種子島マタギの物語(中編)
マタギちゃんの物語(中編)です!
前後編だと長くなってしまうので前中後編に分けました…ごめんなさい。
マタギちゃんの中学時代の話です!よろしくどうぞ!
叔母夫婦の家は神奈川の海の近くにある分譲マンションだった。
四角く切られた大岩の様な建物に笑顔で迎えてくれるシズカとタケル、子供のいない彼等は共働きではあったが山育ちのマタギでも世間で言う中層以上の暮らしをしている事は分かった。
「マタギちゃんの学校が始まるのは年が明けてからだから、それまで近所の事とか見てくると良いよ。あとこれ、使ってね。」
とマタギを元気付けるようにシズカはスマートフォンを渡した。
「ありがとう…。」
そう言いながら恐らく使い方を知らないであろうスマホを上の空で受け取るマタギ。
無理もない。自分にとっての父親でもあるが、マタギはずっと一緒に暮らしていた親代わりの祖父を亡くしたばかりなのだ。
「マタギちゃん、良かったら山頂公園行ってみる?自然があって海がわーって見える丘の公園。」
マタギの為に空けていた部屋に少ない荷物を運んで来るタケル。デスクやベッドは既に用意してあった。
山頂公園への一歩
この街の開放的なところが気に入って住居を決めたタケルは早くも街を案内したいらしい。
「ちょっと、マタギちゃんも疲れてるでしょ?まだ時間あるんだから明日でも…」気を遣ったシズカがタケルを止めようとするが、
「行く。」
マタギが言った、いつまでもウジウジしていても状況が良くなる事は絶対ない。祖父から山で教わった言葉が背中を押す。
叔母夫婦は顔を見合わせ、明るい顔になり3人は街へ出る。
街の喧騒と偽りの自然
街に出ると、マタギはすぐに圧倒された。人、人、人——どこを見ても人が溢れ、すれ違う者同士が挨拶はおろか目を合わせることさえしない。
山では当たり前だった小さな気遣いが、ここでは皆無だった。マタギは行き交う人を必死に避けながら忙しく並べ立てられた建造物の圧迫感の下歩く。
来る時は車だったので気付かなかったが空気に何か混じってるのだろう、人も街も爽やかに飾られてはいるが山にあった清涼感は全く無い。
『ここで暮らしていくんだ。』
タケルの言っていた公園に着く頃には疲れ切っていたが、ここでも愕然とする。
叔母夫婦と公園を歩くと、あちこちにある看板には自然、自然、という文字こそ見えるが、人が憩う為だけにねじ曲げられた木や草が平面的に貼られているだけの様な異様な景色。
その向こうには全く手入れされていない雑木林、そして更に向こうには灰色のモヤがかかりおびただしい数の家や化学物質を発している様な黒い海が見える
「マタギちゃん、大丈夫?」
シズカが隣で声をかけ、マタギの顔を見た瞬間、彼女はハッとした。マタギの顔は蒼白で、目には疲労と戸惑いが滲んでいた。慌ててタクシーを呼び、四角い大岩のようなマンションへと戻った。
新しい学校と崩れる心
初日は散々だったが、少しずつ慣れ始めた頃、中学1年の3学期が始まった。マタギはタケルのマンションからほど近い中学校に転校し、新しい生活に足を踏み入れる。
彼女の素朴で整った容姿は最初、周囲の好奇の視線を集めた。しかし口数が少なく、内向的なマタギへの興味はすぐに薄れていった。
だが、都会に暮らす多感な子供たちは、それで済ませてはくれなかった。
何かと言えば誰かと言い、自分で決めるということを徹底的に避けるにも拘らず、徒党を組んで他人の意思を無かった事にして自分の意思だけを押し通そうとする。
そんな環境に、マタギの精神は少しずつ磨り減っていった。
山で祖父と過ごした日々とは、あまりにもかけ離れていた。
中学2年の夏休みが終わり、一週間が経ったある朝。登校しようと玄関に立ったマタギは、突然胃の中を戻し、その場に倒れてしまった。
「風邪かな?」
最初はそう思ったが、何度学校へ向かおうとしても同じ症状が繰り返される。焦るうちに、マタギは部屋から出てこなくなってしまった。
シズカとタケルがドア越しに呼びかけても、返事はない。
山の教えが支えだった少女は、心がどこかで折れてしまった。
あくまでも人も自然生物の一類なので都会での人の在り方をを否定している訳ではないのですが、認識をねじ曲げられ続けると人はおかしくなっていきます…。
後編はマタギちゃん霧峰山に帰れるかな…?出来るだけ早く後編を上げます!
皆さん、自分、大事にしましょう。