♯2 甲州 1
警視庁捜査一課から退職し探偵社を立ち上げ、その後引退した男が血なまぐさい生活から切り離された落ち着くBARを見つけたところから始まるストーリー。
縁を切ったはずの世界から舞い込む事件がまとわりつく……
BARから出ずに推理するテレワーク探偵のミステリー。
この日の空は曇っていた。今の季節にしては今日だけ前日までの茹だるような暑さが嘘のように肌寒く人の往来も少ないように思えそれがこのバーの客足の遠のきにも影響しているようだった。昼のカフェタイムの時間帯。常連の私は特別にこの時間からも酒を振る舞ってもらえているのもありがたかった。そのおかげで私はここでのんびりと今日のウイスキーにありつけるのだから。
今このグラスにあるのは甲州韮崎ピュアモルト。その名の通り山梨産の国産ウイスキーである。他で製造、販売されている甲州と違う点はどこかと言うとモルト原酒のみで作られているところだ。ピートや穀物の香りが力強いものの、滑らかな味わいでハイボールが美味しいとされるためたまに好んで呑んでいる。否定的な意見もあるようだがそれは人それぞれだろう。
バーは暖かいため外の寒気も気にならない。
酒で身体も温まってきていた。そこに一本の電話が鳴りバーテンダーの本山さんがとる。
「はい、モンターニャ・プレノターレです…ああ、いつもお世話になっています。先生?ええ、いらしてますよ。」
とても嫌な予感がした。受話器を片手にし、
通話口をもう片方の掌で押さえながら本山さんが私の方を見て
「先生、いつものお客様からお電話ですよ。」
と受話器を差し出してきた。
次回へ続く




