夕暮れの騎士 ~むっくんルート寄り~
「ひーろし、かーえろっ」
「すまない、ゆいこ。今日は委員会があるんだ」
「じゃあ、たくみは?」
「ちょっち待ち。借りた本返す」
一緒に帰ろうと二人の教室を訪ねると、残念ながらひろしは委員会の会議だった。たくみが図書室に用があるなんて珍しいと思ったら、古典で課題がでていたしかたなくらしい。
「教科書に載ってない一首で、ってえげつなくね?」
「古典の先生、百人一首好きだもんね」
図書室への道すがらぼやくたくみに同情しつつ、私も来年は同じ課題がだされるかもしれないから覚悟する。和歌が多いのは二年になってからだ。
着いた図書室で、同じ利用者に見知った人物を見つけた。
「あれ? むっくん?」
「ゆいこ姉ちゃん」
「なんで、むさしがいんだよ?」
「中高共有なの、知らないの? たくみは図書室使ったことないから知らないのか」
「相変わらず、可愛くねぇヤツだな」
いとこ同士だから遠慮ない物言いの二人が可笑しくて、つい笑みが零れる。
「かなちゃんは一緒じゃないの?」
「中学になってまで姉貴にべったりしないよ」
私がよく遊んでいたもう一人のたくみのいとこ、かなちゃん。小さい頃はむっくんと会うときはかなちゃんとセットだったから、つい訊いて、むっくんから呆れた声が返る。
たくみが本を返却しているのを待っている間、むっくんの用を訊くと読む本を探しにきたらしい。しかも、探しているのはミステリーだという。
「ミステリー小説に興味持ってくれて嬉しいな! おすすめした甲斐があるーっ」
好きなジャンルを気に入ってくれたのを私がはしゃぐと、むっくんは伏せた視線を少し逸らした。
「あーっ、こんなトコにいた! たくみ、バスケの練習試合の助っ人してくれんじゃなかったのかよ!?」
「ヤベっ、今日だっけ」
バスケ部員が探していたたくみに怒鳴る。うっかりしていたらしいたくみは、一緒に帰れないことを私に詫びて、バスケ部員に引っ張られていった。
ひろしともたくみとも帰れなくなって、私はすぐに帰らなくてもいい気分に変わる。
「むっくん、選ぶの手伝うよ。オススメいっぱいあるんだー」
「……じゃあ、お願い」
「まかせて!」
新刊コーナーにあるのだけじゃなく、好きな作家先生のまであれやこれや紹介していたら、あっという間に時間がすぎた。図書室のある特別棟をでたときには、もう夕焼け空だった。
「時間かかっちゃってごめんね」
「別に。頼んだの、こっちだし」
好きな本のことを話すのが楽しすぎた。むっくんが聞いてくれるものだから、余計、饒舌になってしまった気がする。たくみだったらこうはいかない。絶対途中で茶化してくる。
たくさん薦めすぎたかと思ったけど、むっくんは紹介したなかから二冊借りてくれた。
校門を通り、角を曲がるとむっくんも同じ方向に曲がった。
「あれ? むっくんの家あっちじゃない?」
私がこてりと首を傾げると、こちらを見ずにぶっきらぼうにむっくんは返す。
「送る。女のひとり歩きは危ないし」
不意打ちで女の子扱いされ、なんだか照れてしまう。目線の高さが近くなっていることに気付いたから、余計。
「たっ、頼もしいー! むっくん、大きくなったもんね。背だって……」
あんまり変わらない、と手をかざして、残り数センチの差を示そうとしたら、その手を掴まれる。
「すぐ追い抜かす。覚悟してろよ、ゆいこ」
逸らされがちだった眼差しに射貫かれ、私の胸が鳴った。むっくんは、そんな私を見て、不敵に笑う。
「たくみだって抜かすかもな」
「そう簡単に抜かされるかよ」
がしりとむっくんの頭部を掴んで、上から圧をかけるたくみ。なんでか息があがってる。
「たくみ!? バスケの練習試合は?」
「そっこーで終わらせてきた」
ひとりで帰るとちゃんと伝えていなかったから、私が待っている可能性もあると心配して追いかけてきてくれたらしい。
「まーだゆいこよりチビなお前じゃ騎士にゃ力不足だっての。オレに任せておけって」
そう言って私の肩を引き寄せるたくみ。
「ちょっと走ったぐらいで息切れてるたくみの方が力不足だっての」
たくみを睨み上げ、私の手を引くむっくん。
反発しあって二人とも放してくれないから、帰り道の間、私はどっちに胸が高鳴っているのか分からなるのだった。





