誰が回すのか
我が家は築四十年を超えている。
軋む床、薄い壁、冬になると隙間風が入る。
不便といえば不便だが、長く住んでいると愛着も湧くものだ。
リビングのドアだけは昔ながらの、丸い金属のノブを回して開けるタイプだった。
ある日、外に出ようとしてドアノブを握り、ゆっくり回した。
その瞬間、向こう側からも回す“手応え”を感じた。
軽いけれど、確かにそこに“誰かの指”が重なっているような感触だった。
玄関側には誰もいない。
風のせいだろうかと、無理に自分を納得させた。
それからというもの、ドアノブを回すたびに、
わずかに遅れて向こう側からも回された。
まるでこちらの動きを真似して返してくるようだった。
日がたつにつれ、そのタイミングが少しずつずれていった。
こちらが回していないのに、わずかにノブが揺れる日もあった。
気のせいだと思いたかった。
ただの古い家の癖だと、自分に言い聞かせていた。
昨夜、ソファに座ってニュースをぼんやり見ていたとき、
ふと視界の端で何かが動いた気がした。
リビングのドアノブだった。
誰も触れていないのに、金属がかすかに光を揺らす。
目を向けると、ノブはゆっくり、ゆっくりと回りはじめていた。
押されている気配はない。
ただ、静かに回っている。
まるで向こう側にいる“何か”が、こちらの出方を伺っているように。
ノブの向こうは、ただの廊下だ。
そこにいるはずのない何かが、こちらへ入ってこようとしている。
喉がひりつくように乾いた。
立ち上がることもできず、ただ見つめるしかなかった。
ノブはゆっくりと、もう一段深く回った。
何が入ってくるんだろう。
そう思ったところで、視線を外すことができなくなった。




