第9章:体育館の死闘と希望の光
こんにちは、9話目です! いつも読んでくれてありがとうございます。元日の深夜、体育館での極寒と大猪との戦いがさらに過酷に…! 今回は3人が力を合わせてピンチを乗り越えようとするけど、限界ギリギリの状況です。緞帳でのほっこりシーンもあるけど、後半は手に汗握る展開に! そしてまさかのあの人が…? ハラハラとドキドキが止まらない回なので、ぜひ最後まで楽しんでください。感想や応援、気軽に待ってます!
午前1時:放送室への試みと緞帳での休息
大猪と距離を取った隙に、マタギが「2階の放送室へ行こう」と提案。ステージ横の階段を上るが、放送室のドアは錠が凍りついて完全に封鎖されている。
体育館内の気温は氷点下に近く、外の吹雪が容赦なく冷気を送り込む。備品室の扉も凍結で開かず、3人はステージ横の緞帳に身を寄せ合って暖を取ることに。
マタギが緞帳を引っ張り、3人でくるまって座る。各々この絶望的な状況に思考を巡らせる。マタギは真剣に呟いた。
「このままじゃ凍死する。次の動きを考えないと。」
「私…頑張るから…おじいちゃん、大丈夫だよね?」
アキラは気丈に振る舞おうとするが、声が震えている。
カンパは美少女2人と密着してしまい
「いや、真面目に考えろ俺…。」
心の中で葛藤。彼女たちの肩に触れる手に妙に意識が行ってしまう。アキラがカンパの視線に気付き、声をかける。
「ねえ、カンパっち、顔赤いよ?大丈夫?」
珍しくマタギがやや嫉妬気味に突っ込む。
「…バカか。暖かいなら黙ってろ」
「何!?いや、そういうんじゃないって!」
カンパが訳もなく慌てて言い訳を並べた。
「あ!マタギちゃんの方が気になる感じ?」
アキラがアキラらしい事を言うと、マタギの頬が膨れていた。
「黙れ。」
一瞬の笑いが緊張を和らげる。
午前3時40分:大猪の再侵入と戦闘
マタギが緞帳やステージ下にあったパイプ椅子と残り少ないロープで罠を張りカンパとアキラがが緞帳を使って簡易的な防寒着を作ってからしばらくして。
3人は緞帳の中で暖を取り、アキラが眠りに落ちていた。
マタギが不寝番を続ける。身を寄せ合う中、マタギが微かな異音に気づき、2人を叩いて警告。
「…来るぞ…!」
直後、体育館の校庭側の壁が「ドガン!」と崩れ、大猪が雄叫びを上げて侵入。仕掛けた罠が発動する。
3人は事前に話していた通り3方向に別れ「こっちだ!」と声を揃えて大猪を誘導。ロープに絡まった大猪が暴れるが、マタギが「まだだ!」とタイミングを見計らい、ロープを絡ませたパイプ椅子を追加で投げる。大猪が脱出するたびスタミナを奪うを繰り返す。
何度繰り返したか、大猪の少しずつ動きが鈍くなる。
「やった、マジで効いてるよお!」
アキラが叫んだその瞬間、大猪が振り払ったパイプ椅子がアキラの足に直撃。「キャア!」と倒れ込む。
「アキラ!」
マタギが駆け寄り、自分が被っていた緞帳で作られた即席の防寒具をアキラに被せる。
「こっちだ!こっち!このブタの化物が!」
カンパがパイプ椅子を大猪に投げつけ気を引かせて時間を稼ぐ。
マタギがアキラの足の怪我を確認、折れてはいないがみるみる腫れていく。
マタギは焦りの表情を浮かべる。
「校舎に逃げろ。大猪の開けた穴からだ。」
「マタギちゃん…カンパっち…ごめん、私、ドジで…。」
アキラは悔しそうに泣いていたが、マタギに支えられ足を引きずりながらも立ち上がり吹雪の中へ退く。
怪我の痛みに耐えながら彼女はマタギの手を拒み、迅速に退避していった。
彼女の行動は2人の邪魔にならないよう最大限思いやったものだ。
「邦衛さんは人を見る目があるな。」
もっと助けが必要になると思っていたマタギは意外そうに微笑みカンパを見やる。
カンパの盾にしていたパイプ椅子が大猪の突撃で砕け、転びかける。マタギがロープとナイフを手にし、血と埃にまみれたカンパを支えた。
「お前…!アキラと一緒に逃げろよ!」
焦って叫ぶカンパの横で大猪に構えたマタギ。
「山の暮らしを教えるよ。」
彼女の揺るがない姿勢に目を見開くカンパ。
「楽じゃないな、生きるって。」
カンパはボロボロの顔で笑った。
2人は大猪と対峙し続ける。
午前4時4分:アキラの希望と邦衛の手前
弱まってきた吹雪の中、足を引きずりながら校舎へ向かうアキラ。
思う様に動かない足の痛みよりも、仲間が居なくなっていく切迫感に押し潰されそうになりながら、歩く。
「大丈夫、なんとかなる。」自分に言い聞かせて歩く。
唐突に足が痛み、力が抜け吹雪の中座り込むアキラ。
心がまた折れそうになるが、母やその仲間の顔、それに数日しか一緒に過ごしていないが、この冬山で出会ったマタギ達の顔が加わって思い出される。学生寮に辿り着く前の絶望感はもうない。
「がんばれ、がんばって!」
一人立ち上がるアキラ、その時吹雪の向こうからうっすらエンジン音が聞こえてきた。
「?」
