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「暗闇の中」③

 そうやって、小学校に入りたての頃の思い出を歩きながら振り返っていると、少しではあるが先ほどよりは、集団は前へと進んでいた。

 結局、俺は悠志さんも想像していたのかもしれないがバスケのチームに入ることは無く、今でも親の言うことを守り続ける生活を続けている。あのとき、違う選択肢をしていれば今の俺の状況は変わっていたかもしれないが、そうなったときの俺の生活は当時の俺には計算できなかった。

 兄は確かに小学校入学と同時に陸上の少年団に入りながらも、親の言いつけ通りに塾も通い、それでいて親から課される勉強もこなしていた。あのとき違う選択肢を選んでいたら、待っていたのはそのような地獄だろう。現在、親から課される勉強と塾の勉強で頭いっぱいの俺にとって、バスケもやっていたら中途半端になっていたに違いない。だから、仕方のないことだと過去の自分がした選択を無理やりにでも正当化したくなる。今でも、頭をよぎる悠志さんの言葉を忘れらずにいて。

 今のところ、自分の生活を変える大きな分岐点となりうるイベントはあの時しかなかった。けれども、今まで親が用意したレールに沿って行動しているだけの人間にとって、そこから逸脱する行為をするというのは躊躇してしまうものだった。あと、決して今まで親が強いてきた生活に対して苦痛に思っていないのも原因の一つなのかもしれない。はあ。結局自分はどうしたいんだろう。最近、そんなことばかり考えている。

 普段、机に向かって解いている問題というのは答えが既にあると分かっているものだ。そのため、その問題に対する解法を理解するか、答えを暗記さえしてしまえば問題を解くことが出来る。そのような行為を親に強いられ続けてきた俺にとって、そんな漠然とした問いは自分の心を大きく埋め尽くした。いつもの通りの問題なら、教科書か答えを見れば理解できて、次見る頃には前回よりも手は動くというのに、この問題は一向に進む気がしない。それも、今までのような教科書や導いてくれる人がこの問題にはいないからなのかもしれない。一人ではどうにもすることが出来ないということは分かっているのだが、それを感じたところで助けてくれるような人もいない。はあ。また、今度考えればいいや、そう思っていると下校集団の目的地まで着いたようだった。

 小学生だから、安全面でも防犯面でも集団での登下校という形になっているが、それにも限度がある。そのため、朝も帰りも集団で集まる場所と解散する場所が決められている。

 もう、先生はいないのだから早く帰りたいのだが、うちの下校集団のリーダーは律儀にも先生に言われたとおりの解散の手順を毎日行う。班員の確認と挨拶と。短いことではあるが、子供からしてみてもいらなくねと思うのだが、リーダーは先生から言われたのだからやらないといけないと言う。それに対して、先生に言われたことに縛られているなと思ったが自分も思い返してみれば、リーダーと変わらないのだなと何とも言えない感情になった。それに気づいてからは、本当は早く帰りたいと思いながらもその気持ちを他人にバレないように、外面はリーダーに従順な班員を演じている。そうこうしているうちに、いるのか分からない解散の手順は終わって各々、家の方向に向かって歩き出そうとしていた。


 自分が早く帰りたいと思っていたのに、何だかんだ他の子のほうが家に向かって歩き出そうとしていることに、何だかイラッとしながらも後れを取らないように歩き始める。今日も変わらず塾はあるというのだから。そうして、同じ方向に家のある子らを早歩きで抜いていく。

 小学校に入った当初は、同じ下校集団で家も近いということもあり仲良くしようかなと思っていたのだが、まるで住んでいる世界が違うかのように話す内容が違うことから仲良くなることはできなかった。それでも、自分の中では勝手に相手のことを顔見知りだと思っているのだが。相手がどう思っているかは知らない。少なくとも悪い印象は取られていないはずだと信じたい。

 両親が教師なのもあって、いじめ問題で家で親が頭を痛めている姿を何度か見たことがある。それを見て、いじめをすることはダメだし、されるような振る舞いをしてもダメだなと人一倍それに関しては危機感を持って学校生活を送っているからか、それに関わるようなことは無かった。

 下校集団の解散場所から家まではある程度距離があるので、急いでいる自分としてはできる限り早歩きをしていく。そうしていけば、自然と他の奴らとも離れていくのは当然だろう。でも、そのほうが自分としては気が楽だった。

 彼らの中での話題というのは、自分の知らない娯楽のことばかり。彼らが話している内容が自然と耳に入ってくるが、入ってくる単語のほとんどが俺の生活の中では聞いたことのないものばかり。だから、彼らから離れればそれを聞く必要もなくなり、なんだか気も楽になる。

 なんとなく彼らの話している内容が小学校3年生にもなると分かってくるのだが、その会話に交じりたいという気持ちは俺の中には無かった。自分で俺が特殊であることは分かっている。本来の小学生であれば、彼らのように友達と何気ない会話をしながら帰っていくものだということは何となく分かっているから。だけれど、そうはしない。心の底からそう思っているのかは定かではないが、そうするのはなんだか自分では無い気がするからだ。


 そう思いながら歩き進めると完全に喧噪を抜け出し、後は本当に家を目指すだけとなる。傍から見れば、そんな生活楽しいのと思われるのかもしれないが、俺からしてみれば楽しいという感情自体があまり分からなかった。そんなことよりも、今日自分に与えられた任務、親から課される勉強をこなすことの方を優先しなければならない。そう気づいたときにはプログラミングされていたのだから。

