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42.魔石集めと英雄の定義 その一

 ゴブリンの巣のある、大樹の木の洞。

 俺たちはその中に足を踏み入れていた。


 巣の中は暗く視界が悪いが、換気が終わったお陰か毒ガスの心配はない。


「【光の灯火(ルミナライト)】、皆さん見えますか?」


 前を歩くセレスティアが自分の手のひらの上に小さな光の玉を発生させ、辺りを照らす。


 今セレスティアの使った魔術は照明用の光魔術で、魔術士が夜間や暗所の探索の際によく使用するモノだ。松明なんかに比べれば光量は全然マシなんだが、それでも視界を確保できるのはせいぜい10メートルくらい。

 どうもセレスティアの光の灯火(ルミナライト)は、本職の光魔術士が使うモノに比べると少し光が弱い。恐らくは彼女が剣技が本業で光魔術はメインじゃないからだろう。だが薄暗い松明なんか持ってあるくよりはよっぽどマシ。手も塞がらないしな。贅沢言わないこと。


「おっけー、見える見える」

「私も問題ないわ」


 俺と隣のアリシアがそう答えると、セレスティアは安心したように頷いた。


「セレス、大丈夫?足下気をつけてね?」


 アリシアが前のセレスティアに向かって心配そうに声をかける。

 セレスティアは今、アリシアによって肩に大きな白い包帯を巻いてもらっていた。アリシアの薬草袋に入っていたもので、これは骨折した腕を首から吊るための布だ。


「はい、問題ありません!ありがとうございます!」


 セレスティアは元気良く返事をするが、やはり怪我をしているせいか少し動きがぎこちない。

 さっきのゴブリンゴーレムとの闘いで、彼女は身体だけでなく武器もボロボロだし、今のセレスティアは戦力としては数えない方が良いだろう。

 もっとも、今はアリシアが居てくれるから大丈夫だとは思うけどね。


 俺はそんな事を考えながら、皆と共に巣の奥に向かっていく。


 ~~~


 辺りの臭いが一層キツくなって来た。

 恐らくは巣の中心部に入ったのだろう。


「それにしても……これ全部倒したの?」

「え?あはは……」


 アリシアの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

 彼女は巣の中で折り重なるようにして倒れているゴブリン達を見て驚いていた。


 ゴブリン達は、どいつもこいつも苦悶の表情を浮かべながら死んでいた。

 口から泡を吹き出し、白目を剥いていたりする者もいる。

 中には身体の穴という穴から体液やら糞尿やら垂れ流していたりする者もいた。

 もうちょっと放っておけばゴブリン達の死体も消滅するんだろうが、換気したとは言え、こんな有り様じゃあそりゃあまあ臭い臭い。臭いんで鼻摘まんでおこう。


「いやぁ……まあ、はい、俺とアカツキで……」

「アカツキくんの毒ガス魔術!すごかったですよ!」


 俺が鼻声でアリシアに答えていると、セレスティアがそれを遮るように言った。


「そうなのねぇ……毒ガスなんて教えちゃって……」


 俺の言葉を聞いたアリシアがジト目で俺を見た。

 おのれセレスティア、お前は一々毒ガスの話題を掘り返すんじゃない。

 俺は話題を変えようとアリシアに話しかける。


「あ、あ~っ、そ、そういやアリシアさん」

「何かしら?」

「あんなに強いなら、ゴブリンの巣くらい1人でも余裕だったんじゃないですか?」


 俺の質問を聞いて、アリシアが困ったような顔をして言う。


「あらあら?買い被り過ぎよぉ……確かに巣の外に居る数匹程度なら問題無いけれど、流石にこんな大量のゴブリンを相手にするなんて危険で、私だって怖いわよぉ〜?」

「そうですかぁ〜?」


 アリシアの言葉に、俺は不思議に思う。

 だってアレだぜ?巨体のアイアンゴーレムを秒で切り殺す人が、こんな数十体のゴブリンくらいに後れを取るとは思えないんだけどなぁ?

 俺がそんな事を考えていると、アリシアがクスリと笑った。


「ふふっ、ナガラ先生が期待してくれているのは嬉しいけれど、私も一応人間なのよ?」


 アリシアはそう言うと、自分の胸に手を当ててみせた。

 俺はここぞとばかりにその胸をじっと見る、見た。

 デカい。圧倒的にデカい。うむ、確かにゴブリン共には無い膨らみだ。間違いなく人間だ。確かにこれをゴブリンの手に渡してはならない。人類の損失だ。うむ。

 それはさておき。


「一応……?」

「もう……一応なんて失礼ねぇ?」

「アッハイ、ゴメンナサイ」


 俺の言葉を聞いて、アリシアが拗ねたような表情を見せるので、俺は即座に謝罪する。いやだって一応って。


