第1話 転生したら死にゲーの草原だった件
第1話 転生したら死にゲーの草原だった件
草の匂いがした。
風が頬を撫で、鳥の声が遠くで響く。
「……あれ? 俺、寝落ちしたんだっけ?」
阿蘇辺聡太、二十五歳。しがない事務職サラリーマン。
趣味はゲーム。というか、人生の大半をゲームに捧げてきた男だ。
昨夜は 新作アクションゲーム、群青の砂丘で
レア武器集めしてたはずなんだけど……
今 視界いっぱいに広がるのは、見たこともないほど鮮やかな草原。
ゲームのオープンワールドみたいだが、グラフィックが良すぎる。
いや、リアルすぎる。
アソベは上体を起こし、周囲を見回した。
「……これ、ゲームじゃないよな? UI出ないし。メニューも開けないし。
てか、ステータス画面どこ?」
手を振る。
ジャンプする。
スライディングしてみる。
――何も起きない。
「おかしいな。普通こういうのって、チュートリアルのお姉さんが出てくるはずなんだけど。
まあ夢ならこんなもんか。
せっかくだから目が覚めるまで楽しむとするか」
その瞬間、背後の茂みがガサッと揺れた。
アソベは反射的に構える。
ゲームで鍛えた反応速度は本物だ。
「来るか……初戦闘か……!
大丈夫、理論上は勝てる。理論上は。夢だし」
茂みから飛び出してきたのは――
牙をむいた巨大なウサギだった。
「……あっ、これ見たことある。
このサイズ、この模様、この跳躍力……
アルダンソング序盤の“殺意ウサギ”じゃん!!」
アソベの顔色が一気に青ざめる。
アルダンソング。
死にゲー。
初見殺し。
パターン暗記必須。
そして――序盤のウサギが普通にプレイヤーを殺しにくることで有名なゲーム。
「いやいやいや、なんでよりによってアルダンソングなんだよ!?
俺、あれだけは“ゲームだからギリギリ楽しめた”タイプなんだが!?」
ウサギは跳躍し、アソベに襲いかかる。
アソベは必死に転がって避けた。
避けた……が、着地に失敗して派手に転ぶ。
「いってぇ……! 俺、夢の中でもこんなに運動できないのかよ!」
ウサギが再び跳ぶ。
アソベは咄嗟に地面の石を掴み、投げつけた。
カンッ!
偶然にもウサギの額に命中し、ウサギはそのまま気絶した。
アソベは肩で息をしながら呟く。
「……ギリギリでも勝ちは勝ちだし」
しかし、勝利の余韻に浸る暇はなかった。
草原の奥から、低い唸り声が響く。
「……やっぱりここ、アルダンソングの世界だ。
この草原、敵配置、地形……全部覚えてる。
てことは――」
アソベの視界の端に、淡い光が揺れた。
文字が浮かび上がる。
――《HP:9%》
「……は? 俺、もう瀕死なの?」
アソベは青ざめた。
そして、次の瞬間。
視界が一瞬だけスローモーションになった。
風の流れ、草の揺れ、遠くの気配――すべてが“解析”されるように見える。
「……なんだこれ。
まさか、俺の固有スキル……?」
だが、その“閃き”は一瞬で消えた。
「いや、消えるの早すぎだろ!!」
アソベは叫びながら、草原の奥へと走り出した。
HP9%のまま。
「……でも、まだ希望はある。
アルダンソングの序盤には、プレイヤー救済用の武器があったはずだ。
そう、あの――」
アソベは草原の向こうを指差した。
「特大剣 ビッグソード!
あれさえ手に入れば、序盤の難易度が一気に下がる……はず!」
唸り声はどんどん近づいてくる。
「よし、決めた。
死にゲーの世界で死にたくないなら、まずはビッグソードだ!
目が覚めるまで遊びつくしてやる!!」
アソベは瀕死のまま、草原を駆け抜けた。
そして彼はまだ知らなかった。
この世界が夢ではなく――
彼の“人生そのもの”を変える旅の始まりだということを。