確実にアキラの方へ真っ直ぐ向かってきている光と音。
正面から光が差し、彼女の顔に希望が灯る。
1月1日午前4時35分:体育館の死闘
元日の深夜、吹雪がようやく収まり、山間部の高等学校の体育館は静寂に包まれる。
降り積もった雪が山の音を吸収し、闇の中で体育館だけが煌々と光る。校庭側の壁には大猪が開けた大きな穴があり、冷気が流れ込んでいた。
そこに立つのは、極端に背の高い浅黒い男子生徒・カンパと、小柄ながらナイフを握る少女・マタギ。そして対峙するのは、軽トラックほどの巨体を持つ大猪だ。
カンパは肩を落とし、汗と血にまみれた顔で息を切らす。190cmの長身は傷だらけで、パイプ椅子の破片が服に刺さっている。
マタギは小柄な体に似合わぬ気迫でナイフを握るが、手にロープで固定されたその刃は細かく欠けており、彼女の手も震えている。
大猪も全身から湯気を立て、ゴウゴウと荒々しい呼気を吐きながら、疲労の色が見える。
3者とも限界が近い。
突然、大猪が蹄を鳴らし、2人に突撃。カンパが気だるげに、だが凄まじい気迫で素早く動く。
大猪の足元にスライディングし、壊れた罠から回収したロープに蹄を引っかけて転倒させる。
マタギが倒れた大猪にナイフを突き立てるが、硬い皮膚に刃が阻まれ、わずかに血が滲む程度。
大猪から距離を取る2人。
「息を…整え…させるな…!」
マタギが指示すると、カンパが立ち上がり「…ああ…!」と短く答える。
すると大猪が太い警笛のような雄叫びを上げ、2人から距離を取る。ゴッゴッと鼻を鳴らし、頭をゴルフクラブのように振りかぶる。
カンパとマタギが驚愕する中、大猪は罠として残っていたパイプ椅子を角で弾き飛ばす。
意外な大猪の攻撃をすんでのところでかわしたものの二人は驚きを隠せない、カンパが叫ぶ。
「なんだよそれ…!!」
「学習…したのか…。」
息も絶え絶えにマタギが呟く
効果を確信した大猪が更にパイプ椅子を数脚飛ばす、スタミナの切れたマタギは脚に力が入らずよろける
「マタギ!!」
カンパはマタギを抱え込むように守るが、自身の肩と背中に直撃する。
「ぐあぁっ!」
動きが止まった2人に、大猪が勝機を見出し突撃を開始。カンパの肩越しに迫る巨体がマタギの目に映る。
「カンパ!」
彼を庇おうとするもカンパに抱えられ身動きが取れない。
午前4時40分:劇的
絶体絶命の瞬間、マタギの眼にスローモーションで迫る大猪。
その横からけたたましいエンジン音を上げた黄色い塊が突っ込んだ。
ブルドーザーのバケットが大猪の側面に直撃し、巨体が横に弾かれ、「ガシャン!」と金属音が響く、大猪が体育館の床に倒れ込んだ。
ブルドーザーの運転席から、聞き慣れた渋い声が響く。
「2人とも大丈夫か!!?」
深夜の吹雪に消えた邦衛さんだ。
「「邦衛さん!!」」
2人は安堵と驚愕の声を上げる。
すかさず邦衛の後ろから子犬のように落ち着きの無い金髪が「ゲラウェイフロムハー!ユービッチ!!」と謎の叫び声を上げた。
「アキラ…よかった…」
一瞬泣きそうな顔をしたマタギが呟く。
カンパが「今のアキラの台詞、なんだっけ?」と怪訝な顔で呟くと、邦衛さんが「おお、よく知ってるなあ」とニヤリ。
実はアキラが叫んだのは映画『エイリアン2』の名台詞「Get away from her, you bitch!」の言い回し、ブルドーザーをエイリアンのパワーローダーに見立てた彼女らしいユーモアだ。
カンパが「あ、エイリアンか!」と思い出すと同時に、大猪が立ち上がり、雄叫びを上げて蹄を鳴らす。
対してけたたましいエンジン音を上げるブルドーザー。
「アキラちゃん!掴まってろよ!」
「おおおじいちゃん!?学校壊れちゃうよお!」
邦衛さんにアキラが慌てて聞く。
「もうあちこちこんなに壊れちまったからな、それに生徒の無事が第一だ!」
ブルドーザーのスロットルを全開にし、大猪と正面衝突。「ガシャン!」と金属音が響き、一瞬の膠着が起きる。
邦衛さんが「おお、頑丈だな!」と笑い、レバーを素早く操作。バケットで大猪の重心を崩し転がしていなす。
大猪も果敢に突撃を繰り返すが、邦衛の操るブルドーザーが大猪と組む姿はまるで達人の合気道の様で大猪を錐揉み状態にまとめていく。
体育館の床が抉れ傷が刻まれていくが、誰も気にしない。
9話まで読んでくれてありがとう! 大猪との死闘、どうでしたか? 緞帳で暖を取り合う3人のやり取りは癒しだったけど、戦闘シーンは書いてて息が詰まるほどハラハラしました…! アキラの怪我やマタギの覚悟、カンパの頑張りにグッと来たし、邦衛さんのブルドーザー登場はもう最高のサプライズ! アキラの「エイリアン2」ネタで笑っちゃったけど。でも大猪、まだ倒れてないし…次で決着つくのかな? 感想や「邦衛さんカッコいい!」みたいな叫び、ぜひコメントください。次も頑張ります!
10章は4/12夜8時公開ですー!よろしくお願いいたします!