第8章:理科室の告白と長い廊下
こんにちは、8話目です! いつも読んでくれてありがとうございます。新年早々、校舎に逃げ込んだ3人が大変なことに…! 今回は静かな涙とアキラの過去、そしてまたしても猪との追いかけっこが待ってます。邦衛さんのことがあって気持ちが重いけど、3人の絆がちょっと光る場面もあるので、ぜひ最後まで見届けてください。少しシリアスだけど、アキラのマイペースさも健在。感想や応援、気軽に待ってます!
1月1日午前0時:校舎内の静寂と涙
校舎に逃げ込んだカンパ、マタギ、アキラの3人は、邦衛さんが大猪に突撃されて吹雪の中に消えた衝撃を引きずりながら、2階の理科室にたどり着いた。
外の吹雪が窓を叩き、薄暗い室内には実験台やガラス瓶が並ぶ不気味な雰囲気。
ドアに机を積み上げて簡易バリケードを作り終えたばかりで、3人は息を切らしている。
アキラは理科室の隅で壁にもたれ、膝を抱えて俯く。金髪ロン毛が顔に張り付き、涙がぽろぽろと床に落ちる。
「邦衛さん…私、邦衛さんが大好きだったのに…おじいちゃんみたいにずっとそばにいてくれるって思ってた…」震える声で呟く。
普段のマイペースなギャル口調はなく、祖父母を失ったような深い悲しみが溢れる。
カンパはアキラの隣に立ち、励まそうと口を開くが、「アキラ…邦衛さんは、その…」と途中で言葉が止まる。
190cmの長身が縮こまり、彼は自分の無力さに苛立って実験台に手をつき項垂れる。
「俺、何も言えねえのかよ…」と小さく呟き、それ以上言葉が出てこない。メキシカンハーフの彼の目には、やるせないような複雑な光が宿る。
マタギは感情を押し殺し、理科室の材料(ガラス瓶、ロープ代わりのカーテン、机の脚)を手に罠を設置。
彼女の指先は冷静に動くが、時折猟師の祖父を思い出し、「仲間を守る」と自分に言い聞かせるように集中する。窓の外を見ながら、「まだ近くにいる」と低い声で警告。
午前0時15分:アキラの告白と仲間たちの支え
大猪の足音が一時的に遠ざかり、理科室に重い静寂が戻る。アキラが涙を拭い空を仰いで深呼吸した。
「私さ…強盗した理由、ちゃんと話すね」と切り出す。
柄本アキラの物語
柄本アキラ、18歳。高校3年生。普段はロングの金髪にピンクのネイル、小さなハート型のピアスやパステルカラーのシュシュを身につけるギャル系の女の子だ。彼女の明るい見た目は、母の友人たちからもらったプレゼントが中心で、自然とそうなったもの。性格はのんびりマイペースで人懐っこく、頭はそんなに良くないけれど、責任感と愛情にあふれ、根っからの前向きさで勉強にも励む努力家だ。誰が見ても「良い子」と太鼓判を押せる存在だった。
アキラはシングルマザーの家庭で育った。母はかつてレディースの総長を務めたほどの人物で、人望と仁義に厚く、仲間たちからも慕われる女性だ。父のことは生死も所在も不明だが、アキラには母とその友人たちの愛情がたっぷり注がれていた。幼い頃のアキラは、母の真っ赤なジャケットを丈が合わないまま羽織り、「私も母ちゃんみたいにかっこよくなる!」と走り回っては、母や仲間たちを笑顔にしていた。
中学時代、アキラは高校進学をせずに就職を考えていたが、母の強い希望で進学を決意。猛勉強の末、志望校に合格した。成績はギリギリだったが、努力を重ねてどうにか3年生まで進級。勉強は大変だったけれど、母やその仲間たちが褒めて喜んでくれることが励みになり、辛いとは感じなかった。
