぇよ!時間にルーズだと女の子に嫌われるぞ!」

 「すぐる、また遅れたのかぁ。しょーもねぇ奴だなぁ。」

 「ご・・ごめん。ははは。」

 としか言えない自分が情けない。


 たぶん気のせいではないだろうが、女の子の視線が冷たいように感じた。

 たしかに僕は全然カッコ良くないし、スーツもこの1着しかなくてヨレヨレだ。そんな男が遅刻したのだから印象が良いはずはない。

 でも自己分析としては、映画化になった電車男よりはマシな格好なんじゃないかなぁ・・と思っているんだけど。。


 「森田、遅れたお詫びにお前が乾杯の音頭とれ!」

 「えぇ?僕はちょっと・・」

 「形式的なもんだ。簡単でいいから。」


 これは同僚の嫌がらせだ。僕が人前で話すことが得意じゃないのを知っていながらこんなことをさせるんだ。

 「ささ、早く。料理も冷めちゃうぞ!」

 「あ・・じゃその・・えと・・みなさん・・乾杯!」

 ((ノ_ω_)ノバタ

 (ノ _ _)ノコケッ!!

 「それだけかよっ!」

 「みじかっ!!」


 そんなこと言われてもどうしようもない。思いつかないんだから。

 「卓も一気に飲めよ。」

 「僕が飲めないの・・知ってるだろ?」

 「乾杯のときくらい飲むもんだって。盛り上がらないじゃんか。」

 

 別に盛り上がらなくたっていいのに・・と僕は思ってはいるが口に出すなんてことはもちろんできない。

 緊張症の僕にとって合コンは試練だ。地獄に近い。

 生まれてこの方27年、彼女歴がないのが災いしてるんだろうか?

 とにかくこの緊張をほぐすためにも、酒は飲んだ方がいいかもしれない。

 僕は乾杯したビールを一気に喉の奥へ押しやった。

 「んぐっ・・うっ!ブホォォォ!!」


 僕はビールを一気に流し込んだ勢いで、むせてビールを吐き出してしまった。 

 「ああああぁぁぁ〜〜・・・・!!」

 一同みんな、唖然とする。

 僕の正面に座っていた女性の服にモロかかってしまったのだ。

 しかも見た感じ、今日集まった女の子の中では1番可愛い。

 「おいおい、森田何やってんだ!ったくよ!」


 女性陣からも、痛いほどの視線が刺さる。

 「す、すいません。。今拭きますから。。」

 僕は慌てて相手側に走って周り、自分のハンカチでその彼女の服を拭こうとした。

 「あっ・・」と彼女は小声で叫んだ。

 「森田!お前ってほんとバカなのか大胆なのか・・」

 「え?」

 「ハンカチ手渡してやればいいじゃんか!何でお前が彼女の胸触りながら拭いてんだよ!!」

 「うわっ!しまった!全然そんなこと気づかなかったもんで・・す、すいません。。」

 彼女の友達の女性が言った。

 「しかもそのハンカチ、あなたがさっき自分の汗を拭いてたやつね?」

 「あ・・あ・・いやあの・・これは・・ちょっと失礼します。」


 僕は顔から火の出る恥ずかしさで、この場を離れてひとまずトイレに非難するしかなかった。

 「ε-(;ーωーA フゥ…参ったなこりゃ。。」


 そこへ同僚の青木が入ってきた。

 「卓、早く来いよ。」

 「僕なんか、仕方なく呼ばなくても良かったのに・・」

 「ん?それは全然違うぞ卓。俺たちはいつもお前が必要なんだ。」

 「え?本当に?本当にそう思ってるの?」

 「そうさ。お前がいないと俺たちが引き立たないじゃん。ウヒャヒャ(≧▽≦)ノノノ☆バシバシ 待ってるから早く来てもっとドジなところ見せてくれや!」

 「。。。。。」

 そういい残して青木は席に戻って行った。

 なるほど・・そういうことだったのか。。気づかなかった僕がバカだった。


 その後、僕は何とか冷静さを取り戻して男子トイレから出たところを、さっきビールをかけてしまった彼女と出くわした。

 「あ、さきほどは・・本当にすみませんでした。お詫びのしようもありません。クリーニング代は僕が・・」

 「ううん、いいのそんなちっちゃなこと。で、話があるから待ってたんだけど。」

 「え?僕に?」

 「そうよ。ここにあなたの他誰もいないでしょ。」

 「はぁ・・」

 「森田さんて言ったわよね?」

 「はい・・」

 「あたしと付き合って!お願い!ね、ね、いいでしょ?」

 「は?・・な、な、ななななんで?」

 「だって森田さん、あたしのタイプにビンゴなんだもん。」

 「そ、そ、そそそそれは・・」

 「一目ぼれって、こういうことを言うもんなのね。ダメ?森田さん。」

 「ダメもいいも何も・・」

 「じゃいいのね?」

 「はぁ・・あなたがよろしかったら。。」

 「決まりっ!じゃ明日またデートしようね!日曜だから休みでしょ?」

 「は、はい。」

 「じゃあたしのメアド教えるね。×××@・・・・」


 とても信じられない出来事が起こった。

 僕に突然、彼女ができた。

 でも先行きに一抹の不安。。。



第2話 これってときめき?


 ●須藤ゆりかの手記より

 今日の合コンは最高だったなぁ (o^-^o) ウフッ

 あんまり期待してなかったのに、あんなに印象に残る人と巡り逢えたなんて。。。やっぱりあのカウンセラーのおかげだわ。


 合コンから帰宅したあたしは、彼と出逢った瞬間を改めて思い出して余韻に浸っている。あたしが彼を最初見たときって。。。

 

 そのとき、合コンで一緒だった友達の翔子から携帯に着信があった。

 「はーい!どしたの?翔子。」

 「ゆりかあんた、今日かなり酔ってた?」

 「んー。。普通かな?」

 「アタシびっくりしたわよ。ゆりかがあの1番ブサイクな男にアタックするなんてさー。何かの気の迷い?」

 「そう言われるとたしかにイケメンじゃないわねw」

 「でしょ?わかってるじゃない。ゆりかの元彼もその前の彼も知ってるけど、レベルが違いすぎるじゃないの。」

 「でも・・好きになっちゃったんだもん。」

 「どうしてよ?顔も悪いしオドオドしてて男らしくもなかったのに?」

 「うん。でもハンカチで拭いてくれたよ彼。」

 「あのきったないハンカチでしょ?アタシにあんなことしたらぶっ飛ばしてやったわよ!ねぇゆりか、一体どうしちゃったのよ?」

 「そんなこと言われても。。あたしは素直に彼が好きに・・」

 「初対面でろくに知らないのに、どこに好きになる要素があるの?」

 「やさしさ・・・かな?」

 「((ノ_ω_)ノバタ 理解できないわ。。」

 「そう?」

 「だってさ、彼が遅れて入って来た瞬間、見るからにキモかったじゃない?そう思わなかった?ゆりかはいきなり素敵だと思ったの?」

 「そうそれ!あたしも今、翔子から着信来る前にそれを思い出そうとしてたのよ。」

 「ふぅん。。で、思い出した?」

 「うん。言われてみれば最初はあたしも・・彼がキモいって思ってたような・・」

 「ならなんで好きになるのよ!ハンカチで拭いてくれたくらいで!彼に同情したの?」

 「いいえ全然。」

 「あ、わかった!ゆりかSっぽいとこあるから、M男くん欲しかったんだ?」

 「誰がSよっ!あたしはMですっ!・・って何言わせるの翔子っ!」

 「(*≧m≦*)ププッ まぁいわ。ゆりかも明日になったら酔いも覚めて気の迷いだったって気づくかもしれないしね。」

 「そうなのかなぁ・・」

 「じゃ、おやすみー。」


 翔子との携帯会話が終った。

 あたし・・ほんとに気の迷いなのかなぁ・・?

 確かにあたしが今まで付き合った人とは違うタイプだけど・・

 だから逆に真新しさを求めちゃったのかしら?ww

 あたしは自分で勝手にそう解釈すると、つい可笑しくなって噴出してしまった。


 明日のデートはどこ行こっかなぁ。。。



 第3話  初デートの行方

 

森田卓もりたすぐるの手記より

 いきなり決まった今日のデート。

 僕は一睡もできなかった。恥ずかしながらこの年までデートの経験すらないわけだし、人の経験も聞いたことがないから誰にも教えてもらえない。

 あ、そうだ。金がいるんだ!おごってやるくらいは僕だって知ってるさ。先にお金おろしておかないと。

 んで、えと・・待ち合わせは正午だから・・ランチから始めた方がいいのかなぁ?それとも少しドライブしてからがいいのかなぁ?そしてそのあとはどうすればいいんだろう?どこへ連れて行ったら女の子は喜ぶんだろう?競馬場?競艇?いやそれはマズイだろう。。遊園地?初デートでいきなり一緒に観覧車とか乗ったら嫌われないかなぁ?映画館入ったら何か魂胆があるって思われないかなぁ?うーん、悩むぅぅぅ〜!!


