初めてのお遣い(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、応接室。
平日の喧騒が嘘のように静まり返った校舎の一角で、今日もそこそこ良い造りのドアがそっと開かれる。
「失礼します。」
あさぎは、誰の目があるわけでもないのに音を殺してノブを回し、最小限の開閉で教頭先生が1人待つ部屋にお邪魔する……そんな日曜日。
「……報告せよ。」
教頭先生はソファーに浅く腰をかけ、両肘をつき前のめりになり、余談を許さない重々しい声であさぎの報告を待つ。
「はっ。ひいろ……ご子息は今日も開店1番の『キャットハウス鶸田』に足を踏み入れ、受付のお姉さんと軽くイチャついた後、30分コースで奥のふれあいルームを利用……。」
「ほう?『イチャつき』は聞き捨てならないけど……続けなさい。」
「はっ。それからものの2、3分程でサングラスを引っ剥がされ……たことにして受付へ帰還、
「待て。」
「はい?」
「引っ剥がされた……『ことにして』?」
「先に詳細を話しますか?」
「…………、帰還後は。」
「はっ。ご子息は『お金はフルタイムで取っておいてくれ。それじゃあ』と思わせぶりに背中を見せた後、『失礼するよ。』とカウンターに寄りかかり……、
「続けなさい。」
「はっ。『残りの時間は……』と言いながら若干震える手でもたつきながらサングラスを外してポケットにしまい、
「『しまい』……!?」
「……『鶸田先輩が相手をしてくれるんだろう?』と。」
「……やるじゃない。」
「ええ、教頭先生のご子息ですから。」
「それで返事は……!」
「お言葉ですが、ご子息がフラれるとお思いで……?」
「そんなわけないじゃない。単にあさぎちゃんの声真似が楽しみなだけよ。」
「えぇぇ……。」
「ほらほら、もうちょっとだけ側近感もたせて。」
「はぁ……。受付のお姉さんは『よろしくお願いします……♪』とニヤける口元を悟られないように若干上目遣いで頬を赤らめながら快諾しました。」
「いよっっっし!!」
教頭先生、渾身のガッツポーズ。
「……。報告は以上です。」
「……受け取りなさい。」
教頭先生はトランクケースに敷き詰められた入った札束を確認させる様に、厚紙製の平箱を開いてあさぎに見せると、中身に入っていたお饅頭を1つ手に取りあさぎに差し出した。
「いよっっっし!!」
あさぎ、渾身のガッツポーズ。
「お茶でも飲みながら続きを話しましょうか?」
「いえふまふはー(イエスマスター)。」
「……。」
教頭先生がお茶を淹れると、応接室が懐かしい茶葉の香りで包まれた。
「…………1つ、聞かせてもらうのだけど。」
「お饅頭次第ではお望みのままに。」
「……あさぎちゃんの話ぶりからして、ひいちゃんとその子は初対面ではなさそうなんだけど…………、」
「けど?」
「…………、保健室の子?」
「……さすが。」
「だてにあーかい部の投稿全部検閲してないわ?」
「恐れ入りますね。」
「そんなことは良いのよ。ただ……、
「ひいろが盗られる、ってとこですか?」
「あらあら、文系科目は圧倒的って聞いていたのだけど……まだお勉強不足みたいね?」
「そうでしょうか?ひいろが独り立ちしたら教頭先生、わんわん泣きそうですよ?」
「残念……♪私の目に、誰かのために流す涙なんてもう残っちゃいないわ?」
「確かに。」
「どういうことかしら♪」
「ナンデモナイデス…。」
「よろしい。では、詳細を聞かせて貰おうかしら?」
教頭先生はお饅頭をもう一つ、あさぎに手渡した。
「はい。仰せのままに……♪」
それから小1時間程、あさぎは教頭先生に命じられるままにキャットハウス鶸田で起こったひいろとみどり先輩のあれこれを報告した。
「……とまあ、こんなところでしょうか。」
「よくやったわ。わざわざ日曜日にタレこむだけのことはあったわね。」
「わざわざ日曜日に生徒呼び出してまで親戚の色恋話聞きたいって、罪悪感とかないんですか?」
「そんなものあったら教頭先生なんてしてないわよ。」
「ですよね〜。」
「「HAHAHAHAHA!」」
※真面目に働いてる全国の教頭先生のみなさま、ごめんなさい。
「……で、あさぎちゃんは応援するの?2人のこと。」
「さあ、どうでしょう?」
「煮え切らないのね。」
「教頭先生の御心にそぐわない返事をしようものなら、命がいくつあっても足りませんからね。」
「あらやだ、いつの間にそんな世渡り上手になっちゃったの?」
「ほんと、誰のせいでしょうね。」
「じゃあ……命は保証してあげるから、あさぎちゃんの気持ちを聞かせてちょうだい?」
「なんでそんなに聞きたがるんですか……。」
「大人は女子高生の比じゃないくらい恋バナに飢えてるからよ。」
「急に真顔にならないでください怖いですって。」
「じゃあ聞かせて♪」
「はあ……。」
あさぎは抵抗を諦めて肩をガックリと落とした。
「じゃあ正直に言いますけど……私は面白ければどう転んでも別に良いです。あと八つ当たりされなければ。」
「フフ♪流石、私が見込んだ通りオワってるわねー。」
「なんですか見込んだ通りって。」
「その擦れ散らかした一点の光もない瞳の通り……って所かしらね♪」
「同じ穴の……ってやつですか?」
「おい…………って言いたいとこだけど、そーゆーことね。」
教頭先生はソファーの背もたれに体重を預けると、遠い目で天井を仰いだ。
「……。」
「『否定しないんだ』って思った?」
「……ッ!?」
「私もあさぎちゃんくらいの頃、ラーメン屋のダクトみたいに発情期フェロモン撒き散らすメスどもに辟易してたことがあったからわかるの……。」
教頭先生は持ってもいないタバコを吹かすジェスチャーをしてみせた。
「おモテになってたんですね。」
「あ〜、私じゃないわ。」
「あれ、違うんですか?」
「モテてたのはあ……友だちの方。電気屋の空調コーナーの風みたいに四方八方から妬み嫉みを浴びまくったもんよ。」
「心中お察しします。」
「……あさぎちゃんも苦労してるのね。」
「お陰さまでこんな性格です。」
「それじゃあ他人の色恋なんて煩わしいだけ、か……。」
「ええ。……まあ、菓子の種になるなら今後も利用させて貰いますけどね。」
「それじゃあ、今後ともお遣いをお願いしようかしら♪」
教頭先生はどこからともなく小さな桜を模した練り切りを取り出し、あさぎに1つ手渡した。
「まいど……♪」




