五十番目
怪談を書き溜めるようになって、どれくらい経ったのかは覚えていない。
気がつけば数だけが増え、一覧には番号が並んでいた。四十を越えたあたりから、ひとつひとつを振り返ることもなくなり、ただ書いて、並べて、次へ進む。それだけの作業になっていた。
五十話目に差しかかったときも、特別な感慨はなかった。節目だな、とは思ったが、それ以上でも以下でもない。番号を振り、いつも通り本文を書き、保存した――はずだった。
確認のために、五十話目を読み返した。
文章はそこにあった。行も段落も整っている。冒頭から最後まで、確かに読んだ。読み終えた、という感触もある。
だが、何が書いてあったのかが、どうしても思い出せなかった。
怖かったのかどうかもわからない。
怪談として成立していたのかさえ、判断がつかない。
「つまらなかった」「面白かった」といった感想すら浮かばない。ただ、読んだ、という事実だけが残っている。
おかしいと思い、四十九話目を開いた。内容はすぐに思い出せた。どんな怪異で、どこが怖かったのかも説明できる。
念のため、五十一話目――五十を飛ばして次に書いた話も読み返した。こちらも問題ない。普通の怪談だ。
五十話目だけが、抜け落ちている。
削除したわけではない。空白でもない。
番号も、文章も、確かに存在しているのに、内容だけがこちらに残らない。
そのとき、ふと妙な考えが浮かんだ。
五十話目は、読むための話ではないのではないか。
それまでの四十九を「怪談」として成立させるために、ただ番号だけを与えられた、場所のようなものなのではないか、と。
理由はわからない。確信もない。
だが、そう考えた瞬間、五十話目の中身を知りたいという気持ちは、すっと消えていた。
今も五十話目は、そのまま残してある。
番号も、文章も、何ひとつ変えていない。
内容は、相変わらず思い出せない。
怖かったかどうかも、覚えていない。
ただ、
読まなければよかった気がしている。
これにて、怪談短編帳は五十話で一区切りとなります。
すべてが怖かったわけでも、
すべてに説明がついたわけでもありません。
けれど、どこか一話でも記憶に残っていれば幸いです。
では、ひとまずこれにて。
変なことにお付き合いいただき、かたじけない。