 悩んだところで時間は待ってくれない。

 僕は緊張のあまり家のトイレを何回も往復したあげく、着ていく服も決めかねて、悩み抜いた結果、結局いっちょうらのスーツにしただけだった。

 「ヤバイ!時間だ。急がないと。もういっぺんトイレに入ってから行こう。。」


 僕は要領がすごく悪い。待ち合わせ場所は人が1番行きかうアーケードの繁華街。そんなところに自家用車で行っても駐車場があるはずもない。

 僕は1キロほど離れた場所の駐車場に車を停め、現場まで走りまくった。

 途中、携帯番号を交換した彼女から電話がかかってきた。

 「森田さん?今どこ?」

 「あ・・ごめ、ごめんなさい。い、今・・走ってます。間もなく着きますから。。」

 「そう。じゃ待ってるね。」

 いきなり初回から遅刻なんて僕も大バカ野郎だ。。


 僕は息を切らしながら、立って待っていた彼女のそばにたどり着いた。

 「ハァ・・ハァ・・すいません・・ゼェゼェ・・」

 「すごぉい、森田さん汗だく。ふいたげる。」

 「あ・・」

 

 彼女は自分のハンカチを取り出し僕の顔を手際よく拭いてくれた。

 「あ、ああああありがとうございます。須藤さんのハンカチ汚してしまって申し訳ないです。」

 「ううん。いいの。これでおあいこでしょ!」

 「は、はぁ。。」

 「これからどうする?森田さん。」

 「えと・・あの・・僕向こうに車置いてるんでドライブでもどうかと・・ハハ;^_^A 」

 「向こうって近くにあるの?」

 「いや、1キロ先なんですけど・・」

 「((ノ_ω_)ノバタ」

 「あ、僕がここまで車持って来ますからすぐ乗ってもらえれば駐車しなくて済みますが・・」

 「あたしまたここで待たなくちゃならないの?」

 「う・・それは・・」

 「じゃいいわ。あたしもそこまで行くから。森田さん連れてって。」


 全く僕って男は。。情けない。


 僕と彼女が肩を並べて一緒に歩いていると、まわりがみんな振り向いた。いかにも見るからに不釣り合いなカップルが街を歩いているのが一目瞭然だからだ。

 一方は背の高いスレンダーで超美形な彼女。

 一方は身長が157センチしかなくて、ずんぐりむっくりの上、丸刈り頭の僕。

 僕でさえ恥ずかしいのに、彼女はこんな僕と歩いて全然恥ずかしくないんだろうか?本当に僕のことが好きなんだろうか?ドッキリカメラだったらショックだけど・・あり得るかもしれない。


 やっと駐車場に着いた。僕は彼女のために助手席のドアを開けた。

 「やっぱりやさしいのね。森田さん。」

 「いえそんなこと・・」

 「助手席のドアを開けてくれるなんて、普通日本人はしないわ。」

 「あははは。。」なぜか笑うしかなかった。

 「この軽自動車、なんか懐かしいわね?」

 「ええ、もうかなり古いんです。中古で15万円で買って14年目ですから。」

 「すごぉい!物を大事にする人なのね。」

 「いえ、ただ貧乏なだけなんですけど・・」


 早速ふたりで出発したものの、大変なことに気が付いた。

 「今日は蒸暑いわ。クーラー入れていい?」

 「あ・・しまった!クーラー壊れてたんだった!」

 「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lええっ?」

 このギラギラした太陽の下、二人とも車の中で蒸し風呂状態だった。


 「早くどこかお店見つけて食事にしましょ!」

 「は、はい・・すいません。」

 僕たちは近くのファミレスを見つけると、有無も言わずに速攻で店内に入った。

 「ふぅーっ・・涼しい。。生き返ったわ。森田さんまた汗だくね。拭いてあげよっか?」

 「いえそんな何回も・・須藤さんに迷惑ばかりかけてるのに・・僕がおごらせてもらいますんで好きなもの頼んで下さい。」

 「 (o^-^o) ウフッ。頼もしいのね。ありがと。」

 食事中、僕は手が震えながら食べていた。こんな綺麗な女性に差し向かえで見つめられながら食べるなんて・・落ち着けるわけがない。

 彼女はリラックスして僕に話しかけながら食べてはいるが、僕は緊張のあまり何を聞かれているのかもうろうとしていた。


 最後のデザートに冷たいアイスを食べて、ようやく汗がひき、食事も終えて会計をしようとしたとき、またまた僕の大失敗が待っていた。

 「しまったぁぁ〜!お金おろしてくるの忘れたぁぁ〜!」

 「お金ないの?森田さん。」

 「小銭しか・・211円。。」

 「(^_^;)そりゃダメね。いいわ。あたし持ってるから。」

 「・・・・すいません。。。」


 なんか・・・男の面目丸つぶれ。。おう(ノ≧◇≦ヽ)のう!!!


 「どこか涼しいところに行きたいわ。ねぇ、海に連れてってくれる?」

 「はい。おわびだらけですが、僕にできることなら何でもします。」

 「嬉しい!」


 そこから40分くらい走ると、砂浜の海岸に着いた。

 さすがにデートスポットのひとつでもあるのか、他のカップルも数組来ていて、お互い寄り添って座っている人たちもいた。

 「あたしたちも座らない?」

 僕はドキッとした。それは願ってもいないことだけど、まだ初日にそんなに盛り上がっていいもんなのかなぁ?

 「さ、森田さん座って。」

 「は、はい。」

 彼女は先に座っていた。

 と、そのときだった。


 「う!!」

 「??どうしたの?森田さん。」

 「あの・・急にお腹がゴロゴロと・・・う!ヤバ。」

 「急に?」

 「僕・・お腹弱いんです。。きっとさっきのアイスで・・う・・お腹が冷えたんだと思います。。」

 「あららら。。」

 「ちょっと失礼します!!」


 まわりにトイレなど見当たらなかった。僕はパニくった。もう、あの岩陰で用を足すしかない。。

 僕は一目散に必死で走り、岩陰に隠れると即座に用を足すことができた。

 「はぁーっ・・間に合った。。」


 ギャーッ!!!


 僕が岩陰の反対方向を見ると、そこには他のカップルがこちらを見ていて、女性が目を覆っていた。どうやら目撃されたらしい。。

 それを聞きつけてか、僕の彼女も近づいて来るのが岩の隙間から見えた。

 「ちょっっちょっ・・須藤さん、こっち来ないで下さい!」

 「だいじょうぶー?」

 「はい、何でもありませんからー。」

 「わかった。ここで待ってるわ。」


 「あ・・・・・・・・・・あのぉ〜須藤さん・・・?」

 「??なぁに?」

 「ティッシュ貸してもらえます・・・か?」


 ・・・・・・・・・・僕って最低だ。



 第4話  茶のみ友達


 ●須藤ゆりかの手記より

 森田さんの初デートを終えた私は、翌日すかさず翔子の家に呼ばれた。

 なぜか翔子は私のことをとても心配してくれているようだ。

 私だって子供じゃないし、それなりの判断はできるのに。。

 まぁ、友達思いの翔子だからありがたいことなんだけどね。


 翔子の家に着くと、これまた友達の美智代も来ていた。

 彼女は人は悪くないんだけど、野次馬根性丸出しで、人の話になると自分の耳を3倍にも4倍にも大きくして、好奇心むき出しで話に乗ってくる。もちろん、この前の合コンにいたメンバーのひとりでもある。