だが、3年生に上がってすぐ、事態は一変する。過労で母が倒れてしまったのだ。病院でその原因を知ったアキラは、母を支えるためにアルバイトを決意。しかし、学生生活を楽しんでほしいと願う母は猛反対した。母はすぐに回復したが、心配が募ったアキラは母と仲間たちに内緒でアルバイトを始めた。だが、要領の悪い彼女は勉強との両立に失敗。ブラック企業に雇われ、社会経験の乏しさと責任感の強さからサービス残業を断れず、疲弊していった。成績はみるみる落ちていった。
冬休み前、高校の先生から衝撃的な宣告を受けた。出席日数の不足と成績不振で、現役での卒業は絶望的だと。母の期待を裏切り、隠れてアルバイトをしていた罪悪感がアキラの心を砕いた。
その日のバイト中ミスをして過剰に罵倒され、更に帰宅途中に母が派手なスーツに色眼鏡をした男からお金を受け取る姿を目撃してしまう。すべてが崩れ落ちた瞬間だった。
母が出勤してから家に帰ったアキラは、母が作ってくれた大好きなオムライスも喉を通らず、「アキラ愛してるぜ、母。」と書かれたメモにも気づかず、放心状態でテレビの前に座った。貧しいながらも映画好きなアキラのために契約している映画チャンネルで流れていたのは、キアヌ・リーブス主演の「ポイント・ブレイク」。大統領のマスクを被った強盗団が銀行を襲うシーンだった。
帰宅途中に大好きな母親が怪しい男からお金を受け取っていた。
その出来事にどこかおかしくなっていたアキラの頭に、無謀で稚拙な計画が浮かんだ。
ドンキホーテで肉襦袢と黒いダウンジャケットを買い、12月29日、「友達の家に行ってきます。母ちゃん愛してる」とメモを残して変装。山麓の銀行近くの雑貨屋でおもちゃのナイフを手にし、実行に移した。ありえない奇跡と偶然が重なり、アキラは証拠も痕跡も残さず銀行強盗に成功。映画に倣い、霧峰学園のある山中に逃亡した。
だが、奇跡はそこまでだった。山に入ったことのないアキラは、冬山の過酷さに絶望する。映画「シャイニング」の凍りついたジャック・ニコルソンや、「遊星からの物体X」のカート・ラッセルを思い出し、「アナと雪の女王」のエルザに凍らされたら生き返れるかな、と現実逃避する。雪の照り返しがあっても暗い山中を彷徨い、修験道の山伏のような極限状態に陥った。
「母ちゃん留年してごめんなさい、無理させてごめんなさい、マルさんたち嘘ついてごめんなさい、銀行の人たち怖がらせてごめんなさい、迷惑かけてごめんなさい、莉奈さんバイト行けなくなってごめんなさい……母ちゃん、母ちゃん、母ちゃん。」
心の中で謝り続ける中、遠くに学生寮の明かりが見えた。アキラは「アラビアのロレンス」の蜃気楼を追うシーンを思い出しながら、その光を目指して歩き出した。
ここまでが、柄本アキラが学生寮にたどり着くまでの物語だ。彼女の愛情深い性格と無謀な行動が交錯し、母への想いが彼女を突き動かした悲しくも懸命な一幕だった。
「母ちゃんが倒れてさ、怪しい奴にお金借りてるの見ちゃって…私、母ちゃんに楽してほしくて、どうしたらいいか分かんなくて…
バカだって分かってるよ。でも、母ちゃんが笑ってくれればそれでいいって思ったの…邦衛さんにも怒られるよね…。」
アキラは普通に喋ってはいるが、手の平で拭う目からは止めどなく涙が溢れている。
カンパはアキラの告白に驚愕していた。
「お前…そうか…母ちゃん想いなんだな」
そう優しく言いながらカンパは邦衛さんの言っていた言葉を思い出していた。
『生きてると色んな事情がある。世間様がどんなに悪いって言う事をしてる人でも、その人がいい人か悪い人かって言うのとは関係ない』
勿論、邦衛さんの意図の逆もあるだろう。
というかそっちの方ばかりだ、世間が善行だと言う事をしている様で、蓋を開けてみればよく出来た権謀術数で善の顔をしながら平気で他人を騙し、平穏を脅かしている。
だけど、みんなどこかで信じていたいんだ。
こんなバカもいるって。
手を差し伸べる。
