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お嬢様第一侍女マリベル短編集

【書籍化進行中】お嬢様が王国裁判にかけられたですって!? ぶっ殺してやりますわああああああああああああああああ!!!!

作者: 月宮 かすみ
掲載日:2026/07/03

読みやすさについてご意見をいただいたため、今回から会話文まわりの空行を少し調整しています。

以前の形と比べて読みやすくなったか、読みにくくなったか、感想などで教えていただけると助かります。


 公爵家に、王国裁判所からの召喚状が届いた。

 それを受け取った老執事は、封蝋を確認し、差出人を確認し、文面を確認し、静かに目を伏せた。

 嫌な予感がしたからである。

 この屋敷で嫌な予感がしたとき、だいたい次に起こることは決まっている。


「マリベルを呼びなさい」


 老執事の声に、そばにいた若い従僕が青ざめる。


「マリベルさんを、ですか」

「ああ」


「内容を伏せておくことは」

「無理だ」


「では、先に馬車を?」

「用意しなさい。あと、公爵様にご報告を」


「まだ何も起きていませんが」


 老執事は、手元の召喚状をもう一度見た。


「起きる」


 その予言は、正しかった。


 数分後……


 公爵家の廊下に、侍女マリベルの絶叫が響き渡った。


「お嬢様が王国裁判にかけられたですって!?」


 銀盆を持った侍女が壁際へ退避し、庭師が窓の外で剪定ばさみを落とし、厨房では料理長が無言で鍋の蓋を盾にした。


 マリベルの手には、王国裁判所からの召喚状が握られている。


 内容は簡潔だった。


『公爵令嬢エレノア・アルヴァインは、王国の秩序を乱した疑い、ならびに侍女マリベルの暴走に対する監督責任について、王国裁判所へ出廷すること』


 マリベルは、召喚状を丁寧に畳んだ。

 怒り狂っているときほど、所作が美しくなる。

 公爵家の侍女として、これだけは守っている。


「王国の秩序を」


 マリベルは静かに呟いた。


「お嬢様が」


 その声は穏やかだった。

 だから、周囲の使用人たちは一歩下がった。


「乱した?」


 ぱきん。


 何かが鳴った。

 召喚状ではない。

 マリベルの右手に、いつの間にか握られていた黒塗りの鉄扇である。

 黒い扇面には、金文字でこう書かれていた。


『お嬢様第一』


「お嬢様が王国裁判にかけられたですって!?」


 マリベルは廊下の先を見た。

 背筋は伸び、髪は一筋も乱れていない。

 どこからどう見ても、礼儀正しい侍女である。

 ただし、目がまったく礼儀正しくなかった。


「ぶっ殺してやりますわああああああああああああああああ!!!!」


「マリベル」


 背後から静かな声がした。

 マリベルは、ぴたりと止まる。


 叫び出した勢いのまま、片足だけが前に出ている。

 その姿勢のまま、ゆっくりと振り返った。


「はい、お嬢様」


 そこに立っていたのは、公爵令嬢エレノアだった。

 淡い青のドレスをまとい、背筋を伸ばしている。

 その表情は穏やかだった。

 だが、召喚状の内容を知らない顔ではなかった。


「今、何と言ったの?」

「お嬢様が王国裁判にかけられた、と」

「その次」


 マリベルは一瞬だけ沈黙した。


「……王国裁判所へ事実確認に参ります、と」

「違うわ」


「では、王国裁判所へ丁重に抗議を」

「違うわ」


「社会的に、法廷の床へ沈めてまいります」

「もっと違うわ」


 エレノアは小さく息を吐いた。


「裁判所に向かう前から有罪になりそうな発言はやめて」

「お嬢様を裁くなど、裁判所の方が有罪でございます」


「マリベル」

「はい」

「今回は、絶対に暴れてはいけません」


 マリベルの顔が固まった。

 屋敷中の使用人たちが息を呑む。

 それは、魚に泳ぐなと言うようなものだった。

 鳥に飛ぶなと言うようなものだった。

 マリベルに、お嬢様のために暴れるなと言うようなものだった。


「ですが、お嬢様」

「裁判所で暴れれば、私が不利になります」


 エレノアの声は静かだった。

 けれど、そこには譲らない芯がある。


「私が王国の秩序を乱したのではないと示すために出廷するのです。そこであなたが裁判所を正座させたら、相手の言い分を補強することになるわ」

「……」


 マリベルは鉄扇を握りしめた。

 当然、分かっている。

 分かっているからこそ、苦しい。

 いつもなら、すぐに動けた。


 お嬢様を泣かせた騎士も。

 お嬢様を断罪しようとした王太子も。

 お嬢様に濡れ衣を着せた聖女も。


 全員、正座させればそれでよかった。


 だが今回は違う。

 ここで鉄扇を振れば、傷つくのはマリベルではない。

 エレノアなのだ。


「マリベル」


 エレノアが、そっと名を呼んだ。


「私も、黙って傷ついてばかりではいられません」


 マリベルは顔を上げる。

 エレノアは微笑んでいた。

 少しだけ不安そうに。

 それでも、逃げない目で。


「あなたが怒ってくれることは嬉しいわ。でも今回は、私が自分の口で話します」

「……お嬢様」

「だから、隣にいて」


 マリベルは息を呑んだ。


「はい」


 深く、深く頭を下げる。


「必ず」


 その声は、いつもの絶叫とは違っていた。

 静かで重い誓いだった。


「必ず、おそばに」


 廊下の向こうで、老執事が静かに頷いた。


「馬車を用意しなさい。あと、公爵様にご報告を」


 若い従僕が小声で尋ねる。


「今回は、少しは安全でしょうか」


 老執事は遠い目をした。


「分からん」

「分からないのですか」

「あの子が我慢するということは」


 老執事は、鉄扇を握りしめたマリベルを見た。


「暴れるより怖い可能性がある」


 従僕は無言で走った。

 公爵家の使用人たちは即座に動き出した。

 王国裁判所は、王城の東側にある灰色の石造りの建物である。


