#4 山崎五十年 3
警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。
縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……
BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。
「ごめんください、ごめんくださーい本山さーん。」
やはりオッサンだ。オッサンの声がする。
なんなんだこいつは。本山さんていうのはこの店の人間の事かもしれない。だとしたら確実に今日この日、この時間この店に用があって訪れた人間に違いない。最悪だ、どうするか。咄嗟に奥の方を振り返ったが狭いこの店に勝手口や裏口のような戸は見当たらず、出入り口は俺が開けて入ってきたここひとつしかない。出るにはここからしか選択肢はないのだ。
居留守を決めこもうか迷い悩んでいる時、ガラリとガラスの引き戸が開く音がした。しまった、中に入ったときに鍵をかけ損ねていた。まさかこんな時間に誰かがくると予測していなかったとはいえ痛恨のミスだった。
ドアを開け、その先の薄いカーテンを払いオッサンが入ってくる。歳のころは五十代程だろうか、平日の昼間に私服でいるところを見ると定職についていなさそうな風貌だ。
「……おや?どちらさん?本山さんは今日休みかな?」
オッサンは不思議そうな目で俺を見つめそう聞いてきた。
「あっええ、まあ、……」
言葉に詰まっているとオッサンは店内の壁方をみて何かに気がついた様子で
「ああ、お兄さんこれか、この人か」
と指さした。指の方向には一枚のポスターが貼ってあり、そこには今日の日付でゲストバーテンダー来たる、と書かれていた。どうやらいつものバーテンの他に外部から人を呼ぶ日がこの店にはあるらしい。
「ええ、そ、そうです。本日のゲストを務めさせていただきますバーテンの玉木と申します。」
俺は咄嗟にポスターに書いてあったバーテンダーの名前を名乗り誤魔化すことにした。
次回へ続く




