第1章:雪降る寮の孤独と出会い
はじめまして! 初投稿でドキドキしています。これは学園モノで、主人公が冬休みの寮に残ってサバイバル知識を深めていくお話です。読んで楽しんでもらえたら嬉しいです!
雪がしんしんと降り積もる12月26日。田舎の山奥にある寄宿学校「霧峰学園」は、冬休みに入り、普段の喧騒が嘘のように静まり返っていた。ほとんどの生徒が帰省し、寮にはがらんとした空気だけが漂っている。そんな中、木野カンパ(17)はひとり、寮の自室で横になっていた。
身長190cmのメキシカンと日本人のハーフであるカンパは、彫りの深い顔立ちと長い手足が目立つ少年だ。今は誰もいない寮で憂鬱な気分に沈んでいる。食料や燃料、水は十分に確保されているものの、彼の心は重かった。原因は、遠くメキシコにいる父親だ。
カンパの父は、メキシコでCMソングを歌って大ブレイクしたミュージシャン。しかし、そのヒット曲が日本のギタリスト、布袋寅泰の曲のパクリだと気づいたのはカンパだけだった。
幼い頃は父の歌声を聞いて憧れていたが、真実を知った日から、カンパは父との間に深い溝を感じ、家から距離を置くようになった。今も、実家に帰らず寮に残る理由のひとつだ。
窓の外を見ると、雪が積もり始めた校庭がぼんやりと白く光っている。カンパはため息をつき、気晴らしにロビーへ向かった。そこで待っていたのは、用務員の田中邦衛さんだ。俳優の田中邦衛そっくりの顔でいつも穏やかな笑みを浮かべる彼は、学校の清掃や管理だけでなく生徒たちの心の支えでもあるナイスガイだ。
「おお、カンパ。今日も将棋やるか?」
邦衛さんの声に、カンパは少しだけ気分が軽くなる。
「いいすね。負けませんよ、今日は。」
将棋盤を挟んで向かい合い、駒を動かしながら他愛もない話をしていると、邦衛さんがふと口を開いた。
「そういや、お前以外にもうひとり、寮に残ってる子がいるんだよ。」
「え?」
カンパが驚いて顔を上げると、邦衛さんはニヤリと笑って言った。
「種子島マタギって子でさ。15歳の。ちょっと変わった女の子なんだよ、山育ちのサバイバル上手だよ。」
その名前を聞いた瞬間、カンパの胸に小さな好奇心が芽生えた。彼が知らない誰かがこの静かな寮にいる。それが、これから始まる奇妙で賑やかな冬休みのきっかけになるとは、この時点でカンパはまだ気づいていなかった。
12月26日午前:将棋から山へ、そして出会い
ロビーで将棋を終えたカンパは、邦衛さんに惜敗していた。
「あは、カンパ、今日はあと一歩だったな」と、邦衛さんがニコニコしながら将棋盤を片付ける。カンパは「次は絶対勝ちますよ」と軽く強がりつつも、実は負けたことよりも気分が軽くなっている自分に気づく。
静かな寮での憂鬱な時間が、邦衛さんの穏やかな存在のおかげで少し和らいでいた。
片付けながら、カンパの頭には邦衛さんが言った「種子島マタギ」の名前がちらつく。
『サバイバル女子って…どんな奴なんだろう。ワイルドでムキムキなマッチョ女とか? 山で熊と格闘してるような?』と、勝手な想像が膨らむ。すると、邦衛さんがその視線に気づいたように、「もし気になるなら、山の方見てみると居るかも知れないよ」とニヤリと言う。カンパは慌てて「いや、そんなつもりないですよ!」と否定するが、頬が少し熱くなるのを感じて内心恥ずかしくなる。「見破られた…?」と自分をごまかすように目を逸らす。
山への散歩
部屋に戻ってからベッドに座るも邦衛の話が頭から離れず立ち上がり、「散歩だ、ただの散歩」と自分に言い聞かせカンパはコートを羽織って寮の外へ出る。
冷たい風がビュウっと頬を叩き、思わず肩をすくめる。
校庭を突っ切ると、左手に寮、校舎、渡り廊下、体育館が並び、その先に自然学習用のゲートが見える。雪が薄く積もった地面を踏みしめ、山の斜面を目指す。
静かな山中に響く自分の足音が心地よく
『きっかけはともかく、自然散策も悪くないな』
徐々に暖まっていく身体に少し前向きな気持ちが芽生えてくる。
ゲートをくぐり、しばらく歩いていると、遠くで何かが動く影が目に入る。「動物か…? いや、人だ」と目を凝らす。小柄なシルエットが、下を見ながら歩いてはしゃがむを繰り返している。ストレートボブの髪が風に揺れ、動きはキビキビとしている。向こうもこちらに気づいたようで、一瞬目が合う。カンパは「今さら引き返すのも不審者っぽいな」とそのまま歩き続けることを決める。
山道を進むと、彼女の方から「こんにちは」と飾らない、やや低めの声で話しかけてくる。カンパは少し緊張しながら「こんにちは」と返し、「あの…俺、木野カンパ。2年生。この寮に住んでて」と自己紹介する。
彼女は一瞬カンパを見上げ、「種子島マタギ。1年」と簡潔に答える。予想していた「ムキムキマッチョ」ではなく小柄でクールな雰囲気の少女に、カンパは内心「全然違うじゃん…」と拍子抜けする。
「何してたの?」と尋ねると、マタギは地面を指して「猪の足跡。瓜坊と…多分、母猪」と言う。カンパが「瓜坊?」と聞き返すと、「小さい猪の群れ。ここの山で活動してるみたい」と淡々と説明する。
彼女の知識に少し驚きつつ、「同じ寮にいるんだよね?」と確認すると、マタギは「うん、冬休みはここ」と頷く。
「そうなんだ」
カンパが彼女の指差した先にある猪の痕跡と言う物を見つめる、しかしカンパにはよく分からない
「何かあったときのために、寮に戻って対策考えた方がいいかも」とマタギが提案し、二人は山を下り始める。
歩きながら、カンパが何気なく「種子島さんは家に帰らないの?」と聞くと、マタギは少し間を置いて答える。
「…帰るとこはある。義理の両親、いい人だし。でも、山の方が落ち着く。祖父ちゃんが死んでから、なんか家族って感じがわかんなくなって」。その言葉に、カンパの胸がチクリと痛む。彼女の孤独感が、自分の父親との溝と重なる気がした。
「少し分かるよ」とポツリと言うカンパ。
「俺、親父と上手くいってなくて…メキシコで歌手やってるんだけど、アイツの歌がパクりでさ… ああ、ごめん、忘れてくれ」と慌てて話を切る。マタギは「ふーん」とだけ返し、特に追及しない。そのクールさが逆にカンパを安心させる。
寮に戻ると、邦衛さんがロビーで二人を見て「おお、会えたか」と嬉しそうに笑う。
マタギが猪の痕跡について報告すると、邦衛さんは「縄張りの端っこらしいな。大丈夫だと思うけど、気をつけておきな」と注意する。
カンパが「気をつけるって、どうすれば…?」と困惑すると、邦衛さんがニコニコしながら「マタギちゃんが山の暮らし方を教えてくれたらいいんじゃないか?」と提案する。
マタギは少し考えて「まぁ、いいけど」と頷き、マタギの山の知識に興味を持っていたカンパは「え、いいのか?」と驚きつつも、どこかワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
読んでくれてありがとうございます! 初投稿で緊張しましたが、なんとか形にできました。3章まで読めますので、感想もらえたら嬉しいです!
新しい章の公開は火曜日と土曜日の夜8時です!よろしくお願いいたします!