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45.地下洞窟ダンジョン その一

 僕たちが巣の奥へ向かって歩いていると、やがて行き止まりに突き当たった。


「行き止まりですね……」

「行き止まりね……」

「あれ?行き止まり?」


 行き止まりには何も無かった。僕たちは3人揃って首を傾げる。


 先生と竜王さまが言ったのは、ここのことではないのだろうか?それとも道を間違えただろうか?

 そんなことを思っていると、頭の中の先生たちが声を上げる。


 〈ここだな〉

『うむ、ここだな』


 先生と竜王さまが、声を揃える。


「ここに何かあるんですか?」


 よくわからない僕は思わず聞き返した。

 ぱっと周りを見ても、木の根っこ?みたいなものと土の壁しか見えない。


 〈こっから僅かだけど魔力が漏れ出てきてる。多分、隠し通路の類だと思うんだが……ちょっと目借りるぞ?〉

「あっはい」


 そう言って先生は僕の目を動かして、行き止まりの土壁を観察していく。

 そして土壁を観察して少し経つと、ある場所を見つめた。


 〈アカツキ、ちょっとこの辺の壁削って見て?〉

「え?はい、えいっ」


 僕は先生に言われるまま、先生の見つめたところの土壁を杖の柄でガシガシと削って見る。

 ポロポロと落ちる土。辺りに舞う土ぼこりを吸い込んだ僕。


「ケホッ」

「だっ、大丈夫?アカツキ?」

「ん?あ、大丈夫だよ母さん」

「そ、それならいいけれど……」


 少し咳き込んだ僕に、母さんが心配して声を掛けてくる。


 ……昔の僕なら、今の土ぼこりを吸い込んだら酷い咳で苦しんで、暫くは動けなくなっていたハズだ。

 でも今は、ちょっと咳き込むだけで、さして苦しくもない。

 凄い楽しい。杖で壁の土削ってるだけなのに。


「えいえいっ」


 僕は杖に更に力を込めて、精一杯土壁を削る。

 すると、土壁を削る手応えがボリボリと言った柔らかみのあるものから、ガリガリと硬い物を削る感覚に変わってきた。

 同時に壁の質感が何か変わり始めてきた。


「これは……!」

「石壁……!」


 驚きの声を上げるセレスティアと母さん。

 セレスティアさんが手のひらに乗せた光球を少し上に上げながら壁を照らすと、壁の状態がよく見えてきた。

 さっきまで土壁だと思っていたところが、削ってみれば石の壁だったんだ。


 〈おっしゃ、ビンゴだ〉

「先生!何で分かったんですか!?」

 〈そりゃあ俺は冒険者だからな、ダンジョン探索はお手の物よー?〉

「……ダンジョン?ダンジョン!ダンジョン探索!」


 先生に言われて今更気付いた。ここ、ダンジョンなんだ、って。

 今、僕は本で見た冒険譚の冒険者みたいに、ダンジョンを冒険しているんだ。本で見るだけで、絶対に体験は出来ないと諦め掛けていた事を、僕は今体験している。

 そう思うと、気分が上がってくる。


「先生!次はどうすれば良いですか!?」

 〈おっ?やる気満々だなアカツキー?じゃあとりあえず3人でこの辺の土壁削りまくってくれ。この手の隠し扉にゃだいたい何か仕掛けがあるんだ。まずはそれを見つけないとな?〉