 騎士団詰所のような活気はない。

 王城のような華やかさもない。

 大神殿のような神聖さもない。


 ただ、重い。


 石の壁も、広い階段も、入口に立つ衛兵たちの沈黙も、そこに足を踏み入れる者へ告げている。

 ここは情ではなく、法で人を裁く場所だと。

 その正門前に、公爵家の馬車が止まった。

 先に降りたのは、侍女マリベル。


 黒い侍女服。

 白いエプロン。

 きっちり結われた髪。

 そして、右手には黒塗りの鉄扇。


 裁判所の衛兵たちは、一斉に緊張した。

 近頃、王都には奇妙な噂が流れているのだ。

 公爵令嬢エレノアを傷つけた者は、身分も職業も問わず、なぜか最後には正座している――と。


 恋人を裏切った騎士団員も。

 証拠もなく断罪しようとした王城の者たちも。

 濡れ衣を着せた大神殿の神官兵も。

 その中心には、いつも一人の侍女がいた。


 その名は、マリベル。


 ただの侍女である。

 本人も、周囲も、そう言い張っている。


「公爵家侍女、マリベルでございます」


 マリベルは完璧に一礼した。

 衛兵の一人が、震える声で言う。


「ぶ、武器の持ち込みは」

「武器?」


 マリベルは首を傾げた。


「こちらは、お嬢様の日除け用の扇でございます」


 衛兵たちは、鉄扇を見た。


 日除け。

 日除けとは。

 その黒塗りの扇で、いったい何を遮る気なのか。


 日差しだろうか。

 敵意だろうか。

 人生だろうか。


「マリベル」


 馬車から降りたエレノアが、静かに呼ぶ。


「はい、お嬢様」

「今日は暴れません」

「はい」

「だから、衛兵の方々を怯えさせない」

「承知いたしました」


 マリベルは鉄扇を胸の前に抱え、にっこり微笑んだ。


「本日は、裁判所の床を整える予定はございません」


 衛兵たちは、まったく安心しなかった。

 むしろ、本来なら整えられる予定があるのかと震えたのだ。


 エレノアが堂々と歩き出すと、彼らは道を開ける。

 裁判所の中はすでに多くの人で埋まっていた。


 傍聴席には貴族、神官、騎士、文官たち。

 噂好きの令嬢たちの姿もある。

 誰もが公爵令嬢エレノアを見ていた。

 その背後に控える侍女マリベルを、もっと見ていた。


 裁判官席には三人の裁判官。

 中央にいる白髭の男が、王国裁判長グラントである。

 その下手側には、王国訴追官ベリオール。

 細い目をした、灰色の髪の男だった。

 嫌な笑みが似合う顔である。

 彼はエレノアを見て、薄く笑った。


「お待ちしておりました、エレノア・アルヴァイン公爵令嬢」

「本日は、事実を明らかにするため参りました」


 エレノアは一礼した。

 静かで、美しい礼だった。

 マリベルはその後ろに控える。

 鉄扇を両手で持ち、膝の前に置いた。

 裁判所中の視線が鉄扇に集まる。

 裁判長グラントが咳払いをした。


「まず、確認しておく。侍女マリベルの発言は認めない」


 裁判所全体が、わずかにざわめいた。

 マリベルは顔を上げる。

 微笑んでいた。


「承知いたしました」


 傍聴席の一部が、ほっと息を吐いた。

 だが、すぐに気づく。

 マリベルは黙っている。

 しかし鉄扇はある。

 発言は禁じられたが、鉄扇の存在は禁じられていない。

 安心できる要素が、どこにもなかった。

 裁判長は、さらに咳払いをした。


「では、審理を始める。訴追官ベリオール」

「はい」


 ベリオールが立ち上がる。

 ゆっくりと法廷を見回し、芝居がかった声で言った。


「本件は、単なる一令嬢の問題ではありません。王国秩序そのものに関わる重大な問題でございます」


 ぱき。


 マリベルの鉄扇が、ほんの少し鳴った。

 エレノアが、視線だけで制する。

 マリベルは黙った。

 裁判所の全員が、今、何かが一つ命拾いした気がした。


 ベリオールは続ける。


「公爵令嬢エレノア様の周辺では、近頃あまりにも騒動が多すぎます。騎士団詰所での騒乱。王城への強行侵入。大神殿での混乱……」


 傍聴席がざわめく。

 ベリオールは声を強めた。


「それらの中心には、常に一人の侍女がいた。マリベルという侍女です」


 視線が一斉にマリベルへ向く。

 マリベルは微笑んだまま、何も言わない。

 怖かった。


「無論、侍女一人の責任をすべて主に問うつもりはございません」


 ベリオールは、そこで一拍置く。


「しかし、主であるエレノア様は果たして本当に無関係なのでしょうか」


 エレノアは静かに立っている。

 ベリオールは近づき、わざと柔らかい声を作った。


「エレノア様。あなたは常に被害者の顔をしている。裏切られた令嬢、断罪されかけた令嬢、濡れ衣を着せられた令嬢……」


 その声は優しい。

 けれど、向けられた言葉は少しも優しくなかった。


「しかし、その背後では侍女が相手を制圧している。騎士も、王族も、神官も。これは公爵家による私的制裁ではありませんか」


 マリベルの指が、鉄扇を強く握った。

 扇の縁が、わずかに軋む。

 エレノアは一瞬だけ、その手元を見た。

 それから前を向く。


「お答えしてもよろしいでしょうか」


 裁判長が頷く。


「認める」


 エレノアは、ゆっくりと息を吸った。


「私は、マリベルの行いすべてを正しいとは申しません」


 法廷が静まった。

 マリベルは、わずかに目を伏せた。


「彼女は行き過ぎます。大変、行き過ぎます」


 傍聴席の一部が、深く頷いた。

 騎士団関係者らしき者たちは、特に強く頷いた。


「ですが」


 エレノアは続けた。


「彼女が怒った理由は、いつも私が黙って傷つこうとしたからです」


 マリベルの指が止まる。

 エレノアの声は震えていなかった。


「私は、波風を立てることを恐れました。自分が我慢すればよいのだと考えました。自分の何が悪かったのか、自分がもっと上手く振る舞えたのではないかと、先に自分を責めました」


