表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/50

最後の感情

歯を磨くと、笑いがこみあがった。

別に面白いことなどないのに、喉の奥が勝手に震えた。

次の日は急に泣きそうになった。

歯ブラシを替えても同じだった。

磨くたびに押し寄せる感情は、その日の気分とは無関係だった。


寂しさ、焦り、虚しさ。

理由のわからない情動が勝手に波のように押してくる。

それでも歯を磨くのをやめるわけにはいかない。

歯ブラシに振り回される奇妙な日々を、いつしか受け入れていた。


ある日、歯を磨いている最中、

胸の奥から突き上げるような強烈な怒りが湧いた。

笑いでも涙でもない。

はっきりとした、熱を帯びた怒りだった。


気づけば銃を手に取っていた。

怒りの対象は思い出せなかったが、

湧き上がる衝動だけは確かに胸に残っていた。

どうせまた“あの感情の流れ”なのだろうと、

深く考えもせず玄関へ向かった。


鏡の前を通りかけて、ふと足が止まった。


映った自分の顔が、妙に遠く感じられた。

この数日、押しつけられるように流れ込んだ感情の跡が、

すべてその顔の奥に沈んでいた。

そして、胸の奥で燃えている怒りだけは、

どこにも行き場のない、自分自身のもののように見えた。


ああ。


胸の底に静かに答えが落ちた。


こいつか。


ゆっくりと銃口を顔へ向ける。

その瞬間、鏡の中の自分が、

かすかに笑った気がした。


指が、引き金に触れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