 美智代は私が翔子の部屋に入るや否や挨拶より先に質問してきた。

 早速始まったという感じかなw

 「ゆりかぁ、あの生き物と初デートしたんだって?」

 「生き物って・・ちゃんとした男性よ?ww」

 私もちょっと笑いながら答えてしまった。

 「アタシびっくりしたわよ。ゆりかは元々積極性があるけど、まさかあの動く物体にアプローチするなんてさぁ。」

 「今度は動く物体なの?ww」

 「ゆりか気の迷い?それとも変わったもの好き?」

 翔子が割って入った。

 「もう美智代ったら、やめなさいよ。ゆりかがキレるわよ。」

 「あはは・・そうね。ほどほどにしとくわw」

 「あたし今までキレたことないよ?」

 「でも心配だなぁ。ゆりかヤケになってないよね?」

 「翔子はいつも心配してくれるけど・・あたし全然そんなことないよ。」

 「でもさ、蒸し返すようで悪いけど以前の失恋のショックがあまりにも大きかったじゃない?だから。。。」

 「そっかぁ、だからゆりかは浮気しそうにないオタッキーぽい安全パイを狙ったのね?」

 「美智代!ゆりかに失礼よ。」と翔子が一喝。

 「ごめん。。」

 「ううん。いいの。でもね、ホントのホントにそんなことないの。今の彼には、二枚目な男性には持っていない優しさがあるの。偽りのない本当の優しさってゆうのかなぁ。。」

 「偽りでもいいからかっこいい男性に優しくしてもらいたいわ。。」

 「偽りでもいいの?美智代w」

 「アタシも彼氏いない歴2年になるしねぇ、愛に飢えてるのぉ。」

 「こないだの合コンの中にはタイプいなかったの?」

 「いたからえっちしたけど・・それっきり。」

 「したんだ!!!じゃ美智代遊ばれたんじゃないの!」

 「うん。でもいいの。最近いつもこうだから。それにえっちは優しくてもそのあとのケアが優しくないもん。心には響かないわ。」

 「なんか余計に寂しくなるわよ。そういうのやめたら?」

 「まぁ、ほどほどにしとくわwそれよりゆりかのことよ!」


 また私の話に戻ってきたようだw

 「で、こないだのデートは楽しかったの?ゆりか」

 「うん。とっても!今まで経験したことのない面白さね。」

 「面白い経験??あの生き物、そんなに人を笑わすくらいな話術持ってたっけ?」

 美智代は相変わらず、森田さんのことを人並な人間の範囲には入れてないようだ。

 「いいえ。彼、いろいろドジるんだけど見てて可愛いのよw」

 「ダメじゃんそれw だらしないだけでしょ?」

 「だって初デートだもん。緊張するのは当たり前でしょ?」

 「そりゃそうだけど・・一体どんなドジしたの?」

 「うーん・・まず、車のエアコン壊れてたのと・・」

 「うわー、この暑い時期に最悪!」

 「それはきついわね・・」翔子がボソッと言った。

 「そのあと、ごはんおごってくれるって言ってくれて。」

 「おぉぉ〜!あの生き物にしてはすごいじゃない!」

 「でもお金持ってくるの忘れたみたいでw」

 「・・・・・・あふぉやw」

 「そして海に行ったのね。でも彼、おなかの調子壊して・・でもトイレがなくて・・」

 「えええええぇぇぇぇ〜〜???」

 なぜか翔子と美智代同時にハモった。

 「彼ったら岩陰に走って行って用を足したのw」

 「それって・・すごく引いちゃわない?逃げなかったの?ゆりか。」

 「全然。それに彼、ティッシュ貸してくれってゆうの。」

 「ぎゃあああ!!なにそれぇぇ!サイテー!」

 「で、あたしも悪いことしたのよ。」

 「なになに?」

 「ティッシュを彼のいる岩陰に放り投げたら風で少し流されてね。彼がジャンプして飛びついたんだけど・・ズボン下ろしてたもんだから下半身丸出しのままコケてしまって。。」

 「ひえぇぇ!!モロ見えちゃったのねぇぇぇ!!」翔子が叫んだ。

 それとは対象的に美智代は爆笑だった。

 「ぎゃはははははは。おかしーーー!サイテーだけど超笑えるぅぅ!」

 「彼、顔真っ赤にして・・可哀相なことしちゃったって思ったんだけど、逆にそれがだんだん可愛く見えてきたの。」

 「あたしはそうはならないわ絶対w」

 「とにかくゆりかにとっては、新鮮な経験だってのはわかったわ。」

 「でしょ?」

 「あたしゆりかの元彼、数人知ってるけど、ほとんど男前の完璧主義者だったじゃない?ある意味今度の相手って、いいのかもしれないわね。」

 「でも経済力は大事よ!」と美智代が言った。

 「それは結婚を前提とした場合だけどね。まだ始まったばかりだし。」

 「次のデートはいつの予定なの?」

 「えっとね。次の土曜にあたしの家に呼んでるの。」

 「ええええええ〜〜〜??まだ2回目のデートで早いわよぉぉぉ!」

 「美智代の言う通りよ。オタクっぽい人って個室になると危険になったりしないかしら?まだ相手のこと何もわかってないんだから。」

 「うん。だからお昼だけよ。一緒にごはん食べるの。翔子も美智代も来る?」

 「お邪魔じゃなかったら行って監視しててあげるわ。美智代はどうする?」

 「あぁん。行きたいけど土曜は友達と約束が入ってるのー。」

 「そう。じゃ翔子の分も作って待ってるわね。」

 「うん。ありがと。」


 私は森田さんが来てくれるのを心待ちにしている。

 今まで付き合った人たちとは全く違った存在の人。。

 でもなぜか安心できる。こんなに落ち着いた気持ちになれるのは初めて。

 もう失恋はしたくないもの。。



 第5話  とんだお呼ばれ


 ●森田卓の手記より

 前回のデートであれだけドジしまくった僕に、再び彼女から誘われるとは思ってもみなかった。しかも自宅に呼ばれるなんて。

 ひょっとしたらこの間のドジが彼女のお父さんに知れて、こっぴどく説教されるんじゃ・・いや、そんなの考えすぎだよなきっと。あ、そうだ。おごってもらったお金を返さないといけないなぁ。 

 今日も蒸し暑いからエアコンの壊れた車で行くのはやめにしよう。

 小雨は降っているけど、チャリでも彼女の家まではそう遠くないし。


 でもなぜ彼女はこんな僕のどこを好きになったんだろう?今でも不思議でならない。やっぱりドッキリなのかなぁ?どっかのTV番組の罠にハマってるんじゃないだろうか?てことは彼女は仕掛け人?彼女の家のどこかに隠しカメラが備えてあるとか?・・うーん、考えすぎなんだろうけど、一応警戒すべきかもしれないなぁ・・。


 僕は小雨の中、彼女の家に向った。このくらいの雨なら傘もいらない。

 そうたかをくくっていたら、途中突然のどしゃ降りに襲われた。

 もう全身ずぶ濡れだ。帰って着替えようか?でも道のり半分以上来ちゃってるし、もう遅刻するわけにはいかない。このまま行こう。服なんてすぐ乾くもんさ。ちょっとタオルさえ貸してもらえればなんとかなる!


 しかしその考えは非常に甘かった。

 彼女の家まであとすぐ10mとせまったところで車に水をはねられた。

 それも大きなドロの水溜りのど真ん中で思い切り全身にかけられてしまった。白いTシャツがまだら模様に・・いや、ホルスタイン状態になってしまった。顔もはねたドロで黒人化し、別な民族のように変身してしまった。