 法廷の空気が変わる。

 誰もが、エレノアを見ていた。


「そのたびに、マリベルは私の代わりに怒ってくれました」


 マリベルは顔を上げる。

 エレノアは、ほんの少しだけ振り返った。


「マリベルは、私の代わりに怒ってくれる人です。けれど、それだけではありません」


 その一文に、マリベルの目が揺れた。


「私が、自分の痛みに気づくまで隣にいてくれる人です。私が間違っているときは、ちゃんと叱られる人です。私が立とうとするとき、後ろで支えてくれる人です」


 マリベルは何も言わなかった。

 発言を禁じられているからではない。

 言葉が出なかったのだ。


「私は、彼女のすべてを正当化するつもりはありません。けれど、彼女の怒りを、ただの暴力として片づけることはできません」


 エレノアはベリオールを見た。


「そして、私自身も、もう黙って傷つくつもりはありません」


 その声は、静かだった。

 だが、確かに法廷を打った。

 ベリオールの眉がぴくりと動く。


「美しいお言葉ですな。しかし、それで事実は変わりません。あなたの周囲では騒動が起き続けている」

「では、その騒動の事実を一つずつ確認してください」


 エレノアは即座に返した。


「騎士団で何があったのか、王城で何があったのか、大神殿で何があったのか。噂ではなく、記録と証言で」


 ベリオールの笑みが薄くなる。

 裁判長グラントが頷いた。


「証人を呼ぶ」


 最初に証言台へ立ったのは、王都騎士団長ヴィクターだった。

 かつてマリベルに騎士団員を正座させられた側の責任者である。

 黒髪の長身の男は、法廷に入っても表情を崩さない。

 ただマリベルを見た瞬間、少しだけ眉間を押さえた。


「騎士団長ヴィクター。騎士団詰所での件について証言を」

「承知した」


 ヴィクターは淡々と語った。


「当時、セドリック・ラングレーは、公爵令嬢エレノア様と将来を約束した立場にありながら、別の令嬢に不誠実な接近をしていた。さらに、その関係を軽んじる発言もした」


 ベリオールが口を挟む。


「しかし、侍女マリベルは騎士団員を制圧したのでしょう?」

「認めたくはないがな」


 ヴィクターは正直に認めた。

 騎士団関係者たちが、一斉に目を逸らす。


「だが、騎士団員が先に剣を抜いた。相手は侍女であったにもかかわらずだ」

「つまり、騎士団に非があると?」

「ある」


 即答だった。


「加えて、あの件で明らかになったのは騎士団の鍛錬不足と、身内の不祥事に対する認識の甘さだ。公爵令嬢エレノア様が王国秩序を乱したとは考えていない」


 ベリオールの顔がわずかに引きつった。


「では、侍女マリベルについては?」


 ヴィクターはマリベルを見た。

 マリベルは微笑んでいる。


「危険だ」


 法廷がざわめいた。


「だが、危険なだけではない。彼女は常に主を傷つけた理由を確認している。少なくとも事実確認をせずに剣を抜く騎士よりは冷静だった」


 騎士団関係者の一部が、さらに深く目を逸らした。



 ***



 次に証言台へ立ったのは、王太子の側近ユリウスだった。

 以前、王太子が噂だけでエレノアを断罪しようとした場にいた文官である。

 眼鏡をかけた青年は、書類の束を持っていた。


「王城での件について証言を」

「はい」


 ユリウスは実に淡々と話した。


「当時、アルベルト殿下は、男爵令嬢の涙のみを根拠にエレノア様を断罪しようとしていました」


 傍聴席がざわめく。

 ベリオールが顔をしかめる。


「涙のみ、とは言い過ぎでは?」

「記録があります」


 ユリウスは書類を差し出した。


「当時の聞き取り記録です。証拠なし、現場確認なし、日付確認なし。しかも申告された日、エレノア様は王城にいらしておりませんでした」


「……」


「マリベル殿が王城兵を正座させた件については、王城警備の問題として別途検討中です」

「別途」

「はい。主に、王城兵が侍女一人に全員正座させられた件について」


 王城関係者の一部が、顔を覆った。


「エレノア様が王国秩序を乱したとは考えておりません。むしろ、事実確認を求めたのはエレノア様側です」


 ベリオールは歯を食いしばった。



 ***



 三人目に証言台へ立ったのは、聖女リリアーナだった。

 かつてエレノアに濡れ衣を着せ、今ではなぜか彼女を信仰しかけている聖女である。

 白い聖衣をまとい、白銀の髪を揺らして歩く姿はまさに聖女そのものだ。

 だがエレノアを見た瞬間、瞳が潤んだ。


 マリベルの鉄扇が、かすかに開く。


 ぱちり。


 リリアーナはびくりと肩を跳ねさせ、慌てて視線を証言台へ戻した。


「聖女リリアーナ。大神殿での件について証言を」

「はい」


 リリアーナは、両手を胸の前で組んだ。


「わたくしは、かつて自分の弱さを認められず、エレノア様に罪を着せようとしました」


 法廷が静まる。

 聖女本人の告白である。


「浄化儀式が失敗したのは、わたくし自身の聖力の乱れが原因でした。ですが、聖女であるわたくしが失敗したと知られるのが怖かった。だから、エレノア様のせいにしようとしたのです」


