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44.魔石集めと英雄の定義 その三

 それから暫くして、魔紫石(レリクス)の回収は無事終了した。

 僕なりに、結構上手く魔石を集められた、と思う。


 僕たちはゴブリンの巣の中央に集まり、成果を確認していた。


 大樹の木の洞を利用したゴブリンたちの巣。

 そこで僕たちは魔紫石(レリクス)を袋一杯に集めることが出来た。

 集まった魔紫石(レリクス)は大小合わせて全部で100個以上。先生達が予想していた以上の数だ。


「思っていた以上に沢山ありましたね」


 セレスティアさんが骨折した腕を吊ったまま、嬉しそうに微笑む。

 彼女は腕のケガも気にせず僕や母さんよりも多くの魔石を見つけてくれていた。流石は母さんの教え子だ。


「アカツキもいっぱい拾ったわね〜偉い偉い!」

「えへへ……」


 母さんが僕の頭を撫でてくれる。少し恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい。

 僕が照れ笑いを浮かべて頭を撫でられていると、先生が感慨深そうに呟いた。


 〈毒茨(ヴェノムソーン)の茨でまあ器用に集めたもんだ。もう触手の扱いは免許皆伝あげちゃおうかな~?〉

「えー?えへへへへ……」


 先生が僕を褒めてくれた。凄く嬉しい。

 僕の胸がぽかぽか温かくなる。でもまだ免許皆伝は早いと思います先生。もっともっと教えて貰うことはいっぱいなんですから。


 僕がそんな事を思っていると、セレスティアさんが声色を変えて、真面目な表情で言った。


「それじゃ、ここからはこの改造品の琥珀魔石(アンバー)の話に入りましょう」


 セレスティアさんが魔紫石(レリクス)の入った袋とは別の袋を取り出して、袋の口を開いて中身を僕達に見せてくる。


「いっぱいありますね……」

「ええ、ざっと50個はあります」

「あら?そんなに?」


 僕は母さんと一緒に驚きながら袋の中を覗き込む。

 袋の中に入っていたのは、先ほど集めたばかりの魔石よりも幾分か大きい魔石だった。

 表面が琥珀のように赤味がかった黄色に輝くその魔石には、魔紫石(レリクス)とは違って、何かの魔術紋が刻まれている。


「これ、何の魔術紋が刻まれているんでしょうか?」

「はい、これはアイアンゴーレムの魔術紋です。つまり、アイアンゴーレム化の琥珀魔石(アンバー)が50個、と言う事ですね」

「へえー」


 僕の質問に、セレスティアさんは真面目な表情のまま答えてくれた。


 〈オイオイオイ、50個はヤベエでしょうよ?ティレジア教団ってのはマジで国落とすつもりだったのか?〉


 頭の中で先生が呆れたように言う。

 確かに、こんな数のゴーレムが居たら、村どころか国が落ちてしまいそうだ。


「これらは全て、今回の巣のゴブリン達が身に付けていました。残念ながら、ナガラ殿の毒ガス作戦は正解だったと言わざるを得ませんね……」

「そうね……残念ながらね……」

 〈残念ながらって言うなよ、残念ながらって。まるで俺が残念みたいじゃねーか〉


 セレスティアさんと母さんの言葉に、先生は僕の脳内で不満そうな声を上げる。


「大丈夫です先生、先生は残念じゃないです」

 〈うぅー、アカツキは良い子だなぁ〜〉

「えへ、えへへへ……」


 僕が先生を庇うと、先生が感動したようにまた僕を褒めてくれた。

 嬉しくて背中がくすぐったい。先生が褒めてくれるなら、僕は何だってしちゃいそうだ。

 そんな事を思いながら、僕は母さんとセレスティアさんの話にまた耳を傾ける。


「そしてもう一つ、これを見てください」


 セレスティアさんが袋から琥珀魔石(アンバー)を1つ取り出し、裏側へひっくり返した。

 すると、そこには不気味な"閉じかけ瞳"のような模様が刻まれていた。この模様は見覚えがある。何せさっき見たばかりだ。


「この"閉じかけの瞳"は、確か……」

「はいそうです、さっきのゴブリンゴーレムの胴体に描かれていた模様と同じ……つまりティレジア教団の紋章です」

「ゴブリンゴーレム化の琥珀魔石(アンバー)……」


 セレスティアさんの言葉に、僕の身体が緊張で強張った。

 たった1体でも先生やセレスティアさんがあんなに倒すのに苦労したゴブリンゴーレムが、50体も湧いて出て来ていたかも知れないんだ。母さんが居ないときに村や町にコイツらが向かっていっていたらと想像すると、焦りもする。