 それでも僕は機転が利かない。どうしても彼女の家に行くのに遅刻してはマズイと思っていた僕は、なりふり構わず、玄関前までたどり着いた。

そしてチャイムを鳴らす。

 「はーい、森田さんでしょ?」

 「は、はい・・」

 「鍵開いてるよ。入って。」

 僕は遠慮がちにそうっとドアを開けた。こんなきれいな玄関に泥だらけの僕が入り込もうとしている。

 「須藤さんすいませんけど・・タオル貸し手もらえませんか?」

 彼女は僕の姿を見た瞬間、体が固まっていた。目は真ん丸く見開いて、明らかに仰天しているのがわかった。

 「ど、どうしたの?なんかあったの?」

 「たった今そこで車にはねられて・・」

 「Σ('◇'*エェッ!?体はなんともなかったの?病院行かなくちゃ・・」

 「いや、水たまりの泥をはねられて・・」

 「((ノ_ω_)ノバタ 先に泥って言ってよ。」

 「す、すいません。。」

 「待っててね。すぐタオル持って来るから。」


 彼女がタオルを取りに部屋の奥へ入って行ったと同時に、玄関のチャイムが鳴り、ドアから別な女性が顔を出した。どこかで見覚えがある。

 「ゆりかぁ、来たわよぉ。」

 この女性は一言そう言うと、僕の方を振り向いてあとずさりした。

 「うわっ!あ、あなた一体なんなの?何でそんなにこきたないの?」

 「いやその実は・・」

 「ゆりかぁぁ〜玄関に変な人いるわよぉぉ!」

 「いやそうじゃなくて・・」

 そこへゆりかが戻ってきた。

 「翔子、彼は森田さんよ。」

 「え?ほんと?・・・あ、よく見たらそうだわね。どっかのホームレスが不法侵入してるのかと思っちゃったぁ。」

 「バカね。そんなわけないでしょ。森田さん、こちらあたしの友達の翔子。合コンのときに1度面識があったはずだけど覚えてる?」

 「あ、はい。なんとなく見覚えがありました。」

 「あなたがゆりかのハートを射止めた男性だったとは。(^_^;)顔が真っ黒でわからなかったわ。」

 「あははは。僕もそう思います。」

 次にゆりか言った。

 「森田さん。とにかく先に顔を拭きましょ。あたしがふいたげるから。」

 「え?そんな悪いですよ・・うぐっ!!」

 すかさず彼女はタオルで僕の顔を拭き始めていた。

 「遠慮しない遠慮しない。ね?森田さん。」

 「は、はぁ・・」


 彼女の目はクリッとしてていつも可愛い。そんな眼差しで見つめられながら、僕の心は徐々に興奮のるつぼへと向っていくようだった。

 彼女は僕の顔を拭き終わると、次にTシャツにはねた泥の塊もふき取ってくれた。

 「泥の塊だけ取ってあとは洗濯してあげるわ。家の前、今ちょうど工事中で舗装されてなかったものね。ジーンズもすごい汚れよ。森田さん。」

 彼女は汚れた僕のGパンまで拭いてくれたのはいいんだけど、拭き作業の流れで僕の股間を刺激した。

 「あぅっ・・!」

 「あらやだ、ごめんなさい。あたしったら何も考えないで。」

 「いえ・・びっくりしましたけど全然平気です・・はい。」

 となりにいた翔子という女性も複雑な表情で僕らを観ていた。


 「今日は翔子も呼んだの。あたしたちの仲良しぶりを見てもらいたくてね。」

 「あ、そうだったんですか。なるほど。ちょっとテレちゃいますね。」

 「ゆりかと森田さんにはお邪魔してるようで悪いけど、監視役も兼ねてね。」

 「監視役?なんで?」僕は尋ねた。

 「森田さんがけだものにならないようによ!ウフフ。」

 「そ、そんなこと僕が・・するわけないじゃないですか。」

 しかし、この言葉に威力はなかった。

 なぜなら僕の股間はさっきの彼女から受けた刺激でGパンごと膨れあがっていたからだ。とっさに両手で前を押さえる僕。

 「森田さん、向こうに脱衣室があるから行ってて。パパのシャツ貸してあげるから持って行くわ。」

 「は、はい。すいません。では・・」

 僕は前を押さえたすごくみっともない格好のままで脱衣室まで足早に向った。ドアを閉めて汚れたシャツを脱ぐ。すると、さっきの玄関先から小声で彼女たちが話している会話が聞こえてきた。

 「ゆりか見た?あれ。すっごく大きくなってたわよ。あの男やらしそうだわ〜。襲われたらどうすんのよ?」

 「 (o^-^o) ウフッ とてもシャイで可愛いじゃない。心配ないわよ。」

 「あんな大人しそうな男に限って危ないのよ。」

 「彼はそんな大胆なことする人じゃないわ。それに翔子がそばにいるでしょ?」

 「まぁ、そりゃそうだけど・・」


 彼女は僕を心から信用してくれてるんだ。不思議だけどとても嬉しいことだ。なんとか僕もそれに答えないとなぁ。


 そう心に誓ってはみるものの、それとはウラハラに行動は逆パターンをひた走って行くような予感がしてならないのはなぜだろうか?



 第6話  度重なるドジ


 ●須藤ゆりかの手記より

 泥だらけの森田さんにパパの衣服を貸してあげた。

 彼が脱衣室から出てくる。

 「あのー・・須藤さんのお父さんて体大きいんですね。。」

 「(*≧m≦*)ププッ。うちのパパ、お腹出てるから森田さんにはブカブカなのね。」

 「は、はぁ・・」

 「我慢してね。翔子とリビングに座ってて。あたしお茶入れるね。」

 

 私がお茶を入れながらリビングの様子をチラチラ見ていると、森田さんはガチガチに固まっているようだった。翔子はそ知らぬふりで自分の携帯をいじっている。翔子ったらもっと彼に話しかけてくれたらいいのに。。


 私は入れ立てのお茶をリビングに運ぼうとした。すると、入り口の足元に翔子が持ってきたペーパーバッグにつまづいて、前向きに倒れそうになった。

 「キャッ!」

 私が叫んで床に倒れそうになる瞬間、彼が素早く両手を下から差し出して体を支えてくれた。でも・・・・

 彼がとっさに両手で支えてくれた場所は、私の胸だった。

 しかも思い切り両胸を鷲づかみにされている。

 私は思わず赤面した。彼もハッとして表情が変わった。

 「あわわ・・ご、ごめんなさい。」

 彼はすかさず手をどけたのはいいけれど、結局そのせいで私は床に打ちつけられた。

 「痛ぁ〜い。。(┬┬_┬┬)」

 「あ〜ぁ、しまったぁぁ。ごめんなさい。本当にごめんなさーい。」

 翔子がポツリと言う。

 「あんた、わざとじやったんじゃないの?玄関でのお返しのつもり?」

 「そんな・・とんでもない。」

 私は起き上がって言った。

 「もういいの。平気よあたしは。だってあたしが転ぶの予測なんてできないでしょ?」

 「でもしっかりムギュッとつかんでたわよねぇw」

 「そ、それは・・アタヽ(;△;ゞ=ヾ;△;)ノフタ」

 彼の焦っているのを見ているとなんだか可愛く見えちゃうのはあたしだけなのかなぁ?


 ●森田卓の手記より

 今日の彼女は季節感を漂わせるような淡い色のフレアスカートを履いていて、いつにもまして清楚で爽やかな天使のように見える。

 そんな彼女に対して、よりによって彼女のオッパイを思い切り握ってしまうなんて・・僕はとんでもない奴だ。わざとじゃないってことをわかってもらえるかなぁ・・

 それにしても彼女の胸、柔らかかったなぁ・・あ、ヤバイ。ダメだこんなこと考えちゃ!また疑われちゃうじゃんか!全く自分が情けない。


 お茶の入ったカップが床に散乱していた。幸い熱いお茶をかぶって火傷をした人はいなかった。床に転がったカップを回収してテーブルに置いた。でも3つのカップのうち、ひとつが見当たらない。

 僕と彼女と翔子さんで、あちこちキョロキョロしながら探していると突然彼女の叫ぶ声。

 「あ、森田さん危ないっ!足元!!」


 そのとき後ろを向いていた僕は、すぐに振り向き直ったものの、足が先に進んでいたので、丸いカップの上に足を乗せてしまった。

 後ろに倒れそうになるところを踏ん張ってバランスをとろうとすると、今度は前のめりに倒れそうになった。

 「わ、もうダメだーっ!」

 僕の顔はすでに床と平行になっている。

 それでも僕は倒れながら必死で何かにしがみ付こうと両手を上へ伸ばした。

 すると何か布のようなものが手に触れて、すかざずギュッとつかんだ。

 『しめた!カーテンだ。。』

 と、そう思ったが、そのカーテンは僕が床に叩きつけられるのと同時に一緒に地面に落ちた。

 「やんっ!」

 彼女の声が聴こえた。

 『え?やんっ!って・・なんなんだ?』

 前のめりに倒れた僕は、おそるおそる自分の伸ばした両手の先を見ると、そこには彼女の履いていたスカートを握っている手があった。

 そう、僕は彼女のスカートをずり下ろしていたのだ。

 少し上を見上げると、下着姿のあらわな彼女が赤面していた。

 「うわーー!またまたごめんなさぁぁい。」

 床に叩きつけられた痛みなど、どこかに吹っ飛んでしまった。

 僕は土下座して彼女に謝った。

 翔子さんが意地悪なことを言った。

 「あんた、土下座しながら下からチラチラ見てるじゃないの!えっち!」

 「いや決してそんなことは。。」

 ないとは言えなかった。これが男の嵯峨なのか。。;^_^A アセアセ・・・



 第7話  元彼登場


 ●須藤ゆりかの手記より

 森田さんはドジが多いけど、すぐに必死で謝るところが可愛い。

 彼には裏表がない証拠。素直な心。人を騙す要素なんてみじんも感じられない人。

 あたしの出会いは今まで長くは続かなかった。

 いつも男性の方から言い寄って来るのに別れを切り出すのも男性側。

 