 リリアーナの声は震えていた。

 しかし、逃げなかった。


「それでもエレノア様は、わたくしを断罪しませんでした」


 彼女はエレノアを見た。


「わたくしが罪を着せたにもかかわらず、立ち上がる道をくださいました。間違えたなら謝り、償えばよいと。完璧でなくとも、祈り続けることはできると」


 エレノアは静かに目を伏せた。

 リリアーナは、さらに声を強める。


「あの方を裁くなど、神への反逆に近い行いです」

「リリアーナ様、それは違います」


 エレノアが即座に言った。

 マリベルが、静かに頷く。


「いいえ、概ね正しいかと」

「マリベル」


 裁判長が木槌を鳴らした。


「侍女の発言は認めない」

「失礼いたしました」


 マリベルは深々と頭を下げる。

 そのあまりに素直な態度に、裁判長は逆に不安になった。

 ベリオールは苛立ったように袖を払う。


「感情的な証言ばかりですな。聖女様はエレノア様に心酔しておられるようだ」


 リリアーナがきりりと顔を上げる。


「心酔ではありません」


 マリベルの鉄扇が少し緩んだ。

 しかし、リリアーナは続けた。


「信仰です」


 鉄扇が再び開いた。


「リリアーナ様」


 エレノアが額に手を当てる。


「違います」

「そうでしょうか」

「違います」


 マリベルが小さく言う。


「距離が近い」

「わたくしの証言中ですのに!?」


 裁判長が再び木槌を鳴らした。


「静粛に」


 法廷は少しだけ混沌としてきた。

 ベリオールはそれを嫌うように、声を張る。


「よろしい。では、私からも証人を呼びましょう」



 ***



 証人として呼ばれたのは、痩せた中年男だった。

 名を、ローデンという。

 王城下町の商人だと名乗った。


 彼は証言台に立つと、明らかに怯えた様子で周囲を見回した。

 その視線は、マリベルを避けている。


「証人ローデン。あなたは何を見たのですか」


 ベリオールが尋ねる。

 ローデンは震える声で答えた。


「わ、私は見ました。エレノア様が、侍女マリベルへ命じているところを」


 法廷がざわめく。

 エレノアの目がわずかに細くなる。


「命じた、とは?」

「気に入らない者を脅せ、と。逆らう者は正座させてしまえ、と。王城も神殿も騎士団も、自分に逆らった罰だと……」


 マリベルの鉄扇が、ぎしりと鳴った。

 エレノアが視線だけで止める。

 マリベルは黙った。黙ったまま、証人を見た。

 証人はさらに顔を青くする。

 ベリオールは勝ち誇ったように言った。


「いかがですかな、エレノア様。これは重大な証言です」

「私はそのような命令をしたことはありません」

「しかし、この証人は見たと」

「では、いつ、どこで、誰が同席していたのかを確認してください」


 エレノアは静かに返した。

 ベリオールはローデンを見る。


「証人」

「は、はい」


 ローデンは喉を鳴らした。


「あなたは何を見たのですか」


 ベリオールに促され、ローデンは震える声で答えた。


「五日前の夕刻です。場所は、公爵家の裏門付近で……私は納品の帰りに、偶然通りかかりました」


 エレノアは静かにローデンを見る。


「そこで、何を?」

「エレノア様が、侍女マリベルに命じておられました」


 法廷がざわめいた。


「逆らう者は黙らせなさい。正座させてしまいなさい。私に恥をかかせた者には、公爵家の力を思い知らせるのです、と」


 マリベルは鉄扇を強く握りしめたまま黙った。

 裁判所中の者たちが、その沈黙にかえって緊張する。

 ベリオールは満足げに頷いた。


「なるほど。エレノア様、証人はあなたが侍女へ命令する場面を見たと申しております」

「私は、そのような命令をしたことはありません」

「ですが、証人は日時と場所まで明言している」


 ベリオールの声が強くなる。


「五日前の夕刻、公爵家の裏門。あなたはそこにいなかったと証明できますかな?」


 エレノアは一瞬、言葉を止めた。


 五日前。

 エレノアは、その日を覚えていた。

 大神殿から届いた報告書を、応接室で確認していた日だ。

 先ほど証言を終えたリリアーナも、その日は正式な謝罪と報告のため、公爵家を訪れていた。

 けれど、それだけでは弱い。

 公爵家の使用人の証言は、身内の証言と見なされるだろう。

 リリアーナの証言も、先ほどベリオールに「エレノア様に心酔している」と印象づけられたばかりだった。


 事実はある。

 だが、この場で事実として通すには、まだ足りない。


