ひそやかな切断音
文房具の中で、ハサミほど使うときに音がはっきりするものはないだろう。
紙を切るときの「チョキ」という感触は、小学校の頃から慣れ親しんだものだ。
ある夜、机に向かって書類を整理していると、背後からその音が聞こえた。
「チョキ」
最初は気のせいだと思った。家には自分ひとりしかいない。窓も閉まっている。
だがページをめくろうとすると、再び「チョキ」と鳴る。今度は確かに耳元に近い。
振り返っても、机の上に置いたはずのハサミがそこにない。
数分前まではペン立ての隣に差してあったはずだ。
不安になりながら探すうち、部屋の隅に、黒い刃が月明かりを反射しているのを見つけた。
床に落ちたのかと思い手を伸ばすと、刃はふっと暗闇に溶けて消えた。
幻覚だろうか。頭を振り、無理やり作業を続ける。
やがて眠気が強くなり、机に突っ伏した。
どれほど時間が経ったか分からない。
目を覚ますと頬の横で、確かに「チョキ」と音がした。
慌てて起き上がると、机の上に戻っているハサミ。
刃先はまっすぐこちらを向き、何も切っていないのに薄く赤く濡れていた。
それ以来、夜の静かな部屋で紙を切るのが怖くて仕方がない。
あの音が、今度は何を切ろうとしているのか――考えるだけで喉が乾くのだ。




