#3 悪魔の取り分 16(#3LAST)
警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。
縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……
BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。
「もしもし、俺だ」
「お、どうだった?」
「やはりお前の言った通りだったよ。現場に出してある楽器を全てしまえと指示した後に確認したら一人だけ楽器を持って来ず、ケースだけを持ってた奴がいた」
その言葉に私は相手に見えないながらも頷く。
「やっぱりそうだろう。その人物は空の楽器ケースの中に蛇を入れたケースを仕込み、運搬したんだ。ただ、そのままだと楽器がないことがバレてしまう、そこで…」
そこまで口にした時、私の言葉に続くように
「本番前に怪我をして楽器を出さなくてもいい理由を作った」
と結んだ。
ニヤリとした私は
「読み通り、手を怪我したバックバンドの子だったろう?犯人は」
「ああ、彼女のケースだけが空で二重底になっていた。底の下に入っていた空気穴の開いた透明な容器から蛇の皮膚片が採取されたよ。指紋をつけないためと噛まれても歯が指に達しないための分厚い手袋もセットでな」
「つまり一連の事件は本人の自作自演も含めて全てやったと自供したな?」
「ああ、最後の方は観念したみたいだった。いや、お見事な推理だったよ。これだけしか情報がない中で」
私は笑いながら
「奢りの一杯の執念が勝ったな」
と手元にあったハイボールのグラスを傾けた。
「しかし、動機はなんだったんだい?自分で怪我までこさえて」
右手で流しこんだハイボールを飲み込んだ後に投げた問いかけに対して
「ああ、なんでも新しく出したアルバムのコンセプトがこれまでとイメージを変えて作られたものらしくてな、それが気に入らなくて」
『こんなのは新騒生鬼じゃない。だったら分の手で魔界に送り返してやる』
「と、思ったんだそうだ。わざわざそのためにバックバンドのオーディションまで受けて」
なんとも理解のし難い動機に軽く眩暈がしたが真横にも理解のし難い生き物がいるのだからそんな人種も世の中にはいるのだろう。
しかしこれで片付いた。聴く予定のなかった配信ライブから始まってこれでようやく今日を無事に終えることができそうだ。
「それじゃ約束通り、奢りの件忘れるなよ」
「ああ、また近いうちにな」
そう言い、どちらが切ったかわからないほど同じタイミングで電話を切った。
「犯人、捕まったんですか?」
河口君が電話の様子をじっと見つめていた。
「うん、そうみたいだね」
肩の荷が降りた気持ちでまた一口呑み込む。
「幸いボーカルのなんとかさんって人も命に別状はないみたいだからライブの続きはまた彼が復帰してからってことで」
私の説明に安堵の声を漏らしながら
「よかった〜。どうなることかと思った」
「ま、歪んだファンの愛情に悪魔がつけ入ってボーカルの彼の命を取り分として持っていこうとしたってことかもね、今回の一件は」
我ながら上手くまとまったなとしてやったりな締めくくりの一言が言えた気がした。
「あははは、すいません、ちょっと何言ってるかわかんないです」
「なんで何言ってるかわかんないんだよ!」
私たちのやりとりに本山さんの笑い声だけがいつまでも店内に響いていた。
次回へ続く




