第3章:星空の下の約束
こんにちは、3話目です! 1話を読んでくれた方、2話まで付き合ってくれた方、ありがとうございます! 今回はカンパとマタギがちょっと距離を縮める…かも?な夜のエピソードです。星空の下で何かが芽生えたり、芽生えなかったり(笑)。 まだまだ冬休みは続くので、のんびり楽しんでもらえたら嬉しいです。感想やアドバイス、ぜひお願いします!
劇中ナナカマドの実が登場しますが生だと渋くて苦いです、たくさん食べるとお腹痛くします。
12月27日 夜:屋上での星空観察
日中のサバイバル講習を終え、寮に戻った木野カンパは食堂で夕飯のスープをかき混ぜていた。
マタギが山で教えてくれた火起こしの感触がまだ手に残っていて、どこか満足感があった。窓の外はすっかり暗くなり、雪が静かに降り続けている。
「カンパ、今日の火起こし、まぁまぁだったな」
種子島マタギがキッチンから顔を出し、スープの乗ったトレイを手に持っていた。彼女の声は初めの頃より少し柔らかく、カンパはドキッとしてスプーンを落としそうになった。
「まぁまぁって…褒めてるのか、それ?」
「褒めてない。事実だ」マタギは無表情でスープを飲み、目を細めて外を見た。「星が出てる。屋上行くか?」
「星?」カンパが驚いて窓を覗くと、確かに雲が切れて空に小さな光が散らばっている。マタギの提案に何か企みでもあるのかと一瞬疑ったが、彼女がすでに階段へ向かう背中を見て、慌ててコートを掴んで追いかけた。
寮の屋上へ続く錆びた鉄の階段を登ると、冷たい風が頬を叩いた。屋上は狭く、古い手すりと雪に埋もれたベンチがあるだけだが、空は一面の星で覆われていた。カンパは息を呑み、マタギがベンチの雪を払って座るのを見た。
「すげぇ…こんな星、初めて見たかも」
「山じゃ普通だ。祖父とよく見てた」マタギは膝にトレイを置き、スープを飲みながら空を見上げた。彼女の横顔が星明かりに照らされ、カンパは思わず見とれてしまった。
「カンパ、座れ。立ってると風が当たる」
「あ、おう」カンパは慌ててベンチに腰を下ろし、自分の水筒からホットココアを注いだ。マタギがチラッとそれを見て、「子供っぽいな」と呟く。
「暖かいんだからいいだろ」
「別に悪いとは言ってない」マタギの口元がわずかに緩み、カンパは「笑ってるだろ、今」と突っ込むが、彼女は無視してスープを飲み続けた。
しばらく無言で星を見ていると、カンパがふと口を開いた。
「なぁ、マタギ。山で暮らしてた時って、毎日こんな感じだったのか?」
「まぁな。祖父と猟して、飯食って、星見て寝る。シンプルだった」
「シンプルか…俺なんかさ、父親のことばっか考えてて、頭ぐちゃぐちゃだったよ。メキシコにいた頃はあいつの歌が自慢だったのに、今じゃパクリだって知ってて…」
カンパはココアを溢しそうになり、言葉を止めた。マタギは静かに彼を見やり、スープを膝のトレイに置いた。
「生きてるだけで十分だろ」
その言葉にカンパはハッとして、マタギの顔を見た。彼女の目は星を映してキラキラ光っていて、いつもより優しげだった。
「…そうかもな。お前見てると、なんかちっちゃいことにこだわってた自分がバカみたいに思えるよ」
「バカだろ、お前は」マタギが淡々と言うが、声に笑みが混じっている。カンパはムッとしつつも、「まぁ、そうだな」と笑ってしまった。
風が少し強くなり、カンパのコートがバタバタと鳴った。マタギが立ち上がり、手すりに近づいて空を見上げると、流れ星がスッと横切った。
「おっ、見た!流れ星!」カンパが興奮して立ち上がると、マタギが「願いでも願えよ」と小さく言った。
「願い?じゃあ…この冬休み、もっと面白くなればいいな、とか?」
「子供っぽい願いだな」
「お前だって何か願えよ」
マタギは一瞬黙り、空を見上げてからポツリと呟いた。「…猪に会わないで済むといいな」
「不吉すぎだろ、それ!」
カンパが叫ぶと、マタギが珍しくクスクス笑い、二人ともベンチに戻って暖かい飲み物を手に取った。
星空の下、雪の音と二人の息遣いだけが響き合う。カンパはマタギの横顔を見ながら、「こいつとこうやってるの、悪くないな」と感じていた。マタギも無言でスープを飲みつつ、星に何か思いを馳せているようだった。
屋上の静寂は、翌日の騒動を予感させることなく、二人の時間を優しく包み込んでいた。
12月28日:サバイバル講習の提案と日中の展開
朝:穏やかな始まりと提案
12月28日 朝7時38分、寮の食堂は静かだった。木野カンパは暖炉のそばでホットココアをすすりながら、窓の外に降り積もる雪を眺めていた。昨日のサバイバル講習と星空観察を経て、マタギとの距離が少し縮まった気がして、どこか気分が軽い。
キッチンの方へ目をやると、種子島マタギがトーストをかじりながら現れる。