 「ゆりかさぁ、お前重いんだよ。俺はもっと楽に付き合いたいんだよね。」

 3年前に別れたマサトのセリフだった。

 「ゆりかといるとなんか疲れちゃうんだよなぁ。」

 2年前に別れたシローのセリフ。

 「ゆりか、毎日じゃなくても週末会うくらいでいいだろ?ダメか?」

 1年前に別れた慎也のセリフ。


 どれも共通して言えるのはあたしを重荷だと感じていること。

 この前の食事会後、森田さんが帰ってから翔子に聞いたことがある。

 「ねぇ翔子、あたし好きな人とはいつもイチャイチャしたいのに男性っていやなのかな?」

 「そんなことないよ。どして?」

 「だって・・うざいって顔で見られるんだもん。」

 「Σ('◇'*エェッ!?あの森田が?」

 「違うわよ。あたしの過去の話。」

 「男の人の照れもあるのかもね。」

 「そうなのかなぁ?お弁当作って持って行っても喜んでもらえないのはなぜ?それも照れ?」

 「あぁ・・そりゃ普通は嬉しいはずだけど・・でもゆりかの場合はちょっと違うかもね・・」

 「なになに?気になる!はっきり言って。」

 「あんね、別にゆりかの行動のせいじゃないのよ。」

 「???」

 「つまり、ゆりかと付き合う男の性格の問題なのよ。」

 「よくわかんないけど・・」

 「あたしもゆりかの付き合ってきた男いっぱい知ってるけど、共通して言えるのはみんなクールで超2枚目だってこと!」

 「それが何か問題でも?」

 「こう言ったらあたしがひがんでいるように聴こえるから言いたくないんだけど・・」

 「ううん。そうは思わないわ。言って。」

 「じゃゆうわよ。ゆりかの付き合ってきた男ってみんな目が妖しいの。常に女を品定めしてるかのような目・・」

 「うん・・確かにみんな、何考えてるんだかわからない瞬間があったわ。」

 「でしょ。だから女はゆりか一人に決めてるわけじゃないのよ。数いる中のひとり。」

 「だからあたしに毎日つきまとわれたくないわけね。。」

 「ゆりかももう少し男を見る目を養わないとね!」

 「うん。。実は半年前に別れた彼にもはっきり言われたことがあるの。」

 「なんて?」

 「『ゆりかだって俺のことただのセフレだと思ってたんじゃなかったのか?・・これじゃ気楽にえっちもできないじゃん!』って。」

 「あららら・・決定的な言葉ね。だからそのあとしばらく元気がなかったのね。」

 「うん。翔子にだけ話すけど、さすがにあたし、精神的に不安定になってカウンセリングに通うようになったの。」

 「Σ('◇'*エェッ!?それは初耳だったわ。で今はもう大丈夫なの?」

 「うん。行って良かったわ。あたし自身変わったわ。そのおかげで森田さんに出会えたような気がするの。」

 「たしかに男の趣味は思いっきり変わったようね・・(^_^;)」


 今、あたしは心に強く思っている。

 森田さんとならずっと長くやっていけそう。

 彼のおちゃめな部分がだんだん見えてきた。

 自分自身、だんだん彼が好きになっていくのがわかる。


 でも未だに不思議なことがある。友達にもよく聞かれることだけど、最初の出会いで森田さんのどこに惹かれて付き合い出したのかということ。

 これはなぜかあたしにもわからない。。。


 そのとき携帯が鳴った。あたしは着信を見てびっくりした。

 1年前に別れた慎也からだった。

 あたしったらまだ削除してなかったんだ。。

 「よぉ、ゆりか。元気か?」

 「どうしたの?なんか用?」

 「唐突で悪いけど俺、やっぱお前じゃないとダメみたいだ。。」

 「なにそれ?ホントに唐突でバカみたい!でも残念でした。あたし、彼いるもん。」

 「お前ほどの女だから他に男がいるのは予想してはいたが・・そいつは俺よりいい男なのか?お前のことを1番よくわかってるのは絶対俺だぞ!」

 「都合のいいこと言わないで!今の彼は慎也なんかよりすごっごく優しいんだから!」

 「ホホゥ( ̄。 ̄*)一体どんな奴なんだ?ウソついてんじゃないだろうな?」

 「ホントだもん。自惚れないで。」

 「くっそぉ・・この俺がフラれるなんて・・・納得できん。」

 「お好きにどうぞ。」

 「ゆりか、それが本当ならその男、俺に会わすことができるか?」

 「全然平気よ。あたしの本当の彼だもん。」

 「わかった。1度話がしたい。その上で納得する。次の土曜の昼でどうだ?」

 「ええいいわ。彼と一緒に行くから心配しないで。」

 「。。。。。」

 そしてあたしはおもむろに携帯を切った。


 ●森田卓の手記より

 彼女から電話があった。

 「ええええええええええ〜〜〜〜〜???す、す、須藤さんの元彼と会うんですかぁぁ??」

 「ごめんなさいね。でも心配はいらないわ。相手を諦めさせるためだから。」

 「しかし・・・」

 「安心して。あたしは森田さんのものよ。 (o^-^o) ウフッ」

 

  (ノ゜ρ゜)ノ ォォォ・・ォ・・ォ・・・・そ、そんな言葉が彼女の口から出るなんて、これは夢か幻かホントかウソか。。嬉しさを飛び越えて感激から有頂天へと昇り詰める僕。

 しかしすぐによぎる一抹の不安。。。


    彼女の元彼と対面だなんて・・・



 第8話  3者会談


 ●森田卓の手記より

 彼女の元彼と対面する土曜日が来た。一体僕はどうすればいいんだろう?

まず何を着て行けばいい?と考えたところで、僕には一張羅のスーツしかない。

でもなぁ、やっぱラフな格好の方がいいよな・・別にお見合いするわけじゃないんだし。

 そう決めた次に考えたことはお金。前に大失敗してるからなぁ・・今日は絶対ちゃんとおろして行かないと・・でも僕が3人分払うんだろうか?彼女の分はもちろんだけど、わざわざ知らない男の分までなんて・・きっと自分の分くらいは自分で払うだろ。うん、違いない!


 それにしてもなんか行きづらいなぁ・・一体どう挨拶したらいいんだろう?『はじめまして。よろしくお願いします』とか言うのかな?いやそれはおかしい。彼女の元彼にそんなこと言うのはバカ丸出しだ。うーん・・悩むぅ〜!

 そうこうしているうちに出かける時間が来てしまった。また遅刻したら大変だ。

 今日の待ち合わせ場所は駅前のカフェで直接会うことになっている。とにかく早めの行動だ。

 僕は少し焦り気味で自宅をあとにした。


 今日はちゃんとお金を用意するつもりで、近くの銀行のATMに立ち寄ったものの、人があまりにも大勢並んでいるので徐々に時間的余裕がなくなってきた。

 なんでこうついてないんだろう。。20人は並んでいる。でもここで放棄すると僕の財布には105円しか入っていない。当然お茶代も払えない。僕ってホントにバカだ。普段から財布に余裕を持たせないからこうなるんだ。。次からは絶対気をつけよう。せめて千円は入れておこう。。


 かなり待って、やっと自分の順番があと2番目になった。なんとか時間までには間に合いそうだと思ったのに、僕の前のばあちゃんが、ATMをうまく使えずに何度も何度もやり直していた。

 「あのー、おばあちゃん、僕が手伝いましょうか?」

 「あんた誰じゃね?知らない人に何でわしのお金を触らせにゃいかんのかえ?ふんっ!」


       このクソババア〜!!人が親切で言ってあげてるのにぃ〜!


 と言いたいところも口に出しては言えず、素直に引き下がって待った。それでもばあちゃんはまだ作業が終らない。

 「あのー、おばあちゃん。銀行の窓口行った方がいいんじゃないですか?」とやさしく聞いてみる。

 「バカかあんたは!土曜にどこの銀行が開いてるんかえ?え?」

  しまった。そうだった・・大ボケかましてしまった。でもそれにしたって何で僕がこんなに怒られなきゃなんないんだ?ババァがトロいからじゃないか!ちっくしょう!と心でジダンダ踏んでいるだけの僕もなんかみっともない。。。


 そこへ後ろからチンピラ風の男が僕の肩を叩いた。

 「おい、兄ちゃん。うちのおかんに何ガンつけとんじゃい?あ?」

 「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lい、いえ・・めっそうもない・・教えてあげようと。。」

 「何コラ!?年寄りから金ひったくろうとしとったんじゃないんかい?ワレ!」

 僕はむなぐらを捕まれ上に押し上げられた。体が宙に浮いた。

 「ぜ、ぜ、ぜ、絶対そのようなことは・・」

 「はん!なんや、度胸のねぇただのうじ虫野郎やないけ。もうええわ。でもいいか!調子こいてんやないで!」

 「は、はい。すいません。。」

 僕のTシャツの丸首部分が伸びておなかのあたりまでダラリと垂れ下がってしまった。

 やっぱ3着500円で買った安物はダメか。。。


 結局僕はここで大きなロスタイムを過ごした。お金はキャッシングできたものの、とにかく急がなくてはならない。僕は走った。とにかく走った。待ち合わせ時刻まであと1分。街角を曲ると正面100m先に約束のカフェが見えた。

