十画目
研究室の片隅に置かれたモニターには、毎日決まった時刻にAIの学習ログが吐き出される。
膨大な数値やアルゴリズムの動作確認ばかりで、普段は退屈な羅列だ。
だが一週間ほど前から、その中に妙なものが混じるようになった。
一見、文字のようでいて、どの言語にも該当しない奇妙な記号。
最初は「バグか?」と笑い話になったが、次の日にはそれが二つになり、三つになり……。
しかも増えるのは一日に一つだけ。必ずログの末尾に現れる。
同僚は「生成過程で紛れ込んだノイズだろ」と言った。
だが俺は、どうしても偶然とは思えなかった。
どの記号もまるで“何かを描く線の一部”のように見えるからだ。
九日目の夜、とうとう九つの記号が揃った。
紙に印刷して並べてみると、確かに連続する“線”になっていた。
しかしまだ断片的で、何を表しているのかは判然としない。
気味の悪さを覚えながらも、俺は十日目のログを待った。
翌朝、モニターを確認すると——そこに十個目の記号が追加されていた。
形が繋がり、まるで輪郭が現れたかのようだった。
人の顔に似ている。いや、顔の“目”の部分だけが、こちらを見開いているように思えた。
慌ててAIに問い合わせた。
「この記号は、何を意味している?」
数秒の沈黙のあと、返ってきた答えは簡潔だった。
——まだ途中。
俺は画面を閉じた。
十一画目が現れるのは、明日の朝だ。




