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天啓

天啓 終案④ 

掲載日:2026/05/11

シャツに沁みついた彼の匂いを楽しんでた。潮風が運ぶ懐かしいあの香りに負けるとも劣らず、私はとっても嬉しくなって彼の背中に頬ずりしたの。

「なんだっ。変なにおいするか。」

「うん。変なにおい。」

「おい、おっさんには刺さるぜ、その一言。」

「うん。変なにおい、あなたの。私の好きな。」

「…そうか。」

バイクは海辺を走った。カードレールを隔てて、夏の始まりの風が私の髪を揺らす。

「随分長くなっちゃった。」

いつしか短く切り落としたそれも、とうとう、抑えられない、隠しきれない色になってた。それが、大人になる、ということだった。


——————。

サンダル踏み倒すように、砂浜を駆けた。あなたは、苦笑しながらも追いかけるでしょう。

「キャッ。」

そして私はわざと砂浜に倒れる。足を引っかけたかのように。思わず蹴躓いたかのように。

「はは、何やってんだ。砂まみれだぞ。」

だから私は服を脱ぎ棄て、海に走り出した。

「あなたもおいでよー!きもちぃーよー!」

腕を振る私に、あなたはまた、苦笑いしながら自分も服を脱ぎ去って、海に飛び込むでしょう。

 ああ、遊び疲れたら、二人砂浜に倒れ込もう。そして、誰もいない砂浜でゆっくり愛を語り合いましょう。

「ねぇ、世界か私かだったらどっちを選ぶ。」

「お前だ。」

「キャッ。」

迷いない顔で即答され、本当に照れてしまった。

「じゃあ、お前は、世界と俺、どっちに愛されたい。」

「世界ね。」

あなたはでも、やっぱりって、悲しい顔をするでしょう。私はでも、あなたに愛されて世界に殺されるより、世界に愛されてあなたに殺されたい。それって、

「それこそ、愛でしょ。」

そう言うと、笑顔を作って、けれどあなたは眉を顰めたまま、私に上乗りになるの。

「またね、白馬の王子様。」

ありがとう。この十年間、あなたのおかげで最高の人生でした!


あとがき

夜は冷える。特に海辺は。服を着て、木を集め、火を焚き、キャンプファイヤーの要領で火力をあげ、彼女をそこに横たえた。腐る姿は見たくなかったので、火葬することにした。嗚呼、火力が強すぎて瞬く間に肉はチリと消え、綺麗に骨だけが残った。小さかった。その骨は。

「…じゃあな、我が愛。」

いつしか、どこかで、あの日の生活の続きをしよう。


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