書斎の鍵
書斎の机には、古い鍵穴がある。
父の代から使っている机で、鍵を差し込むたびに金属が擦れる鈍い音がした。
その音が嫌いで、しばらく鍵をかけずに使っていたが、数日前、ふと机の上に鍵が置かれているのに気づいた。
磨かれたように光っていて、手に取ると温かい。誰かが触っていたようなぬくもりだった。
何となく引き出しに差し込み、回してみた。
カチリ、と音がして引き出しが開く。
中にはボールペンが一本。特に変わった様子もなく、ただ少しだけ、インクが新しいように見えた。
翌日、また同じように鍵を差し込み、開けてみた。
今度はペンがなく、見慣れない写真が一枚だけ入っていた。
知らない男が、こちらを見て笑っている。背景は見覚えのある部屋——この書斎だ。
悪戯かと思った。家族に聞いても「そんな写真知らない」と言う。
気味が悪くて鍵を閉めた。
それから数日、机には触れなかった。
けれど夜中、部屋の奥から小さな音がする。
カチリ。
あの、鍵の音だった。
眠れずに朝を迎え、確かめずにはいられなくなって、鍵を手に取った。
少しだけ震えていた。
鍵を差し込み、回す。
音がした。
ゆっくり引き出しを開けると、そこには鍵が入っていた。
見覚えのある、手の中のそれとまったく同じ鍵。
試しに、机の鍵穴に差してみる。
——入る。
しかも、もう一度、開く。
引き出しの中には、また鍵。
鍵を抜いて、回して、開ける。
また鍵。
何度も、何度も、何度も。
やがて、ふと気づいた。
今、自分がどの鍵を握っているのか、わからなくなっていた。
引き出しの中にはまだ一つ、鍵が残っている。
それを使えば、何が開くのか。
確かめたい気持ちと、確かめてはいけない気配が、同時に胸の奥でぶつかり合った。
それでも、手が動いた。
鍵を取り、机ではない方へ向ける。
背後にある扉の、鍵穴へ。
カチリ。
開いたのは、扉だったのか、それとも——。