「分かりました!母さん!セレスティアさん!この辺の壁削って下さいって!先生が!」


 僕は興奮しながら、後ろの母さん達に先生の指示を伝える。


「あらあら、了解よアカツキ。うふふ」

「ええ、了解致しました。一緒に削りましょう」


 ニコニコしながら母さんとセレスティアさんが答え、僕らはそれぞれの道具を持って一緒に土壁を削り始めた。


 ~~~


 僕らが3人で暫く土壁を削れるだけ削ったところ、そこに一面平らな石壁が現れた。


「完全に人工物の壁ね……」

「ええ、これはもう間違いないでしょう」


 母さん達が手を止めて石壁を観察しだす。

 僕も壁を削れる手を止めて、少し後ろに下がって掘り出した石壁を見た。


「こんなところに石壁を隠して……でもどうやって?」

 〈うーん、多分土魔術士の仕業だろうな。ほら、ディメルの神託書の19ページに、そのまんま土壁(アースウォール)の魔術があったろ?あれ、こうやって壁を偽装するのにも使えるんだよ〉

土壁(アースウォール)!なるほど〜?」


 僕の疑問に答えてくれた先生。

 僕は先生の説明に感心しながら、今度自分でも土壁(アースウォール)の魔術を使って見ようと魔術書のページを思い出していた。


「でもどうやって開けるんでしょうかこれ?」

「そうね……扉っぽくはあるけれど、取っ手も何も見当たらないわ」


 セレスティアさんと母さんが石壁を探りながら疑問の声を上げる。

 確かにこの石壁は扉のようだけど、どこを見ても開け口が無い。そもそも動くのかな?って言う疑問もある。壊れてたりとか?


 〈んじゃまたちょっと目を借りるぞー?〉

「あっはい」


 すると先生がまた僕の目を動かして石壁を探り始めた。


 〈あった、はいコレね〉

「えっ?」


 それで間もなく、先生は扉の仕掛けを発見したらしい。


「ホントだ……何かある……」

「あら?あら、ホントね……」

「これは……よく見つけましたね」


 先生があまりにもあっさり仕掛け見つけるものだから、僕達は呆気にとられるしかない。

 先生の見た石壁のそこには、小さな窪みが存在していた。確かに怪しい窪みで、その窪みは何か嵌めるためのもののようでもある。


 〈ハハハハ、まあ慣れよ慣れ。伊達に人生の半分以上冒険者やってないってね〉


 謙遜する先生。一体何十年冒険者すれば、こんな探索スキルを身に付けられるんだろう?今度聞いてみよう。


「じゃあここが入り口ですか?」


 僕がそう言うと、先生は肯定する。


 〈ああ、多分その窪みに何か鍵になるようなモンを嵌め込めばいいと思う……んだが……あれ……?なんかあったっけ……?〉


 先生は一転して自信無さげに言い出した。


 僕も一緒に何か手がかりになるものは無かったかと記憶を探った。だけどそんなものには心当たりが無い。全く無い。

 本の冒険譚なら、モンスターが持っていたり、道中の宝箱に入っていたりするものなんだけど……。


 そんな時、セレスティアさんが思い出したように言う。


「そう言えば……これは先日、私がルドオグの町近くの森で拾った物なのですが……」


 そう言ってセレスティアさんが取り出したのは、禍々しい"閉じかけの瞳"の彫刻が施された、手のひらに収まる程度の大きさのブローチだった。

 そのブローチをみた母さんは、眉を寄せて難しい表情を浮かべた。


「それ、ティレジア教団の紋章よね?」

「ええ、これを拾った途端、ヴェルデアーマーの集団に襲われまして……逃げるのが大変でした。はは……」


 セレスティアさんは苦笑いしながら言う。


 〈なるほどねえ?だからセレスティアはあの連中に追われていたのか〉


 先生が納得したように呟く。

 僕はと言うと、町で拾うキーアイテム……そう言うのもあるんだ?なんて事を思っていた。


「とりあえず、そのブローチを試してみましょうか」

「お願いします、教官」


 母さんがそう言ってセレスティアさんからブローチを受け取り、石壁の窪みに押し付ける。

 すると、カチリと音がして、ズシンと石壁が動いて奥へと押し込まれ、そのまま横にゴゴゴゴっとスライドして動いた。

 そして、その向こうに地下洞窟の通路が現れた。


「あれ、開いたわね……?」

「こんなところに地下洞窟が?」


 母さんとセレスティアさんから驚きの声が上がった。


 その洞窟の通路の先は、薄暗くよく見えなかったけど、かなりの長さがあるように思えた。

 そして通路の壁には、これ見よがしに禍々しい"閉じかけの瞳"の紋様が刻まれていた。


 すると先生が僕の中で感心した声を上げる。


 〈へえ?隠蔽結界か。道理で普通の魔力感知じゃ見つからないはずだ。よく見つけられたな竜王サマ?〉

『フン、我は光の化身であるぞ?この程度の結界で我が目を誤魔化せると思うな』

 〈へーへー、流石ですねー?自称光の化身サマはー?〉

『たわけ!自称では無いわっ!』

 〈はいはい〉


 先生は竜王さまの言葉を適当に流すと、改めて僕に注意を促してくる。


 〈アカツキ、結界内は魔力感知が出来ない。ついでに隠蔽結界はゴブリン連中が張れるような易いもんでも無い。つまり、この先にゃゴブリンどころじゃない連中が居るかもってことだ。気を付けろよ?〉

「は、はいっ」


 先生の真剣な声に、僕はごくりと喉を鳴らす。


『小童、準備は良いな?』


 続く竜王さまの声に、僕は大きく深呼吸してから答えた。


「はいっ、先生っ、竜王さまっ」


 僕が返事をすると、先生と竜王さまが頭の中で頷く気配を感じた。


 何だろう?凄くドキドキする。

 こう言うの、怖いもの見たさって言うのかな?

 どんな危険が待っているのか分からないのに、どこかワクワクする。


「私が先頭を行くわ。セレス、アカツキをお願いね?」

「はい、教官」

「アカツキ、セレスから離れちゃダメよ?」

「うん、分かったよ、母さん」


 母さんが剣を鞘から抜いて構えながら、セレスティアさんに指示を出す。

 セレスティアさんは鞘からボロボロになっている剣を引き抜くと、僕を守れるような位置に立ってくれた。

 先生が頭の中で言う。


 〈よし行くか。慎重かつ大胆にってね〉

「はい、先生!」


 僕は先生へと力いっぱい返事をすると、そのまま隠された洞窟の通路の奥へと進んでいった。

お読みいただきありがとうございます。

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