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♯2 甲州 11 (♯2ラスト)

警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。


縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……


BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。

「ときに質問なんですが先程あなた、今何を作ってらっしゃると?」


向こうからは間髪入れずに回答がくる。

 

「スープです」

 

「どうしてスープを煮込んでらっしゃるんでしたっけ?」

 

「それは坊っちゃまが寒い中、お腹を空かせているんじゃないかと思って…」

 

「なぜ寒い思いをしていると?確かに今日こちらはやや肌寒いけど今は真夏ですよ。うちの者が『暑さで余計に頭に血が昇って元々切れない頭がより鈍った』と言ってたほどそちらは暑いはずなのに」



「……!」 


 

私がそう切り出すとシェフは押し黙ってしまった。そのため私が話を続ける。

 

「あなた、誘拐された御子息が夏にも関わらず寒いところにいるとご存知なんですね?だから『凍えているんじゃないか』とか『暖かいスープを』なんて言葉が出るんですよね?違いますか?そんな心配してたのはあなただけだ」

 

依然彼は押し黙ったままだ。

 

「庭師の方が仰ってましたがここはワインを貯蔵する蔵をどこか別で借りられているそうで。そこを出入りしているのは基本シェフのあなただけ。ワイン蔵となると真夏でも温度を一定に保たないといけませんから一日以上閉じこもってしまえば寒いは…」

 

その瞬間受話器の向こうでドアが勢いよく開く音と彼の声が聞こえた。

 

「奥さん、皆さん!お坊ちゃん見つかりました!」

 

大きなどよめきの声がする。


そして子どもの泣き声と奥さんが我が子を呼ぶ声。

 

「先生!無事発見しました!ワイン蔵にいたのを連れて帰って来ました!」

 

 

「よくやった。ついでに警察も呼んであるよね?」


私がそう言うとともに遠くからパトカーのサイレンの音が鳴る。

 

「もちろんです。まもなく到着します」

 

もうすでに電話口からシェフの声は聞こえなくなっていたがこれで完全に決着がついたことは明白だった。


「じゃあとは任せるよ」



受話器の向こうで解決したのを確信した私は何杯目か忘れた甲州を飲み干したのだった。





悟った様子のバーテンダーさんが話しかける。


「良かったですね、無事見つかって」


「ああ、長居して悪かったね。これでようやくお勘定して帰れるよ」

 

椅子から立ち上がると少し足元がおぼつかない。結構飲んでしまったようだ。

 

「こちらがお会計になります」


数字を見て私は一瞬固まった。


「あれ…こんな呑んだっけ?」


「はい、結構」


「私呑んでたのは甲州だよね?」



本山君は笑顔で答える。


「はい、今日は甲州だけお出ししてました」


「そ、そう。飛ばしたねえ私飛ばしてたねえ」


「ええ、ありがとうございます」


屈託のない営業スマイルの彼女に向かい私はもう一度電話を借りる事にした。


「もしもし?私だよ、今解決した事件の報酬の件なんだけどね。今回は折半てことでどうかな?どうかな?そして悪いんだけどできたら今すぐ東京戻ってきて。無理?ならなる早で、なる早でいいからあああああ」


翌日、報酬金を手に戻ってきた彼を私はグラスを洗う泡だらけの手で迎えたのだった。

次回へ続く

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