嫌よ嫌よもモスキート(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、池図女学院からちょっと離れた、ちょっと大きめの本屋さん。
お休みを使って訪れていたひいろは、入り口からすぐの目に止まりやすい場所に陳列されていたとある図鑑の前で立ち止まった。
その図鑑の表紙には指紋がはっきり見えるほど拡大された指の腹に、白と黒の縞々が目を引く、とある虫の写真がデカデカとレイアウトされ、ただ1文字
「蚊……。」
と書かれていた。
「…………なんだこれ。」
そういえば少し暑くなってきたかな、と思い出した時勢にピックアップするのが蚊で良いのかというクソデカ疑問符がひいろの頭に重くのしかかった。
「ご丁寧に手描きのポップまで作ったのか……。」
少し横に目線を移すと、丸みを帯びた可愛い文字で[読めば読むほど痒くなる・・・]と書かれたポップと、2本の前足をハエのように擦り合わせる可愛げゼロの蚊のイラストが描かれたポップが棚を賑やかしていた。
「く……っ、さっさと奥に行きたいのにツッコミどころが多すぎて目が離せん……ッ!」
『蚊』の棚の前で鉛のように足が重くなって動けないひいろは、さながらコンビニの明かりに惹きつけられ離れられなくなった羽虫のようであった。
「オススメですよ♪」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこにはお店のエプロンを着けた店員さんがいた。
「あ、いやこれは……!その、見ているだけ……というか、」
「痒くなったらこちらのヌヒも是非に……♪」
店員さんは『蚊』の脇に陳列されていた塗り薬を一つ手に取ると、銀河のような瞳が印象的な目を細め、藤色な一つ結びの髪をフワンフワンと揺らし微笑んだ。
「なんで本屋にヌヒが置いてあるんだ……。」
「ソージョーコーカです♪」
「あ、ああ……。」
「……ん?」
微笑んでいた店員さんが突然羽虫でも目で追うようにキョロキョロしだした。
「どうか……、」
「あ、すみません。蚊がいたような気がしたもので♪」
「この棚見てたら、まあそんな気もするか……。」
「ところがどっこい……!」
店員さんが身を乗り出して顔を近づけてきた。
「うお……!?」
「わたくし達が蚊だと思って煙たがっている羽虫は、案外蚊ではなかったり…………、はっ!?」
店員さんが突然慌てて両手で自分の口を塞いだ。
「この以上言ったらネタバレになるところでした……。」
「あ、ああ……そうなのか。」
『蚊』の表紙を一瞥し、再び店員さんに視線を戻すと、両手の拳を胸の前でキュッと握り銀河のような瞳を輝かせる店員さんと目が合った。
「……!」
「ええっと……、」
「……!」
「その、」
「……ッ!」
「また
「……、」
「ああ!?そんな悲しそうな顔しないでくれ……!?」
「……!」
「…………はあ。ワタシの負けだ。」
「♪♪」
ひいろは予定を変更して、『蚊』とヌヒを買って本屋を後にした。
あーかい部!(4)
ひいろ:はあ……
あさぎ:お、どうした構ってちゃん
ひいろ:あさぎのせいだぞ
白ちゃん:あら穏やかじょないわね
きはだ:争え……争え……
白ちゃん:きはだちゃんは煽らないの
あさぎ:冤罪なう
ひいろ:[画像を送信しました]
きはだ:蚊
白ちゃん:蚊ね
あさぎ:うがぁぁあやめろぉぉお!?
ひいろ:あさぎがずっと蚊の話するから買わされた
あさぎ:ひいろが勝手に買ってんじゃん
ひいろ:蚊が頭から離れなくて本屋のポップに釣られてまんまと押し切られた
きはだ:負けてて草ァ!
ひいろ:かくも恐ろしいものだな、商人というものは……
白ちゃん:これから季節とはいえ、推すの蚊で良いの……?
きはだ:売れてるから良いんじゃない?
ひいろ:[画像を送信しました]
ひいろ:ご丁寧に脇にヌヒまで置いてあったぞ
あさぎ:カモじゃん
ひいろ:あさぎの部屋で読み聞かせてやろうか
あさぎ:すみませんでした
白ちゃん:葬儀場の香りの部屋でそんなの読み聞かせられたら一生頭から離れなくなっちゃうわね
きはだ:おいくらまんえん?
ひいろ:諭吉の片腕と等価交換だな
きはだ:まあまあ良いお値段で草ァ!
白ちゃん:凄まじい商魂ね
ひいろ:くそ、可愛いポップにまんまと釣られた……!
あさぎ:釣られたって、店員さんゴツかったの?
ひいろ:くっっそ可愛かった……ッ!!!
あさぎ:そういえばちょうど蚊について勉強しようと思ってたんだった
あさぎ:あ、ヌヒも切らしてたな
白ちゃん:おい
きはだ:あさぎちゃんより可愛かったぁ?
ひいろ:フッ……話にならんな
あさぎ:あ、ヌヒあった
白ちゃん:恐ろしく早い切り替えね……
きはだ:こやつナチュラルに自分が『話にならないほど』上だと思ってやがる
あさぎ:最近自己肯定感高くてね
きはだ:玉ねぎ食べな〜?
白ちゃん:血圧みたいに言うな
あさぎ:玉ねぎ置いたら蚊よけになるかな?
ひいろ:コバエが寄って来るんじゃないか?
あさぎ:それはやだな……
白ちゃん:虫除けなんて蚊取り線香があれば充分でしょ
あさぎ:なんですか
あさぎ:全部の引き出しに防虫剤入れてる私がおバカだとでも?
ひいろ:小遣いの使い道……
あさぎ:そうだなんか良い対策書いてない?
ひいろ:対策か、せっかくだしちょっと読んでみよう
ひいろ:体温が高いと蚊が寄って来やすいみたいだな
きはだ:じゃあ玉ねぎは逆効果だねぇ
白ちゃん:血行良くなっちゃうものね
きはだ:お〜、養護教諭っぽい……!?
白ちゃん:養護教諭なのよ
あさぎ:きはだも詳しいじゃん
きはだ:末端冷え性舐めんなよ?
あさぎ:なむなむ……
きはだ:生きとるわ!
ひいろ:靴を乾燥させるのも良いみたいだな
あさぎ:くつ?
ひいろ:汗の成分に寄って来るから玄関から入ってくるらしい
白ちゃん:割と実用的なこと書いてあるのね
ひいろ:もっと生物学特化な本だと思ったんだがな
きはだ:店員さんに感謝だねぇ
ひいろ:また会いに行っても良いかもな
白ちゃん:本を買いに行きなさいよ