 そんな琥珀色の魔石を見ていた母さんが、真面目な顔で口を開く。


「最近、森で不審な人影を見たって話を良く聞くようになったんだけれど、もしかしてその教団の連中だったのかしら?」

「恐らくは。ティレジア教団は何らかの手段でゴブリンを支配下に置く手段を持っているらしく、ゴブリンにこの魔石を装着させて兵器にしようとしていたのでしょう」


 セレスティアの言葉に、母さんは眉間にシワを寄せながら考え込む。


「あらあら、困ったわねぇ……こんなにたくさん琥珀魔石(アンバー)を用意できるだなんて、かなりの大規模組織の可能性があるわ」

「そうですね。このゴブリン達だけでも厄介だというのに、ヴェルデアーマーまで用意する連中ですから……」


 セレスティアさんが神妙な面持ちで言う。


「うーん……まあいざとなったらノマリ村だけは私が何とかするけれど、流石に他の街にまでは手は回らないし、早いうちに動向を探らないと」


 母さんはそう言うと、難しい顔のまま深いため息をついた。どうやら母さんもこの事態をかなり重く見ているらしい。


 ……そう言えば、母さんのこんな表情は初めて見たかもしれない。

 母さんは確か、元聖騎士だって言っていたし、今の母さんはその聖騎士時代の振る舞いをしているって事なのかな?

 セレスティアさんの英雄……の時の、母さんの顔なのかな?


 深刻そうな話をしている母さんとセレスティアさんを余所に、僕は興味津々に2人の会話を聞いていた。

 新しい事と知らない事がどっと押し寄せてきていて、僕の頭は全然処理が追いつかないんだけれど、今の僕はどこかそれを胸が躍るような気持ちで楽しんでいた。


 ……もし先生が来てくれなかったら、こんな気持ちになることも無く僕は死んでいた。

 そう考えると少し背筋が寒くなるけれど、今は先生がいる。竜王さまもいるし、母さんもいるし、ついでにセレスティアさんもいる。

 何も怖がる必要は無いんだ。


 ……アカリも、アカリも連れてきて上げた方が良かったかも知れない。

 僕はアカリに辛く当たったのをちょっと後悔していた。

 互いに色々知らなかったとは言え、僕も言い過ぎた。


 村に戻ったら、アカリとちゃんと話し合おう。

 別に、アカリが好きだとかそう言うんじゃないけど、少なくとも、ちゃんと非礼を詫びて、僕を助けようとしてくれた事に礼は言うべきだ。

 それに、このまま口を聞かないで居るのは、母さんの息子として……村の英雄の息子としては、きっと相応しくない。


 僕はそんな事を思いながら、顔を上げる。


「はい、早急に調査を行いたいと考えています。私は急ぎ、聖ルミナス大教会に戻り、事の顛末を報告するつもりです」


 セレスティアさんは母さんに向き直ると、真剣な表情でそう言った。


「ええ、頼むわねセレスティア」


 母さんはセレスティアさんの目を見つめて言う。二人の間には、確かな信頼関係が感じられた。


「はい、お任せください」


 セレスティアさんは力強く返事をする。

 セレスティアさんの表情は、どこか誇らしげで、少し嬉しそうな表情に見えた。


 ……少し、羨ましい。

 いつか僕も、ああやって誰かに、先生に頼られるようになれるんだろうか?……なりたいな。


 そんな時、竜王さまが僕の頭の中で声を上げた。


『小童』

「……?竜王さま?どうしました?」

『皆に伝えろ、この素の奥に、何か在る』


 竜王さまの声に、僕は驚いて耳を傾ける。


「なにか、ある?」


 僕が呟くと、竜王さまが続けて話す。


『我の目が確かであれば、この巣の奥にまだ何か隠れておる。ゴブリンどもが作ったものではない何かがな』

 〈ああ?おい竜王、俺の魔力感知にゃそんなもんは……ありゃ?なんかあるな?〉


 竜王さまの言葉を聞いた先生が再度魔力感知を掛けたようで、それでその何かに気付いたようだ。


『小童、我の言った通り奥に行け。ただし、慎重にな?』

「は、はい」


 僕は竜王さまの言葉に頷き、母さんたちの方に向き直る。


「あ、あの、母さん、セレスティアさん」

「どうしたの?アカツキ?」

「なんでしょう?」


 母さんとセレスティアさんが僕に視線を向ける。

 僕は緊張しながら、ゆっくりと口を開いた。


「先生と竜王さまが言ってます。この巣の奥に、何かあるって……」


 僕の言葉を聞いた母さんとセレスティアさんは、一瞬顔を見合わせると、すぐに真剣な面持ちになって、剣の柄に手をかけた。

 2人の雰囲気の変化に、僕は思わずゴクリと唾を飲み込む。

 母さんがセレスティアさんに言う。


「とりあえず奥へ進んでみましょうか」

「はい、行きましょう」


 セレスティアさんは頷くと、僕の前へ立った。


 母さんとセレスティアさんを先頭に、僕たちは慎重に歩き出した。

お読みいただきありがとうございます。

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