 エレノアは静かに答えた。


「その日、私は大神殿からの報告書を確認しておりました」


 リリアーナが証言台から身を乗り出す。


「はい。その日は、わたくしも公爵家へ謝罪と報告に伺っておりました。エレノア様は――」

「聖女様」


 ベリオールが遮った。


「あなたのエレノア様への敬意は、先ほどから十分に伝わっております」


 嫌な言い方だった。


「ですが、今は裁判です。信仰心ではなく、客観的な証拠が必要なのですよ」


 リリアーナは唇を噛んだ。

 法廷の空気が、少しずつ傾いていく。

 ベリオールはさらに畳みかけた。


「公爵家の使用人は主人を庇うでしょう。聖女様はエレノア様を崇めておられる。ならば、第三者である証人ローデンの証言は、非常に重い」


 裁判長グラントも眉をひそめていた。


「エレノア嬢。五日前の夕刻、公爵家の裏門付近にいなかったことを示す記録はありますか」


 エレノアは答えようとした。

 しかし、その前に傍聴席から小さなざわめきが起きる。


 不利だ。


 誰かが、そう囁いた。

 マリベルの指が、鉄扇の縁を強く握る。

 今すぐ立ち上がりたい。

 今すぐ、あの偽証人を問い詰めたい。

 けれど、ここで暴れれば、お嬢様が不利になる。

 マリベルは息を吸った。

 ゆっくりと。

 深く。

 そして、静かに手を上げた。

 裁判長が即座に警戒する。


「侍女の発言は認めない」

「承知しております」


 マリベルは、完璧な笑顔で頭を下げた。


「発言ではなく、証拠品の確認をお願いしたく存じます」

「証拠品?」

「はい」


 法廷中の視線が、マリベルに集まる。

 マリベルはローデンを見た。

 正確には、彼の右袖を見ていた。


「証人ローデン様の右袖の内側に入っている金貨袋でございます」


 ローデンの顔から、血の気が引いた。

 ほんの一瞬だった。

 だが、裁判長も、ユリウスも、ヴィクターも、その変化を見逃さなかった。

 ベリオールが声を荒げる。


「侍女風情が、何を根拠に!」

「根拠は、証人様の右腕の動きでございます」


 マリベルは静かに答えた。


「証言のたびに、右袖を押さえておられました。さらに、袖口が不自然に重く垂れております。布の沈み方から見て、中に硬貨の入った袋があるかと」

「憶測だ!」

「はい。ですので、確認をお願いしております」


 マリベルはにこりと微笑んだ。


「私は侍女ですので、布の重みには少々詳しゅうございます」


 裁判長グラントが衛兵へ目を向けた。


「確認せよ」

「ま、待て!」


 ローデンが後ずさる。


「これは違う! これは、その、商売の金で……!」


 マリベルが小さく首を傾げる。


「まあ」


 その声は穏やかだった。


「私はまだ、金貨袋としか申し上げておりません」


 ローデンの口が閉じた。

 衛兵が彼の袖を調べる。

 右袖の内側から、ずしりと重い金貨袋が出てきた。

 法廷がどよめく。

 ユリウスが静かに眼鏡を押し上げた。


「裁判長。その金貨袋の封蝋をご確認ください」


 衛兵が袋を差し出す。

 袋の口には、灰色の蝋がわずかに残っていた。

 マリベルはベリオールの机の上へ視線を向ける。


「王国訴追官ベリオール様の書類封蝋と、同じ色に見えます」


 ベリオールの顔が強張った。


「偶然だ!」

「では、偶然かどうか、調べればよろしいかと」


 マリベルは深々と頭を下げた。


「発言を禁じられておりますので、私はここまでにいたします」


 そして、本当に黙った。

 その沈黙が、何より雄弁だった。

 裁判長グラントの声が低くなる。


「証人ローデン。その金貨は、誰から受け取った」

「そ、それは……」

「答えよ」


 ローデンの膝が震えた。

 ベリオールが何か言おうと口を開く。

 その前に、ヴィクターが低く言った。


「偽証の疑いがある。証人を保護し、金貨袋を押収すべきだ」


 ユリウスも頷く。


「封蝋、金貨の刻印、袋の出どころを調べれば、買収の経路は追えます」


 リリアーナは胸の前で手を組んだ。


「偽りの証言でエレノア様を陥れようとするなど、神殿であれば聖鎖案件ですね」


 法廷の流れは完全に変わっていた。

 先ほどまでエレノアを追い詰めていた証言は、今や偽証の疑いを帯びていた。

 そして、誰もが理解していた。

 マリベルは、黙っていたのではない。

 ずっと見ていたのだ。


 裁判長グラントは、厳しくベリオールを見た。


「訴追官ベリオール。説明を」