「アカツキも言ってやってくれ、こんな強い人がただの人間な訳無いって。絶対英雄か勇者かの実力者だって。な?」

(……)

「んもう、ナガラ先生ってば」


 俺は俺の中のアカツキに話を振ってみるが、彼からの返答は無く、アリシアが困ったような表情を浮かべただけだった。

 しかしセレスティアだけは違った。


「そうですよアカツキくん!教官は私の英雄です!」

「セレスも、もう……」


 セレスティアはキラッキラした瞳を浮かべて俺に向かって言い放ち、アリシアは恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 セレスティア、お前どんだけアリシアさんが好きなんだよ。まあ俺も好きだけど。


(……)


 その間、アカツキは何か思い悩むように黙りこくっていた。

 流石に気になったので俺はアカツキにもう一度話しかける。


「アカツキ?」

(……)

「アカツキー?アカツキ~?」

(……あっ?はい、何ですか先生?)


 2度3度と話しかけて、アカツキがやっと此方に気付いて意識を向けてきた。

 俺はすぐにアカツキの悩みを察する。

 どうもさっきの英雄の話がまだ引っかかっているらしい。

 良いぞ良いぞ少年よ好きなだけ悩むが良ーい、などと思いつつ、一応気付いて無いフリをして話す。


「いや、何か悩んでるっぽかったから。何か分からない事があるならどんどん聞いてくれよー?」

(……はっ、はい!だ、大丈夫、です……)

「ほんとぉ?なら良いけどー」


 どこか歯切れの悪い返事をするアカツキに、軽く流すように返事する俺。


 アカツキのこの悩みは、アカツキ自身が答えを見つけるべきだ。

 自分の気持ちは自分で踏ん切りを付けるべき。勿論、助言を求められれば何時でも助言するけどな?俺はアカツキの先生なんだし?


 俺はアカツキの悩みっぷりに温かい目を向けつつ、周囲に意識を戻す。


「……さて、今のうちにゴブリンから魔紫石(レリクス)を回収しちゃいましょうか」

「片っ端から拾い集めれば良いのね?」


 俺がアリシアに声を掛けると、アリシアは道具袋から小さな熊手のような道具を取り出して自信有りげに言った。


「……その熊手、薬草採取用の熊手ですか?」

「そうよ!」

「んん〜?」


 俺は悩んで唸りながら首を捻る。

 正直、魔紫石(レリクス)回収に熊手を使ったと言う話を聞いたことが無い。

 そもそも魔石はそんな潮干狩りでもするかのようにポンポン取れるモンじゃないからだ。

 が、しかし、


「……やっぱりダメかしら?」

「……ま、まあいいです!オッケーです!」

「やったわ!お母さん拾っちゃうわよ〜!」


 俺は少し悩んだがアリシアに許可を出した。アリシアはふふふんと意気込む。

 と言うのも、アリシアの期待したような嬉しそうな表情に根負けしたのだ。

 こんな薄暗くもクソ臭いゴブリンの巣で、アリシアがどうしてこんなにも嬉しそうなのか疑問だ。


 けれど、俺は少し考えてピンと来た。

 アリシアさん、単純にアカツキと一緒に外で遊べるのが、楽しいんだな?と。


 アカツキは元々、喉の病気で外でなんて遊べなかったのだ。当然、アリシアはアカツキとなんて遊んだことはないハズ。リブレスミント採取の仕事もあったしな?

 それが今では、アカツキの喉は治り、俺と言う邪魔者付きではあるが親子揃ってダンジョンの中にまで入り込めている。

 これはアリシアとしても嬉しい事この上ないのだろう。今迄の苦労を思えば、アリシアがちょっとくらい燥いじゃうのも仕方ない。


 ならば、と俺も気合いを入れる。


「よぉーし、片っ端から拾っちゃってください!セレスティアは休んでていいぞー?」

「いえ、例の改造品の琥珀魔石(アンバー)の件もありますし、私も手伝いますよ」

「そっかー?じゃあ頼む!」

「ええ!お任せくださいっ!」


 俺がセレスティアに声を掛けると、彼女も嬉しそうに微笑み、持っていた光球をポイっと上に投げ上げて空中に浮かべた。

 片腕折れてるってのに元気な娘だ。だがこれで辺りが照らされてよく見える。


「それじゃあ、セレスティアが左側、アリシアさんが右側、俺達は中央の付近を探索するって事で、OK?」

「分かったわ」

「分かりましたっ!」

「それじゃあ皆、魔紫石(レリクス)回収開始!」


 俺の合図を皮切りに、3人それぞれ散らばり、ゴブリンの巣の中で魔紫石(レリクス)を回収し始めた。

お読みいただきありがとうございます。

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