 「あともうすぐだ。なんとかなった。。」

 ちょうど僕が入り口の近く30mくらいまで来たときに自動ドアが開いて、お客さんが二人、中から出ようとしているのが見えた。

 「よしっ!ダッシュであのドアが開いているうちに中に入ろう!」

 僕は喜び勇んでラストスパートをかけた。が、それが大きな間違いだった。

 自動ドア入り口の手前には1段高い石段があって、僕にはそれが目に入らなかった。

 当然のごとく僕は蹴つまづいたのである。


 ●須藤ゆりかの手記より

 あたしは約束の3分前にカフェに着いた。

 でも慎也はすでにそこに来ていた。

 「早かったのね。だいぶ待ったの?」

 「いや、10分前くらいだ。約束に遅刻はあり得ないだろ?」

 「そんなことはないと思うけど?」

 「それは今の彼のことをかばった発言か?」

 「そんなことないわ。彼はちゃんと時間通りに来るわよ。」

 「もし来なかったら別れるか?」

 「なんでそうなるの?そのときは何か理由があるからよ。」

 「ホホゥ( ̄。 ̄*)ずいぶん入れ込んでるようだな。」

 「当然でしょ。あたし彼大好きだもん。今までに出遭ったことのない人よ。慎也みたいなタイプは散々付き合ってきたわ。あなたに個性なんか感じられないわよ。」

 「久々に会ったってゆうのに、こりゃ手厳しい言い方だな。お前をそこまでにさせる男って一体どんな奴なんだ?くっそぉ〜・・早くそいつに会ってみたいぜ。」

 「もう時間だから着くはずよ。」

 そう言うとあたしは自動ドアの方を振り向いて様子を見た。ちょうどお客さんが二人会計を済ませてドアから出て行くところだった。

 と、その瞬間、二人のお客さんは急に両脇に体をよけた。

 すると、まだ開いている自動ドアの中央から、猛烈なスピードで前転しながら入って来る男の人がいた。

 「なんなんだあれ?どこのバカだ?」

 「も・・森田さんっ!」

 「知ってるのか?ゆりか」

 「あたしの彼よ。悪い?」

 「工エエェェ(´д`)ェェエエ工・・・」

 前転がおさまった森田さんは、頭を抑えながら立ち上がった。

 「いってぇ〜。。あ・・須藤さん。こ、こんにちは。」

 「それより体大丈夫なの?森田さん。ケガしなかった?」

 「ええ。なんとか・・。」

 「良かったわ。じゃ紹介するわ。あたしの元彼の慎也。全然気にすることないからね。」

 「ど、どうも。。よろしくお願いしま・・じゃなかった;^_^A  あの・・こんにちは。」

 慎也は怪訝そうな目で森田さんを見ていた。

 「マジで君がゆりかの彼氏?ホントマジで?」

 「ええ・・まぁその。。」

 「こんな登場のしかたって、今流行ってるのかい?(・∀・)ニヤニヤ」

 「いやこれは偶然で。。ちょっと。。」

 「もう慎也!森田さんをいじめないで!とにかく席にちゃんと着いて話しましょう。」


 なんとか慎也につきまとわれないようにしたいわ。。



 第9話  3者会談その2

 ●森田卓の手記より

 地べたを転がりながらこの店に入ってきたので、体も痛いし服も汚れてみっともなかった。おまけに他のお客さんに笑われるし、須藤さんの元彼も僕を見下したような目で笑っている。救いは彼女だけが笑わずに心配してくれていること。

 すごく嬉しいことだけど、こんな僕は彼女に何か答えるだけのことができるんだろうか?不安もよぎる。


 「とにかく何か注文しましょ。話はそれから。森田さん好きなもの注文して。」

 「う、うん。。えと・・」僕はすぐにメニュー表を見ながら即決した。ここで注文に時間をかけるとイメージが余計悪くなるととっさに考えたからだ。

 「じ、じゃ僕、パスタランチBで。」

 「わかったわ。あたしはアイスティーでいい。慎也は?」

 「あぁ、俺もそれでいい。」

 Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l みんな飲み物だけなのかぁぁぁ??なんだそりゃあ??なんか食おうよぉぉ!と心で叫んでみても口には出せず、ただ僕は緊張したまま座っていた。そのとき元彼が僕に話しかけた。

 「そのTシャツも今流行ってるのかい?」

 「いやこれは安物で・・」

 「最初からそんなに首の部分が垂れてるTシャツなんて初めてみたよ。」

 「あ!こ・・これはちょっと・・」

 さっきATMでチンピラに絡まれたときに緩んだからだ。。

 やっぱり今日もマイナスイメージが先行する僕だった。



 第10話  VS元彼

 ●森田卓の手記より

 ドジと緊張の連続だけど、冷静になってよく考えればなにも僕がおどおどしてることはない。あくまで今対面してるのは須藤さんの元彼。もう終った人なんだ。

 僕が引け目をとることなんてないじゃないか!堂々としてればいいんだ。

 とは思うものの、目の前の元彼は僕よりもっと堂々としていた。

 彼は明らかに背も高いしスリムだしカッコいいし、いつも自信がみなぎっている感じだ。それにひきかえ僕は自分に自信のある要素が全くない。。

 元彼はストレートに話しを突っ込んできた。

 「正直びっくりしたんだけどさ、なんで君はゆりかと付き合うようになったのかは知らないけど、はっきり言わせてもらうと全然ゆりかとは似合わないね。」

 「慎也いきなり何よそれ。あたし慎也のそんな傲慢なとこが大嫌いなの。自分のこと何様だと思ってるの?」

 「別に俺だって自惚れ屋じゃないさ。でもこのずんぐりむっくりの男を一目見たら・・なんで俺よりこいつなんだって腹がたってきのさ。」

 「森田さん、黙ってることないわ。慎也に好き勝手なこと言わせないで。」

 「はぁ・・でも慎也さんの言う通りだと思いますので。。僕なんて見た目も冴えないし、人に自慢できるものなんて全然ないし。」

 「そんなのあたしだってないわ。森田さんが慎也に引け目を感じることなんてないのよ!あたしが森田さんを一方的に好きになったんだから。」

 「信じられない・・ほんとにほんとなのか?ゆりか!気の迷いじゃないのか?」

 「いいえ全然!だから付き合ってもらってるあたしの方が満足してるんだからもうそれでいじゃない。もう慎也の出る幕じゃないのよ。」

 「お前、1度変わったタイプと付き合ってみたいだけじゃないのか?」

 「そんなことありません!」

 「だいいち、付き合ってるクセに苗字で呼び合いしてるのはなんなんだ?」

 「いいじゃない。ほやほやカップルみたいでさわやかだわ。」

 「ものは言いようだな。じゃ森田って言ったっけ?お前に聞くが、ゆりかのどこが好きなんだ?」

 「そ・・そりゃ、落ち度のないくらいに全てが・・何もかも好きですが・・」

 「なるほど。わかった。やっぱりそうか。」

 「??」

 「お前はゆりかじゃなくてもいいんだ。」

 「そんなことは・・」

 「失礼よ。慎也!」

 「いや、この男は普段からモテそうもない。たまたまゆりかがこいつに声をかけたから、幸運だと思って飛びついてきただけなんだろ。もし、ゆりか以外の女がこいつを誘ったとしても、喜んでついて行くはずだ。違うか?おい」


 図星だった。僕は凍り付いた。たしかに須藤さんのような超美人の人から告白されるなんて奇跡のような話だ。だから僕は喜んで彼氏になった。でも、もし仮に他の女性から同じことを言われたとしたら・・・須藤さんじゃなくてもきっとOKしただろう。。。


 「どうやら図星のようだな。ゆりかのことなんてろくに知りもしないくせに、結局ゆりかの顔と体だけで有頂天になってるだだろが。」

 「もうやめて慎也!」


 そのとき、ゆりかと慎也が注文したアイスティーが運ばれてきて、妙な無言の間ができた。二人は気を落ち着かせるためか、妙な間を埋めるためか、しゃべりもせずにアイスティーを一気に飲み干した。