「わ、私は知らない。そんな金貨袋など」


 ベリオールは汗を拭った。

 そのとき、傍聴席の奥から立ち上がる男がいた。

 ダルガン侯爵。

 反公爵派の中心人物として知られる貴族である。


「茶番だな」


 低い声だった。

 法廷の空気が変わる。

 ダルガン侯爵は、冷たい目でエレノアを見る。


「公爵家はいつもそうだ。清廉な顔をして、裏ではすべてを支配する。騎士団も、王城も、神殿も、気づけば公爵家に頭を下げている」

「事実と違います」


 エレノアは、わずかに眉を寄せる。

 怒鳴り返しはしなかった。

 侮辱に顔を赤くすることもなかった。

 ただ目を逸らさずに、静かに否定した。


「違わない」


 ダルガン侯爵は唇を歪める。


「その侍女が証拠だ。貴様らは武力を使って王国の要所を脅した。ならば、今日ここで裁かれるべきだろう」


 裁判長が声を上げる。


「ダルガン侯爵。発言を控えよ」

「黙れ」


 その一言で、法廷の入口にいた数人の男たちが動いた。

 護衛ではない。

 ダルガン侯爵の私兵だった。

 彼らは外套の内側から短剣を抜く。

 傍聴席から悲鳴が上がった。

 狙いは、エレノア。

 裁判で勝てないなら、混乱の中で傷つける。

 あまりにも愚かで、あまりにも醜い手段だった。

 マリベルが、静かに立ち上がる。


「マリベル」


 エレノアが言った。

 その声は、止めるためのものではなかった。

 マリベルは振り返る。


「はい、お嬢様」

「ここは裁判所です」

「はい」

「やりすぎてはいけません」

「承知いたしました。法に触れない範囲で整えます」

「その言い方がもう不安なのだけれど」


 マリベルは鉄扇を開いた。

 黒い扇面に、金文字が輝く。


『お嬢様第一』


「では、全員正座で」


 その瞬間、マリベルの姿が消えた。


 ぱん。


 一人目の短剣が飛んだ。


 ぱん。


 二人目の手首から力が抜ける。


 ぱん。


 三人目が膝裏を払われ、その場に正座する。


 四人目は背後に回ろうとしたが、いつの間にか法廷の仕切り紐で椅子に括られていた。


「なぜ裁判所の紐で!?」

「備品は有効活用いたします」


 マリベルは涼しい顔で言った。


「次の方」

「次の方ではない!」


 私兵たちが一斉に動く。

 だがその前に、法廷の空気が白く光った。


「聖獣アルシオン!」


 リリアーナの声が響く。

 白銀の聖獣が、光の中から姿を現した。

 聖獣はエレノアの前に立ち、低く唸る。

 その威圧だけで、私兵たちの足が止まった。

 さらにリリアーナが両手を掲げる。


「聖鎖よ、エレノア様に害なす者を縛りなさい!」


 金色の鎖が法廷に走った。

 短剣を持った私兵たちの腕を縛り、足を絡め取り、逃げようとしたローデンの腰にも巻きつく。


「ぎゃっ!」


 ローデンが転んだ。

 ダルガン侯爵が歯を食いしばる。


「聖女まで、公爵家に取り込まれたか!」


 リリアーナは胸を張った。


「取り込まれたのではありません」


 マリベルの鉄扇が、少しだけリリアーナへ向く。

 リリアーナは続けた。


「救われたのです!」


 マリベルは一瞬だけ考えた。


「……その表現ならば、許容範囲でございます」

「ありがとうございます!」

「ただし、距離が近い」

「戦闘中ですのに!?」


 エレノアが額に手を当てた。


「二人とも、今はそこではありません」


「はい、お嬢様」

「はい、エレノア様」


 マリベルとリリアーナは同時に返事をした。

 その間にも、私兵たちは次々に正座させられていく。

 ヴィクターは騎士団長として即座に動き、裁判所の衛兵へ指示を出した。


「入口を固めろ。逃がすな」


 ユリウスは落ち着いて書類を確保していた。


「金貨袋、封蝋、証人の発言記録。すべて押収すべきですね」


 裁判長グラントは、木槌を握ったまま呆然としていた。

 気づけば、法廷の中央には正座の列ができている。


 私兵。

 偽証人。

 ベリオール。

 そして、ダルガン侯爵。


 ダルガン侯爵は正座させられたまま、怒りで顔を赤くしている。


「こんな屈辱が許されると思うのか!」


 マリベルは微笑んだ。


「正座は刑罰ではございません」

「では何だ!」

「姿勢でございます」

「ふざけるな!」

「反省に適した姿勢でございます」


 裁判長が、なぜか自分も正座しかけた。

 隣の裁判官が慌てて止める。


「さ、裁判長は正座する必要はありません!」

「そっ、そうか」


