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向かいの乗客

終電に近い時間、車内は空いていた。

乗り込んだのは、数えるほどの人影。俺は四人掛けのボックス席に腰を下ろした。


向かいに、女が一人座っている。

痩せた頬、薄暗い中で白すぎる歯。視線を下げればいいのに、俺はなぜか彼女の顔から目を逸らせなかった。理由は単純だ。彼女が笑っていたからだ。


声もなく、ただ口角だけを不自然に吊り上げたまま。

目は笑っていない。むしろ見開かれて、獲物を探すように揺れていた。


気味が悪くて、スマホに目を落とす。ニュース記事を開いたふりをしながら、画面の反射越しにそっと視線を戻す。

……やはり笑っている。俺を見ているのか、通り過ぎる闇を見ているのか、判別がつかない。


二駅ほど過ぎた頃、ドアが開いて数人が乗り込んできた。

酔客らしい男たちの笑い声、眠そうな学生、そして一人の女。


彼女はふらりと歩いてきて、迷うことなく俺の隣に腰を下ろした。

その瞬間、血の気が引いた。


横顔を盗み見た俺は、思わず息を呑む。

隣の女と、向かいに座る女が、まったく同じ顔をしていたのだ。


二人の視線が交わる。

……どちらも笑っていた。


俺の視界は、そこで真っ暗になった。

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