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#4 山崎五十年 10

警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。


縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……


BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。

「あ、そうだあれがこの店には無いな。ちょっと買い出しに失礼しますのでこのままお待ちください。すぐ買って戻りますんで」


そう言いながら足元のリュックを手に取りカウンターを出ようとした時


「玉木さん、もう一つだけ聞いていいかな」


と、オッサンが聞いてきた。

 

「あんた、本当の名前はなんだい?」

 

その質問に思わず引き攣ってしまう。


「ど、どういう意味ですか?」

 

「そのままの意味だよ。あんた、今日のゲストバーテンダーさんじゃないな。誰だ?」

 

頭の中が真っ白になりかけるもここまで誤魔化せたんだ、最後までこいつを騙し抜かないと逃げてもすぐに通報されて通報されて足がついてしまう。


「いえ、私は玉木ですよ。」

 

「嘘つけ、そもそもバーテンダーっていうのも違うよな。それでも言い張るなら免許証なりなんなり、名前が書いてあるもの見せてもらおうか」 


やはりもうバレていた。しかしここまできたらもうダッシュで逃げるしかない。オッサン相手なら振り切れるはずだ。左手でリュックを握りしめ店の入り口まで一気に駆け出す。


「くっ」

 

あと三歩でガラス戸に手が届く。その瞬間。入口にスレンダーな女の影が見えた。


「本山さん、危ない!」

 

後ろからオッサンの声がした。

 

しまった、あの女だ。しかし華奢な女一人くらい突き飛ばして逃げられる。

 

「どけえええええええ!」

 

勢いよくガラス戸を開け女に手を伸ばした瞬間。驚いていた女の顔に覇気が漲り


「あああああああああああああ!」

 

一秒後には天と地が入れ替わっていた。そこからさらに一秒もたたない時間のあと、大きな音とともに背中に激痛が走る。


「な、ナイス巴投げ……」

 

店の中からオッサンが女に話しかける。

 

身体中が痺れて痛い。どうやら女に投げられ雨に濡れたコンクリートの地面に打ち付けられたようだった。


「えへへ、上手くいきました先生」

 

女が起き上がり照れ臭そうに言う。


「本山さん、格闘技の経験なんてあったんだね……」

 

「言ってませんでしたっけ?私中高と柔道部にいて、空手とテコンドーもかじってるんですよ」


言いながら素早く型をとる女にオッサンの


「も、もう本山さんに冗談でもセクハラじみたこと言うのやめるね……」


と言う声が聞こえた。


「に、しても……なんでだ……?いつからバレてたんだ……?」

 

呼吸ができないほどの痛みの中で振り絞るように出した声に対してオッサンは


「最初からだよ。」


と返した。


「あんた、最初に『本日のバーテンの玉木』って言ったろ。『バーテン』はバーテンダーの略と思われがちだがそうじゃない。差別的な言い方の意味合いを示していて本物なら決して自分のことをそう呼ばないのさ。」

 

 

酒を嫌うあまりの無知さが災いしていた。最初にこのオッサンと目があった時すでに俺は負けていたんだ。


その後、駆けつけた警察官たちに取り押さえられて俺は護送されていった。

 

次回へ続く

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