窓に映るホーム
日曜の午後、いつものように電車を待っていた。
ホームに風が吹き抜け、発車を知らせる案内が流れている。どこにでもある光景のはずなのに、なぜか胸の奥で小さな違和感がざわついていた。
電車が滑り込んできた。車両の色も形も見慣れているはずなのに、どこか雰囲気が違う。窓越しに見えた乗客たちは、どうにもこの線には似つかわしくない気配をまとっていた。理由はうまく言えない。ただ「おかしい」と思った。
迷いながらも、開いたドアに背中を押されるようにして乗り込んだ。
車内は静かで、吊り革が小さく揺れているだけ。人はいるのに、息づかいすら聞こえない。冷房の冷気とも違う、張りつめた冷たさが肌にまとわりついた。
座席に腰かけようとしたとき、窓の外に視線をやった。
そこには、まだホームに立ち尽くしている私の姿が映っていた。
目が合った瞬間、その「私」はほんの少し、口の端を上げた。
嘲るでもなく、楽しげでもなく、ただ「私ではない誰か」が浮かべるような笑み。
けれど確かに、それは私の顔だった。
慌てて振り返ったが、ホームはもう遠ざかっている。
「私」だけが、取り残されたように、わずかな笑みを消さずにこちらを見ていた。
電車はやがてトンネルに入り、外の光景は闇に呑まれていった。
暗いガラスの中で、私はもう一度、自分の顔を探した。
だがそこにあったのは――知らない誰かの目だった。