電池の減りが早い
「また電池切れかよ……」
リモコンを手にしたとき、ふとそんな独り言が出た。買ったばかりの乾電池を入れたはずなのに、もう反応しない。
仕方なく引き出しから予備を取り出す。指先にまだ金属の冷たさが残っているのに、装着した瞬間にはもう残量が心もとないような気配がする。
まるで電池そのものが何かに吸われているみたいに。
その違和感は日用品全般に広がっていった。懐中電灯、時計、壁掛けの温度計。次々と寿命を縮めていく。
使っていないのに、減る。電池だけが痩せ細っていく。
最初は単なる不良品かと思ったが、ある晩、確信に変わる出来事があった。
深夜に目が覚め、寝返りを打つと、机の上のラジオからわずかな光が漏れていた。スイッチは切ってあるはずなのに。
音もなく、赤いランプが淡く点滅している。
「おかしいな」と近づいた瞬間、ぱちり、とランプが消えた。代わりに、背筋に刺さるような視線を感じた。
振り向くと、暗がりの中で影がこちらを見ていた。
目の高さは自分と同じ。けれど人影ではない。窓やカーテンに映るはずもない場所に、影がだけ浮いている。
その黒い輪郭の中心、二つの白い点がぎらりと光り、まるでランプの代わりに瞬いた。
そしてカチリと音が鳴った。まるでスイッチを切り替えるように。
翌朝、机の上には昨夜のラジオと、横に並べた乾電池。どちらも空っぽになっていた。
触ると中は紙のように軽く、爪を立てれば潰れてしまいそうだ。
それ以来、どんな新しい電池もすぐに使い果たされる。
ただひとつだけ変わったことがある。夜中にふと目を開けると、部屋の隅からこちらを覗く影の“光”が、日に日に強くなっているのだ。




