#1 マッケンジーとディーサイド 7
警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。
縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……
「チェイサーどうぞ」
場の空気を察してか、それとも全く偶然か、
バーテンダーが水を差し出してきた。
「ありがとう」
マッケンジーしか口にしていなかった身体に久方ぶりに水が染みる。
「美味いね、この水」
「一見様には水道水ですがお得意様にはハイボールに使うミネラルウォーターをお出ししてるんですよ」
水の違いに気づいたのが嬉しかったのか、バーテンダーは水のボトルを見せてきた。
「これは何て銘柄?デー、デー…」
読み方に困ったところにすかさずバーテンダーが説明に入る。
「ディーサイド。1760年以来スコットランドのハイランド地方にあるパンナニック鉱泉から湧き出る水を汲み上げて、イギリス女王のガーデンパーティに使われたりしています。昔からロイヤルファミリーの御用達のお水なんですよ。スコッチウイスキーとの相性が良いことからうちではよく使ってるんです」
「へえ、それは美味いわけだ」
グラスを眺める私に彼が笑いながら言う。
「先生、英語相変わらず苦手ですね。」
「うっさいな、君も読めなかった口じゃないのか」
ケラケラと笑うバーテンダーの前で漫才師のような掛け合いをする私達のやり取りの速度はもはや私が理想としていた過ごし方と真逆でしかなかった。
次回へ続く