 法廷は、しばらく混乱した。

 原因は明白だった。


 偽証。

 買収。

 反公爵派による政治的陰謀。

 そして、裁判所内での武力行使。

 もはやエレノアを裁く場ではなかった。

 裁くべき相手は全員、正座していた。


 裁判長グラントは重々しく木槌を鳴らす。


「静粛に」


 木槌の音が、法廷に重く響いた。

 ざわめきが、すっと引いていく。

 傍聴席も、証人席も、誰一人として身じろぎしない。

 すべての視線が、裁判長へ注がれた。


 エレノアは背筋を伸ばした。

 マリベルは、その隣に控える。

 鉄扇は閉じていた。


「判決を言い渡す」


 裁判長が木槌を置く。

 エレノアは逃げずに顔を上げ、マリベルはその隣で、鉄扇を握る手にだけ力を込めた。


「エレノア・アルヴァイン公爵令嬢に対する、王国秩序を乱した疑い、ならびに侍女マリベルの暴走に対する監督責任について、いずれも罪なしとする」


 傍聴席がざわめく。

 裁判長は続けた。


「また、本件には偽証および買収、反公爵派による政治的意図が認められる。王国訴追官ベリオール、証人ローデン、ならびにダルガン侯爵については、別途厳正に審理する」


 ダルガン侯爵が何か叫ぼうとした。

 だが、首に絡まった聖鎖がそれを許さなかった。


「加えて」


 裁判長は、少しだけ疲れた顔でマリベルを見た。


「裁判所内での正座の強要については」


 マリベルは微笑む。


「姿勢でございます」

「……裁判所として、今後規定を整備する」


 法廷に、何とも言えない沈黙が落ちる。

 エレノアは、深く一礼した。


「公正なご判断に感謝いたします」


 マリベルも一礼した。


「お嬢様に罪なしとのご判断、たいへん賢明に存じます」


 裁判長は聞かなかったことにした。

 発言は認められていない。

 認められていないはずである。



 ***



 裁判が終わり、法廷から人々が出ていく。

 ベリオールたちは衛兵に連れていかれた。

 ダルガン侯爵も、なお正座の痺れに苦しみながら拘束される。


「エレノア様!」


 無罪の裁定が下された安堵から、リリアーナは思わず駆け寄ろうとした。

 だが半歩踏み出したところで、マリベルと目が合う。


 にこり。


 笑っている。

 とても、きれいに。

 リリアーナは、そっと足を戻した。


「大変よろしい」

「マリベル、聖女様を訓練しないで」

「成長が早くていらっしゃいます」

「そこではありません」


 エレノアは小さく笑った。

 その笑顔を見て、リリアーナは両手を組み、祈るように目を潤ませる。

 マリベルが鉄扇を少し上げた。

 リリアーナは半歩下がった。

 成長していた。



 ***



 裁判所の長い廊下を出る頃には、夕陽が石の床を赤く染めていた。

 エレノアは扉の前で足を止める。

 隣に立つマリベルを見る。


「マリベル」

「はい、お嬢様」

「今日はよく我慢したわね」


 その一言で、マリベルは動きを止めた。

 鉄扇を握る手がほんの少し緩む。


「……お嬢様のためでございます」


 声は小さかった。

 いつものような絶叫でも、脅しでも、強気な返答でもない。

 鉄扇を振るうより、ずっと難しいことをした者の声だった。

 エレノアは微笑む。


「ええ。ありがとう」


 マリベルは目を伏せた。

 崩れ落ちそうになった。

 だが耐えた。

 侍女なので。


「もったいなきお言葉でございます」

「でも、最後は少し暴れたわね」

「襲撃されましたので」

「そうね」

「法に従いました」

「そうかしら」

「やりすぎてはいません」

「そこは褒めます」


 マリベルは、ぱっと顔を上げた。


「お嬢様が、私をお褒めに」

「ただし、裁判所で正座の列を作った件についてはお説教です」

「はい」

「長いお説教です」

「はい」

「裁判所なので、かなり長いです」

「はい」

「反省している?」

「お嬢様を害そうとした者を正座させた件については、反省いたしかねます」

「マリベル」

「ですが、裁判長を正座させなかった点については、お褒めいただけるかと」

「危なかったの?」

「少々」

「褒めません」


 エレノアは呆れたように言った。

 けれど、その口元は柔らかかった。

 マリベルの胸の奥が温かくなる。


 お嬢様が笑った。

 ならば、今日の戦も勝利である。



 ***



 後日。

 王国裁判所には、新たな注意書きが掲げられた。


 一つ。

『涙は証拠ではない。噂も証拠ではない』


 一つ。

