#4 山崎五十年 9
警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。
縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……
BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。
「はい」
「玉木さんはこの道何年くらいなの?」
バーテンとしての歴を聞きたいらしい。下手にベテランぶると専門的な質問攻めになるかもしれない。ボロがそこで出ると厄介だ。
「いえ、全然そんな、浅いですよ」
と謙虚な言い方で返した。
オッサンは不思議そうに
「え?でもウイスキー検定二級お持ちなんですよね?」
と返してきた。そうだった。本物の玉木はその資格の保持者だった。
「あ、いや、資格を取ったのは大学出てすぐのバーテンになる前の話で。それからサラリーマンを経て今なんで」
うまく取り繕えた気がした。事実俺はこの春まではとある中小企業に勤めるサラリーマンだったのだ。リストラの憂き目に遭うまでは。
「ああ……そうなんですか。以前はどちらに?」
「○○商事で、経理を」
それも本当の話だった。自身の話ならボロは出ないはずだ。
「へえ、それは意外だ。経理のお仕事と比べてどうですかこの仕事は」
オッサンは続け様に質問をぶつけてくる。早くこの店を出ないとあの女が来てしまう。それに本物の玉木まできてしまえばもう誤魔化せない。一刻も早く出ないといけないのに。しかし焦る気持ちからイライラした態度が出てしまうのもマズい。冷静に。冷静に当たり障りない答えをしなければ。
「ええ、サラリーマン時代は朝方でしたがバーテンは夜型なんでね。昼夜逆転してしまって生活リズムが整うまで時間がかかってしまいましたよ」
この返しも問題ないだろう。腕時計に目をやると三時二十分になろうとしていた。もうそろそろ限界だ。外はまだ雨が強いが幸い入り口の傘立てにビニール傘が置いてある。あれを手に取って足らない材料を買い足しに行くと言ってここを出ねば。
次回へ続く




