表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

46.地下洞窟ダンジョン その二

 俺たちは薄暗い洞窟の通路を、セレスティアの照明魔術を頼りに進む。

 その通路はかなり長く、暫く歩いたがまだ終わりは見えない。


「思ってたより深いですね……?」

「ええ、洞窟としてはかなりの規模……人の手が入っている可能性もあるわね……」


 セレスティアとアリシア、アカツキの前を歩く2人が周囲を警戒しながら歩いている。

 その二人の後ろを、足取りも軽く付かず離れずに歩いているのがアカツキだ。


「ダンジョン、ダンジョン探索……えへへへ……」


 アカツキは時折こうやってニヤつきながら歩いていた。

 前衛2人に守られているとは言え、今はダンジョン探索中である。と言うのに妙に上機嫌で、どうにも警戒心が緩い。

 まあアカツキにとっては初めてのダンジョン探検だ。ワクワクしてしまうのも分からなくはない。


 すると竜王がアカツキに問いかけた。


『何だ小童、妙に機嫌が良いではないか?』

「えっ?そう見えますか?あははっ」


 それがどうかしただろうか?みたいに笑うアカツキ。

 と、アカツキの緩んだ表情を見た竜王は、スッと声のトーンを落としアカツキに忠告しだす。


『あははっ、ではない、バカモノ。ここは敵中であるぞ?あまり気を抜くな』


 竜王がビシッと、緊張感を持つようにとアカツキを叱責したのだ。


「……あっ、すっ、すみません、竜王さま……」


 するとアカツキはシュンっとなって気まずそうに肩をすくめた。


 〈まあまあまあまあ、アカツキに取っちゃ始めての冒険なんだし、そう厳しく言わんでも〉

『なぁ~にがまあまあだ!?闇魔術士よ、小童が危機に陥れば、我らの命も道連れな事を忘れたか!?』


 アカツキのフォローに回る俺に対し、竜王は呆れたように言ってくる。

 中々どうして、厳しいぞ竜王サマよ。


 〈いやまあ忘れちゃいないけど……でもさ、イザとなったら俺が何とかするし?アカツキが冒険を楽しむのを少しくらい許してあげたって……〉

『それに付き合わされるのは我であるぞ!?そもそもだ!貴様は小童の教師!小童を諭すのも貴様の仕事であろう!?』

 〈アッハイ、すみません……〉


 竜王に正論で問い詰められ、俺も気まずくなって肩をすくめた。


 参ったねえ、言われてしまった。

 竜王め、アカツキにただ甘いだけだと思ってたが、どうもそうでもないらしい。それに意外とよくアカツキを見てる。おのれドラゴンのクセに。


 ……教育って点で見れば、時にはこうやって戒めるのも必要何だろうなあ。

 でも新米家庭教師の俺にゃあ中々どうしてまだまだ難しい。

 アカツキを甘やかすばっかりじゃあいけないなんて、頭じゃ分かってるつもりだけどねぇ?


 ~~~


 やがて一行は大きな空洞に出た。どうやら通路はここで終わったらしい。


 その空洞は天井が高く、かなり広い空間になっているようだ。その空間のあちらこちらには松明が灯っており、空洞全体を照らしている。


「やはり天然の洞窟では無いですね、人為的に掘削した痕跡があります」


 セレスティアが壁を見て言った。

 確かに、壁面が綺麗に整地されていた。

 更に、ところどころに人の居住していたであろう跡がある。


 空洞の一角には埃を被った木のテーブルがあり、乾いたパンの欠片や錆びついた食器が散らばっている。

 壁には"閉じかけの瞳"の彫刻が刻まれ、蝋燭の煤が残っており、ここで何度も儀式が行われていた様子が伺える。

 中央には石で組まれた小さな祭壇があり、邪教団の紋章が彫られた如何にもな黒い聖杯が置かれている。聖杯にはなんだか分からない赤黒い液体の跡がこびりつき、不気味な異臭が空洞に漂っていた。


「ここも、ティレジア教団の拠点の一つなのかしら?」

「ええ、そのようですね……」


 アリシアが周囲を警戒しながら呟くと、セレスティアが同意する。

 その言葉に、俺もアカツキの脳内で同意し頷いた。


 〈ここが例の邪教団のアジトか。まあ辛気臭えのなんのって〉


 俺がそう言うと、アカツキが周囲を見渡す。


「誰も居ませんね……?」


 安心したように呟くアカツキ。

 確かに、ここはもぬけの殻だった。俺たち以外、誰もいない。


『ふむ……確かに人型の気配がせん。おい、闇魔術士、どう見る?』


 竜王の言葉を聞き、俺は答える。


 〈どう見るつったってなあ……あっ、そうだ。アカツキ、悪いんだが一回俺に身体を任せてくれるか?厄介者の手(ヌーサンスハンズ)で探索してみたい〉

