第2章:山の教えと絆の芽
1話を読んでくれた皆さん、ありがとうございます。2話ではいよいよカンパくんのサバイバル講習がスタートします!楽しんでもらえたら嬉しいです。
12月26日正午過ぎ:寮に戻ってからの会話と提案
寮のロビーに戻ったカンパとマタギは、暖炉のそばに座って少し落ち着く。
邦衛さんが「気をつけておきな」と注意した後、「お茶でも淹れるか」とキッチンへ向かう間、カンパはマタギが話した猪の痕跡が気になって仕方ない。
「瓜坊って小さい猪の群れって言ってたけど、どうやって見分けるんだ?」と何気なく尋ねる。
マタギは少し間をおいて、「足跡の大きさと深さ。あと、地面の引っ掻き方。瓜坊は軽いから浅いし、動きが揃ってる。母猪はデカくて力強いから、土が深く抉れてる」と簡潔に説明する。カンパは目を丸くして「へぇ…それだけで分かるんだな」と感心し、勢いづいて「他にも何か見つけてたのか? 気付けるきっかけみたいなのがあるとか」と質問を重ねる。
マタギは最初は「別に大したことじゃない」とぶっきらぼうに返すが、カンパの純粋な好奇心に押され、少しずつ話し始める。
「木の皮が剥がれてたり、枝が折れてたりすると、鹿か猪が通った跡。風向きで動物の匂いも分かるし、雪の積もり方で最近の動きも読める」
と、淡々としながらも詳しく説明する。カンパは「すげぇ…それ、山で生きてきたから分かるの?」と感服したように呟く。
カンパの感嘆にマタギが意外そうに反応するが、会話を続けてくれる。
「山で生きてきたって言うか、祖父ちゃんに教えられただけ」とマタギは肩をすくめるが、カンパはさらに興味津々で「それってサバイバルの技術だよな? 火の起こし方とか、罠の作り方とかも知ってるのか?」と畳みかける。
マタギは少し困ったように「知ってるけど…そんなに珍しくないよ」と返すが、カンパの「いや、 めっちゃカッコいいじゃないか!」という素直な賞賛に、初めて少し言葉に詰まる。
その様子を見ていた邦衛さんがお茶を持って戻ってきて、「お、カンパあ、マタギちゃんの知識に惚れちゃったか?」とニヤニヤしながらからかう。
カンパは「いや、惚れるって…ただスゴイなって!」と慌てて弁解し、マタギは無言で顔を逸らすが、耳が少し赤くなっている。
少しの沈黙の後、マタギが突然ポツリと呟く。「…もしそんなに興味あるなら、明日、山でちょっと教えるよ」。
「いいのか?」
カンパは驚く、邦衛さんも「おお、早速明日かあ」と嬉しそうに頷く。マタギは「猪のことも気になるし、ついでに何かあったときの準備もできるから」と理由をつけるが、心の中では『普段ならこんな提案しないのに…何でだろ』と自分でも不思議に思っている。
カンパは目を輝かせて「楽しみだなあ、 明日はよろしくお願いします。マタギ先生!」とテンション高めに言う。マタギは「先生はやめて」と少し呆れつつ、「じゃあ、朝早く出るから寝坊するな」とクールに締める。邦衛さんは「二人とも仲良くやってくれよ」と笑いながら、二人のやり取りを温かく見守る。
その夜、カンパは自室で「マタギの知識、マジでスゴイな…明日が楽しみだ」とワクワクしながら眠りにつく。
一方、マタギは自分の部屋で「アイツ、変な奴だけど…まぁ、悪い気はしないか」と呟きつつ、なぜか自分から提案したことに少し戸惑いながらも、静かに眠りにつく。
12月27日 朝7時16分:サバイバル講習 in 山
朝の冷たい空気が寮の窓を叩く中、木野カンパは厚手のダウンジャケットに身を包み、食堂で種子島マタギを待っていた。昨日の出会いから一夜明け、彼女が「山で何か教えられる」とポツリと言った言葉が気になって仕方なかった。カンパは手に持った水筒を握り直し、「何だかんだで俺、期待してるのかもな…」と内心で呟く。
「カンパ、準備できた?」
マタギがキッチンの奥から現れた。彼女は祖父の形見らしい革製の猟師ジャケットに、腰にはナイフとロープをぶら下げている。無造作に結んだ髪が少し乱れていて、まるで山の一部みたいな雰囲気を漂わせていた。