 僕のパスタランチが来たのはそのあとだった。

 二人が見てる前で自分だけ食べるなんて・・なんて最悪なタイミングだ・・


 「気にしないで食べて。森田さん。」

 「はい・・・あはは;^_^A 」

 「ふんっ。こんなときに自分だけ食うもんかね?」

 「慎也うるさいわよ!」

 「あーはいはい。」



 第11話  VS元彼その2

 ●森田卓の手記より

 みんな飲み物しか注文しないなんて思ってもみなかった。僕ただひとりだけ、二人に見られながら食べてるなんて・・味もそっけもない。

 「もっと落ち着いて食べていいのよ。森田さん。」

 「そ・・そう言われても僕だけダラダラ食べてるわけには・・」

 「じゃ食うなよ!」

 「こら慎也!」

 そう言われると益々焦って、パスタなんか丸呑み状態だった。

 「お前、きったねぇ食い方だなぁ。パスタをズルズルすすって食べんな!」

 「あ、す、すいません・・」

 「いいじゃないのよ。別に気取った席じゃないのよ。」

 「マナーってもんがあるだろが!」

 「慎也の前でマナーなんてないわよ。森田さん少しあたしにも食べさせて。」

 「え・・?いいですけど・・別なフォークを頼まないと・・」

 「森田さんのでいい。ちょっと貸して。」

 そういうや否や、彼女は素早く僕の手からフォークを取った。

 「あたしだって・・そんなお上品に育ってきたわけじゃないわ。」

 彼女はそう言うと僕のパスタをフォークに絡ませるのではなく、救い取ってそのまま口へ運び、ズルズルと豪快な音をたててすすった。

 「須藤さん・・・」

 「うん。おいしい!気取らずに豪快に食べるのが1番ね!」

 彼女は僕に合わせてくれたんだ。。なんて優しい人なんだろう。

 こんな彼女に報いることが果たして僕にできるんだろうか?



 第12話  VS元彼その3

 ●須藤ゆりかの手記より

 「あ〜あ、見てらんねぇよ。ゆりか、お前いつからひ弱な男がタイプになったんだ?よく言う母性本能くすぐるってやつか?」

 慎也は平気でイヤミや毒舌を言う。

 「森田さんはひ弱じゃないよ。優柔不断な慎也の方が精神的にひ弱でしょ!安心して頼れなかったもん。」

 「(・。・) ほー!言ってくれるじゃねぇか!じゃなにか、この男には頼れるってのか?」

 「もちろん。」

 「わけわかんねぇよ。ったく!」

 「森田さん、気にせず食べてね。そんなに慌てて食べると・・」

 あたしがそう言いかけると同時に森田さんはパスタを口に運んだままむせてしまった。かなり咳こんで苦しそう・・

 「ゴホッゴホッ・・ゲホッ・・!!」

 「ごめんなさいね。森田さん。見苦しいとこ見せちゃって。」

 「いえ・・ゲホッ・・もうなんとか・・だいじょぶです。」

 そう言った森田さんの鼻の穴からパスタが1本飛び出ていた。

 慎也もそれに気づき爆笑した。

 「`;:゛;゛;`;:゛;`(;゜;ж;゜; )ブッ ウヒャヒャ(≧▽≦)ノノノ☆バシバシ。こんな男が頼れるなんて、ゆりかバッカじゃねぇの?」

 「そうよ。バカよ。これで秀才の慎也と相性合わないのがはっきりしたわね。さよなら。」

 「おいおい、こりゃ手厳しいな。てか、恋は盲目とはよく言ったもんだ。ゆりか、お前は今まさに盲目だ。」

 「ええ。どうとでも言って。もう慎也とは関わり合いにならないから。」

 「・・わかった。これじゃらちが明かないな。いったん俺は手を引こう。もし気が変わったらいつでも電話してこい。」

 「ありえないわ。番号も削除しちゃったし。」


 慎也はこのあと、無言でこの場を立ち去った。

 森田さんが言った。

 「いいんですか?あの人の方がどう見てもカッコいいですよ?」

 「そんな男はもう飽き飽きしたの。」

 「そう言われるとなんか僕も複雑な心境ですけど(^_^;)」

 「あ、ごめんなさい。そういう意味じゃ・・」

 「いえ、いいんです。もう慣れてますから。」

 「森田さんは森田さんでカッコいいとこいっぱいあるのよ。でもできれば・・」

 「??できれば?」

 「鼻の穴から出てるパスタをなんとかしてもらえたらもっとカッコいいんだけど・・」

 「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l こりゃ失礼しましたぁぁぁぁ!」

 彼はパスタの麺を鼻から吸い込んだ。

 「キャ!」

 「;^_^A アセアセ・・・すいません・・」



 第13話  渦巻く脳裏

 ●森田卓の手記より

 昨日は冷や汗が出っぱなしだったな。。。

でも何はともあれ須藤さんはあの元彼より僕を選んでくれた。

なんか少し自信が出てきたような気がするぞ。よぉし!これからはドジらないように細心の注意を払ってデートしなきゃ!

・・・でも・・待てよ?今までこれだけヘマしてても彼女は僕を嫌わないでいる。なぜなんだろう?ドジが母性本能をくすぐるとか?んなことはないだろう。だとしても故意にドジなんてできないし・・


 僕はベッドに寝転んで天井をじっと見つめながら次のデートをどんな風に過ごそうか考えていた。ファーストキスって・・いつごろすればいいんだろぉ・・もうそろそろしとかないと逆に変かなぁ・・?てか、何て言えばいいんだ?「須藤さん、チュ・・チュウしていい?」だっせぇ( ̄Д ̄;; それとも「す・・するよ?」かな?いやダメだ。なんかやらしい( ̄ー ̄; そうだ!しゃべってはいけないんだ。目をつぶってそっと顔を近づけて唇をとがらせ・・ってビンタくらいそうだ(^_^;)


 でもなぁ・・これくらいクリアできなきゃ頼りないと思われるのも嫌だし。。

キスがヘタだと本当に嫌われるかもしんない・・最初から舌とか入れてもいいのかな・・うわやばっ!考えただけで・・僕は股間を押さえた。

 ダメだ!こんな不純なこと考えてたら僕はただの変態になってしまう。


 どこか上品な場所に行けばいいんだ!美術館とか?でも無理だ。僕に絵心はない。お笑いライブ?彼女が漫才好きかどうか知らないし・・映画が無難かなぁ?でも何観る?あ、あれがいいかなぁ・・電車の中で女性は酔っ払いに絡まれてるとこをひとりの男性が救ってあげる。彼の職業は琴の師範で、女性はその彼に心動かされ、彼の元で琴を習い始めるあの映画『電車お琴』。

 そのときタイミングよく須藤さんの手が握れたらいいな・・


 と、そのとき携帯に着信があった。なんと須藤さんからだった。

「す、須藤さん!ど、どうもこんにちはです。」

「くすっ。ごめんなさいね急に。次のデートまだ日付決めてなかったでしょ?」

「あ、はい。そうでした。つ、次の土曜ではどうでしょう?」

「全然OKよ。でも昨日は元彼もいたし、まともなデートできなかったから土曜まで待ち遠しすぎるわ。」


 どっひゃあああああああ〜〜〜イェイq(・ q )イェイ(p・・q)イェイ( p ・)p イェイ!! 彼女の口から待ち遠しいなんてぇぇぇぇ〜〜!!


「森田さん?森田さん?どうしたの?聴こえてる?」

僕は我を忘れて一瞬放心状態になっていた。

「あーだいじょぶです。だいじょぶです。ではどうすれば・・?」

「あのね・・実は森田さんの家の近くまで自転車で来てるの。」

『Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lえええええ?」

「お家にいないの?森田さん。あたしが勝手に突然来たし、都合が悪かったらこのまま帰るから気にしなくていいよ。」

「いや、用事なんて何もないですけど・・じゃすぐ支度して外に出ます。」

「あの・・もし良かったら外じゃなく・・森田さんの部屋見たいわ・・。」


 ひえー!(◎0◎)にゃ・・にゃにぃぃぃぃぃぃ〜〜〜????


 僕は飛び上がった。この散らかった男やもめの部屋を見られたら、さすがの彼女も後ずさりするに違いない。でも・・彼女の申し出を断るなんてできない。

「い・・いいですけど・・ちょっと片付けるまで・・」

「嬉しい。ありがと。すぐ行くわ。」ブチッ!ツーッツーッ・・・


 すぐ来るのかああああああああああああああああ〜〜〜!!!


 一体何から片付ければいいのかわからなかった。とりあえず、テーブルの上の汚れた食器やおやつの食いカスを片付けよう!僕は今までにない猛ダッシュで行動に出た。そのわずか3分後。


 ピンポーン( ・_・)σ 「須藤です。こんにちはー。」


 は、はやすぎるうううううううううう!!


一体、これからどうすりゃいいんだろぉ??



