天啓 終案④
シャツに沁みついた彼の匂いを楽しんでた。潮風が運ぶ懐かしいあの香りに負けるとも劣らず、私はとっても嬉しくなって彼の背中に頬ずりしたの。
「なんだっ。変なにおいするか。」
「うん。変なにおい。」
「おい、おっさんには刺さるぜ、その一言。」
「うん。変なにおい、あなたの。私の好きな。」
「…そうか。」
バイクは海辺を走った。カードレールを隔てて、夏の始まりの風が私の髪を揺らす。
「随分長くなっちゃった。」
いつしか短く切り落としたそれも、とうとう、抑えられない、隠しきれない色になってた。それが、大人になる、ということだった。
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サンダル踏み倒すように、砂浜を駆けた。あなたは、苦笑しながらも追いかけるでしょう。
「キャッ。」
そして私はわざと砂浜に倒れる。足を引っかけたかのように。思わず蹴躓いたかのように。
「はは、何やってんだ。砂まみれだぞ。」
だから私は服を脱ぎ棄て、海に走り出した。
「あなたもおいでよー!きもちぃーよー!」
腕を振る私に、あなたはまた、苦笑いしながら自分も服を脱ぎ去って、海に飛び込むでしょう。
ああ、遊び疲れたら、二人砂浜に倒れ込もう。そして、誰もいない砂浜でゆっくり愛を語り合いましょう。
「ねぇ、世界か私かだったらどっちを選ぶ。」
「お前だ。」
「キャッ。」
迷いない顔で即答され、本当に照れてしまった。
「じゃあ、お前は、世界と俺、どっちに愛されたい。」
「世界ね。」
あなたはでも、やっぱりって、悲しい顔をするでしょう。私はでも、あなたに愛されて世界に殺されるより、世界に愛されてあなたに殺されたい。それって、
「それこそ、愛でしょ。」
そう言うと、笑顔を作って、けれどあなたは眉を顰めたまま、私に上乗りになるの。
「またね、白馬の王子様。」
ありがとう。この十年間、あなたのおかげで最高の人生でした!
あとがき
夜は冷える。特に海辺は。服を着て、木を集め、火を焚き、キャンプファイヤーの要領で火力をあげ、彼女をそこに横たえた。腐る姿は見たくなかったので、火葬することにした。嗚呼、火力が強すぎて瞬く間に肉はチリと消え、綺麗に骨だけが残った。小さかった。その骨は。
「…じゃあな、我が愛。」
いつしか、どこかで、あの日の生活の続きをしよう。