 小学校低学年という位置づけだから、まだ遅くまで塾にいるわけにはいかない。そのため、学校から帰ってある程度時間が経つと今度は塾に向かわなければならない。その短い時間の間にでも、親から課される勉強もしくは学校から出される少量の宿題をやっておかないと、塾から帰って来てからでは塾から出される宿題も相まって、途方もない量に感じてしまう。それを一度経験した恐怖から気をつけるようにしているのだが、親が塾に何か言ってあるのだろう。明らかに他の子より出される宿題の量が多いのだがそれに文句を言ったところで変わらないし、文句を言う機会すらほとんどない。だから、今日もたくさん宿題が出るのだろうなあぐらいにしか思わなくなっていた。


 気づけば、もう家の前に立っていた。歩いてきたところを振り返って見ても誰もいないようだった。どうやら彼らはどうでもいいことをまだぺちゃくちゃ喋っているんだろうなあと思いながら、鞄の中から鍵を取り出し、家の中に入っていく。

 当然ながら、そこには誰もいなく僕一人。いつもと変わらない光景。普通の小学生なら、自由だと喜ぶのかもしれないが僕にはそんな感情は浮かばなかった。

 誰も家の中にいないのだから、「ただいま」などと言うことも無い。最後に言ったのはいつだっただろうか。それぐらいには、家族みんな外にいる時間のほうが長いのだろう。家族って何なのだろう、そう哲学っぽい疑問さえ頭に浮かんでくるが、どうせ僕には解けない問題だと思うことにして頭の外から放り投げる。

 そうして、いつも通りの帰ってきてからのルーティンのようなものをこなしていく。とりあえず、鞄を背負ったまま洗面所に向かい、手と顔を洗ってうがいをする。昔から親が勉強以外にうるさいこととしては健康管理もあげられる。それは勿論、家族のことを心配しているというところもあっては欲しいのだが、予想だろうが病気等で今まで勉強してきたことが試験などで発揮できないことを嫌がっているだけだろう。だから普段から健康管理は気をつけろと勉強の次に言ってくる。なんだか、よく分からない家族だが、他の家族を知らないのだから比較の仕様がない。

 とりあえず、手洗い等が終わったら2階にある自分の部屋へ向かう。隣には兄の部屋もあるのだが、最後に入ったのはいつだろうか。別に興味も無いのだからいいのだが、隣に部屋があるというにここまで関心が無いというのはおかしいことなのかなとさえ思う。

 自分の部屋に入った後は、ランドセルをいつもの位置に置いて勉強机の前の椅子にとりあえず座る。そうすると、親が事前に用意した今日やることリストがびっしりと書いた紙が嫌でも目に入ってくる。はあ。今日もやるかと思いながら近くにある時計を見ると塾の時間までまだ時間がある。そのため、明日の学校の準備をしておこうとランドセルの中の整理を始める。


 ランドセルの中の整理を終えて、学校で言われた宿題を思い出してみると目の前に書いてあるリストと比べれば少ない量。先に学校の宿題をやるかと思い、ランドセルの中からファイルを取り出し宿題のプリントに手を付ける。

 学校で先生から宿題を出されたときは周りは地獄のような雰囲気になる。

「えー、宿題出るの?まじかよ。」

「前も出されたじゃん。めんどくさい。」

「もう、適当にやればよくね。」

「いやー、うち親がチェックするから適当にできないんだよね。」

「うわっ、めんどくさそ。俺は見られないから答えでも見てササっと終わらせるけどね。」

「うわっ。ずりぃぞ、お前。」

「うるさい!お前らまだ授業中だぞ。」

 そんな感じで学校の宿題が出されたぐらいでピーピー言い出すクラスメイト。それで毎回クラス中がうるさくなって先生に怒られるまでがセットだ。いい加減学習しろよと思うのだが、そうはいかないらしい。

 会話から聞こえてくる限り答えを見て宿題をやる奴もいるらしいが、それでは何のために宿題をやっているのか分からないだろ。俺は親が用意した勉強や塾の内容で現在学校でやっている内容はとっくの昔に終わっているため、見た瞬間に解けるのだが。そこら辺は昔から強制的にでも勉強をさせてくれていた両親には感謝したいところだ。ただ、そうでなくとも授業の話を聞いていればこんなプリント答えを見るまでも無いのだと思うのだけれど、お前ら授業中何してるんだよと思ってしまうが俺だって真面目に授業を受けているわけでは無いから、人のことは言えない。

 だって、親が用意した勉強や塾の内容で学校の授業内容などとっくに終わっているのだから。大抵は聞いていない。ただ、事前に詰まったところは復習程度に聞いてはいるが。それ以外の時は、親から出された問題や塾から出された問題ですぐに解けなかった問題を考える時間として有効活用している。そうでもしないと学校の授業時間が無駄に感じられるからな。

 だけれども、最初の頃は他事をするのを隠すのが下手でよく先生に怪しまれていたが、それも3年にもなると慣れてきてバレなくなってきた。それとも、もうどうしようもないと先生の間で情報共有されているのかもしれないが。できれば前者であってほしいなと思っている。

 まあ、そんなことも考えながら学校で出された宿題をやっていると気づいたときには終わっていた。これも、普段から途方もない量やっているから効率的にできるようになってきたのだろう。だけれども、これが終わったからってやることは変わらず勉強だ。なんだか不思議な気分になるが、部屋にある時計を見ると少し早いが塾に行く時間だ。

 そう思って宿題のプリントを家に忘れないようにファイルにしまってランドセルに入れていく。折角やったのに家に置き忘れて、先生に小言を言われるなんて溜まったもんじゃないからね。その次に机の上に置いた鉛筆を取って筆箱にいれようとした時だった。

 急に視界が真っ黒になった。


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