「は、はい、先生」


 俺の言葉に、アカツキは了承し、身体の主導権を譲り渡してくる。

 するとすぐ、アカツキの髪の色が栗毛色からピンク色へと変化した。俺が身体の主導権を握ったのだ。


「よっし、交代」

「ひっ!?あ、ナガラ殿でしたか……」


 急に変わったせいか、またセレスティアが俺を見てビビり声をあげた。

 そんなにピンクの悪霊が怖いかね?


「ハハ、セレスティアさん?そろそろ慣れてくれます?」

「す、すみません……」


 俺が苦笑しながらセレスティアに物申すと、彼女は俺に向かって軽く頭を下げた。

 

「……つっても昨日の今日で色々合ったからね、しょうがないね」

「はは、すみません……」


 俺がそう言うと、セレスティアも苦笑しながらもう一度頭を下げてきた。

 あんまり彼女に恐縮されてもこっちも困るだけなので、俺は自分のやるべき事に集中しよう。


「さて……魔力補給ゥー!」


 俺はそう言いながら道具袋から幾つかの魔紫石レリクスを鷲掴みして取り出すと、そのままそれらを口の中に放り込んで噛み砕く。バリボリバリボリと。


「うっわ……直で行くんですか……?」

(食べるんですか……?)


 セレスティアとアカツキが俺を見てドン引きしている。


「そんなに引かなくても良くない?別にお腹壊したりはしないぞ?」

「それって食べても大丈夫なものなのかしら……?」


 俺が何食わぬ顔で魔石をモグモグしていると、アリシアも戸惑い気味の表情を俺に向けてくる。


「全然大丈夫ですよ?冒険者界隈じゃ、魔石の直食いは結構ポピュラーな魔力回復方法の1つです。魔力回復ポーションが無い時の補助的な手段ですけどね」

「そ、それなら良いけれど……」


 俺が口内の魔石を咀嚼しながらアリシアに説明すると、彼女は納得してくれたようだ。

 それで俺がまだモグモグと口を動かしていると、竜王が頭の中で声を上げた。


『何をしておる、早くせぬか』

「急かすなや、喉詰まるだろーが。……んっ、んぐ」


 竜王の催促に俺は悪態をつきながら魔紫石レリクスを飲み込んだ。

 それから間もなく、俺の身体が一瞬淡く光った。魔力が回復したのだ。


 全身に満ち足りた魔力の奔流を感じる。

 とは言え、以外にも魔力の許容限界値に至った程の感覚は無く、まだまだ魔力を補充出来る余地が有りそうだった。

 今の状態での魔力量は限界値から考えて、だいたい3割か4割。

 アカツキめ、ちょっとしたベテラン魔術士並の魔力許容量を持ってやがる。まだ子供の駆け出し魔術士見習いのアカツキが、だ。全く才能ってヤツは怖いねえ、こりゃあ将来が楽しみだ。


「よーし、これならイケる」


 そう言って俺は杖を構え、詠唱を始めた。


「暗黒の大天使アスモデに願う、深淵を彷徨う闇人たちよ、現し世に顕在し、其の(かいな)で光を奪い取れ、【厄介者の手(ヌーサンスハンズ)】!」


 俺の両腕に禍々しい魔法陣が出現し、まもなく片腕に2本づつ、計4本の触手が発生した。長さも太さも以前よりも大きくなっている。魔力補給様々だ。


「おっけー、そんじゃ探索しますかー。ハンズ、行け」


 俺は改めて触手に命令すると、早速触手達を洞窟の奥へと送り込んだ。

 シュルシュルと蛇か何かのように地を這って洞窟を進んでいく触手たち。触手たちは間もなく俺の目で見える範囲外へと出ていく。


「ナガラ先生、そのハンズちゃん?で探索出来るの?」

「そーですよ、このハンズちゃんで探索出来ちゃうんすよ。さてさて、この先はどんなもんですかなっと……」


 俺はアリシアの質問に軽く答えつつ、目を瞑り触手に視点を移した。

 すると目を瞑った俺の視界に、4つの触手の群れの視点が追加される。触手の先端から送られてくる映像だ。俺はその映像を元に、それぞれの触手を同時に操作しながら洞窟を進ませて行く。


『また器用な真似をしておるな貴様……』

「悪いねぇ、これくらい器用じゃ無いと俺みたいな闇魔術士が上位ランクの冒険者パーティーになんて所属出来ないのよ」

 (すごい……視点がいっぱい……)


 竜王が俺の能力に呆れ、アカツキは感心している。いやはや照れるなぁ。褒めても触手しか出ねえけども。

 そんなことを思いながら俺は探索を進めていく。


「ここは……台所?こっちは……寝室?あっちが……礼拝堂?これは……書斎だな?」


 俺は4本の触手を操り、教団のアジトを探っていく。


「どうかしら?ナガラ先生」

「うーん、人が生活してた跡はあるんですけど、ホントに誰もいないですね……」


 アリシアの声に、俺は軽く首を傾げながら答えた。