「ああ、うん。行くか」カンパは立ち上がり、マタギの後を追って外へ出た。
山の斜面を登り始めて20分ほど経った頃、二人は雪に覆われた小さな開けた場所にたどり着いた。風が木々を揺らし、遠くでカラスの鳴き声が響く。マタギは地面にしゃがみ込み、雪をかき分けて何かを見始めた。
「ここでいい。まず火を起こす方法教える」
「火?この雪の中で?」カンパが驚いて聞き返すと、マタギは無言でナイフを取り出し、近くの枯れ枝を切り始めた。その手際の良さにカンパはただ見とれるしかなかった。
「カンパもやれ。そこに枝あるだろ」マタギが顎で指す方向を見ると、確かに細い枝が雪に埋もれている。カンパは慌てて膝をつき、ぎこちなく枝を集め始めたが、冷たい雪に手を突っ込むたび「うわ、冷てぇ!」と小さく叫ぶ。
「黙ってやれ」マタギが冷たく言い放つが、口元がわずかに緩んでいるのをカンパは見逃さなかった。
「笑ってるだろ、今!」
「笑ってない」マタギはそっぽを向くが、明らかに肩が震えている。
カンパはムッとしながらも、なんとか枝をかき集めてマタギの隣に戻った。
「次はこれ」マタギはポケットから火打石を取り出し、ナイフの背で擦って火花を飛ばした。数回繰り返すうちに、枯れ草に小さな火が点く。
「すげぇ…」カンパが目を丸くすると、マタギは「簡単だろ」と淡々と言い、火を枝に移して育て始めた。
「カンパもやれ。火が消えたら意味ない」
カンパは渡された火打石を手に持つが、擦っても擦っても火花が飛ばない。「何だよこれ、全然ダメだ」と焦り始めると、マタギがため息をついて近づいてきた。
「手が震えてるからだ。こうやって…」
彼女はカンパの背後に回り、彼の手を握って火打石を正しい角度に導いた。マタギの指が冷たくて硬くて、カンパの心臓がドキッと跳ねる。
「ほら、やれ」
「う、お、おう!」カンパは慌てて手を動かし、なんとか小さな火花を飛ばした。枯れ草に火が点く瞬間、二人は同時に「よし!」と声を上げ、目が合ってしまった。マタギがすぐに顔を背けるが、カンパは「今、ちょっと嬉しそうだったな…?」と内心でニヤける。
火が安定したところで、マタギは次にロープを取り出し、「罠の作り方教える」と言い出した。彼女は器用にロープを結び、木の枝を使って簡単な仕掛けを組み立てる。
「これで小動物なら捕まる。猪は無理だけど」
「猪…昨日言ってたやつか。」カンパが緊張して聞き返すと、マタギは一瞬黙り込んだ。
「…昔、祖父がこの辺でやられた。でかいのがいるらしい」
その言葉にカンパは息を呑むが、マタギはすぐに「まぁ、カンパには関係ない」と話を切り上げた。
「カンパも結んでみろ」
カンパがロープを手に取ると、指が絡まってぐちゃぐちゃに。「何!?これムズすぎだろ!」と叫ぶと、マタギがまたしても呆れた顔で近づき、手を添えて教えてくれる。
「こうやって…引っ張って…」
二人の手が触れ合うたび、カンパは「近すぎだろ…!」と心の中で叫びながらも、なんとか形になった罠を見て満足げに頷いた。
講習が終わり、二人は火を囲んで少し休憩した。
カンパが水筒のホットココアをマタギに渡すと、彼女は「…ありがと」と小さく呟き、初めて柔らかい表情を見せた。
「なぁ、マタギ。こういうの毎日やってたのか?」
「祖父と暮らしてた頃はな。今は…あんまり」
「そっか。なんか、すげぇなって思うよ。お前見てると、自分の悩みってちっちゃく感じるっていうか」
マタギはココアを飲む手を止め、カンパをチラッと見た。「悩めるのは贅沢だ」と言うが、その声には少しだけ温かみが混じっていた。
雪が静かに降り始め、二人は無言で火を見つめた。山の静寂の中で、カンパは初めて「この冬休み、悪くないかも」と思った。
ここまで読んでくれて感謝です。2話では火起こしをしてますが火打石を使った着火って難しいですよね。
次回はカンパくんとマタギちゃんがもっと仲良くなります。楽しみにしてもらえたら嬉しいです。コメント待ってます!