『公爵令嬢エレノア・アルヴァイン様を裁く場合、まず事実を確認すること』


 一つ。

『侍女の発言を禁じる場合、鉄扇の所在を確認すること』


 一つ。

『正座は刑罰ではない。ただし、精神的損耗が大きいため注意すること』


 裁判長グラントは、最後の一文を消そうとした。

 だが、裁判所の衛兵たちが一斉に首を横に振った。

 消してはならない。

 これは規則ではなく、安全対策である。



 ***



 一方、公爵家では王国裁判所から正式な謝罪状が届いていた。

 公爵はそれを読み、静かに頷く。


「エレノア、よく頑張ったな」

「ありがとうございます。お父様」


 エレノアは穏やかに微笑んだ。

 その後ろで、マリベルは誇らしげに胸を張っている。

 公爵は次にマリベルを見た。


「マリベル」

「はい、旦那様」

「よく我慢した」

「……恐れ入ります」


 マリベルは深く頭を下げた。

 その姿を見て、老執事が小さく頷く。

 若い従僕は感動しかけた。

 マリベルさんも、成長したのだ。

 そう思った。

 そう思った直後だった。

 玄関ホールの方から、慌ただしい足音が響いた。


「申し上げます!」


 若い従僕が駆け込んでくる。

 別の若い従僕である。

 彼は青ざめた顔で叫んだ。


「お嬢様宛てに、隣国の大使館から抗議文が!」


 マリベルの顔が、すっと静かになった。

 公爵家の空気が止まる。

 エレノアがすぐに言う。


「マリベル」

「はい、お嬢様」

「まだ内容を確認していません」

「はい」

「まだ怒ってはいけません」

「はい」


 マリベルは深く息を吸った。

 そして、完璧な笑顔で言った。


「内容を確認してから、適切に対応いたします」


 屋敷中の使用人たちは思った。

 適切。

 それは、マリベルにとって大変危険な言葉である。


 そして今日も、公爵家で彼女の声が響く。


「お嬢様ああああああああああああああああ!!!!」


 それは、もはやエレノアを呼ぶ声ではない。

 公爵家における、非常事態発生の合図である。


 屋敷中の使用人が、一斉に手を止めた。

 老執事は何も聞かず、ただ静かに頷く。


「馬車を用意しなさい。あと、公爵様にご報告を……いや、今回は最初からおいででしたな」


 公爵は静かに紅茶を置いた。


「ああ。聞いている」


 そばにいた従僕が、震える声で尋ねる。


「今回は……裁判所ではないですよね?」


 老執事は遠い空を見た。


「まだ分からん」


 公爵家の者たちは、もう誰も理由を尋ねない。


 お嬢様が呼ばれた。


 ならば、戦である。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


お嬢様第一侍女マリベルのお話は、他にもあります。

気に入っていただけましたら、第一作目の「お嬢様ああああああああああああああああ!!!!」もぜひ読んでみてくださいね。


また、7月5日の18時頃に第6作目の「番外編:お嬢様が魔王に攫われたですって!? ぶっ殺してやりますわああああああああああああああああ!!!!」を投稿予定です。ぜひこちらも読んでみてくださいね。


面白かった、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマーク・評価・いいね・感想などで応援していただけると励みになります。

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また、皆様の応援のおかげで、なんと小説書籍化企画とアンソロジーコミック企画が進行中となりました!

いつも評価・ブックマーク・感想などで応援してくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。


詳しい情報は、公開できる時期になりましたら改めてお知らせいたします。


これからも、お嬢様とマリベルを楽しんでいただけるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
必ず最後に侍女は勝つ〜!
続編ありがてぇ…(。-人-。) 以前の行間の使い方と変わってとてもスッキリと読みやすくなったな。という印象です。 内容は…今回は正座はなしかぁと少し諦めてましたが、正座の件があって心でガッツポーズでし…
ダル感(←わざとです)侯爵、隣国と繋がってる売国奴か?
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