「カンパ、昨日星見て寝坊しただろ」
マタギがいつものクールな口調で言うと、カンパは「いや、ちゃんと起きたよ! お前こそ少し眠そうじゃん」と反論する。
マタギは「私は朝弱いんだ」と淡々と返すが、目が少し笑っている。カンパは「また笑ってる…!」と突っ込みそうになるが、我慢してココアを飲む。
二人が軽い朝食を終えると、マタギが窓の外を見ながらポツリと呟く。
「雪、深くなってきたな。猪が動きにくい時期だけど…何かあったときのために、もう少し山のこと知っとくか?」
カンパが「え?」と聞き返すと、マタギは少し迷うように言葉を続ける。
「昨日みたいにさ。火とか罠とか、もうちょっと教えてやるよ。…カンパなら覚えそうだし」。
彼女の声にはいつもの自信と、ほんの少しの戸惑いが混じっていた。
「いいのか? マタギ先生、また頼むよ!」カンパが目を輝かせると、マタギは「先生はやめろ」と呆れつつ、「昼前に出る。準備しとけ」と言い残して自室に戻る。
カンパは「よし」と小さくガッツポーズをしつつ、『でも猪対策って…少し怖いな』と思った。
日中:サバイバル講習 Part 2
昼前、二人は再び山の斜面へ向かった。雪は膝近くまで積もり、歩くたびにザクザクと音が響く。マタギは前回より少し奥の、木々が密集した場所にカンパを連れて行く。
「今日は隠れる場所と食料の見つけ方」と淡々と宣言し、早速雪の下に埋もれた木の根や、食べられる実を探し始めた。
「これ、ナナカマドの実。苦いけど食べれる」
マタギが赤い実を手に持って見せると、カンパは「え、マジで食うの?」と顔をしかめるが、彼女が無言で口に放り込むのを見て渋々真似する。「うわ、苦っ!」と叫ぶと、マタギが「贅沢言うな。生きるためだ」と冷たく返す。でも、その口元がまた緩んでいる。
次に、マタギは木の枝と雪を使って簡単なシェルターを作る方法を教える。
「風雨とか雪とか、避けられる場所が大事。そういう場所は匂いが飛ばないから猪とか来ても隠れやすい。」と説明しながら、枝を組み立てていく。
カンパは「猪って…やっぱ出るんだな、ここ」と少しビビりつつも、真剣に枝を積み上げる。マタギが「手が遅い」と言いながら手伝うと、二人の肩が触れ合い、カンパは「近い!」と心の中で叫ぶが、なんとか形になったシェルターを見て満足げに頷く。
講習の途中、マタギが地面の雪を指して言う。
「これ、瓜坊の足跡。昨日より新しい」。カンパが「え、マジで?」と緊張すると、「でも母猪のはない。近くには来てないだろ」とマタギが冷静に分析する。
カンパは「そ、そうか…でも怖いな」と呟き、マタギが「ビビりすぎだ、お前」と呆れるが、どこか楽しそうだった。
午後2時36分:山での気づき
講習が終わり、二人は今回のサバイバル講習で作ったシェルターの中で少し休憩する。カンパが水筒のココアを分けると、マタギは「またそれか」と言いながらも受け取る。
「お前ってほんと山のこと知ってるよな。俺こういうの全然ダメだったけど、なんか生きてる感じがするよ」と言うと、マタギは一瞬黙り、ココアを飲む。
「山での暮らしを祖父に教えられただけだよ。」
「そっか…なんか悩める余裕があっただけの様な気がしてきた。」
マタギは「悩めるだけ贅沢」とまた言うが、その声は柔らかく、カンパは「シンプルだろ」と笑う。二人は雪の降る山を見ながら、静かに時間を過ごした。
帰り道、マタギがふと立ち止まり、「この辺、祖父が猪にやられた場所に近い」と呟く。カンパが「え、マジで?」と驚くと、「でも今は大丈夫だ。足跡もないし」と彼女が続ける。カンパは少しホッとしつつ、「お前がいるから安心だよ」と笑うと
マタギが「山で人に頼るなよ」と返すが、目が少し優しげだった。
夕方、寮に戻ると、邦衛さんがロビーで二人を迎える。
「おお、また山か。カンパも楽しそうだな」
「楽しかったけど、猪の足跡あってちょっとビビりましたよ」
マタギが「大したことない」と補足すると、邦衛さんが「まぁ、マタギちゃんがいるなら大丈夫だろ」と笑う。二人は疲れつつも、どこか満足感を持って夕飯の準備を始めた。
3話まで読んでくれてありがとう! 星空の下でカンパとマタギが少しだけ素直になったり、どうでしたか? 個人的にはマタギのクールさとカンパの不器用さが書いていて楽しいです。次はもっと賑やかになる予定なので、楽しみにしてもらえたら嬉しいな。あと、猪の足跡がちょっと不穏ですよね…?僕は猿回しの猿にすら威嚇されるので猿が怖いです。
ナナカマドの実は普通はジャムとか果実酒に加工するのですが、生食は少量なら問題ないのでマタギはカンパの反応を見たかっただけかと思います!
多分マタギも祖父に遊ばれたんだろうな。
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