 そう、俺の視界は探索の甲斐もなく、何一つ収穫を得られていない状況を映し出していた。


「あら……?ここが邪教徒の本拠地だとすると、何かしらありそうなものだけど……」

「まさか、もぬけの殻とは……」

「教会に嗅ぎ付けられたと察知して、もう撤退したとかかしら?」

「それにしては動きが早すぎます。私がこの地に着いたのは昨日の昼ですし……」


 アリシアとセレスティアが腑に落ちない様子で話し合う中、俺は触手の動きに集中しつつ、洞窟の隅々まで慎重に探らせていた。

 すると奥まった一角、礼拝堂と思われる場所の石床に触手の一本が触れた瞬間、かすかだが異様な感覚が伝わってきた。


「ん……?なんだ……?」


 その感覚に引っかかりを感じ、俺は他の部屋に行っていた触手をその部屋へ集中させ、全ての触手にこの怪しい礼拝堂の部屋の床を探らせた。


 程なく怪しい箇所を見つけた。

 石床の一部が微かにへこんでいる。そして、その周囲には擦れたような痕跡があった。何かが頻繁に動かされていたような形跡。こりゃ怪しい。


「これは……隠し通路の入り口、か?」


 俺はブツブツ独り言をいいながら、触手を使ってその床を押し引きしてみる。


「おっ?」


 すると、予想通り石床がゆっくりと沈み込んだのだ。

 同時にゴゴゴゴっと石の重々しい音が洞窟内に響き、床の一部が隙間を作って開いていくのが見えた。


「ナガラ先生?今の音は?」


 アリシアが何か聞き取った様子で聞いてきた。アリシアさんめ、全く良い耳をしていらっしゃる。

 洞窟内は音がよく響く。とは言え、奥の礼拝堂からは結構距離があったハズだ。触手伝いに音を聞き取れる俺は兎も角、普通の人間なら聞き取るのは難しい距離。


「音?」


 現にセレスティアは音に気付いていないらしく、疑問の声を上げている。


「ありましたよぉ?どうやら、更に隠し通路があるみたいだ。隠し洞窟の中に隠し通路とは、まあ厳重なこった」


 俺は目を開き、彼女たちの方を振り向いて、ニッとほくそ笑みつつ言った。

 その後、また目を瞑って触手での探索に意識を戻す。

 触手の視界には、ゆっくりと開かれていく床の隙間から、暗く不気味な空間が覗いていた。


「なんだ……?」


 触手でその不気味な空間を観察していると、俺はそこから妙な気配を感じた。

 冒険者の感ってヤツだが、嫌な予感がする。いつもの俺なら引き返しているぐらいの。


 だが今の俺はどうも気が大きくなっていた。

 多少強いモンスターや人間の犯罪者が現れたところで、俺自身でどうにでも出来ると思っていたし、今ならアリシアやセレスティアも居る。なんなら竜王の保険に頼ったって良いだろう。どうとでもなる、と言う油断。


 でもそれは、素敵な思い出(ジョリスヴニール)に所属していた時の俺の感覚だ。

 俺は長らく頼もしい彼らと行動を共にしていたため、普通の冒険者の感覚を忘れていた。

 素敵な思い出(ジョリスヴニール)と言うパーティーはかなり稀な環境で、それに属して居られたのは、とても幸運な事であると言う事を忘れていた。


 素敵な思い出(ジョリスヴニール)でパーティーの進退を決めていたのは、リーダーのアウルだ。


 アウルは危険に対しては人一倍に鼻が効いた。

 アウル自身は1人でよく無茶をしたが、アイツは俺たちパーティーメンバーには決して無茶をさせなかった。

 俺は無意識にアウルの能力に甘えていた訳だ。今の俺はそれをすっぽり忘れていた。


「どうする2人とも?ここも探っとく?結構ヤバそうな感じはするんだけど……」


 俺は怪しい気配を感じつつも、アウル達と居た頃のように、他人に進退を任せてしまった。

 ……ここにアウルは居ないのに、だ。


「念入りに隠蔽された隠し通路……確かに危険ではあるわね……?」

「でも、触手で確認するだけですよね?イザとなればナガラ殿には触手を消して貰って逃げれば良いわけですし、だったら探索して頂いた方が……」

「……それもそうね?それじゃあナガラ先生、探索の続き、お願い出来るかしら」


 アリシアとセレスティアの2人は、進むことを選択した。

 2人に進退を任せた以上、俺に引く選択は無くなっている。


「分かりました。よし、それじゃあハンズ、先行しろ」


 俺は再び触手を送り込み、隠し通路の奥へと潜入させていった。

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク、★評価等よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