ポーチの奥
新しいポーチを買ったのは、ほんの気まぐれだった。
安物だけど、仕切りが多くて便利そうだったし、柄も地味で使いやすい。帰宅してさっそく中身を入れ替える。リップ、鏡、目薬、ハンドクリーム。いつもの小物を移すだけで、気分が少し整う。
翌朝、出勤前にポーチを開けて違和感に気づいた。
仕切りがひとつ、多い。
昨日見たときは左右に二つだったはずなのに、真ん中にもう一枚布が縫い込まれている。
「最初からそうだったのかな」と思い直し、その日は気にせず持ち歩いた。
しかし数日後、さらにもう一つ仕切りが増えていた。
布の色も微妙に濃く、手触りも違う。まるで後から縫い足されたように不自然だ。だが縫い目は新品そのもので、解れもない。
気持ち悪さを覚えつつも、やはり捨てるほどでもなく、そのまま使い続けてしまった。
ある夜、ふとした好奇心で増えた仕切りに指を差し込んでみた。
布の奥は意外に深く、指先がすっぽりと沈む。さらに奥へ探ると、冷たいものに触れた。
何か小さなガラス瓶のような感触。引き抜こうと力を込めた瞬間、逆にぐっと握り返された。
思わず悲鳴を上げてポーチを落とす。だがファスナーは閉じたまま、床に転がっているだけ。震える手で拾い上げると、仕切りはいつの間にか元の数に戻っていた。
安堵したのも束の間、ポーチの布地に小さなシワが寄っているのに気づく。
それはまるで、内側から爪で押し広げられているような跡だった。