彼の手には、アキラを励ましつつ自分も立ち直ろうとする力が込められている。
「バカが…。」
マタギは罠のロープを結びながら、背を向けたまま呟いた。
「え…」
アキラはいたずらを怒られる子供の様に顔を向けると、マタギが一瞬手を止めて続ける。
「次からは相談しろ。」
と続ける。彼女の声は低く、少し震えているが、
「仲間なら…そうするだろ。」
そう付け加えた。
クールな口調の中に、アキラへの信頼と心配が滲み、アキラは「マタギちゃん…」と目を潤ませて頷く。
「うん。」
午前0時30分:大猪の突破と長い廊下の逃走
話が一段落した瞬間、バリケードの外で「ドン!」と鈍い音が響き、大猪が理科室のドアを突き破る。巨大な体がドア枠を壊し、角が実験台に引っかかってガラス瓶が床に落ちて砕ける。苛立った様子でカンパが叫ぶ。
「全く、しつこい!」
「罠にかける、動け!」
マタギが指示を飛ばす。
「ふえ、マジでやばいって!置いてかないでえ!」
マタギが仕掛けた罠(カーテンで結んだ机の脚)が大猪の足に絡まり、一瞬動きを止める。カンパが「今だ!」とアキラの手を引き、3人は理科室を飛び出す。
3人は学校名物の長い廊下を全力で走る。ところどころ割れた窓から吹雪が吹き込み、床が凍って滑りやすい。
「足遅くってごめんねえ!」
「しっかりしろ!」
「こっちだ!遅れるな!」
アキラが叫びながら転びそうになると、カンパが腕を引っ張り、マタギが後ろを確認しながら走る。
大猪がバリケードを完全に壊し、咆哮を上げて追いかけてくる。廊下の突き当たりに体育館へのドアが見え、希望がちらつく。
「カンパっち、マタギちゃん、私なんかのために走ってくれて…大好きだよ!」
アキラが息を切らしながら言うと、カンパが目を丸くして返す。
「なんかって言うな、一緒に逃げるんだよ!」
「喋るな、息切れする」
マタギが一喝するが、口元に微かな笑みが浮かぶ。2人に守られてアキラの調子が戻ってきた。
「ターミネーター2にこんなシーンあったよねえ!」
「…アキラ!お前危機感持てよ!!」
1月1日午前0時45分:体育館への到着と初撃
長い廊下を走り抜けたカンパ、マタギ、アキラは体育館にたどり着く。吹雪が体育館の窓を叩き、冷気が床を這う中、カンパが全力で重い鉄扉を閉める。
近くにあったパイプ椅子を手に取り、扉の取っ手に引っかけて即席のバリケードを作る。
カンパが息を切らしながら「これで…少しは持つだろ」と呟くと、直後に「ガンッ!」と大猪の突撃が鉄扉を襲う。扉が少し歪み、金属の軋む音が響く。アキラが驚いて喚く
「キャア!…マジで!?」
「立て直せ!」
カンパがパイプ椅子をさらに積む。一瞬立ち尽くす2人だが…。
「動け!」
マタギが鋭く言い、彼らを引っ張ってステージの壇上へ向かう。
大猪が一瞬間を置いた後、2度目の突撃を仕掛ける。「ゴンッ!」と鈍い音と共に鉄扉が大きく歪み、パイプ椅子が跳ねるが、なんとか持ちこたえる。
「もうあの扉は開かないな…でも諦めてない」
マタギが冷静に分析。大猪の気配が一時的に遠ざかり、3人は息をつく。
8話まで読んでくれてありがとう! 理科室の静寂から体育館への逃走、どうでしたか? アキラの告白書いてて泣きそうだったし、猪との追いかけっこはハラハラしっぱなしでした…! マタギの「仲間なら相談しろ」とか、カンパの「一緒に逃げるんだよ」とか、3人の絆がグッと来た瞬間ですよね。アキラの「ターミネーター2」発言には笑っちゃったけど。でも猪、まだ諦めてないみたいで…次はどうなるんだろう? 感想や「アキラ頑張れ!」みたいな応援、ぜひコメントください。次も頑張ります!
9章は4/8夜8時公開です!よろしくお願いいたします!