手放せないタオル
風呂上がりにいつものタオルで顔を拭いた。
白い綿の、少し古びたやつだ。特にお気に入りってわけでもない。
ただ、何となく手に取る。手触りがしっくりくるから。
最初に違和感を覚えたのは、ある夜だった。
汗を拭こうとタオルを首に当てた瞬間、手が勝手に動いた。
そのままタオルを首に巻きつけて、強く締めつける。
慌ててほどこうとしても、指が言うことを聞かない。
視界が狭まっていき、息が苦しくなる。
やっと手が離れたとき、床にしゃがみ込んでしばらく咳き込んだ。
夢かと思った。けれど、首には赤い痕が残っていた。
怖くなって、翌朝そのタオルをゴミ袋に放り込んだ。
それでも夜になると、洗濯かごのいちばん上にきちんと畳まれて戻っていた。
母に聞いても、「そんなタオル、見てないわよ」と言う。
誰も片付けていないのに、戻ってくる。
何度も捨てた。
ハサミで裂いて、燃えるゴミに出しても、
一週間もすれば洗面所にちゃんと干してある。
清潔そうで、柔軟剤の匂いまでする。
まるで「ちゃんと使って」と言いたげに。
使わなければいいと思った。
けれど、風呂上がりに手を伸ばすと、無意識にそのタオルを掴んでいる。
別のタオルを選ぼうとしても、指が拒む。
仕方なく使うたび、首が疼くように締まる。
それでも、なぜか気持ちが落ち着く。
柔らかくて温かくて、包まれているようで。
最近、首の痣が消えない。
朝になると、喉の奥まで鈍く痛む。
それでも、タオルはいつも清潔だ。
優しく乾いた手触りで、まるで呼吸を確かめるように、
今日も僕の首に触れる。
――これほどまでに、肌になじむものを、どうして捨てられるだろう。