 第14話  ぬきうち訪問


 ●森田卓の手記より

 「す、須藤さん、すみませんがもう少しだけ待ってて下さーい。」

 「慌てさせてごめんなさいね。あたしが突然来たものだから・・。」

 「いえ、別にそんなことは関係ないんですが・・」(あるんだけどねぇホントは(^_^;)

 「なんか悪いからあたし帰ろかな・・」

 「いえいえいえいえ、もう少しですから。せっかく来てもらったのにそんな・・ちょっと部屋が散らかってるだけなので。」

 「そう?じゃあやっぱりお言葉に甘えて待たせてもらいますね。」

 「は、はい。」


 僕はなおいっそう、早送りのような猛スピードで、部屋を駆け巡り片付けに邁進した。

 『バカだな僕って。そのまま帰ってもらえばこんなに焦らなくていいのに。。でもまぁとりあえず食器は台所にぶち込んだし、ゴミも1箇所にまとめたし、雑誌もベッドの下に隠したし、あとは・・・』


 そのとき僕はふと気が付いた。やばいっ!この部屋すげぇ臭い!!僕には慣れてしまった匂いだが、彼女にとっては間違いなく異臭だ!普段から部屋の換気もろくにしてないばっかりに・・どうしよぉ・・アタヽ(;△;ゞ=ヾ;△;)ノフタ


 僕は困り果てながらも急いで窓を開け、締め切ったカーテンも両脇に引くと、そこになんと、天の助けか神のご加護か、窓のサンに『お部屋の消臭スプレー』があった。

  (!o!)オオ! 助かったぁ!これを買っておいたのすっかり忘れてた〜!よしっ!す、すぐスプレーしよっ!

 

 ●須藤ゆりかの手記より

 あたしは森田さんの部屋の前でずっと立ち尽くしていた。

 いきなり勝手に来たあたしが悪いんだけど、そんなにバタバタするものなのかしら?何か部屋の中からすごい音が聞こえてる・・(^_^;)

 「森田さん、そんなに気をつかわないで。あたし別にお嬢様でも何でもないんだから。足の踏み場もないわけじゃないんでしょう?」

 森田さんが中から小声で応えてきた。

 「えと・・それは・・その・・」


 Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lギクッ!!まさかそんな・・

 「も、森田さん、なんなら部屋の掃除あたしも一緒に手伝いましょうか?」

 「ととととととんでもない!いいですよそんな。」

 「遠慮しないで。どんな汚くて臭い部屋でも森田さんを軽蔑したりしないわよ。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 急に無反応になっちゃった。。。

 あ、あたし・・今余計なこと言っちゃったかしら?;^_^A


 そうよ。あたしが進んで手伝ってあげればいいのよ。そうしてあげよう。

 「森田さん鍵あけて。手伝うわ。」

 あたしはそう言ってドアのノブに手をかけた。

  ガチャ・・

 「あ・・開いてる・・」

 あたしはドアを開けてそっと中を覗いた。

 するといきなりスプレーがあたしの顔に噴射された。

 「キャ!!うぐっ・・コホッコホッ・・」


 「うわぁぁ〜!しまったぁぁぁ!須藤さんごめんなさぁぁぁい!」

 あたしはスプレーにむせながらも彼の慌てふためく態度に悪気はないとすぐ見て取った。

 「い・・いいのよ。気にしないで。でも何のスプレーなの?」

 「部屋の消臭スプレーなんです・・ホントにすみません。。」

 「少し吸っちゃったみたい・・うがいさせてもらえない?」

 「あ、はいすぐに!この部屋、洗面所がないので台所でもいいですか?」

 「水があればどこでもいいわ。」


●森田卓の手記より

 彼女にまたまたとんでもないことをしてしまった。今日で完全に嫌われてもおかしくないよなぁ・・

 そう思いつつ、彼女を台所に案内するとこれまたヤバイ光景を見られてしまった。汚れた食器や食べ物の残りなど、超汚い台所をしっかり見られてしまった。

 彼女はそれを見て一瞬小声で「うっ・・」と発したがすぐに笑顔で僕に振り返り

 「も、もう大丈夫みたい。座って少し落ち着きましょう。」


 なんという素晴らしいj女性!苦情も言わずにここまで辛抱してくれるなんて。僕にはあまりにもったいなさすぎる彼女の存在。


 ほんとにいいんだろうか?僕が彼氏で。。



  第15話  In my room


●森田卓の手記より

 貧乏ひとり暮らしの僕んちには、ソファなどという贅沢品などなかった。

いつも小さな折りたたみテーブルの前で地ベタに座りこんでいるだけだった。

でも彼女は何のためらいもなくそこに腰を落ち着けた。

「あの・・須藤さん、そこ汚いですから座らない方が・・」

「え?何で?森田さんいつも座ってないの?」

「いや、僕は座りますけど、最近あんまり掃除機かけてないもんで須藤さんをそんな所に座らせるわけには・・」

「優しいのね。森田さんのそういうとこが好きなのよね、あたし。」


 うわー!またモロに好きって言われちゃったぁぁ〜!(´〜`*)テヘへ


「さっきも言ったけどあたし、お嬢様じゃないんだから余計な気遣いはいいのよ。森田さん。」

「は、はい・・でも本当にすみません。ソファもない部屋で。」

「全然気にしてないわ。あ、でもソファがなくてもそこにベッドはあるのねw」

「こ・・これは・・」

「ちょっとベッドに座らせて。」

「いやちょっとそれは・・」

僕がそういうより先に彼女は立ち上がり部屋の壁側に横づけしてあるベッドに早々と腰掛けた。

「あら・・?少し硬い?このベッド。」

「と思います。(^_^;)」

「硬くて少し沈んでるような・・」

「その通りだと思います。。( ̄Д ̄;;」


 彼女はすぐにベッドの下を覗き込んだ。もうバレバレだ。

「へぇ〜森田さんすごい!インスタントベッドね。」

「お恥ずかしい限りで・・(#^.^#)」

「でもこの台だってどこからか買って来たんでしょ?」

「いえ、スーパーにあるコンテナをタダで6個もらってきただけです。それを土台にしてコンパネ(木の板)を1枚敷いただけなんですよ。。」

「森田さんてあったまいい♪だからコンパネがしなって沈んだような感じがしたのね。演出効果バツグン!!」

「あはは・・はは( ̄ー ̄; ヒヤッ」


 言えなかった・・。それは演出なんかじゃなく、換気の悪い部屋でコンパネが腐って沈んでしまっていることを。。

「須藤さんに褒められるようなことは何にも・・こんな弾力もない硬いベッドなのに・・」

「硬いベッドは健康にもいいのよ。姿勢も良くなるわ。」

「でも僕ほとんど横向きに寝るんで・・」

「((ノ_ω_)ノバタ」


●須藤ゆりかの手記より

 彼の部屋に初めて入って感動した。これがひとり暮らし独身男性の普通の部屋なんだわ。。ちょっとよくわからない匂いがする部屋だけど、生活観がしっかり感じとれる。以前の元彼たちはみんな高級マンションに住んでたけど所詮親のすねかじり。今考えればみんなガキだったわ。


ふとベッドの頭の下あたりのゴミ箱にティッシュの山を見つけた。

「森田さん風邪?すごいティッシュね。」

「あっ!!あ、あ、あああの、それは・・僕少しチクノウ症で。。」

「そうだったの。何も知らなくてごめんなさい。あたしに気にせずティッシュうんと使ってね。」

「は・・はい。。( ̄ー ̄; ヒヤリ」

「ところで森田さん、お昼食べた?」

「いえ、まだですが・・」

「 (o^-^o) ウフッ。良かった。あたしもまだなの。一緒にいい?」

「はい。喜んで!僕がごちそうします。すぐに出かける仕度しますから。」

「いえ、ここで一緒に食べましょうよ。」

「え?」

「ごちそうしていただけるならあたし、あれが食べたいの。」


 あたしは彼の部屋の隅のダンボール箱に山積になっているカップ麺の数々を発見していた。しかもそれは同じものではなく、ほとんどがバラバラの種類。たまにTVのCMで観る新製品も少なからずあった。

「すごぉい森田さん。新しいもの好きなのね。」

「いやいや・・あはは・・カップ麺に限ってなんですけど。あれこれ新製品やコンビニ限定品を探して味見するのが趣味というか。。」

「あたしもカップ麺大好きよ。家で食べたら親に怒られるけど、翔子の家に言ったときにいただいてるの。」

「へぇ・・そうだったんですかぁ。なんか僕、嬉しくなってきましたw」

「新製品じゃないけど、あたしぺヤングが大好きなのね。この中にあるかしら?」

「あ、あると思います。僕もそれ大好物です!日清焼そばUFOよりぺヤングの方が絶対好きなんです!」

「同じ同じ。嬉しい!森田さんとあたしって相性バッチリね!」

「(~д~ )ゞデヘヘ」

 

 彼は相当照れていたようだった。でもあたしは本当に嬉しかった。やっと彼との共通点が見つけられて心から安心して頼れるような気がした。


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